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第33話:必殺! 天地返し
しおりを挟む『……で、我まで呼び出して、ここで何をしようと言うのだ』
はい、翌日私たちは、ゴンさんを連れて洞窟前の畑予定地に来ていました。
準備と言っても、そうガチャガチャしたものではありません。
そもそも私たち、農業系の道具を一切持っておりませんもので。故にゴンさんの御力を借りるために頼み込んで来ていただいたという訳です。
なんですかね。準備=交渉って奴ですよ。
「はい! ゴンさんには今回、【天地返し】を決めていただきたく存じます!」
『……なんだ、その売れない歌劇脚本家が苦肉の策で編み出した作中での必殺技みたいな名称は』
おっとそこまでだ! 天地返しを笑ってはいけません。農家さんにとっては昔から使われている伝統的手法なのですよ?
「ふふふ……説明しなければなるまい!」
私はどこからか取り出した眼鏡を装着し、草で編んだ白衣(緑衣?)を着込んでメガクイを決めつつ、【人生において一度は言いたい台詞ランキング】上位に食い込むであろうワードを宣います。いいですよね、説明しなければなるまいって。ロマンあふれる台詞ですよね。
「天地返しとは! 地面の表土と下層土を1m程ひっくり返して、土を混和することである~!」
「紅茶を育てる時も、同じような手法を取ると聞き及んでおります。必要な工程なのは明らかですな!」
そう、これをしておくと、硬くなった土が地中の柔らかい土と混ざって、畑を運用していく環境が良くなるんですよ。
どんだけ古い手法かっていうと、江戸時代の富士山噴火の際に、火山灰によって農作物が育たない事態になったため、天地返しを行った記録があると言われています。すごくないですか?
特に、茶樹は一度植えてしまうとその後の土壌改善が困難だそうですからね。こういう最初からの作業が肝心要肝要なのですよ!
『ふむ、言わんとしていることは分かった。そして必要性も理解した』
ゴンさんは、うんうんと頷いて納得してくれています。
ふふふ、やはりお茶に関しては包容力半端ないですね。
『だが、何故今なのだ』
「え?」
『その天地返しとやら……その原理で行くなら、苗木を植える前で良いのではないか?』
ん~、なるほど確かに。
とりあえず畑作ろうと思って土を慣らそうと頼んでましたが、これってすぐにやらないといけないって訳ではない、のかな?
「いえいえ守護者様。今ここで畑を作っておくのはけして悪い判断ではございません」
『ほう?』
「一度畑として運用してみることで、なにかの改善点が見つかるかもしれませんからね。茶樹を植えるのは来年の春からだとしても今ここで作物を育ててみるというのは大事かと存じます」
『ふむ……一理ある』
おぉ? ノーデさん、何かやる気満々ですね!
そういうことでしたら、丁度いいお野菜を植える畑にしてしまいましょうココ。
んで、その野菜を収穫したのち、また【必殺! 天地返し】を決めて畑を慣らして、今度こそ茶樹を植える、と。
私のその発言も受け入れられ、とりあえず畑を耕してみることになりました。
「では守護者様、力をそちらに送りますので、うまくコントロールしてくださいね?」
「暴発させちゃダメですよ~」
『たわけ。誰に言っておるか』
で、今私たちは、ゴンさんを二人で挟んでいます。
何をしているかって? 当然、必殺! 天地返しの準備です。
独特な緊張感の中、私たちは無言でお互いの呼吸を合わせます。少しでもタイミングがずれたら、きっと成功しないと本能でわかっているのです。
今か……いや、まだ……ここか? ここだな、うん……よし!
「ではいきますよ~……ゴンさんにパワーを!」
「いいですとも!!」
独特なフレーズと共に、私とノーデさんは魔力を展開しました。
ノーデさんは、地属性の補助魔法で身体強化をかけたみたいですね。私はそんまま、「強くな~れっ☆」て魔力送っただけですけど。
『ふぬぅぅぅ!』
その瞬間、ゴンさんの身体が爆発的オーラに包まれます!
まるで超凄い野菜人間の如き描写です! 別に体毛が金色になったりはしませんけど、逆立った感じがそっくりです!
『おおおおおぉぉ! 溢れるぞ……貴様らの想い、このべアルゴンが確かに受け取ったぁ!』
「いっけぇぇぇ! ゴンさぁぁぁぁん!!」
「貫けぇぇぇええ!!」
今、私たちの心は完全に一つになっています!
心なしか画風も変わっている気がしますよ! 劇画チックとかそんな感じに!
そしてゴンさんは、一度屈んで四肢に力を籠め、一気に跳躍しました。
空中で何回転もしながら勢いをさらに乗せていきます。
ゴンさんのパワーが100万パワー!
私たちの想いが100万パワー!
そこに重力と回転が加わり、更に倍プッシュ! 周囲の木々が「ざわ……ざわ……」とざわめきます!
すべての想いが一つとなり、これで……お前たちを超える、2000万パワーだぁぁぁ!!
『必殺!! 天地ぃぃぃ返ぇしぃぃぃいい!!』
ゴンさんは、落下衝突と同時に拳を突き出しました。
その瞬間、全ての音を追い越して……衝撃が、周囲を襲います。
「きゃああああ!」
「わぁぁぁぁ!」
ここでやっと轟音が響き、地面の振動でノーデさんがバランスを崩しました。
巻き起こる衝撃波が私のスカートをはためかせ、木々は暴風によってしなり、葉を波打たせています。
上を見上げれば、世間樹まで届かんばかりの土煙が。この威力、まさに必殺の名にふさわしいです……!
『……ちんくしゃよ……』
土煙の発生地点から、念話が一本。
そこで渦巻いていたオーラが「バシュン!」と霧散すると、それもまた風となり煙を晴らしていきました。
地面は2m程抉れており、クレーターとなっています。その中心では、完全にヒーロー着地後のポージングと一致しているゴンさんの姿が。
「ゴンさん……」
私とゴンさんの目が合い、そこで時が止まります。
なびく風によって、互いの髪と毛皮がさわさわと揺れている事が、未だ秒針が動いている証明でしょう。
沈黙は、およそ3秒ほど。
先に口を開いたのは……ゴンさんでした。
『これ……なんか違う気がする』
「でっっっっっすよねぇぇぇぇ!! 私もそう思いました~!」
その日。
私たちの一日は、飛び散った土をクレーターに戻す作業によって過ぎ去っていくのでありました。
何がいけなかったんでしょう?
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