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第14話:いざピット国へ
しおりを挟むなんかいつもと雰囲気違う、シリアスっぽい雰囲気で爆弾発言してからその翌日。
私は、手荷物もそこそこに旅立ちの準備をしていました。
これすなわち、ピット国へ向かう許可が降りたと言うことです。ゴンさんが許可を出してくれたのはまさに僥倖と言えましょう。
『……何を見ている』
「いえいえ~、何でもないですよぉ」
洞窟の出入り口には、不機嫌そうなゴンさんがいます。
許可を出してくれたとはいえ、ギリギリまでは「人間がどうなろうと知ったことではない」、「貴様には貴様の役割があろう」と渋っておりましたからねぇ。
少々不本意な所は否めないでしょうね。
とはいえ、今回の件は無視できません。
なんせノーデさんの故郷が危篤状態なのです。知り合った人の危機を知って、のんぽりしていられる精神構造は持ち合わせておりません。
……いや、妖精としての私ならば、あるいは無視していたのかもしれませんが……心和としての側面が、それを許さないのでしょう。
お茶ばかりに傾倒していたのかと思っていましたが、こういう所では動いちゃうなんて……中々好感の持てるお方だったのですね。心和ちゃん。
『しかし何だな……ちんくしゃ、今回貴様が感じたという滅びの気配。それは何が原因だというのだ?』
ゴンさんの素直な質問。それはもっともと言えましょう。
しかし、今回私が答えられるのは一つだけです。
「……わかりません」
そう、わからない。
一体何が原因で、一体どうして土が死にかけているのか。それは私にもわからないのです。
わかったのは、お茶の成分から染み出した遺伝子情報が、私にSOSを送ってきたということ。
そして、それは味ではなく、私のような植物体にしかわからないであろう些細な変化だと言うことです。
『……なんとも、雲をつかむような話よな』
「自分でもそう思います。けど、確かに伝わったんです」
だから、見に行くのです。
と、ゴンさんと2人、柄にもなくそんな会話を嗜んでおりますと……。
「お待たせいたしました! ココナ様!」
洞窟の中から、ノーデさんが走ってきます。
その姿は、最初に見た血みどろさん状態と同じ格好なれど、すっかり血は落とされて精悍とした雰囲気です。
持ってきた荷物はお土産以外を所持し、ついでにちょっと追加があります。
私印の美味しい麦茶ですね。冷めても美味しいのはやはりこれ、ついでに体力回復できるので、ポーション代わりにもってこいです。
「その、良いのでしょうか? こんなにも貴重な物を頂いてしまって……」
「んぅ? いえいえ貴重だなんて。手間暇はかかりますがいくらでも作れますし、気にしないでください~。むしろ味さえ気にしなければ手間暇もないんですが、それは私やゴンさんが許せないのです」
『無論だ。茶を嗜むにあたって、楽をしようなどという考えがそもそも有りえぬのだからな』
「は、はぁ……ですがその、このお茶は嗜む云々以前に、出回るとこの大陸の根幹が……」
『チビ助よ』
ノーデさんがなんか言おうとしていましたけども、それを何故かゴンさんが止めてしまいます。ひょいっと摘まれて脇につれてかれ、なにやらコソコソおしゃべりしているご様子。
大陸の根幹とか言ってましたけど、何なんでしょうかね? 「絶対漏らすな」とか「男の約束」とか聞こえてきます。
……ま、まさか……!?
「承知しました。ではそういう事で……改めてお待たせいたしました!」
「え、えぇ、大丈夫ですよ~。その、もういいんですか?」
「? はい、大丈夫ですよ?」
「その……行ってきますのチューとか、しなくていいですか?」
「はい?」
『おいちんくしゃ。今度は何を血迷った』
知らなかったとはいえ、今まで私はなんという無粋をしてしまっていたのでしょう。
既にお二人が、【そういう仲】になっていたなんて……!
