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第17話:おいでませピット国
しおりを挟む道なき道をどこぞの探検隊のごとく突き進んでいく私達3人。
草木達が見知らぬ来訪者にざわめくのを感じますが、私が通ると少しだけ魔力が巡るみたいで、落ち着いてくれているようです。
出発してから数日。トラブルらしいトラブルは、最初のビッグエイプ以降はほとんどありませんでした。
恵みの雨が降った後には心地の良い晴れ模様が続きましたし、食料もノーデさんとゴンさんが現地調達していたので問題なしです。むしろ増えてます。
お茶っ葉もまだまだ余裕がありますし、水筒の中の麦茶もあと1日分はありそうです。
まさに順風満帆。船旅でも無いのにこんな言葉を使うのはあれかもですが、その通りなのだからしょうがありません。
今まで見ることの無かった森の隅を見て回れているのも貴重な経験です。ゴンさんはまだ早いと言っていましたが……むしろ、人里が近づく程に危険な生物は少なくなっているように感じます。
危険が少ないのでしたら、ココら辺に拠点を作ってもいいのでは……なんて考えていましたが、それだとゴンさんの洞窟が遠くなるので見送りましょうか。
「ココナ様、守護者様。見えて参りましたよ!」
ふと、ノーデさんがそんな声をあげました。
何が見えてきたって? 決まっています。
「あれが我が祖国。ピット国の門でございます!」
それは、大層に重厚な門でした。
森と国を隔てる壁、その唯一の出入り口として存在する、巨大なアギト。
しかし、重圧や威圧感というものは感じられません。壁には長い年月をかけて草木がびっしりと生え揃い、まるで森の一部と化しているかのよう。
森を信仰の対象にしていると豪語するだけあって、森に接触する形で国が出来上がってるんですねぇ。なんか凄いです。
「森の獣とかに、門が荒らされたりしないんですかねぇ?」
『……この外壁に蔓延っている草が、獣避けになっているようだ。地味に鼻につく臭いがする』
「ご明察、感服いたしました。この草は【リプリ】と申しまして、肉食の獣が嫌がる臭いを出すのです。小動物の住処として重宝されたりしているのですよ」
ほぅ、リプリですか。確かに、ゴンさんがフレーメン反応を起こしそうになっています。
……うん、リプリの遺伝子情報も今のうちに貰ってしまいましょう。再現できるようになれば、私個人でいる時に獣に襲われてもなんとかなるかもしれません。
ピット国を長年守ってきた、安心と信頼の植物ですからね!
「まぁ、理由はそれだけではないのですが……」
安心と信頼が音を立てて崩れていくのがわかりますよ~。
まぁそうですよね~。植物の壁だけで長年生き延びてこられるなら、誰だってそうしますよね~。
私のちょっとした落胆をよそに、ノーデさんは門の方へと歩いていきます。
門に触れて、魔力を流し……なにやらお話しを始めました。向こう側に通信できるようになっているのでしょうか? それとも透視機能?
