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第一章:恋愛日和
第5話:後輩とボス戦
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始まりの街から西の森、エリアボスであるファイティングビッグベア。
今、俺は実夜と二人、ちょうど間にファイティングビッグベアを挟むような位置取りをしている。
作戦としては実夜がデカイ熊の死角から四肢の腱を断ち、それから目を狙う。俺もできたら腱を断つことを狙いつつ、どちらかが見つかったら俺が前に出る。
そもそも腱ってめっちゃ硬いけど切れんの? という話なのだが、剣のような斬撃系の武器だとなかなか切れないが、弓矢のような刺突系の武器だと何度か当てれば貫通させられるため一応切れるらしい。
それを実夜から聞いた時、何度も同じところに当てるとか無理じゃないか? とも思ったが、実夜曰く「慣れれば簡単」だそうで。因みに俺は信じていない。
『YAMI:じゃあとりあえず右脚から射抜きますね』
とフレンド通信によるチャットが入ったため了解と打って熊の様子を見る。すると此方側からは全く見えない方向から熊の右脚の脹脛の上、ちょうど膝裏辺りを掠めるように穴を開けた。
よく見ると地面に刺さった矢は二本あり、二本とも全く同じ軌道で射られたらしいが、片方は当たったところの真下辺りに落ちていたため貫通は二本目の矢によるものだろう。
……いや、何であんな精密射撃できんの? 直に見て分かったが、俺にはできる気がしない。
ちなみに右脚を射抜かれて片膝をついた熊は何処から射抜かれたのかと矢の飛んできた方を睨み、そちらに残り三本の手足で駆け出したが、実夜を見つけた訳では無いようで、何度か止まっては辺りを見回していた。
とりあえず俺は熊が此方を見ていないタイミングで右腕目掛けて矢を放つことで気を外らせる。因みに連続で二発射たのだが、片方は外してしまった。
この攻撃の目的は実夜の居場所を悟らせないようにするためのものであるため、一発でも掠めれば問題無い。
暫くすると先程とは違った向きに矢が飛んできて、今度は熊の左脚の膝裏を掠めるように穴を開け、熊が両膝を地につけた。
これで脚二本。移動が腕の力で脚を無理矢理引きずるような動きになった。
俺殆ど何もしてなくない……? せめて腕の一本くらい腱断ち切ってやるよ。
そこから俺は隙を見ては何度も物陰から矢を放ち、何度も右腕に命中させた。だが、その殆どは切り傷を付け、またその傷を少し深くする程度で終わり、最後まで貫通させることはできなかった。
実夜は左腕の腱も潰し、殆ど熊が動けなくなった後、熊の両目を射抜き、安全性を確保。
そして遠くから弓でひたすら攻撃を続け、ついに熊のHPはゼロになった。
これハメじゃない? とも思うが、此方が見つかる前に片腕と両脚、及び両目を射抜かなければ安全性は確保出来ないためかなり難易度は高い。
無事にボス戦が終わったところで実夜が近づいてきた。
「ルア君、お疲れ様です!」
「何もできなかった……。これは寄生という奴じゃないか……?」
いくらかは当てたが、それによるダメージ量で言ったら熊のHPの一割か多くて二割ほどだろう。
「気にしちゃってたらごめんなさい。でもこのゲームで弓初心者の先輩が目線の通らないところから腕に当ててたのはかなり凄いと思いますよ? 私が始めたばっかりの頃は殆ど当たりませんでしたから」
「そういうもんか。でも一度くらい貫通させたかったな」
「いや、初心者の先輩がいきなり貫通させたら私泣きますよ? 何時間練習したと思ってるんですか?」
ジト目でこちらを睨んでくるその様子に、不覚にも可愛いと思ってしまったのは秘密だ。
「お、おう。とりあえず第二の街にこれで行けるようになったんだろ?」
「そうですね。行きましょう!」
第二の街へ行く途中。
「そういえばさっきのボス戦でレベル上がったんじゃないですか?」
