後輩と一緒にVRMMO!~弓使いとして精一杯楽しむわ~

夜桜てる

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第一章:恋愛日和

第15話:デスペナルティ

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 さて、どうしたもんかなー。

『近距離弓使いの戦い方を教えて欲しい』

 そうニアさんに言われたものの、そもそもの話、俺は初心者だ。教えられる程の技量もあるとは思えない。

 実夜や嶺二みたくあっさり格上のボスを倒せるってわけでもないしな……。

「少し心苦しいが、断るかぁ」

 そう決めてから、午後もまたダイブイン。
 同時にシーナさんからフレンドチャットが来てることに気づく。

『査定が終わりましたので、都合の良い時間にギルドの方へお願いします』

 ちょうど30分程前にその連絡は来ていたようだ。
 まぁ先にニアさんに断りを入れてから……っと今はオフラインか。

 フレンド欄を確認したところ今オンラインになっている俺のフレンドはリリィと住民NPCしかいないようだった。

 いないなら仕方ないと、先にシーナさんのいる始まりの街のギルドへ行く。

 いくつかある受付の一つには、いつも通りシーナさんがいた。

「こんにちは、シーナさん。連絡、ありがとうこざいます」
「ルアさん、こんにちは。お待ちしておりました。では、こちらが今回の報酬になります」

 そうして貰った額は思っていたよりも多かった。

「少し、多くないですか?」
「ええ。最近は異世界人の方々が熊を多く狩るので、こちらの住人達がわざわざ危険な熊を狩りに行くことが少なくなってしまって」

 あー、熊のドロップはそこそこ高く売れるらしいからな。金策してるプレイヤーがかなり倒してそうだ……。

「そのせいもあって大きな毛皮や骨、牙などの品物が高騰しているんですよ。異世界人の方のドロップは素晴らしいんですけど、魔物の素材というのも一定の需要がありますから」
「そうなんですか……。何か供給の足りてない素材があったら、俺で良ければ余裕があるときに狩ってきましょうか?」
「いいんですか!? ……ああ、いえ。その申し出はありがたいんですが、本当によろしいのですか?」
「そのくらいで良ければ、全く構いませんけど……」
「……でしたら、是非よろしくお願いします。もちろん、供給が少ない品物は、それなりの金額として出しますので」
「わかりました。こちらこそ、よろしくお願いします」
「連絡はフレンドチャットでよろしいですか?」
「はい。それでお願いします。今は、何か足りない素材はありますか?」
「今は……そうですね。ここから北に行ったところに山脈があるんですけど、そこにいる巨大蜘蛛の素材が少ないですね……」
「ここから北ですね。わかりました。余裕があるときに行ってみます。では、そろそろ失礼しますね」
「はい。ありがとうございました」
「ありがとうございました。また来ます」

 そう言ってギルドから出てマップを確認する。
 今いるのが一番東にあるこの街で……ここから北か。うん、第二の街の方から東の端、海のところまで。山脈が横一直線にあるみたいだ。

 で、ここにいる巨大蜘蛛の素材……って、蜘蛛?

 そういえば実夜が第三の街に行く道中にいるボスが蜘蛛だと言っていたな……。そのレベルも高かったはずだ。

 熊を倒しまくって若干レベルは上がったとはいえ、まだ第三の街適正レベルとは言えないだろう。

 うーん、ニアさんがダイブインするまでレベリングしてるかな。近いレベルの魔物っていうと……第二の街周辺くらいか?

 それから暫く、第二の街西側の平原でひたすら魔物を狩って行った。


 出てくる魔物を倒しながら暫く行くとそこには。

「……すごい」

 目の前に広がっていたのは大きな湖。底まで見通せるほど透明な水と、それが反射する光によって青く輝く湖面。それはリアルなのに、現実的でないような。そんな幻想的な風景を作り出していて。
『実夜と見てみたい』そう、自然と思った。

「とりあえず、マップで位置だけ確認しとくか」

 そう呟き、マップを開こうとしたその瞬間。湖から甲高い鳴き声とともに一匹の水竜が現れた。

『キュアアアアアアア』

 湖から出てきたそれは、背中は丸みを帯び、長い首を水面から立たせて、その先の小さく少し細長い顔でこちらを睨んでいた。
 恐竜でいうところの首長竜のような出で立ちだ。

 落ち着け……まずは鑑定だ。

 =================

 NAME:シルヴィシア
 Lv:26
 Info:水竜種のうちでは特に弱い部類。

 =================

 シルヴィシア? なんか聞き覚えが……って今朝ヒスイさんが言ってた大型の魔物か! そういえば第二の街から西の湖って聞いてたわ。
 それはいいとして、Lv26ってなんだよ!? 第三の街に行く道中の蜘蛛よりレベルより高いってお前……。

