後輩と一緒にVRMMO!~弓使いとして精一杯楽しむわ~

夜桜てる

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第一章:恋愛日和

第11話:後輩と外食

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「すー……すー………」

 朝起きると、とにかく暑かった。寝汗もかなりかいてしまっている。

 夏だから?  もちろんそれもあるだろう。しかしそれだけが理由ではない。なぜなら今暑さを感じてるのは主に背中で、それも一定のリズムで感じる暖かい風、実夜の寝息のせいだからだ。

「……またか」

 そう呟きながら起き上がり、朝食を作り始める。

 実夜は何回言ったら分かるんだろうか。いや、単に寝相の問題だから言っても無駄か。しかし本当に俺の理性というか精神面に悪いからやめて頂きたい。

 今日は後ろから服の裾を摘んでいるだけだったから良かったが、これが前から、手でも握られて目の前に実夜の顔があったなら……かなり危ういな。
 改めて俺の社会的な危機を感じた。実夜がうちに泊まるのは恐らく今週の木曜か金曜あたりまでだろう。……何かしらの対策を練らないといけないな。
 そんなことを考えつつチャーハンを炒め、皿に盛り付ける。

「みやー、起きてるかー?」

 実夜が寝ている自室に入る。

「んん……あと5分だけぇ……」

 そんなことを言いながら俺の布団の上で寝ていた。

「おい、学校遅刻するぞ。お前の家より中学までは遠いんだからな?」

「くぅ…………すー……すー……」

「おい、さっさと起きろ、チャーハンが冷める」

「冷めてても食べますー。ぐぅ……すー……すー……」

「そういう問題じゃねぇだろっと」

 そういいながら実夜の寝ている敷布団をつかみ、思い切り手前に引き上げる。

「すー……すー……っ……ああっ!?」

 実夜は引き上げられた布団を転がり落ち、重力によって床に叩きつけられる。

「おはよう、早くさっさと着替えてからリビング来いよ」

「はーい。……絶対に覗かなで下さいね!」

「言われずとも分かってるよ」

「じゃあ……少しくらいなら覗いても良いですよ?」

「……いや、覗かねぇよ」

 何考えてんだコイツは。それは恐らく法律的にギリギリアウトだ。いや、許可貰ってたら罪にはならない可能性も……って何考えてんだ俺。

 そして二人で朝食を食べ終え、7時半になると実夜は学校へ行く時間だ。

「じゃあ行ってきますね!」

「ああ、行ってらっしゃい。帰りは何時になるか分かるか?」

「ええと……たしかテスト返しだけなので下校時間は12時だった筈です」

「ってことは昼飯は一緒か。  んー、じゃあお前が学校終わったら一緒にどっか食いに行くか?」

「えっ!良いですね!莉奈ちゃんも誘った方がいいです?」

「別にいいけど、無理に誘うなよ?  じゃあ12時過ぎくらいに校門行くから待っててくれ」

「りょーかいです!ではではー!」

 そう言って実夜は鞄を持って学校へ向かった。

 それから俺は掃除や洗濯や、皿洗いなどの家事を一通りした。1時間半ほどでそれらも終わり、何するかなーと少し考え、結局NDOにダイブイン。
 いや、ゲームばっかじゃダメだとは分かってはいるが、やりたくなってしまうものは仕方ない。

 とりあえず昨日達成したクエストの報酬を受け取りにギルドへ向かった。

「本日はどのようなご用件でしょうか?」

「クエスト達成の報酬を受け取りに」

「ああ、ルアさんですね。報告はいただいております。こちらが報酬の『聖拳のスキルブック』です。ご確認ください」

「ありがとうございます」

 ……うん。やっぱり実夜に教えてもらったクエストとは違ったな。今回クリアしたのが『協会の手助け』で、実夜に教えてもらったのは『協会の手伝い』だ。朝食を食べてるときに実夜に確認したからあってるはずだ。

 それにしても『聖拳のスキルブック』か。スキルブックってのはスキルを新しく取得できたり今あるスキルを進化したりできるもんってことは実夜から聞いている。物によっては露店で2Mするものまであるとか言ってた。

