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第48話:恐るべき概念
しおりを挟む夏。それは燃え上がる恋の季節。
夏。それは一時期のアバンチュール。
夏。それはまさに、旅行の季節。
「というわけで、えっちゃん達と一緒にエルフの国に行ってきます!」
「「「待ってください」」」
『…………ふんぬっ』
ふおぉぉぉう!? ゴンさんの拳が私の顔面スレスレを通過して空間を薙ぎ払うぅぅぅ!?
既に何度か経験済みとはいえ、毎度これは全身がキュッとなりますよぉ!?
『1から順を追って説明せよ。なぜそのような、一夏の若気の至りで暴走する若人の家出が如き結論に達した?』
「あ、はいっ、あの、その! ですね!?」
両手を頭上に上げてフリーズの姿勢をとる私に、ゴンさんを筆頭として、ノーデさんとグラハムさん、サエナさんの視線が突き刺さります。
みんなして、「何言ってんのコイツ?」的な視線を向けないでいただきたい。
「いや~ですね? コーヒーミルを作るために色々とお話しを伺いにピットまで行ってきたんですけど~」
『一人で勝手に行動するなと散々申し付けたはずだが?』
「え? だから誰かに指示を仰ぎに行ったんですよ?」
『何故、片道数日の王国まで足を運んでまで奴らに聞きに行った!? 我らに指示を仰げばよかろうが!』
「え~、だって当人たちの問題になる訳ですから? 当人たちに意見聞いた方が確実ですよ~。行きも帰りも一瞬ですし?」
『ぐぬぅ……!』
もう意見はないですかね~? それではということで、私は一から経緯を説明します。
日本茶が育つまでの間、私の心を癒してくれるであろうコーヒーを突き詰めるのは既に前提。しかし、そのためにはコーヒーミルが必要。
コーヒーミルを作るためには、ピットとアースの同盟は必須。しかし、現状ではそれは望めない。
ならば、アースがピットと仲良くなるために、ピットに大きくなってもらおうというのが結論です。
『それで、何故、エルフが出てくるのだ』
「ん~? だって、ピットとエルフが同盟組んだら、アースの王様が「うちとも同盟せぇへん?」って言ってくると思うんですよね~」
「「…………」」
あれぇ? なぜグラハムさんとサエナさんが魂抜けた顔してるんです?
私、可笑しいこと言いました?
「さ……」
おや? ノーデさんすらもわなわなと震えて……
「流石はココナ様! このノーデ、まさに青天の霹靂!! そのような理由で国と国を同盟に導かんとし、更に連鎖的に国を繋いでしまおうと画策するとは! あまりにすっとんきょう過ぎて誰にも予想できない結論です!」
「え、え? ……うぇへへへ~、いやいやそれほどでも~」
『照れるでないわたわけ! 貴様も褒めるでないわうつけ!』
「いえいえ守護者様。エルフは長きに渡って、隣国の鬼人、ドゥーア達を寄せ付けなかった強者でございます。ピット国も何度か物資の支援をしており、関係は悪くありません。同盟もいずれは可能になるのではと言われておりましたが、決定打がございませんでした。ココナ様が出向けば、同盟は決まったようなものでございます」
『そうではなく……! 何故森の管理者たるちんくしゃが、わざわざまた他国へ出向いて世話をせねばならんのだと言っている。しかも、我ではなくあのアースエレメンタルめを連れてだと! 納得などせんぞ!』
ふむん、それにはちゃ~んと理由があるのですよ? まず、このお話しの裏には、同盟うんぬん以前の課題があるのです。
それは、いずれ私たちの存在を全国デビューさせちゃおうという、この前グラハムさんが提案してたやつですね。
各国の首脳陣が集まるなら、各国のお茶が集まるのは必然。ならば、私としてもその首脳会談を開く事は率先して行うべき事柄です。
そしてそれを実現させるなら、少しでも心証を良くしなければいけません。だから、私が直々に出向いてエルフさん達に覚えてもらうのが一番なのです。……って、デノンさんが教えてくれました。
「そして、ゴンさんが一緒に来ると威厳がありすぎて、ピットが虎の威を借りる狐にしかならないって言ってました~。そんな状況では対等な同盟なんて望めないって話でしたね~」
『む、むぅ……』
「う~ん、威厳がありすぎたのですね。守護者様は」
「まぁ、確かにアースでも同様だろうな。もし守護者様が同伴していたら、『同盟組まないと守護者様けしかけるぞ』としか捉えてもらえんだろう」
強すぎるってのも考え物なのですね~。
「という訳で、デノンさんが近々エルフの姫様と会談する機会があるので、そこにえっちゃんと私を連れてってくれるってお話しだったわけですよ~」
『だから、何故アースエレメンタルが付いてくるのだ! ならばチビ助を代わりに連れて行け!』
「ノーデさんには、ゴンさんのお世話をお願いしたいんですけど? 私がいない間、お茶を誰が作るんです?」
『ぐぬぅ……!』
ど~うですこの見事なアフターケア!