 どうすれば……ってもしかして逃げられるか? こいつ湖から離れたら追いかけてこれないだろ。

 そう考え、すぐにシルヴィシアに背を向けて走り出した。

 走り出して刹那。いけると感じた期待は儚くも裏切られることになった。

「熱っ!」

 目の前に立ちはだかったのは熱いお湯の柱。次々と地面からそれが湧き上がり、そのお湯の柱は外界とを断つ壁となった。
 壁の温度は分からない。しかし、触れてはただで済まないということは感じられた。

「逃がしてはくれねぇか……!!」

 振り返り、その水竜。シルヴィシアを真ん中に見据えた。

 やるしかない……。

 レベル差は倍近い。とても勝てるとは思えないが、それでもやるだけやってみよう。


 とはいえ、まずは様子見からだな。遠距離の攻撃方法が地面からお湯を沸かすくらいなのか、それとも……。

「って、危なっ!」

 揺れを感じて横に飛ぶと、先程立っていた地面から熱湯の柱が立ち上った。

 さっき壁になったのよりは小さいが……それでもキツイ。
 次々と出てくるそれを躱していると5本目の柱が現れたところで、その揺れは収まり、立ち上っていた熱湯も地下へ姿を消した。

 たぶん、攻撃パターンの一種なんだろう。5連続で立つ熱湯の柱。不意を突かれたら終わるやつだ。

 そう考察しているとシルヴィシアは、頭をこちらに向けたまま、長い首を少し引き口を僅かに開いた。

「……なるほどな。それはやばいわ……!!」

 すぐに左へ走ると、その直後に竜の口から放たれた閃光が、俺が元いた位置まで一直線に走り、地面を焦がした。

 たぶん、直撃したら一撃で葬り去られるんだろうな……。でもこの攻撃は連続攻撃じゃないみたいだな。ありがたい。

 そう思ったのと同時に目の前が白い光で満たされ、俺の視界に見えていたHPバーは黒く塗りつぶされた。

「なっ……!?」

 《HPが0になりました。最後に立ち寄った街の教会で復活します。》
 《デスペナルティが発生します。》


 気づくと、俺は教会の椅子に座っていた。


 何が起こった……? 最後に見たのは光だった。一体どこから攻撃されたんだ……?

「まさか……後ろから?」

 確証は無い。しかし、最後の一撃は真ん中に見据えた水竜が放ったものではなかった。そして光が突然広がったことを考えると、視界の外から放たれた閃光が直撃したとしか思えなかった。


 考えるのはひとまず止めて……とりあえず、デスペナルティの確認するか。

 メニュー画面を開くといつも空いている部分に表示されていた。

『ステータス半減 残り58分11秒』
『取得経験値半減 残り118分11秒』

 どうやらデスペナルティは1時間のステータス半減と2時間の取得経験値半減らしい。……割とつらいな。

 そんなことを考えつつ教会から出て少し歩くと、フレンドがオンラインになった通知が来た。
 どうやらニアさんがオンラインになったらしい。

 うーん、先延ばしにはできないし、連絡するか。

 ということでニアさんにフレチャを送る。

『今って大丈夫ですか?』

 するとすぐに『大丈夫ですよ!』と返ってきたため、通話を掛ける。

「こんにちは、ニアさん。聞こえますか?」
「こんにちはです。ルアさん。……先程の、お返事ですか?」
「ええ。戦い方を教えることなんですが、断らせて下さい」

 そう言うと、一瞬息を飲むような声が聞こえたあと、静かに。

「そう……ですか。分かりました。でも……もし気が向いたら、声を掛けて下さい。いつでも待ってますから」
「分かりました。それでは失礼しますね」

 短い話だったが、随分と緊張した。断りの連絡って、大変なんだな……。

 はぁ、と一息吐き、メニューからダイブアウトを選択した。


「んんっーー」

 伸びをして、軽く凝り固まった体をほぐす。

「あっ、先輩。もう落ちたんですね」
「ん? ああ、実夜帰ってたのか。おかえり」
「ただいまです。っと、まだ三時ですよね。落ちるの早くないですか?」
「……あー、デスペナルティが掛かってな。今はステータス半減中だから……」
「なるほど……って、先輩初めてのデスペナですよね。誰にやられたんです?」
「シルヴィシアとかいう水竜。なんか後ろから攻撃受けたっぽくて、一撃で屠られたわ」
「あの水竜に一人で挑んだ……というか初見だと湖に近づいちゃいますよね。それで、死んでデスペナ付けられてダイブアウトと。うーん、とりあえずおやつでも食べません? 帰りにドーナツ買ってきたんですよ」

 それから二人でドーナツを食べつつ話をする。

「シルヴィシアの、先輩のやられた攻撃。教えてあげましょうか?」
「……いや、自分で戦いながら調べるからいいよ。人から教わるより、その方が楽しいしな」
「自分でちゃんと調べるんですね……。MMOだと先駆者の方々と情報を共有してーーってのが普通だと思うんですけど。検証とか好きな人、いますよねー」
「そこまで検証が好きってわけでも無いけど、まあやっていくうちになんか分かるってのが、俺は好きだからなぁ」