 まあせっかく手に入れたもんだし今は金にも困ってないからな。ってことで使ってみるか……。

 《【拳 Lv10】が【聖拳 Lv1】に特殊進化します。確定しますか?》
 拳スキルLv10まで上がってたのか……まあいいけど。
 《はい》っと。

 とりあえずは内容確認からだな。

【聖拳 Lv1】
 聖なる拳を身につける

 ・使用可能アーツ
 ーーアーツの使用権限を持っていませんーー

 ・常時発動技能
(Lv1)素手による攻撃時 魔法追撃(小)
(Lv3)未開放

 ちなみに【拳】が【聖拳】に変わったわけだが、ジョブは変わっていない。

 ついでにジョブについても調べてみるか。
 今持ってるスキルは……。

 ・戦闘スキル
【弓 Lv19】【聖拳 Lv1】【足捌き Lv12】【立体移動 Lv8】【風魔法 Lv1】【惨虐 Lv6】

 ・生産スキル
【料理 Lv1】【調合 Lv1】

 ・その他
【鑑定 Lv2】【暗視 Lv9】【解体Ex Lv7】【不意打ち Lv1】【受け流し Lv1】【アーツ縛り Lv1】

 全部で14個か。とりあえず一通り付け替えてみて、メモにまとめとこう。それにしても機能にメモがついてるのはかなり便利だと思う。

 ・弓闘士
 →【弓】と【聖拳】
 ・弓士
 →【弓】のみ?【聖拳】を外したらこれになる
 ・聖拳士
 →【聖拳】のみ?【弓】を外したらこれになる
 ・緑魔導士
 →【風魔法】のみ?【弓】も【聖拳】も外すとこれ
 ・軽業師
 →【足捌き】+【立体移動】+上の全部外す

 その他にも、料理人、調合士、鑑定士、見張り人、狂人、解体士などなど……無数に出てきた。

 なんだこれ、多すぎて調べきれねぇ。変えれば変えるほど出てくる。スキル14個でこれじゃあな。この先もきっと把握しきれることはないだろう。

 とりあえず今は上の14個から【風魔法】と【解体Ex】、それから生産系2つを外した残りの10個をアクティブにしておく。ジョブは元の弓闘士だ。

 そんなことをしていたらもう11時を過ぎていた。出かける準備もしないとだし、もう落ちるかな。

 起きるといつもの自分の部屋。

「じゃあ支度するかぁ……」

 そう呟いて出かける準備を始めた。とは言っても外着に着替えてイヤホン型端末を耳にかけるだけなんだけどな。
 ……一応小さいカバンにエコバックだけは入れて持ってくか。買い物するかもしれないし。

 今の世の中、だいたいイヤホン型端末さえあればなんとかなる。昔使われていたスマホの機能は全部入ってるし、お金も基本的にこれを経由するのが一般的になってきている。

 そうは言ってもお葬式の時とかは紙のお札が使われるけどな。その辺りは仕方ないだろう。

 っと、そんな感じで荷物を持って家を出る。時間は11時40分。たぶん少し早めに着くが、まぁ早い分には問題ないだろ。

 校門に着くと、既に帰る人達が校門からぞろぞろと出てきていた。俺はとりあえず実夜を探す。
 うーん……まだいないみたいだな。少し待つか。

「あっ! 朝倉先輩じゃないすか!お久しぶりっす!」

「ん? おお。久しぶりだな、西川」

 実夜を待っていた俺に話しかけてきたコイツは西川。俺の中学時代の部活の後輩だ。

「あっ、もしかして梨原先輩待ってるんすか?」

「ああ、そうだけど。なんでわかった?」

「? そりゃあ分かりますよ。だって先輩達恋人同士でしょう?」

「……いや、そんなことねぇぞ?」

「……いやいや、今更っすよ。去年から先輩達のラブラブっぷりは見てますから」

「ん? そんなのしてた覚えないんだが……」

「えぇっ!? いやいや、先輩達ナチュラルに惚気て、当たり前のようにイチャイチャしてましたよ? それも毎日!」

「俺があいつと? ……いや、なくねぇか?」

「ありまくりでしたよ。俺が見たのだと、『アーン』しあってたり、あと飲みかけのペットボトル渡したりしてましたよ」

「ん? そんな記憶は…………たしかにあるが、そんな雰囲気じゃなかっただろ?」

「いやいや、バリバリそんな雰囲気でしたって。お互いがお互いしか視界に入れてないかのように二人だけの世界を作り上げて。イチャイチャイチャイチャ……。アレ、見てるこっちが恥ずかしくなるんですから! 人前では辞めて頂きたいです」