私は、現地でエルフの国の名産茶葉を堪能できるでしょうからね~。その間お留守番のゴンさんには、ノーデさんが必要なはずですよ~。
「……守護者様、素直にえっちゃん様と一緒に行くのが気に入らないと言えばもがっ」
『そういう訳では、断じてない。ないぞ……む、ぐぬ……!』
「断じてないなら、行って良いですよね~? じゃあ準備しないとですね~!」
うぇへへへ、どんなお茶があるのかな~エルフの国!
楽しみだな~。楽しみだな~!
「……はぁ、じゃあ俺達はそろそろ帰らないといけませんね。アオノイも動けるようになってきましたし」
おや? グラハムさん達も同じタイミングで帰るんでしょうか?
「一度国に戻って、情報を整理する必要があるんですよ。国に報告するにしても、管理者様の秘密を洩らす訳にはいきませんからね。うまくすり合わせる時間が欲しいんです」
なるほどなるほど。いやいやありがたいですねぇ。
協力的な商人さんが味方に付いたことで、安心感がガッツリアップしました。彼らならば、きっとこの森の現状をなぁなぁに報告してくれることでしょう。
「守護者様……これは、仕方ないのでは?」
『ぬぅ……!』
ゴンさんは、歯をギリギリさせながら唸った後、私に詰め寄ります。
やん、近い! えっと、こういう時は瞳を閉じて軽く顎を上げ、唇をゴンさんが奪いやすくするべきですね!
さぁウェルカムです! ココナの唇はいつだって空いていますとも————
チュッ
……おう?
『よいか、ちんくしゃ』
「え、え、今私、ゴンさんのお鼻に……」
て、てっきりいつもの『何しておるたわけ』と共にデコピンの一発でも食らうと思ってたのに……ち、ちゅう、ちゅうしちゃった……!?
『今の口付けの意味、けして忘れるなよ? 貴様は必ずここに帰って来い。よいな?』
「えぁ、は、はい!?」
『ふんっ』
あいっだぁ!?
結局デコピンはするんですね!?
で、でも……うわぁぁ、私、初めてちゅうしちゃいました! お鼻とはいえ……は、恥ずかしい……!
「……ようやく一歩前進ですか?」
『チビ助のしたり顔が凄い腹立つ』
「あはは」
「あわわわわ、ちょっと私お花摘みに行ってきます~!」
その後、私は世間樹に籠ってしまいました。
思春期の女子高校生みたいに、枕 (イメージ)を抱いて顔を埋め、ベッド(イメージ)の上をゴロゴロして悶絶してしまいましたとも。
その後、ようやく出てこれた時には、グラハムさん達も国に帰ってしまったと聞かされました。
うぅん……私にこんな羞恥心があったなんて……キス、おそるべし概念……!
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