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第11話 : 突撃! お宅訪問
しおりを挟むノーデさんと出会った、その翌日。
体を休めたノーデさんは、体力的にもすっかり回復してくれました。
あくまでお茶は傷を癒やしただけですので、こういうところはしっかり休まないとですね。
「何からなにまで、本当にありがとう存じます!」
「いえいえ~、困った時にはお互い様ですよ~」
真っ直ぐにお礼を言ってもらうというのは気持ちのいいものですねぇ。
ゴンさんと出会ってからしばらく経ちますが、あの熊さんは根っからの上位種ですから、こういうお礼は大体が「褒めてつかわす」なんですよね。まぁ、それがカッコよくはあるのですが。
「ところで、ココナ様。大変勝手な物言いながら、お願いが1つございます」
「お願いですか?」
「はい。私がここに来た本来の目的……あの巨大な樹を、見せていただきたく存じます。あぁっ、もちろん一切手は触れないと約束いたします!」
ん~、世間樹が見たいと。まぁ良いんじゃないですかね?
せっかくのお客さんです。観光できるのが少ないのは申し訳ないと思っていた所ですし、世間樹一本で満足してくれるのであれば安いものではないでしょうか。
「そんな事でしたらば、どう――――」
『ダメだ』
「わひゃい!?」
どうぞどうぞと言おうとした矢先、背後からの気配と念話で私は飛び上がってしまいました。
ゴンさん……たいへん心臓に悪いです。
ノーデさんも「ぬぬぅ!?」とか言ってますし、どうやら念話は向こうにも届いていたようですね。
『人類風情にあえて見せるものではない。我の目が黒い内は勝手なことなど許さんぞ、チビ助』
「これは……念話でございましたか。流石は守護者様、威厳に満ちたお声を伝える術までお持ちとは!」
『世辞は受け取ろう。なれど、見え見えの偵察なぞさせぬからな』
ゴンさん、まだノーデさんを警戒していたんですねぇ。
お優しい人ですし、特に気にしなくて良いと思うんですけど。
そう思っていると、ゴンさんがじろりと私の方を睨めつけてきます。
おや? 矛先こっちに向きました?
『ちんくしゃ……貴様、何を無警戒にコヤツを外に出そうとしておる』
「いやぁ、ノーデさんは大丈夫かなって~」
『うつけ。警戒という言葉の意味を調べて出直してこい!』
「うひぃっ」
牙をむき出しにして怒鳴らないで欲しいです! ただでさえ迫力満点なのですからっ。
「いやはは、参りましたな。けして他意はないのですが……信じてもらうにはどうすればよろしいのか」
『他意もなにも、その情報を国に持っていくのだろう? 貴様の能力、見抜いておらぬ我と思うたか、チビ助』
能力?
はて、能力とはいったいなんでしょうか。
ノーデさんは騎士とのことですから、剣が強い~とかそういうことでしょうか。
うぅん、気になってしまいます。
「おぉ、流石は守護者様! 隠しているつもりも無かったのですが、私が口に出す前にもうお気づきになられていたのですね!」
「あの……その能力って、何なんですか?」
私の質問に対して、反応したのは意外にも、ゴンさんでした。
顔を近づけ、内緒話をするように言葉をかけてきます。
『鑑定能力よ』
「鑑定?」
「その通りです。私は、見たモノの情報を見抜ける力を持っています」
あ~、なんかよくありますよね。戦闘力たったの5か……とか、そういうの。
ノーデさんが目覚めてから即座にお祈りしたのは、私達の情報を見抜いてたからできた行動だったんですね。
「おみそれしました、守護者様。素晴らしい観察眼です!」
『ふん、あの時の茶を飲む前に動揺していたからな。容易く見抜けたわ』
「ははは、いや驚きましたよあの時は! 傷を完全に癒やす力を秘めていると出ておりましたからな!」
なるほど。ノーデさんの怪我を癒やすために麦茶を出した時、どこか変なリアクションしてたのはそういう事だったんですね!
便利な能力ですねぇ……もしかしたら、茶葉に含まれる栄養素や、加工のタイミングなどを調べてくれそうな気がします。
これは、逃がす事なくお友達になっておかないと……!
「ん~、つまりノーデさんは、あの樹を一回調べて情報を得て、それを国のお偉いさんに持っていくのがお仕事なんですね?」
「正確には、あの樹に……そして、樹に連なる者に危険性が無いかを調べるのです。お二人に関しては、私を助けていただいた時点で危険などあろうはずもないと確信しておりますれば! 後はあの樹のみを調べれば、大手を振って国へ帰れるというものです!」
なるほど~。うん、ゴンさんが寝てたノーデさんをコロコロしそうだった事は黙っておきましょう!
でも、ソレはソレとして……べつに世間樹は危険なものではないですし、ただの私のお家です。別にいくら調べていただいても私は構わないんですよねぇ。
「ゴンさん、別に良いんじゃありません?」
『貴様、あの樹がどんな物か理解しておらんな……? 心無い者があの樹の存在を知れば、この地にどんな災いが降りかかるか……』
「あ、そうだ。忘れておりました! こちら我が国で作られている茶葉にございます! 保存が効くもので高級ではないですが、茶菓子も土産としてご用意いたしました!」
『だがまぁ、いつまでもあのチビ助に纏わりつかれても敵わん。樹を見せるだけで帰るのならばそれで良いだろうな』
「そうですね! そのあとお茶の一杯でも飲んで和気あいあいと帰っていただければ皆が幸せですよね!」
流石はゴンさん、わかっていますね!