「お、おう。それは悪かった」

「じゃあ俺は塾がこの後あるのでもう帰ります。あっ、それと梨原先輩を大事にしてあげて下さいよ? 今年に入って朝倉先輩がいなくなってから、部活中の梨原先輩、少し元気無くなってる感じしましたよ?」

「お、おう。わかったよ。じゃあな」

 俺は西川に軽く右手を振った。

 にしても実夜の元気が無くなってる感じがしたって……アイツの気のせいじゃないのか? 一昨日からうちに泊まっていてもそんな素振り見せてないよなぁ。

「あっ、先輩!もう来てたんですね! お待たせしました。あと、莉奈ちゃんなんですが、用事があって無理だそうです」

「そうか。まぁ仕方ないだろ。それでどこ行く?」

「うーん、ナックでいいですかね?」

「いいのか? 一応金に余裕はあるぞ?」

「はい!今はハンバーガーとポテトが食べたい気分ですし、それにここから近いので、早く帰ってNDOできるでしょう?」

「まあお前がいいならいいが」

 ナックとは大手ファストフードチェーンのナクドマルドのことだ。似たようなファストフード店にボスバーガーというのもあるが、この中学からだとナックの方が近い。

「じゃあ私は席取っておくので先輩注文お願いします」

 実夜の注文は事前に聞いていたためカウンターへ向かう。お昼時なのに空いているのはここが田舎だからだろうか。

「次の方、注文どうぞ……って朝倉くん?」

「えっ? えっと……すいません、会ったことありました?」

 カウンターの、同い年くらいの女の子。たぶんバイトの子だろう。……同じクラスの人である可能性が高い……か?

「……三木みつき伊織いおりです。 一応、今年から同じ高校の同じクラスよ? まぁまだ一学期しか経ってないし覚えてなくても仕方ないか……。まあそれはいいとして……。ご注文はお決まりでしょうか?」

