ドライアドさんのお茶ポーション

べべ

文字の大きさ
上 下
39 / 77

第35話:大陸のお騒がせ商人

しおりを挟む
 
 空気に湿り気が混ざってきたものの、お天道様は下々を照らしてくれる。そんな実に心地の良い天気。
 日光と水分を同時に摂取できる、植物にとってのビュッフェタイムみたいなこの貴重な日に、私は森の中をふよふよと浮いていました。

 今日も今日とて、管理者家業に余念はありません。
 現在は、ゴンさんがかつて大量発生したコカトリスを仕留めたという区画を診断中です。
 場所にして、東南ですかね。ピット国の隣くらいの方向でしょうか? 結構群生していたらしく、幅広く摘んでいったらしいんですよね。

 何度か診察には来ていますけど、やはり毒などに草木はやられていない様子。ゴンさんの素早い対応のおかげで森が守られたと言っていいでしょう。
 元々こっち側のエリアには、毒草が多いってのも理由の一つかもしれませんね。

 それにしても、コカトリスの大量発生って、本当に人間の死がどこかの世界で溢れたから起こった事なのでしょうか?
 その割には、この大陸、バウムの森に被害が集中しているような気がするんですがねぇ。
 ……ま、あまり考えてても仕方ありませんかね?
 今は森に被害がない。その事を喜ばしく思っておきましょう。

 そんな事より、草木の健康診断のが何倍も大切です。そして、帰ってから苗木の成長を延々眺めてニヨニヨして過ごすのです。
 ちなみに、デノンさんが送ってくれた農具のおかげで、今ゴンさん洞窟の前には立派な畑が出来上がっています。規模は小さいですけどね。

 植えてるお野菜は、ごぼうです!
 はい、あの根菜のごぼうですね。煮込んだりすると美味しいやつです。
 なんでごぼうか、ですって? ははぁん、さてはごぼう茶を飲んだことがありませんね?
 ごぼうをお茶にしたら、それはもう美味しいお茶になるんですよ! まるで自然をまるごと飲んでいるかのような、香ばしい大人の味がするんだそうです。
 心和の知識で知ってから、このごぼう茶もまた飲んでみたリストに乗っていたんですよね~。

 これから芽吹くであろうごぼうに楽しみを覚えつつ、私は笑いながら仕事をこなしていきます。
 虫や獣の侵略に会い、死にかけた植物に生命力を与えたり。
 既に枯れている樹を養分に変え、土壌を改善したり。やることはたくさんです。

「失礼、ココナ様。少々お時間よろしいでしょうか?」

 ふと、護衛についてきてくれていたノーデさんが私に声をかけてきます。
 畑を耕すノウハウを教えてくれた時にも思いましたが、この小さな体にどんだけの体力を内包してるんでしょうねこの人。今日も朝からゴンさんの御世話した後、畑の管理して、私の護衛ですよ?
 今度強制的に休ませないとですねぇ。

「はい、どうしましたか?」

「はっ、実は我が王から今しがた、通信が入ってございます!」

「デノンさんから、ですか?」

 ノーデさんが持っているのは、一握りの丸い宝石です。
 これは通信石と言いまして、対になっている石同士で声を送り合う事ができる優れものなのです。
 デノンさんがノーデさんを私たちの元へ派遣するって言ってた時、連絡はすぐ出来るようにするって言ってたじゃないですか。その時持たせてたのがこれだった訳ですね。

「はい。ココナ様が近くにいると言ったら、是非代わって欲しいと」

「やぁん、そんなラブコールなんて照れますよぉ」

「はっはっは! ご冗談を、はっはっは!」

 え、なんでそんな全力で笑ってるんです?
 乳臭ぇガキが恋愛語るなってことですかね!?
 そんなっ、確かにゴンさんとかノーデさんに軽く欲情できるアレな素質は自覚していますが、この気持ちに偽りはないというのに!

「まま、とりあえずどうぞ」

「あ、はい」

 脳内で肥大化する妄想に終止符を打たれた私は、素直に通信石を受け取りました。
 宝石の中では魔力が渦巻いており、とっても幻想的な雰囲気です。

「もしもし~、お電話変わりました心和です~」

『でん? ……はぁ、相変わらずよくわからんなお前さんは』

 おぉ、久しぶりにデノンさんの声聞いたような気がしますね~。

「どうしました? 私にご用事なんて珍しい~」

『あ~……いや、な。ちと報告というか、忠告というか』

「忠告?」

『あぁ……』

 なにやらバツの悪そうなデノンさん。生粋のツッコミ気質である彼がここまで歯切れが悪いのは珍しいことです。
 いったい、何があったんでしょう?

『実はな、もしかしたらそっちに、もうすぐ商人がくるかもしれねぇんだ』

「へぇ~、商人さんがですか? こんな森の奥に?」

『あぁ、奴なら間違いなく出向いてくると思う。ちょいとばかし厄介な奴なんで、先にあんたや守護者様に話を通しとこうと思ったのさ』

「ん~、詳しく伺っても?」

『わかった。そいつの名前は、【グラハム】って言ってな?』

 それから、デノンさんの説明が結構長かったので、以下にまとめます。
 グラハムさんは、【アース】という国に住んでいる、ヒュリンと呼ばれる種族なんだそうです。
 ヒュリンの見た目は、生前の心和と非常に似通っており、突出した強みがない代わりに万能性を持っている種なんだとか。

 その性質は、保守的だがやる時はやる勇者気質。
 そしてなにより、己の利が大好きすぎるんだそうです。だから、ヒュリンが商人となって各地を旅するのはけして珍しくないんだとか。