「ん? あぁ、ほんとだ。全く気付かなかった」
先程のボス戦でまた一つLvが上がったようで、俺はLv7になっていた。
「レベル上がった時のサウンド、鳴るように設定変えたらどうですか? もしくは視界左下にログを表示するようにしたりとか」
「あっ、そんなことできるのか」
「できますよ。まったく、ゲームを始めたら設定を弄るのはゲーマーとしての性じゃないですか」
「ああ、このゲームがリアルすぎて完全に忘れてたわ。ちょっと設定弄るな」
「はーい、待ってますよー。何か分からない項目とかあったら教えますし」
俺は「ありがとよ」と言いつつ設定画面を開く。
通知設定のサウンドをONに……お知らせ通知はとりあえずキャラレベルとスキル入手、あと称号入手だけONでいいか。スキルレベルアップでサウンド鳴ったら煩いだろうし。左下のログは最新の二行のみを表示するようにしておこうか。
そして設定を下の方まで見ていくと他のゲームでは見たことのない項目があった。
「なぁ、『警告設定』ってなんだ?」
「ああ、それはボディータッチとかした時に警告が出て運営にすぐ通報できる状態になるんですけど、それの基準設定ですね」
「基準っていうと?」
「例えば、手の平で触られたらそれがどこだとしても警告出るようにしたり、逆に『この人なら触られてもOK』みたいな設定もできますし……あっ、でも性行為はできないみたいですよ? 放送禁止部位には謎の光も勝手に入りますし」
「へぇ……」
「あっ、もしかして私とシたかったんですか? ヤりたかったんですか?」
「ねぇよ。本当にヤりたかったらR-18のVRエロゲー買ってお前を誘うわ」
「へっ!? あの……そういうのはちょっと……早いというか……なんというか……」
「だから! 本当にシたかったらの話な!? 安心しろ、ありえねぇから」
「えー、ホントですかぁ……? まぁ、先輩ならいつで……もリアルの私を襲えますからね」
そう言った実夜の顔はほんのりと赤く染まり、思わずその顔に一瞬見惚れてしまった。
「…………」
「何故そこで無言!? やめてくださいよ、言った私の方が恥ずかしくなるじゃないですかぁ」
どうやら俺が実夜の顔に見惚れていたとは気付かなかったようだ。
危ねぇ、そんなこと知られたらどんだけからかわれるか分かったもんじゃねぇぞ。
「あっ、とりあえず私もさっきレベル上がったんでステポ振っちゃいますね」
二人の間に流れたなんとも言えない空気を取り払うかのように実夜が口を開いた。
「お、おう。俺も振っとくわ」
SPはAGIとSTR、それと若干DEXにも振っておく。……VITとMINDにも振らないととは思ってるんだが、なんか勿体ない気がしちゃうんだよなぁ。
ステータスを振った後、少し歩くと第二の街ウルディアに着いた。
すると街の門番のような人がいて。
「少し止まってください。身分証又はギルド証の提示をお願いします」
「ギルド証?」
俺が実夜に尋ねると。
「ギルドに登録した時点でインベントリの【大事なもの】の中に入ってると思います。えっと……ほら、これですよね」
そう言って実体化させたギルド証を見せると、門番の人が。
「はい。大丈夫です。……貴方も持っていますか?」
「あっ、はい」
インベントリを確認したところ無事ギルド証を見つけたため俺も実体化させて見せる。
「はい。ではお二方とも此方の魔術具にギルド証を翳してから通ってください」
そう言って出された器具にギルド証を翳し、門を抜けてから実夜に聞く。
「さっきのは何か知ってるか?」
「ああ、さっきの魔術具って奴ですね。アレに翳すとギルド証の情報が登録されて、一々取り出さなくても通れるようになるんですよ」
へぇ、随分と便利なシステムだな。楽でいい。
「それじゃ、とりあえず解散でいいか?」
とりあえず第二の街に着いたため実夜に聞く。
「そうですねー、本当は先輩と行動したいですけど、先輩はまだNDOに慣れていないので、初めはソロで行動した方がいいでしょうから」
「おう、なんかあったらフレンド通信でチャットくれ」
