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第47話:ピット会議

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 立ち上る、様々な薬草の香り。
 一つ一つは、まるで効能も味も、香りも違う。例えるならば、ヴァイオリンやティンパニといった個々の楽器と言えましょう。
 その雑多な香りを一つに纏め上げる、いわゆる指揮者的な役割を果たすのが、桃色の花弁。

 すなわち、ヤテンです。
 指揮者ヤテンの采配により、優雅なヴァイオリンのソロから始まった香りにピアノが加わり、優美さを増します。
 そこから抽出が進めば、テンポが速まり打楽器や管楽器が増えていき、見事な香りのオーケストラが誕生するのです。
 あぁ、早く飲みたい。味わいたい。しかもいつの間にできたのか、ティーポットもガラス製じゃぁあ~りませんか。まだ透明度は低いですが……少々不透明くらいなのも味があって良いものです。
 何より中が見えますからねっ。最も美しいタイミングでお茶を味わえるなんて、贅沢すぎるってものですよ!

「うふふ、はぁい、召し上がれ」

「うわ~い!」

 ピンク色のヤテン茶を出してくれたえっちゃんに最上の感謝をこめながら、私は早速一口いただきます。
 うん……美味しい! まさしく、このお茶はオーケストラ(二度目)。うん、見事なオーケストラです(語彙力皆無)。

「はふぅん……美味しぃですよ~」

「んふふ、よかったわぁ~」

「けど、まだうちのノーデさんのが美味しいですね! うぇへへ、日々精進ですよぉえっちゃん」

「あらやだっ、自慢の出汁に使われちゃったわ♪」

 まぁ、ノーデさんの技術を追い抜こうとしたら、本格的に給仕の道を歩まないといけない気がしますがね~?

「……その茶点て名人様は、我が国の騎士なんだけどな……まぁ、仲が良いようで何よりだよ」

 ほんわかムードでキャッキャうふふしてる私たちの横には、ソファに腰を下ろしたデノンさんがいます。
 最後にお会いした日よりも、確かに疲れているご様子……何というか、見た目だけで言えばイジメの末に不登校になってしまったロンリーウルフボーイのようです。

「……まぁ、その、なんだ……悪かった」

「はい?」

 どこか哀愁漂うロンリーダークネスボーイが、瞳を伏せながら私に謝ってきました。
 はて、何か謝られるようなことしましたっけ?

「……その顔は、本気でわかってないな? そうなんだな!? 俺の不手際でヒュリン達にアンタの存在がばれただろう!」

「だから言ったじゃないデノンちゃん。ココナちゃんはその程度でどうこう言う浅い女じゃないって~」

「くっそ、けどこっちにも責任とかけじめとかあるんだよ! 正直に申し訳ねぇんだよ!」

 あ、あ~、なるほど~。
 疲れてるのは本当なんですけど、思いつめてるみたいな雰囲気は私に対する後ろめたさがあったと。
 もう、こっちとしてはトラブルはあれど、結果としてコーヒーにありつけた訳ですから気にしないというのに~。

「ふふふ、気にしなくていいですよ~」

「うぅ……いや、しかし、本当に悪かったと思ってるんだ。俺に出来る事なら何でも……」

「ん?」

「デノンちゃんダメ! ココナちゃんが欲望のままにどんな手段もいとわない犯罪者の目になったわ! 今の言葉は撤回しなさいっ」

 チィッ! 我が子を想う聖母の御心が私の邪念を察知しましたね!
 仕方ありません。えっちゃんに免じて、この機に乗じてデノンさんにメイド服着せてお茶入れてもらう計画は流しておきましょう。

「お、おう……まぁ何かあったら言ってくれ。というか、何かあったから来たんだろう? 協力は惜しまないぜ」

「ふむん、お話が早くなるのは助かりますね~」

 私は改めて一口お茶を飲み、用件を伝えました。
 まずは、グラハムさんとの邂逅について。そして事の顛末と、技術提携の旨。
 ヒュリンとフィルボが組めば、必ず最高の茶器やコーヒーミルが作れます。ここは私としても押し通したい案件ですとも。

「ふむ……なるほどな」

 話を聞いたデノンさんは、ソファに深々と背を預けました。
 頭の中で色々と考えているみたいですが、なんだか瞼が重そうに見えてしまいますね。

「正直……うちの内政を考えても、ありがたい話ではある」

「そうなんですか?」

「あぁ、今年はヤテンがほとんど売れない分、どこかで金を補填する必要があるからな。それを技術料として潤してくれるってんなら、まぁ飛びつきたい案件だ。でもなぁ……」

「ヒュリンの王様が渋ってるって、聞きましたねぇ」

「そうなんだよ……俺ぁ今までも同盟の話を持ち掛けてるんだがなぁ」

 やはりというかなんというか、のらりくらりと話をそらされて流れているご様子でした。
 ふむん、グラハムさんとこで聞いたのとほとんど一緒ですねぇ。デノンさんでさえダメって言うなら、その王様相当に頑固者です。

「ん~、困りました。フィルボとヒュリンが手を取り合ってこそ、素晴らしいコーヒーミルが出来上がるというのに……」

「あんた本当に茶の事しか考えてないな?」

「まぁまぁ、原動力がそれでも、結果としてピットの平和のために動いてるんだからいいじゃない?」

 ん~、個人的には、ヒュリンの王様に直接話を聞きに行きたい所ですが……それこそ、ゴンさん達に大いに怒られそうです。ただでさえ、グラハムさん達の件で怒られてるんですから、それは避けたいんですよねぇ。
 あ~もう! ヒュリンの王様が飛びついてくるくらい、ピットが大きい国ならいいのに!

「……おや?」

「ん?」

「あら?」

 おやおやおや?
 そうですよ。こちらからがダメなら、向こうから来てもらえばいいじゃないですか。
 ピットの味方になっていれば、まず安泰だと相手に思わせればいいのです。

「……うぇへへ……これは、いけちゃうのでは~?」

「あら、何か思いついたみたいねぇ?」

「いや、俺としてはこの邪悪な笑顔に乗りたくないんだがな……」

 いえいえ、せっかくだから引きずり込んでしまいましょう。
 題して、『将を射んとする者はまず馬を射よ』大作戦! 遠回りしてでも、コーヒーミルを作ってみせますとも~!
 
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