 件のグラハムさんも、例にもれずヒュリンの旅商人さん。今回、ヤテンを求めてピット国に来ていたそうなのです。
 こういった旅商人の方々には、【何故か】魔力ヤテンを売らず、【何故か】備蓄の通常ヤテンを売る事にしていたデノンさんでしたが、その事実に目ざとく気付いたのがグラハムさんだったとのこと。

 何か隠していないかと、やんわりじっくり問題にならないギリギリの所まで根掘り葉掘りされそうでしたが、デノンさんは全てはぐらかしたらしいんですよね~。

『しかし、申し訳ねぇんだが……交渉事はあちらさんの方が上手でなぁ。俺はみたいなんだわ』

「ん~、つまり、逆に怪しまれちゃったって感じですか?」

『そうだ』

 明らかに何か隠している。そして、それはヤテン関連。
 そこに気付いたというグラハムさんが色々嗅ぎまわり、私の存在にたどり着いた~と。

『ガキの一人に菓子を与えて、森のデカい樹に住む妖精の話を聞きだしたってわけだ……すまん。俺の不手際だ』

「別に気にしませんよ~? 商人さんが来るというのなら、快くお出迎えするのです」

『あのなぁ……あんたの魔力茶が、よりにもよってヒュリンに知られたら大変な事になるぞ?』

 ん~、そんなもんなんですかね?
 ここだけはみんなに言われても実感わきませんねぇ。

『とにかく、グラハムは商人だがかなりのやり手だ。時間はかかるだろうが、必ずそこにたどり着くだろう。……奴が来るまでの間に、守護者様にも相談してはぐらかし方を考えといたほうが良いぜ?』

「ん、わかりました~。とりあえずゴンさんに聞いてみますね?」

『それが良い。いいか、絶対にアンタの独断で行動はするなよ? 絶対にだからな!』

「振りかな?」

『ノーデを返してもらうぞ?』

「絶対に相談します!!」

 よろしい、そう言って通信は切れました。
 向こうも忙しいのはわかりますが、少し仕事以外のお話もしたかったですねぇ。

「ん~、しかし、商人さんですかぁ」

「ふむ……グラハム殿でしたら、少々身の振り方を考えねばなりませんな」

 私たちは、思わず空を見上げました。
 季節は6月に入ろうかというのに……未だ、雨は降ってくれません。
 なんでしょうねぇ。ややこしそうなのです。
 
しおりを挟む
感想 66

あなたにおすすめの小説

婚約破棄の甘さ〜一晩の過ちを見逃さない王子様〜

岡暁舟
恋愛
それはちょっとした遊びでした

やり直し令嬢は本当にやり直す

お好み焼き
恋愛
やり直しにも色々あるものです。婚約者に若い令嬢に乗り換えられ婚約解消されてしまったので、本来なら婚約する前に時を巻き戻すことが出来ればそれが一番よかったのですけれど、そんな事は神ではないわたくしには不可能です。けれどわたくしの場合は、寿命は変えられないけど見た目年齢は変えられる不老のエルフの血を引いていたお陰で、本当にやり直すことができました。一方わたくしから若いご令嬢に乗り換えた元婚約者は……。

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜

川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。 前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。 恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。 だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。 そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。 「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」 レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。 実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。 女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。 過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。 二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

呪いを受けて醜くなっても、婚約者は変わらず愛してくれました

しろねこ。
恋愛
婚約者が倒れた。 そんな連絡を受け、ティタンは急いで彼女の元へと向かう。 そこで見たのはあれほどまでに美しかった彼女の変わり果てた姿だ。 全身包帯で覆われ、顔も見えない。 所々見える皮膚は赤や黒といった色をしている。 「なぜこのようなことに…」 愛する人のこのような姿にティタンはただただ悲しむばかりだ。 同名キャラで複数の話を書いています。 作品により立場や地位、性格が多少変わっていますので、アナザーワールド的に読んで頂ければありがたいです。 この作品は少し古く、設定がまだ凝り固まって無い頃のものです。 皆ちょっと性格違いますが、これもこれでいいかなと載せてみます。 短めの話なのですが、重めな愛です。 お楽しみいただければと思います。 小説家になろうさん、カクヨムさんでもアップしてます!

婚約者に裏切られた女騎士は皇帝の側妃になれと命じられた

ミカン♬
恋愛
小国クライン国に帝国から<妖精姫>と名高いマリエッタ王女を側妃として差し出すよう命令が来た。 マリエッタ王女の侍女兼護衛のミーティアは嘆く王女の監視を命ぜられるが、ある日王女は失踪してしまった。 義兄と婚約者に裏切られたと知ったミーティアに「マリエッタとして帝国に嫁ぐように」と国王に命じられた。母を人質にされて仕方なく受け入れたミーティアを帝国のベルクール第二皇子が迎えに来た。 二人の出会いが帝国の運命を変えていく。 ふわっとした世界観です。サクッと終わります。他サイトにも投稿。完結後にリカルドとベルクールの閑話を入れました、宜しくお願いします。 2024/01/19 閑話リカルド少し加筆しました。

私があなたを好きだったころ

豆狸
恋愛
「……エヴァンジェリン。僕には好きな女性がいる。初恋の人なんだ。学園の三年間だけでいいから、聖花祭は彼女と過ごさせてくれ」 ※1/10タグの『婚約解消』を『婚約→白紙撤回』に訂正しました。

処理中です...