そしてパーティーを解散し、実夜と分かれた。
さて、とりあえず弓の腕を鍛えないとなぁ。
今の時刻は四時。夕飯は五時半から作り始める予定だから、とりあえずそれまでに矢を確実に当てられるようにしないとな。
ということで、第二の街ウルディアから見て東側、先程の森でひたすら弓を射る。
狙うはフォレストウルフ。初めは四肢を射てから頭でとどめ。これが安定してきたら両耳、尻尾の付け根、鼻先、両目、と狙う場所を増やしていく方法だ。
そんな方法で一心不乱に狩り続けていたところ、右上に通知マークが出るとともに「ティロン ティロン」とサウンドが鳴った。
早速、今来た通知を確認する。
《スキル【惨虐】を手に入れました。》
《【称号:私の友達が惨殺者!?】が追加されました。》
おお、初めての行動で手に入るスキルだな。あとこの称号は……いや、とりあえずスキルな。
とりあえず【風魔法】を外して【惨虐】をアクティブにし、それぞれの詳細を確認する。
【惨虐】
生物に対して惨たらしい行いが得意になる。
使用可能アーツ
(Lv2)未開放
常時発動効果
(Lv1)非人道的な攻撃による与ダメージUP
お、おう。非人道的な攻撃ってのがどの程度まで含まれるかは分からんがそこそこ良いスキルなんじゃないか?
取得条件はなんとなく分かるが……実夜も当たり前のように持っていそうだな……。
それで称号の方は……。
【称号:私の友達が惨殺者!?】
Lily-100の友達が多くの生物を惨たらしく殺した証。
効果:私がメンタルをケアしますね!
Lily-100のコメント
『私の友達が……怖いです』
なにこの効果!? リリィのコメントって何!?
……フレンド通信でリリィに直接聞けばいいか。
えっと、フレンドからLily-100を選んで……音声通話を開始すれば……。
『あっ、ルア君ですね!』
待ってましたと言わんばかりに、呼び出し音が鳴り始めたくらいで途切れ、声が聞こえた。
「おう。それで、少し聞きたいことがあるんだが」
『? 聞きたいこと……ですか?』
「えっと、称号にお前のコメントがついてたんだけど……。いや、その前にこのコメントはお前ってことで良いんだよな?」
『【称号:惨殺者】についてのコメントですね! そうですよ。見てて怖いと思ったのでそうコメントしてみました!
あと称号を手に入れる時には必ず私のコメントが入ることになると思います!』
「称号……全部か?」
『全部です! なんたってフレンドですから!』
「あと、この効果なんだが」
『あっ、その欄も私が書いてます! 惨殺者にはメンタルケアが必要かなぁと思って志願してみました!』
「……これって効果あるの?」
『ありますよ。私が文字を消して書き直してるだけなので。本来の効果は……えっと、なんでしたっけ? すいません、忘れちゃいました!』
「……AIなのに忘れるのか?」
『ごめんなさい。寝起きだったので記憶を覗いてもボヤけてはっきり見えないんです』
寝起きかよ。なら仕方ない……のか?
「じゃあ確認はできないが元の効果はあるのか」
『その筈です。名前は違いますが、その称号の元になった【称号:惨殺者】と似たような効果の筈です』
「似たような……って同じじゃないのか」
『はい。一つの効果に対して設定できる称号の名前は一つですので多少変わっていると思います』
「でもこの名前もリリィが変えたんだよな?」
『そうですけど、称号自体の名前を変えると効果も少し変わっちゃうんです。あっ、私にはルア君に関してのその権限は持ってるので安心してください。
でも称号名の文字は消せないので、今回の場合は「惨殺者」をそのまま使いましたね。
因みに候補として【私の友達が惨たらしい殺戮の覇者に!?】というのもあったのですが、文字数を優先しました』
「……お、おう。分かった。ありがとう」
『友達ですから! 聞きたいことが無くても、いつでも連絡してきて良いですからね。
……あっ、でもヤミさんでしたっけ? なんかあの人と仲良くしすぎじゃないですか?
