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第34話:日本茶実意飲
しおりを挟むそも、日本茶とはなんぞや? 現地の人たちは、そう口々におっしゃいます。
どうやら、この大陸にはまだまだ日本茶は存在していないご様子。紅茶はあるのに勿体無い。
ノーデさんも、5つの国の名産にはなっていないであろうと言っていました。まぁ、その内2つくらいの国はバッチバチに喧嘩モードなので内情もなにもあったもんではないみたいですけど。
つまり、この栽培が成功すれば、初めての日本茶が世界に広まる可能性があるかもってことですね!
なので私は、いかに日本茶がお茶としての魅力に溢れているかを実証するため、ゴンさんとノーデさんを屋敷の縁側に誘いました。
「日本茶と言えば縁側ですからね~。これはもう一種の定型文、美学のようなものなのです」
『ふむ、故に貴様は今まで日本茶を我に飲ませることはなかったのだな』
「エンガワがあってこその、日本茶というわけですねっ」
いや、そんなことは無いんですけどね?
ただただこのタイミングになるまで、ヤテン茶で充分だった感がありまして。
だって、私が練ったお茶は風味も深みも足りないんですもの。それだったら、職人さん達が一から育て上げ、作り出したヤテン茶の方がおいしいってもんですよ。
だから、この日本茶タイムはいわゆる試飲。
今でこそ味は一歩足りないものの、一から育てた茶葉で作ればこれ以上に美味しいんだよ~ってのを、2人に知ってもらうための時間です。
「というわけで~、お待たせしました。これが日本の心、緑茶ですよ~」
私は、ゴンさんが焼いた茶器の中でも、一番湯飲みに近いものに緑茶を注ぎました。
その色は、透き通るように爽やかな緑色。緑茶とはよく言ったものです。
樹が、葉が一緒でも、緑茶と紅茶はここまで違う。その現実を目の当たりにし、2人は「ほうっ」と感心の声を洩らしていました。
『まるで新芽のような鮮やかさだ。これは目に良いな』
「えぇ! 香りは……紅茶と違い、少々青っぽいですかね? ですが臭みではありません」
『うむ、落ち着く香りだ。確かに、このような自然豊かな場所にて腰掛け、嗜むに相応しい茶なのやもしれぬ』
「ふっふっふ、そうでしょうそうでしょう」
二人には最初説明しましたが、紅茶や日本茶、烏龍茶(うーろんちゃ)は、茶樹自体は同じ【カメリアシネンシス】という、ツバキ科の植物なのです。
ただ、品種として【中国種】だったり、【アッサム種】など様々な部類に別れ、更に製造方法が異なることで多種多様なお茶になっていったのです。
なので、ぶっちゃけて言えば、味に頓着さえしなければ紅茶の茶葉から緑茶が作れるんですよ。
なにより大切なのは、発酵具合です。紅茶はがっつり茶葉を発酵させることで作られていますが、緑茶はこの発酵をまままーったくさせない事で出来上がるお茶なのです。
これが中々どうして、狙って加工しないと緑茶ってのは出来上がらないんですよねぇ。摘んだ瞬間から発酵タイマーのスイッチがオンされるもんで、急いで発酵を止めないとすぐに色も香りも抜けてしまいます。
昔の日本人は、よくもまぁこんな凄まじいスプリント勝負に挑んでいたものですよ。
「ささ、冷めてしまわぬうちに、どうぞ」
もはやこのワードも定型文ですねぇ。
ゴンさんは香りと色を存分に楽しむタイプなので、促さないと時々おススメ温度を過ぎてしまう時があるのです。
『うむ、いただこう』
「いただきます!」
二人がゆっくりと淵に唇を近づけ、そっと啜ります。
空気と茶を口内に流し込み、人体にとって許容範囲内まで温度を調節。同時に空気と茶が口内で絡まり、幾層にも香りと味を変化させていくのです。
さて……私も一口。
「うん、うん……なるほどぉ」
これが、緑茶。
知識として知るだけではなく、味わう事で初めてわかるものです。
やはり特徴的なのは、【渋み】ですね。紅茶にも渋みはもちろんありますが、それは香りを味わう中での副次的なもの。
中には、紅茶に砂糖を入れる人だっているくらいです。
ですが、緑茶に砂糖を入れるという人はあまり聞きません。それはなぜか?
答えは、緑茶はこの渋みこそを味わうものだからです。
大切なのは、雑味がどれだけ多いか。この雑味が複数あることで、味全体に深みが増すのです。その中で、緑茶の抜きんでた渋みが強調され、美味となり舌と鼻を楽しませるのでしょう。
『……うむ、良い。良い茶ではないか』
「えぇ、深みが無い状態ですら、これ程に感性を刺激されるお茶があろうとは」
『まるで、己が自然の中に溶け込んでいくのを助力するかのような落ち着きを覚えるな。単なる苦みではない。この渋みを堪能できる茶は、中々にお目にかかれんぞ』
えぇ、本当に、美味しい。
ですが、ノーデさんの言う通り。やはりこのお茶には深みや雑味が足りません。
圧倒的に経験が足りない感じですね。
「これは、やはり……茶樹の完成が急務ですね~」
『そうだな。しかしけして焦ってはいかんのがじれったい。まるで百年の恋をしているような気分になる』
「詩人ですねぇ、守護者様」
私たちは、縁側から遠くに見える、洞窟手前の畑を見やります。
必殺の天地返しでめくれ上がった地面は、今でこそ埋められているものの、その色は半径4m程の円となりどこまで土が吹き飛んだか丸わかりになっていました。
ま、まぁあとはあの柔らかくなった土を耕して、野菜を植える畑にするだけです。そこで土壌や育ち具合を改めて調べて、茶樹を植える準備を進めねばなりません。
その耕すための道具も、先日ノーデさんが、デノンさんに連絡を入れて農業用具を手配してくれていました。近日中に届くでしょう。
なんだか、ようやく、本当にお茶作りができる感じになってきています。
「……ふはぁ」
『ふむ……』
「……ほう……」
お茶を啜り、同時に一息。
順風満帆とは、まさにこのこと。これから私たちは、お茶とか野菜とかを栽培しつつ、管理者家業に精を出し、一年たったらオベロン様の所に魔力を送って、締めくくりにお茶を飲んだりして過ごすのです。
それは、なんと幸せなことでしょう。最初はドキドキと不安が混じる生活でしたが、今では仲間たちに囲まれて、そんな不安もランナウェイです。
そう、これ以上、事件なんて起こりようがありません。
絶対に絶対、次の茶樹を植えるまで、平和な時間が続くのです。
……本当ですよ?
……ですよね?
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