自分たちで作ったもの以外のお茶が飲める機会なんて、そうそう無いんです。この機を逃す我々ではありませんとも!
チョロい? 何を馬鹿な。我々は客人を大切にしているだけですとも!
「ささ、許可も降りたことですし、どうぞどうぞいくらでもご覧になってくださいませ~」
『この茶菓子はなんだ。固めに焼いているようだが、茶に合うのか?』
「ゴンさん、私も一緒にいただくんですから抜け駆けしないでくださいよ!?」
「いやははは、私が言うのもなんですが、お二人ともそれでよろしいので?」
お茶以上に大切なものなどありませんとも。
そんな私の笑顔を察してくれたのか、ノーデさんはソレ以上はなにも言わずに洞窟を出ていきました。
私も一応の見張りとして、形上だけついていく事にしましょう。うんうん、ゴンさんの言うことを守って見張りを立てるなんて、管理人として職務に忠実だなぁ私は!
「……おぉ、なんと美しい」
洞窟の外に出たノーデさんの眼の前には、ここら一帯のどんな樹よりも大きな一本が立っていました。
元々は泉があった場所なのですが、その泉は樹の根に囲まれる形となり、洞から中に入って初めて見つかる秘密スポットになっています。
滑らかな表面の幹、一本一本が巨大な枝。そこに芽吹く葉は、三叉に分かれた特殊な形をして風にそよいでいるのが見てとれますね。
「……せけん、じゅ?」
おや、名前を言った覚えはないのですが。ノーデさんは見事に言い当ててみせましたね。
これも鑑定能力のパワーだというのでしょうか。
「えぇ、私が名前をつけたんですよ~」
「なるほど、だからこの名前で表示されるのですね……ですが、これは種族名が世間樹となっております。お言葉ですが、この木は他にないのですか?」
「多分無いんじゃないですか? 私が種作って生やしたので~」
その言葉を聞いて、ノーデさんはぽかんと口を開いてしまいました。
うぅん、これは……ゴンさんが世間樹を見た時のリアクションにそっくりです。
「何か変ですかね?」
「い、いえ、少々……というかかなり驚いているのです。この世間樹が内包する魔力、そして環境を清浄する能力の数々……更には葉の一枚にまで名称と能力が付属しておりますれば。かような、もはや神木と呼べるものをココナ様が創造したとは……」
「あ~、ゴンさんにもやりすぎって怒られちゃいましたからね~。今度何か生やす時は注意します、はい」
反省はしてますよ? もちろんです。
私の力は強いんですから、そりゃあ全力で作れば世間樹だってできちゃいますって。
でも、できちゃったものはしょうがないですからね~、有効活用しないとです。住心地良いし。
「……ふむ、ココナ様」
「はい?」
「この神木は、我々だけに留まらず、この大陸に住まう者全てに目視された事でしょう。その者達がこの樹の力を知れば、喉から手が出る程に欲しがる輩が出てくるはずです」
「……そんなに?」
「はい。葉の一枚でも鑑定すれば、『調合に奇跡が絡めば命を蘇生する薬が出来るかもしれない』と出ておりますれば。ソレでなくても、葉を齧るだけで生命力が高まると出ております」
マジですか?
うぅん、ゴンさんが前に世界樹手前だと言っていたのはこういう事だったのですね。
確実性こそ無いけど、世間樹も死者の蘇生ができる可能性のある樹なんですねぇ。
「さらに、世間樹が守っている泉と出ておりますが、その水もまた極上の魔力を内包した最高の素材です。あの水で薬を作れば、2ランクは上の出来栄えになるでしょうな」
泉の水ですか。確かに、ここ最近格段に柔らかい水になっていました。
世間樹の力で水質が良くなったんで、お茶が更に美味しくなると喜んでいましたが、そういう副次効果もあったのですね。
うぅん……これは、確かにゴンさんが情報を漏らすなと言ったのもうなずけちゃうかもしれません。
「もちろん、私はココナ様に誓ってこの樹を悪用などしないと誓います。しかし、他国からこの樹を調べる為に来たものがどう出るかはわかりません。ココナ様の確かな目でもって、判断していただくべきかと!」
ノーデさん、まるで自分のことのように心配してくれますねぇ。
本当に良い人です。そういう事でしたら、私も少しは警戒心を持たないといけないですねぇ。
「わかりました! とりあえず、まずはゴンさんに話しを通すようにしますね!」
「それならば安心ですな! 茶さえ引き合いに出されなければですが!」
「それはもうしょうがないですね~」
今回みたいに速攻で承諾する2人がいる未来しか見えませんねぇ。ははは。
ま、こんな感じでつつがなく、お宅訪問は終わりを告げたわけでありました。
あとはお茶を飲むだけですが……うぅん、ここまでしてくれたノーデさんを、そのまま帰すのも忍びないですねぇ。
なにかしら、ご馳走してからお帰りいただきましょうか。
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