「知ってさえいれば、いくらでも二人きりにしましたのに……少々寂しいですが、私だって我慢できるんですよ?」
『違う、待てちんくしゃ。貴様は何故そう斜めに結論を出すのだ!』
「そそそそうですよココナ様! 私と守護者様の関係を貴女は勘違いしておられる!」
「やめて! 私に気を使わないで! 二人の間に割って入ろうとした私に優しくしないで!」
『たわけ! いいから聞かぬか!』
結局、こんな誤解をしてしまった私の説得に時間がかかり、出発はお昼ごろになってしまいました。
ノーデさんの事をとやかく言えなくなってしまった勘違いですねぇ。お恥ずかしい。
◆ ◆ ◆
やや湿気の強い森の中。
朝靄のような、どこか爽やかで神聖みのある空気とは違う、ジメリとした印象が周囲を覆っています。
森を南西にまっすぐ。近くの沢を通っていけば、湿気に釣られたカエル達がごきげんなナンバーを大合唱
。もうすぐ雨が降るんだよ~と、通りかかった人たちに伝えるように鳴いています。
ドライアドたる私には大歓迎ですが、残りのメンツはそうとも言えません。早めにどこか雨風を凌げる場所を探す必要があるかもです。
「……で、なんでゴンさんまでついてきてるんです?」
『悪いか』
「いえ~、むしろ嬉しくはあるんですが~」
そんなジメジメの森の中を、私達【3人】は歩いていました。
そう、何故かゴンさんも一緒にいるのです。
てっきり私、ノーデさんと2人だけで行くと思っていたのですが……。いえ、来てくれるのは嬉しいんですけどね?
「ココナ様。守護者様はまさしく森の守護者。なれば、この森を管理する貴方様に付いてくるのは必定と言えるのでは?」
『大仰よな。我はただ、ちんくしゃが無用な乱を起こさぬか見張っておるだけよ』
むむ、なんということでしょう。
私、まだ1人でお使いできない人だとゴンさんに思われているもようです。
ノーデさんの言うように、守ってくれていたのだとしたらキュンキュンきていたところですが……そんな理由なのでしたらば、私少々怒ってしまいますよ。
「ゴンさん? 確かにゴンさんがいてくれるのは鬼に金棒紅茶にスコーンですが、私だってそう簡単にトラブルは起こしませんよ?」
『どうだかな。今までの貴様は、世間樹の中心からそう離れておらん場所で管理者の訓練をしておったに過ぎん。こうして遠出し、森の端へ向かったことはないだろう。ましてや他国へ足を踏み入れるというならば……おぉ、ちんくしゃが泣きわめきながら我へ助けを求むる声が聞こえてくるかのようではないか』
な、な、なんと失礼な!
確かに私は腕っぷし皆無、なにかにつけてトイレについてきてもらう子供のようにゴンさんゴンさん言っていました。
しかし、こと人間関係のトラブルは今だ0! ノーデさんとこうして仲良くなったのが何よりの証拠です!
「ま、まぁまぁココナ様。これも守護者様のご厚意、賜っておいた方がよいと思われますよ?」
「もちろんです! 今更嫌だって言ってもついてきてもらいますとも! でも納得行くかはまた別なのですっ」
私がトラブルしか起こさない女だと思ったら大間違いなんですからねっ。
ぷんすこ怒りながら勇み足、もとい勇み浮きでふよふよ進む森の中。二人だって追い越しちゃいます。
ピット国への道は聞いていますし、迷いようもありません。
今回は頑張って問題解決し、ゴンさんによくやったって頭撫でてもらうんですっ。
……と、少々粋がっていたからでしょうか。
「……お?」
「「「……キ?」」」
がさり、と私が突っ切った林の向こうは、少々開けて水が流れる水飲み場になっていました。
そこにおりましたのは……おサル、おさる、お猿。
それはそれは沢山のお猿さん方と、目があってしまいました。
あぁ、そういえばノーデさん、道すがらにビッグエイプに襲われた~とか言ってましたねぇ……。
「「「ホァキャキャキャキャァァァ!!」」」
「うひぃぃぃぃ!? ゴ、ゴンさんー!?」
この人達怖いです! 見つめ合って3秒で臨戦態勢とか、地元のヤンキーでもここまで血気盛んじゃないですよ!?
とりあえずヘルプ! ヘェルプー!?
『……まさか、豪語した直後に伏線回収とは、恐れ入ったぞ』
「いやぁ、流れるような御業でしたなぁ」
何をのんびり見つめてるんですかねぇぇぇぇ!?
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