ルア君はもう少し節度を持った行動を心掛けて下さい!』
「あ、ああ。じゃあまたな」
『はい! またです!』
最後に言われた節度を持ってというのはよく分からなかったが、きっとそんなに意味は無いのだろうと思いつつ、通話を切る。
それからまた狩りを始めると、すぐに変化が分かった。
「おい、流石にこれは酷くねぇか?」
今俺が見ているのは俺が先程倒し……いや、殺したフォレストウルフの死体だ。ご丁寧なことに射抜いた耳や尻尾、果てはその周辺に飛び散った血までも残っている。
多少デフォルメ化されてはいるがそうは言っても少しグロい。おいこれR-12のグロさじゃなくね? とも思ったが、設定に表現設定があったことを思い出した。
そういやさっき表現設定はリアル重視にしてたな。まぁ、負けた気がするから設定は変えないんだが。
ひとまずそのフォレストウルフの死体を埋め、とりあえずまた狩りに向かう。すると、何匹か狩ったところでもう一つ重要なことに気づいた。
『これ、ドロップ品無くなってね?』と。
これまではフォレストウルフの爪や皮、牙などが素材として自然と手に入っていた。しかしそれがいくら狩っても増えなくなった。
いや、たしかに死体に皮とか付いたままだが。まさか自分で解体しろと? いやいや流石にそれは…………ありそうだから困る。
しかしそうなると死体を埋めてたら何もドロップ品が手に入らないことになるのか。いや、ちょっと待て。死体はインベントリに入るのか……?
結果として死体は無事インベントリに入った。
しかしだからと言ってどうするか……。
とりあえずGMコールで元凶だと思われる【称号:私の友達が惨殺者!?】の効果を教えてもらうか。教えてもらえるのか? 教えてもらえたら良いなぁ。
GMコールで、質問のところから……メールか電話?
できれば今すぐ知りたいからとりあえず電話で、話し中だったらメールすればいいか。
電話を掛けるとすぐに繋がった。
『はい。こちらNDO質問センターです。どのような質問でしょうか?』
「新しく入手した称号に関して聞きたいことがありまして」
『分かりました。それでは担当の称号課に繋げます。少々お待ち下さい』
どうやら細かく課が分かれているらしい。
暫くすると称号課に繋がる。
『こちらNDO称号課です。質問があると伺ったのですが、どのような内容でしょうか?』
「えっと、称号の効果が分からなかったので、教えて頂きたいのですが」
『基本的には詳細でご確認できるかと思いますが、称号名は何でしょうか?』
ああ、あの称号名を言うのか。なんか恥ずかしいな。
「えー、【私の友達が惨殺者!?】という称号なのですが、詳細の効果に〈私がメンタルをケアしますね! 〉とありまして。それを書いた人にも聞いたのですが、もともと書いてあった効果は忘れたと」
『…………はい? ああ、申し訳ありません。失礼致しました。えー、【私の友達が惨殺者!?】ですね。すぐに調べさせて頂きます。少々お待ちください』
良かった。どうやら教えてもらえそうだ。以前やったゲームでは『攻略情報に含まれますのでお答え致しかねます』の一点張りだったものもあるからな。まぁ普通はそうか。
今回の場合は本来見れる筈だった詳細だから良いみたいなことだろう。
暫く待つとまた繋がる。
『お待たせして申し訳ありません。Lua様でよろしいですね?』
「はい。そうです」
どうやら称号名から特定したらしい。俺以外に誰も持ってないんだろうなぁ。リリィの気分で名前変わるし。
『えー、称号の効果が分かりましたのでお知らせ致します。〈魔物を倒した痕跡がよりはっきりと残る〉ですね』
「具体的には……?」
『申し訳ありません。それ以上は攻略情報に含まれるため、お答えすることはできません』
やはり見れる筈だった効果が『魔物を倒した痕跡がよりはっきりと残る』というものだったのだろう。
