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第41話:尊大な心和ちゃん
しおりを挟むさてさて、冗談はこれくらいにしておきますか!
冗談でしたよ? さっきまでのは。決まってるじゃないですか~。
……本当ですよ?
まぁそれはそれとして、いよいよグラハムさんとの対面です。
お話を聞くためのお部屋は、縁側がある居間でございます。やっぱりここが一番落ち着きますし、馬車を縁側から寄せることだってできますからね。
グラハムさん達は既に居間で待機済みです。こういうのは、後から来た方が箔が付くってゴンさんが言ってたので。
なんですかね。社長さんの重役出勤って、基本的に下から見るとストレスにしかならないと思うんですが……いいんですかね、待たせちゃって。
ま、深くは考えないでおきましょうか。
「グラハム殿、お待たせいたしました」
私が襖の向こうに待機したとわかると、ノーデさんは自分が開けられる位置についてグラハムさんに話しかけていました。
どうやって襖一枚向こうの気配を察したんでしょう……え、私が隠れてなにかしらやってるのって、実はバレバレだったりするんですかね?
ちょっとノーデさんが怖くなりましたよ?
「今一度問います。管理者様に対し、無礼な態度や敵対的行動はけして取らないという約束……天命に誓って守れますか?」
「もちろんです。商人はけして契約を違えません。それが命の恩人相手であれば尚更の事ですとも」
……命の恩人?
はて、よくわからない単語が出てきました。
いえいえ、言葉の意味はわかりますよ? あれですよ、鶴が爺様に恩返し的な物を送る物語的解釈ですよ。
わからないのは、私がいつグラハムさんの恩人様にステップアップしたのかという事です。私と彼は、正真☆正銘☆初対面(チェケラ!)のはずなのですが……。
「わかりました。……では、ココナ様。どうぞこちらへ」
流石に襖一枚挟んでしまっては、私の悩みなんぞ察することなど出来るはずもなく。ノーデさんが、ゆっくりと襖を開けてしまいました。
えぇい、もはや悩んでる暇なんてありませんとも。出たとこ勝負でやってやれです!
「…………」
私は、当初の予定通りに瞳を伏せたまま、ゆっくりと体を宙に浮かせて前進します。
ゴンさんいわく、私は寝ている時の方が威厳があるということなので、表情を見せないよう伏目スタイルで挑ませていただく所存です。
別に目ぇ閉じたからって周りが見えないわけじゃないですしね~。名無し妖精時代にも目なんてなかったんですから。
外見が人間に近いからって、人間みたく制限された身体能力に甘んじてるわきゃあないんですよねぇ。
「……ようこそ、お越しくださいました」
私はそのままグラハムさん達の前まで飛んで、彼らの前に向き直ります。んで、なるべく平坦な声で話しかけました。
ゴンさんの演技指導の結果、こうやって感情を見せないように話すと威厳があるらしいんですよね! その証拠に、グラハムさん達はがっつり平伏してくれちゃっています。
うぇへへへ……これ、結構いい気分になれますねぇ。
「私が、このバウムの森にて管理者としての役割を担っております、光中心和と申します。以後よしなに」
「…………」
「ふふ、よいのですよ。お話しいたしましょう?」
ヒュリンの皆さんの文化では、王様だとかそういう人達と謁見する際には、許可が下りるまで自分からお話ししたらいけないそうですね。
なので、私が許可を出すまで彼らはお話ししてくれません。
それでは埒が明かないので、早々に許可を出してしまいます。
「は、感謝いたします。私はアーガイム国にて商人を務めております、グラハムと申します。後ろの二人は私の部下です」
「サエナと申します」
「あ、アオノイと申します……」
ふむふむ、女性がサエナさん。青い顔した男性がアオノイさんと。めっちゃ緊張してるんですかねぇ。
グラハムさん達は顔を上げて、じっと私を見つめています。口が半開きになってますが、どこかおかしいとこでもあるんですかね?