 まあ野良のパーティーに入れてもらうときは最低限の情報は調べてくるけどな。迷惑かけるのは困るし。

「そういえば、先輩。明日の午後って空いてます?」
「明日の午後? 別に空いてるけど、なんでだ?」
「この前一緒に駅前でデートしようって言ったじゃないですかー。それです」
「あー、ラノベイトに行くってやつか?」
「行きませんよ?」
「えっ?」
「なんで、デートでラノベイトに行くと思ったんですか?」
「……えっ? お前、そう言ってなかったか?」
「先輩がそう解釈したのに対して、私は肯定してませんよ?」

 そうだ、たしか。

 --「つまるところ『今度、好きなラノベの新刊が発売されるんですけど、その量が多すぎて……。ということで先輩には駅前のラノベイトに私と行って荷物持ちをして頂きます』という意味と解釈してもいいか?」

 「まさか先輩……エスパーだったんですか……?」ーー


 そんな会話だった気がする。
 たしかに肯定してないのな。そう勝手に思い込んでただけか……。

「で、それならどこ行くんだ?」
「デートプランは私が考えてありますので、ご心配なく! 良い……ですよね?」
「ま、まぁ……良いよ」

 きっとデートと言っても、コイツのことだ。そんなものでは無いだろう。

「それなら良かったです! っと、ドーナツも食べ終わりましたし、夕飯作るまで時間もまだ少しありますから、一緒に素材集めに行きません? スイちゃんから必要な素材、連絡入ってましたし。物によっては先輩の方が効率よく集められると思います」
「ステータスまだ半減してるけど、大丈夫か?」
「大丈夫ですよ。トドメさえ先輩が刺せば死体は残るんでしょう? それくらいの調整、朝飯前です!」
「そ、そうか。ならまぁいい……のか?」
「気にする必要ないですって。では時間もそんなにありませんし、さっさと行きましょ!」

 それからは、ひたすら素材集めに勤しんだ。たまに実夜がからかってきたが、カウンターもそこそこ決まったので良いだろう。


 夕飯を食べ終わった頃。雑談中に、実夜が少し間を空けてから、言った。

「……そういえば言ってなかったんですけど、先輩の家に泊めてもらうの今日が最後なんですよ」
「えっ? あー、そうなのか。もう少し早く言ってくれたら、もう少し夕飯ちゃんと作ったんだけどな」
「別に良いですよ。先輩の作る料理なら、同じようなものものですから」
「同じようなものって……」
「まぁ、そういうわけです。あと、明日は終業式で午前終わりですから、ここでお昼を食べた後。2時くらいに駅前で待ち合わせってことで良いですか?」
「別に家から一緒に行ってもいいんじゃないか?」
「……女の子には色々と準備があるんですよ。それに、先輩が『女の子と待ち合わせ』なんて状況。そうそう起こりえないでしょうから」

 たしかに無いな。 ……シーナさんに(査定が終わったからと)ギルドに呼ばれたのはそれに入るのでは……いや、悲しくなるからこれ以上は考えないでおこう。

「……そうかよ。まぁいいけどな」
「あっ、そうそう。ちゃんと、カッコいい服を着てきて下さいね?」
「……頑張るよ」
「なら、問題ありません! 明日はしっかりと楽しませてあげます!」
「期待しとくよ」
「任せといてください!」

 そう言って、実夜は無い胸を張った……っと、睨まれた気がしたのは気のせいだよな?


 その日は、就寝前にも実夜と素材をひたすら集め、日付が変わる頃にはヒスイさんに言われた分の素材は集まっていた。

「ふわぁ。んんっ、あくび出ちゃいました。素材も集まりましたし、スイちゃんに送ってから寝ますかね」
「んー、ああ。そうだな」

 欠伸を噛み殺しつつ答えた。

 そして二人揃って落ちて、灯りを消す。

「じゃあ、先輩。おやすみなさい」
「ああ。おやすみ」

 そう言った時、ふと気づいた。
 そういえば、意外とすぐに慣れたな。実夜が近いと寝れないと思っていたが、今では、前よりも落ち着いて寝られるようになった気がする。初日はそもそも実夜が気になって同じ部屋で寝られなかったからなぁ。

 そんな風に思っていると、実夜が静かに、口を開いた。

「……先輩」
「……なんだ?」
「……私、先輩の家でのお泊り、なんだかんだ言って、楽しかったです」
「……それなら良かった」
「……でも、もっと一緒に居たかったなって気もするんですよね」
「……そう、だな」

「……先輩」
「……ん?」
「……また、そのうち、泊りに来ても、良いですか?」
「……ああ。そのうち、な」
「……約束ですよ?」
「……ああ。約束、な」

「……おやすみなさい」
「……ああ。おやすみ」

 今日は、ここ一週間で一番、落ち着いた気持ちでゆっくりと眠れる。……なんとなく、そう思った。
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