よくはわかりませんが、何をしているのかは簡単にわかります。
なにせ、何度かお喋りしたその後に、門がゆっくりと開き始めたのですから。
ノーデが帰ってきましたよ~。開けてくださいな~、って感じのお話しをしていたのでしょうね。
「ノーデ様!」
「ノーデ様、よくぞご無事で!」
「皆さん、ご心配をおかけしました!」
うぅん、フィルボの皆さんがノーデさんを取り囲んでいます。
皆さん、口々にノーデさんの帰還を祝ってらっしゃる様子。その姿に、心根の優しさが滲んでいますね。
みんなちっちゃくて可愛い……ですが、ノーデさんほど見た目が可愛い人は中々いないみたいですね。
成人した人は、顔つきもやや大人っぽいというか……ヒゲも生えてる人いますし、なんかアンバランスな感じ。ノーデさんみたいに、大人なのに完全に子供にしか見えないって人は少なそうです。
「――――という訳で、王に謁見し報告せねばならない事があるのです。あと、お客人も紹介しなくては! すぐにでも取り次いでいただけますかな?」
「それはもちろん! ですが、お客人というと……」
「あちらのお嬢さん、ですかい? あんな巨大な使い魔を連れてるなんて、大層な御方だぁ」
「いやいや、あちらの熊殿もお客人の1人です。失礼を言ってはいけませんよ」
「こ、これはご無礼を!」
一瞬ゴンさんがイラッとしてましたけど、ノーデさんが訂正してくれたおかげで事なきを得ましたね。
いやいや、一般人の兵隊さんにあんまり高望みしないほうがいいですよゴンさん? ノーデさんみたいに即座に対応して平服してくれる人のが多分少ないですって。
『……ふん、わかっておるわ。矮小な人類に、物事の真を見極める目など期待しておらぬ』
『あら、声に出てました?』
『貴様の目を見ればわかる』
『阿吽ですね? 嬉しいです!』
『たわけ』
ノーデさんが手続きしてくれてる間は、のんびりと念話でお話しお話し。あんまり喋りすぎたら迷惑になっちゃいますからね。
それに、なんか周囲からの視線も凄いし……うん、やっぱりあんまり喋んないでおきましょう。
ついでに私は、この時間を利用して門の向こうを眺めてみます。
ピット国は森に面した国である、とは聞いていましたが……発展していないと言うわけではないみたいですね。
やはり森の出入り口であるところのこの区画は、兵の屯舎になっているようです。木製の長屋が立ち並び、その近くには訓練場のようなスペースもあります。
長屋から顔を覗かせているのは、いつでも出れるように準備している兵隊さん達なのでしょう。
その屯舎区画の向こうに視界を向けると、視認できる範囲では一番大きな建物が見えます。
基本的な部分は木製で建てられていますが、周りの建造物とは違って所々石も使われている様子。明らかに、一番頑丈に見えます。
だからといって、見た目がごついとかそういう事じゃありません。むしろ、悠然とそこにあるかのような……モダンな雰囲気の建物ですね。
あれです。博物館的な雰囲気っていうのが一番近いかもしれません。
「お待たせいたしました!」
私が建物チェックをしている間に、兵隊さんの1人がパタパタと走ってくるのが見えました。
例のモダンな屋敷から出てきたみたいですね。……あれ、王様に取り次ぐとか言ってませんでしたっけ?
という~事は~。
「ノーデ様、謁見の準備は既に整っている様子。どうぞ王を安心させてあげてください」
「おぉ、感謝します!」
あそこお城だったんか~い。
うぅん、良いんですかね? いや、見た目とかじゃなく、森に続く門からこんなに近い場所に建てていいのかなって感じです。
万が一の事があったら、即座に国がダメになるのでは……?
「ココナ様、守護者様! 是非とも我が王にお会いいただきたいのですが、いかがでしょう?」
「え? あ、はい。良いですよ~」
『我は断る。何故我が出向かねばならんのだ。そちらから来させよ』
もう、ゴンさんったら。
王様に会いに行くんですから、こっちから出向いて当然でしょうに。
「ゴンさん、わがまま言わないでくださいよ~」
『我儘なものか。我は森の君臨者に他ならぬ。なればその王と立場は同格かそれ以上……あちらから出向いて然るべきであろうが』
「こっちはお邪魔してる立場なんですからね? ちゃんとご挨拶しないとダメじゃないですか!」
『ぬ……』
「あんまりわがまま言いすぎて、もう出てけ~なんて事になったら……もうあのお茶は飲めないんですよ!?」
『ぐぬぅ……!』
もしゴンさんのせいであのお茶が絶えるなんて事になったら……私は私を制御できる自信がありません!
想像してしまうと、魔力が溢れそうになってしまいます。思わずおろおろしているノーデさんを抱き寄せてナデナデしてしまいます。
はぁ、落ち着く。
「ぁぁぁぁあの、ココナ様?」
「ごめんなさいねノーデさん? 痛かったですか?」
「い、いえ!」
「それなら良かったです~。さ、行きますよゴンさん!」
『ぬぅ……まぁ、茶の為だ。行こう』
ようやくゴンさんも折り合いを付けたご様子。
これならば、王様に会って変にいちゃもん付けることもないでしょう。
私達は、そのままお城に向かうのでありました。
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