ま、異文化なんてものが存在する世の中です。多少常識と違ったことしててもなんとか押し通せるでしょうっ。
それよりも、グラハムさん達を上手い具合にはぐらかさないといけませんからね。集中集中です。
「どうも、丁寧な自己紹介をありがとうございます」
「とんでもございません。管理者様にこうして名乗れる機会がある事こそ望外の喜びにございますれば」
「まぁ、お上手……」
ぅ……うぇへへ……嬉しいこと言ってくれるじゃないですかぁ。
思わずにやけてしまいそう。けどダメです。威厳を損なってはいけませんとも。
「さて、では早速ですけれど……今回はどのようなご用件で、私の元を訪ねてきたのでしょう? わざわざこのような森の奥深くまで来るなんて、よほどの事でございましょう?」
さりげなさとか腹芸とか、そういうのは出来ませんので、直球で聞いちゃいます。下手に色々深読みしようとしても絶対無駄でしょうからね~。
それに、実際聞きたいと思っていた事でもあります。いくら護衛がいたとはいえ、バウムの森の中心地に足を運ぼうなんて考える人はす少ないでしょうからね。それはもちろん、目の前のグラハムさんだって例に漏れないはずです。
ならば、何か理由があっての事。それをうまい具合に引き出して、自分たちの有利な状況を保ったまま根掘り葉掘りしちゃいます。
「は、たしかに、我々だけではとてもこの森の中心には来れなかったでしょう。ピット国の協力と、管理者様のお力が無くてはとてもとても……。しかし、命を救われた身としましては、なんとしても管理者様にお目通りを果たし、御恩を返さねばと思いこうして敢行いたしました」
「……その、命を救ったとは?」
「今思い出しても、あの時の管理者様の凛々しきお姿……そして管理者様が根付かせた聖なる樹の威光は目に焼き付いて離れません!」
「…………」
やべぇ、いつの事言ってるんだろう。
聖なる樹? 樹、木……どの樹だ?
……あ~、ご近樹の事かな? だとすれば、グラハムさんが言ってるのは……私が茶葉を拾ったあの日?
いまいち全容は掴めませんが、グラハムさんはそこで命を救われたって言ってます。しかし、ゴンさん達は計略だと言っていました。どっちが正解?
……うん、わからん。わからないので、適当にはぐらかしてしまいましょう。
「助けただなんて、大袈裟ですわ? 私は森の管理をしていただけ……お礼など、望んでやっている事でもありません」
「おぉ、なんと慎み深い……! なれど、助けていただいた事実は事実。私共の気持ちを是非とも受け取っていただきたく存じます。管理者様は茶葉を好むという情報をお聞きしました故、様々な種類を持ってきたのですよ」
思わず目を見開きそうになりましたが、必死に我慢です。
ここっ、まさにここですよ。ゴンさん達が言っていたポイントは!
けして興味無さげに、けど貰えるものは貰っとく感じで受け取ること! そうすれば、私相手の交渉にお茶が有効なんて思われないって言ってました。
「はぁ……お茶、ですか?」
「もちろん、管理者様の望む物を供物として捧げたかったのが本音なのですが……なにぶん情報が少なかったものでして、目先の分かっている事にすがるしかなかったのです。商人失格な話ではありますが……」
「いいえ、供物は気持ちが全てですわ。その物の価値ではなく、心にこそ真に必要なものなのです」
「おぉ、何と温かいお言葉……!」
「もちろん、それで貴方が救われるというのであれば……供物はいただきましょう。私としても、今後も仲良くしたいという気持ちはありますので……ね?」
よしよし、後ろでノーデさんが花マル書いてます! これは興味ない感じに見えましたかね!
「ちなみに、参考までに聞きますが……どのようなお茶なのでしょう?」
「は、様々な種類を持ってきましたが……まだ試作段階の種茶なども持ってきました」
……種……茶……?
「炒ったものを砕いて使うのです。見た目は黒く苦いのですが……あの香りは目を、いえ、鼻を見張るものがありますね。きっといつかは国の特産になると、そう確信しております」
そ、それは……それってつまり、その……!
「こ……」
「あ、そ、その、グラハム殿! ココナ様は一度お色直しに行かねばなりませぬ故! 一度ご退室いたします!」
ノーデさんが神速で接近するやいなや、硬直し震える私のスカートをつまみ、遊園地の風船がごとく部屋から連れ出しました。
きょとんとするグラハムさんご一行が見えましたが、そんなの今の私にはどうでもいい事です。何故なら、熱い熱い想いが噴火しそうだから!
「こ、こ、こ……!」
「ココナ様、堪えてくださいっ」
部屋を出て襖を閉めた後、ノーデさんが私を後ろから抱きしめて口を布で抑えてくれました。
もういい? もういい? いいね!?
「ふぉぉぉぉおひぃぃぃぃいひはぁぁぁぁぁああああああ!!」
『コォォォォオヒィィィィイ来たぁぁぁぁぁああああああ!!』
私の鉄仮面を粉々に打ち砕く刺客。
その名は……コーヒー!!
コーヒー豆ぇぇぇ!!
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