ドライアドさんのお茶ポーション

べべ

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第18話:王様かわいい

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 お城の中は、大変好感の持てる内装でした。
 素朴な色合いの花瓶、優しい香りの花々。
 けして派手ではない、手編みと思われる壁掛け。
 木造建築に大変マッチした、落ち着きのあるそれらの数々。

 少ないながらも王の居城を彩るそれらは、きっと民からの贈り物なのでしょう。でなければ、こんなに置き場所が偏るわけがありません。
 出入り口に飾って財を主張しているのではなく、きっと自分の通り道で視界に収めていたいから……そんな空気を感じる飾り方をしています。

 まぁ、ノーデさんが忠を尽くしている時点で充分なのですが……それを抜きにしても、ここの王様がどんな人なのかが判断できて安心です。
 建物自体もけして雑に扱っていません。使われている木材は、どれも手入れが行き届いています。
 姿かたちを変えたとしても、けしてストレスにはなっていない様子。管理者として安心ですとも。
 うんうん、こうして誰かの役に立つというのも、また植物としての姿と言えるのかもしれませんね。そう思ってしまうのも、私が人間の魂と一体化したからなのかもしれませんが。

「こちらでございます。ココナ様、守護者様」

 ノーデさんは、お城の2階、中央付近に位置するであろう扉の前で立ち止まります。
 ここまでを移動する中でも、ゴンさんですら割と余裕で進むことができるくらいに、このお城は広く作られていました。
 そんな建物内でも、一番大きい扉……謁見の間、的な感じなのでしょうか。
 この向こうに、ピット国の王様がいらっしゃる。ちょっとドキドキです。

「王よ! 我が主よ! ノーデが帰還いたしました!」

 扉の向こう側に聞こえるように、ノーデさんが声をあげます。
 危険な森から帰ってこれたという事実をようやく実感できたのでしょう。その頬には赤みが差し、背伸び気味に叫ぶ彼の姿……うん。

「良き」

『真顔で言うな。恐怖しか感じんぞ』

 ハッ! 心和の性癖がぁ!
 落ち着け私、自制するのです。今は長旅を終えた従者がようやく主と会える感動的展開ぃ!
 そんな光景を、そんな邪な目で見てはいけません! えぇ、いけませんとも!

「おっうっ、おう、王よ~!」

《えぇい、うっさい。扉越しに騒ぐなっての。今準備してっから待て、な?》

「あぅん……」

《待てだ、まーて》

 子犬か。

「ってひぎゃああ!? ゴゴゴゴンさん! なぜ私を頭から丸かじりゃぁぁぇぇ!?」

『貴様こそ何のつもりだちんくしゃ! 今能面のような顔でチビ助を持ち上げようとしておったぞ!? あのまま持ち帰る気配がプンプンしておったわ!』

 嘘ぉ!? 私そんなことしてました!?
 いやいやいや確かに可愛いショタっ子がぶっきらぼうなイケメンボイスに「待て」されてシュンとしてた光景を見た瞬間からの記憶がありませんけども!

「? やはりお二人は仲がよろしいですねぇ」

『こ、こやつ、まるでわかっておらぬ……今明らかに貞操の危機にあった自覚がまままーったくない!』

 失礼な。貞操など奪うものですか!
 そう、今のはまだ見ぬ王様とのセットで破壊力が倍増したが故に起きた発作ぁ……! つまり、セットで愛でねば意味がな頭が千切れんばかりに痛いぃぃぃい!

《……あ~、うん、開けなきゃヤバイってのは扉越しに理解した。だったら改まる必要もねぇや。入ってこい、騎士団長ノーデ》

「っ! はっ!」

 私達の必死の攻防を尻目に、ノーデさんは声に導かれるままに扉を開け放ちました。
 窓からの光が、目の前を遮っていた扉をかいくぐり室内に侵入。それにより、私達もまたその内部を見ることができます。
 豪奢な装飾などまったくない、適度に広く落ち着いた空間。どこか居心地のいい、懐の広さが感じられる雰囲気の部屋。
 先程飾られていた花が一輪だけ入ったコップが、小さな台の上に置いてあります。その横に鎮座する椅子は、もしかしなくても玉座なのでしょう。

 そして、その椅子に座って足をぶらつかせている、目つきの悪い茶髪の少年こそが王様なのだと理解しました。
 みずみずしい肌、そして半分閉じ気味ながらも吊目故に威厳を保つ瞳。
 服装は簡素な布のもの。ですが唯一誇張するように羽織ったマントは、非常に繊細な作りをしており目を引いてしまいます。よほど腕の良い職人が作ったのでしょう。
 うん、可愛い。かっこいいと可愛いの中間って感じです。他のフィルボの方々みたいに見て大人ってわかる感じじゃなくて、どっちにも見れるっていいますか!

「……長旅ご苦労だったな。ノーデ」

「ハッ! 悠然なる大樹の騎士団、団長ノーデ! 只今帰還いたしました!」

 声めっちゃイケメンじゃないですかぁ……。
 ゴンさんみたいに重厚な低音イケメンボイスじゃなくて、若さとだるさの中にカリスマが見え隠れする曲者ボイスです!
 はぁぁ、この声で産地や銘柄の説明聞きながら淹れられた紅茶を飲んでブレイクしたい……!

『……ふんっ』

「ほぎゃああああ!?」

 なんか更に食い込んでくるぅぅぅ!?

「……あ~……その、すまんなノーデ。労いと褒美の話しをしてやりたいところだが、それどころでもなさそうだ。……後ろの方々が報告にあった?」

「はい! 私を森でお救いしてくださった命の恩人であるお二人です! 森の守護者として長年我々をお救いしてくれていたべアルゴン様! そしてこの度めでたくもご就任いたしました、森の管理者ココナ様でございます! あの時の感動は今なお私の魂に熱く焼き付いており、お二人にお会いできた光栄とお二人を案内できた栄光を胸に今こうして王の元へ――――」

「あぁうん、わかった。わかったから止めてさしあげろ。ミシミシいってるから、な?」

 そして、数分後。

 王様が大変冷静かつ現状を処理してくれる有能ぶりを早速発揮してくれたおかげで、私はなんとかゴンさんの甘噛から逃れることができたのでありました。
 少々(多々)かっこ悪いものになってしまいましたが……これが私と、王様とのファーストコンタクト。
 
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