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第25話:茶ぁしばきましょ
しおりを挟むさてさて、楽しい楽しいお茶タイムなのですが……。
私、今回はどうしてもやりたいことがあるんです! ヤテンを飲むにあたって、絶対に試してみたいことが!
「というわけで、ヤテン茶を今から作っていきたいと思います!」
「アシスタントは私、ノーデが努めたいと思います」
「いやノーデ、お前仕事は……」
「ココナ様へのご恩に報いるのも仕事と存じますれば!」
「あぁ、そう……」
デノンさんが疲れた顔をしています。
えっちゃん消滅問題も解決に向かっているというのに、どうしてあんなに嬉しそうじゃないんでしょう?
まぁいいです。今大事なのはお茶ですからね。
今私達は、ヤテン茶を作る時に使うという工房に来ています。ヤテン畑に近い所にありますので、えっちゃんも一緒ですね。
ちゃんと子ども達の退園時間後に来てますよ? 無責任な大人ではないのです!
……そう、えっちゃんに止められたので、えぇ、セーフです。私は無責任な大人ではない……はずです。
気を取り直しまして、工房の中には当然、茶葉として加工されたヤテン達がいます。今回は魔力を籠めたヤテン達ではなく、これら普通のヤテンを使ってフィルボの方々にアピールをしていきましょう。
「え~、今回はですね。ヤテンをもっとも美しい段階で飲むという試みを試してみたいと思います!」
『ほう』
「美しい……?」
そう、ヤテンの最大魅力を味わうには、今のフィルボの皆が飲んでいるやり方では足りないのです!
ヤテンの長所はその美しい桃色にあります。これまで飲んだヤテン茶は、赤と桃の中間で少し濁った感じのものでした。
確かに、様々な薬草を混ぜるが故に濁ってしまうのはしかたありません。しかし、高望みをするのならば……ヤテン本来の色を楽しみたいというのが正直な所でしょう。
「ならば私が一肌脱がねばなるまいて!」
『おいやめろちんくしゃ。貴様の言い分はわかったから前を開(はだ)けさせるな!』
「一肌脱ぐってそういう意味じゃねぇからな!?」
「はっ!」
いけないいけない。興奮しすぎてしまいました。
落ち着いて深呼吸しつつ、改めてヤテン茶を作っていきましょう。
ヤテン茶の抽出工程は、今まで通りのやり方で行います。フィルボの歴史になぞっていかなくてはですしね。
というわけで、ノーデさんには通常通りヤテンを準備してもらいます。ハーブティーとほぼ同じ作り方というのは前回見てわかっていますから、私としてもやりやすいってもんですよ。
ノーデさんがお茶の準備をしている間に、私は目玉であるヤテンを解析です。ヤテンの色素、DNAなどを極力頭ん中で負担になりすぎない程度に取り込んでいきます。まぁ今までの植物とだいたい一緒ですから、負担もなにもあったもんじゃないんですけどね。
……ふむふむ、やはりヤテンは素晴らしい。この色素はお茶になったとしても損なわれることなく華やかさを演出してくれると確信できますね。
問題は、他の薬草たちの色素に負けてしまわないかという点ですが……そこはそれ、後々職人さん達がガラス製のティーポットを作ってくれれば確認しつつ淹れることが可能なはずです。今は私流でやってしまいましょう。
「ココナ様! 準備整いました!」
「ご苦労様です! それでは淹れていきますよ~」
ではでは、心和の知識に沿ってハーブティーを作っていきましょう~。
まずは、ポットを沸騰させたお湯で温めておきましょう。今回は陶器のティーポットですね。
室温程度にまで冷めるまで、しばらくの間はこれで放置~っと。
その間に茶葉の確認! 乾燥させたヤテンと、代々伝わる薬膳たちです。ヤテンはそのままだと甘みや風味が強いようなのですが、その甘みが薬草の苦みを中和してヤテン茶になっているのですよね。
……つまり、ヤテンから砂糖を抽出したりできるんでしょうか? いや、今までの歴史の中でそこに着目してる人がいないわけがない。つまりその手の事業はこの国で発展しているはずですよね。
っとと、話が反れてしまいました。茶葉を準備したら、これらを丁度良くブレンドしていっちゃいましょう。今回は、ヤテンの色を存分に楽しむための調合として……ヤテン7、薬草3くらいでいきましょうか。
さてさて、そうしてるうちにティーポットがいい感じに温まったので、お湯をいったん捨てちゃいます~。
んで、ポットが温かい内に茶葉を投入~。今回はゴンさん、デノンさん、えっちゃん、ノーデさん、そして私……まぁ横でお茶工房の職人さん達も見てるんですが、そんなに一度には淹れれないのでとりま5人分作っちゃいましょうね。
「ノーデさん、まだヤカンにお湯は沸いてますよね~?」
「えぇ! それはもうシュンシュンと!」
「おけおけ~。ではいつでも蒸らす準備しててくださいな~」
「かしこまりましたっ」
い~ち、に~ぃ、さ~ん、し~ぃ、ご~ぉ……うん、こんなもんでしょ。ポットの大きさ的にもこれが限度です。
5人分の茶葉が入ったティーポットの完成~。あとはこれに、ヤカンのお湯を注いで蒸らすだけです。
お湯の温度は、確か95度くらいがいい感じらしいですね。まぁゴンさんくらいしか正確な温度がわかる人っていなさそうですし、あんまりこだわんないようにしましょう。
お湯を注いで~……あ、ここ注意です。けしてお茶を煮立たせないようにしてくださいね? 風味が飛んでしまうのです。だから、こういうヤカンなどからお湯を注ぐのがいいのです。
お湯を注いだ後は茶葉の香りを逃さないよう、素早く蓋をして3~4分くらい蒸らします。この蒸らしによって茶葉に含まれている香りや味、成分などが抽出されるんですよ~。
あ、でもヤテン以外の薬草達は堅い部分が多いから、5分くらいに蒸らし時間を延ばしたほうがいいかもですね。これがヤテン茶の色合いが残念な理由かぁ……ヤテンの方が先に抽出されちゃうから、後からにじみ出てくる茶葉に負けちゃって色が濁っちゃうんですね。
しかし、今回は私という強い味方がいますよヤテンちゃん! 任せてくださいね!