「ああこれとこれのMセット。両方ドリンクはコーラで」

「はい。かしこまりました。ーーーー」

 そしてお金を支払い、出されたお盆を持つ。
 やっぱり同じクラスだったのか。覚えてねぇ……。それで、えっと実夜はどこだ……っとあそこか。

 実夜のいる机にお盆を置き、向かい側に座ると。

「先輩、さっきなんかカウンターの子と話してませんでした? ナンパでもしてたんですか?」

「んなわけないだろ……。同じクラスの子だよ」

「えっ、先輩が同じクラスの女子の顔とか覚えてるんです?」

「いや、そりゃあ多少は……」

「……本当ですか?」

「……いや、全く覚えてなかった。向こうが気づいたんだ」

「なるほど。まぁそれはこの際置いときましょうか。それで、朝先輩が言ってたクエストのことなんですけど」

 と、ハンバーガー片手にポテトを摘みながら話し始める。

「ああ、『教会の手助け』のことか?」

 俺もハンバーガーとポテトを食べつつ話し始めた。

「そうですそうです。それ、ちょっと調べてみたんですけど、やっぱり未発見クエストだったみたいなんですよ」

「へぇ……まぁ出される条件は厳しいかもな」

「朝は結局時間なくてあんまり聞けなかったんですけど、どんなのだったんですか?」

「ああ、巫女になるためのクエストがあって、それの護衛が依頼内容だったな」

「巫女になるクエスト……ああ、そういえばβ版の頃に発見されてましたね。巫女見習いのやつですか?」

「それそれ。で、たぶん巫女見習いの人が決めた『行ける時間』までの間限定でギルドに張り出されていたらしくてな」

「なるほど……それでそれを偶然先輩が見つけて、私の言った『教会の手伝い』と間違えてクリアしちゃったと」

「そうそう。ちなみに報酬は【聖拳】のスキルブックだったよ」

「せいけん……っ!!【聖剣】ですか!?」

「あ、ああ。【聖拳】だったよ」

「……本当に、聖なる剣の聖剣であってます?」

「ん? いや、聖なる拳の聖拳だな」

「聖なるこぶし……はぁ。『ケン』ってそっちですか……」

「ああ、でもこれはこれで良さそうだったぞ」

「良さそうだったって……やっぱり使ったんですね」

「ああ、売れば金策にも良さそうだったけど、せっかく手に入れたもんだし、自分で使いたいだろ?」

「まあ気持ちはわかりますけどね。それで、そのスキルってどんなのでした? っていうかそれ手に入れたの今朝ってことですよね? 先輩どんなことしてたんですか?」

 とりあえず朝やってたことをだいたい話した。

「まぁジョブは多いですよねー。私も殆ど把握できてません」

「やっぱりそうなのか。未発見のジョブとかもありそうだな」

「一応掲示板にまとめてはありますが、まだまだあるでしょうね。ユニークスキルってものもありますし」

「ユニークスキルってなんだ?」

「『特定の行動』によってスキルが手に入れられるのは先輩も知っているでしょう? その『特定の行動』が一度しかできない場合があるんですよ。そうなるとそのスキルは一人しか持たないわけなので、それがユニークスキルって呼ばれてるんですよ」

「へぇ……それがもう分かってるってことはβ版の時にもう見つかったってことか?」

「一応は。でもそれが役立たずのスキルで、完全な記念スキルって感じなんですよね。まぁ一人しか持てないから当然っちゃ当然なんですけど」

「へぇ……ちなみになんてスキルなんだ?」

「たしか……『装備縛り』ってやつだったと思います。装備品がつけられなくなる代わりに防御と攻撃が小アップするっていう」

 なんか聞いたことある気がするな……。

「ちなみに、それの条件ってなんだったんだ?」

「運営が珍しく答えてくれたらしくって、『世界で初めて装備を付けずに格上の相手を屠ること』だって聞きました」

「へ、へぇ……」

 アーツ縛り……アレは違う……よな?

「……そのスキルと一緒に称号を手に入れたりとかって」

「そうなんですよ!そのスキルを手に入れると内容の無い称号も手に入るんです。だから物好きなコレクターが取るかもですね」

 無意味……? 無意味……。

「……ちなみにどんな効果の称号なんだ?」

「だから、ありません。効果は空欄です。そのスキルもアクティブにしなければ装備もできますし。だから完全にネタスキルとネタ称号なんですよ」

 リリィが書き換える俺だけはネタじゃ無くなってるけどな……。

「なるほど……」

「あれ?先輩、どうしたんですか?」

「いや、なんでもないよ」

 まぁ仕方ないかと思いつつポテトに手を伸ばしたが。
 あれ、あと3本だけ……? あと8本くらい残っていた気がしたが……。

「どうしました?」

 そう言いつつ実夜は当たり前のように俺の前にあるポテトをつまんでいた。

「おい」

ほうはひましたどうかしました?」

「いや、ナチュラルに人のもん食ってんじゃねぇよって」

「いいじゃないですか。ポテトの1本や2本や9本くらい」

「おい、9本も食ってたのか? せいぜいその半分くらいだと思ってたわ……。まぁいいけどな。別に言ってくれたらやるよ」

「そうでしたか、では先輩もどうぞ」

「んむ……ごくん。いや、急にどうした?」

「いい感じに先輩が口を開けていたので」

「……お、おう」

「あれ? もしかして先輩照れてますー?」

「うっさいわ、これでも食ってろ」

「はむ……んむ……ごくん。い、今。先輩の指が……」

「おう、悪い悪い。……って耳まで赤くなってるぞ?どうした?」

 さっきの仕返しよ。……なんかこの会話、前にもした気がするな……。

「……っと、それよりももう食べ終わったので、帰りましょうか」

 と、急いでコーラを飲み終えて言ってくる。まだ顔赤いぞ……。でもまぁ。

「そうだな。俺も飲み終わったし。帰るか」

 二人で席を立ち食べ終えたゴミを片付けて。

「そうそう、夕飯何か食いたいもんあるか?」

「うーん、ではカレーライスで!」

「お、おう。また洗い物が大変になりそうだが……まぁ休日中だし問題ないか。じゃあ俺はスーパーに寄ってから帰るよ。お前はどうする?」

「あー、なら私も行きますー」

 そんな会話をしながらナックを後にした。
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