相手が植物であるならば、たとえお茶だろうと正確な成分を分析できるのがこの私! それはつまり、ティーポット内の抽出色素まで把握できるということ!
私なら、たとえ見えていなくとも、ヤテンの色がもっとも美しい瞬間を見極められます!
とはいえ他のお茶の有効成分も入っていないとヤテン茶ではない……ふふふ、上げどころが難しいでやんの。
ここかぁ……? いや、違う。もうちょっと……。
「……ここです!」
『む、動くかちんくしゃ……!』
「なんで2人とも、今までにないくらい真剣かつ後がない感じにピリピリしてんの? 俺らの問題よりお茶作ってる時のほうが真面目じゃねぇか」
シャラップデノンさん! 今は一刻を争うのです!
ティーポットのお湯を軽く揺らしてお茶の濃度を均一にし、茶越しを使ってティーカップにヤテン茶を注ぎます。
さすがはヤテン茶発祥の地。小さい茶葉も取れる目の細かい茶漉しができていますね!
「さぁ、御覧じるがいいです! これこそがヤテンの真のポテンシャルだぁ!」
『ぬぅ……! こ、これは……!』
「なんて美しいの……!」
湯気を立てて注がれるヤテン茶。
その色は、まるで初恋を認識してしまった初々しい少女の頬のような桃色です。
一目でわかる、宝石が如き美しさ。広がる波紋すらも、見る者を魅了してやみません。
この場にいる全員が、ヤテン茶の真の姿に言葉を失っておりました。
「さぁ、冷めない内にいただきましょう」
この言葉が、今この場においては最も酷な仕打ちだと思います。あのデノンさんすらも目を見張ってしまうくらいの美しさを、飲み干せと申すのですから。
しかし、淹れたら飲むまでが、そして感謝と共に後片付けまでがお茶に対する礼儀ですからね!
『……いただこう』
案の定、最初に手を伸ばしたのはゴンさんです。
器用にティーカップをつまみ、顔に近づけ、香りを堪能。
ヤテン茶を最初に飲んだ時には複雑で不可思議な茶と認識していましたが、今回はヤテンが主役の成分量。その香りも、一段と甘みを含んだものになっています。
香りの後はカップをくゆらせ、桃色の波を目で堪能。まるで孫を見つめるおじいちゃんのような柔和な瞳です……ふぇへへ、眼福やでぇ……!
『……ん、む……』
そしていよいよ、一口。
一度口の周りを舐め、毛を寝かせる事でカップへの混入を阻止。雑味が入らないような気づかいを見せつつ、静かに含みました。
口内でじっくり味わう事、数秒。
その後、鼻で大きく息を吐き、また吸う。限界まで風味を味わうその姿、プライスレス。
その閉じた瞼の裏には、一面のヤテン畑が広がっていることでしょうとも。
『……素晴らしい』
名残惜し気に喉を鳴らし、体内にヤテン茶を流し込んでから、ようやく一言。
たった一口に長い時間をかけたからこそ、この一言の重みが全員に伝わった事がわかりました。
だってみんな、慌てたように飲み始めましたからね! そして飲んでから驚くとこまでワンセット! うぅん、見ていて嬉しい。大成功のようです!
『ちんくしゃよ』
「はい?」
『褒めてつかわす。見事という他ない』
「!!」
ふぉぉぉぉぉお!!
ゴンさんに、ゴンさんにめっちゃ真っすぐなお褒めの言葉をふぉぉぉぉう!!
心和の歴史上に載るくらいの快挙きたでこれぇ! 嬉しいよぉぉ!
うぅ、目から樹液が溢れそうです……!
『うむ、美味い……それに美しい。最高だ』
「うぅ……ぅ?」
ん~? ちょっとまって?
あれ? ゴンさんそれ、2杯目いってません?
あれ、私、5人分しか作ってな――――
「あぁぁぁぁぁぁぁ!? ゴゴゴゴゴゴゴンさぁぁぁぁん!!」
『ぬ、いかんバレた』
こ、こ、こ、この人はぁぁ! 私、まだ飲んでないのにぃ!
こいつぁめちゃ許せんですよなぁ~!?
「返すですよ~!」
『貴様が飲もうとせんからだ、たわけ!』
「お、お前ら落ち着、うぉぉぉぉぉお!?」
その後。
工房内をわりとしっちゃかめっちゃかにしちゃった私たちは、デノンさんにこっぴどく叱られてしまうのですが、それはもう少し先のお話し。
あと、今回作ったお茶でも回復がどうとか言ってましたけど、そんなん知らんです。
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