「そうですか。分かりました。ありがとうございます」
『それでは失礼致します。引き続きNDOをお楽しみ下さい』
そう言って電話は切れた。
んー、まだよく分からんけど。俺の称号の元になった【称号:惨殺者】ってのはあの戦い方してた実夜なら知ってるだろうから、それの効果を聞いてみるか。知らなかったとしても掲示板かどっかに載ってるだろ。
時間も5時半近くなっていたため、第二の街に戻ってからダイブアウトすることにした。
今、俺は実夜と二人、ちょうど間にファイティングビッグベアを挟むような位置取りをしている。
作戦としては実夜がデカイ熊の死角から四肢の腱を断ち、それから目を狙う。俺もできたら腱を断つことを狙いつつ、どちらかが見つかったら俺が前に出る。
そもそも腱ってめっちゃ硬いけど切れんの? という話なのだが、剣のような斬撃系の武器だとなかなか切れないが、弓矢のような刺突系の武器だと何度か当てれば貫通させられるため一応切れるらしい。
それを実夜から聞いた時、何度も同じところに当てるとか無理じゃないか? とも思ったが、実夜曰く「慣れれば簡単」だそうで。因みに俺は信じていない。
『YAMI:じゃあとりあえず右脚から射抜きますね』
とフレンド通信によるチャットが入ったため了解と打って熊の様子を見る。すると此方側からは全く見えない方向から熊の右脚の脹脛の上、ちょうど膝裏辺りを掠めるように穴を開けた。
よく見ると地面に刺さった矢は二本あり、二本とも全く同じ軌道で射られたらしいが、片方は当たったところの真下辺りに落ちていたため貫通は二本目の矢によるものだろう。
……いや、何であんな精密射撃できんの? 直に見て分かったが、俺にはできる気がしない。
ちなみに右脚を射抜かれて片膝をついた熊は何処から射抜かれたのかと矢の飛んできた方を睨み、そちらに残り三本の手足で駆け出したが、実夜を見つけた訳では無いようで、何度か止まっては辺りを見回していた。
とりあえず俺は熊が此方を見ていないタイミングで右腕目掛けて矢を放つことで気を外らせる。因みに連続で二発射たのだが、片方は外してしまった。
この攻撃の目的は実夜の居場所を悟らせないようにするためのものであるため、一発でも掠めれば問題無い。
暫くすると先程とは違った向きに矢が飛んできて、今度は熊の左脚の膝裏を掠めるように穴を開け、熊が両膝を地につけた。
これで脚二本。移動が腕の力で脚を無理矢理引きずるような動きになった。
俺殆ど何もしてなくない……? せめて腕の一本くらい腱断ち切ってやるよ。
そこから俺は隙を見ては何度も物陰から矢を放ち、何度も右腕に命中させた。だが、その殆どは切り傷を付け、またその傷を少し深くする程度で終わり、最後まで貫通させることはできなかった。
実夜は左腕の腱も潰し、殆ど熊が動けなくなった後、熊の両目を射抜き、安全性を確保。
そして遠くから弓でひたすら攻撃を続け、ついに熊のHPはゼロになった。
これハメじゃない? とも思うが、此方が見つかる前に片腕と両脚、及び両目を射抜かなければ安全性は確保出来ないためかなり難易度は高い。
無事にボス戦が終わったところで実夜が近づいてきた。
「ルア君、お疲れ様です!」
「何もできなかった……。これは寄生という奴じゃないか……?」
いくらかは当てたが、それによるダメージ量で言ったら熊のHPの一割か多くて二割ほどだろう。
「気にしちゃってたらごめんなさい。でもこのゲームで弓初心者の先輩が目線の通らないところから腕に当ててたのはかなり凄いと思いますよ? 私が始めたばっかりの頃は殆ど当たりませんでしたから」
「そういうもんか。でも一度くらい貫通させたかったな」
「いや、初心者の先輩がいきなり貫通させたら私泣きますよ? 何時間練習したと思ってるんですか?」
ジト目でこちらを睨んでくるその様子に、不覚にも可愛いと思ってしまったのは秘密だ。
「お、おう。とりあえず第二の街にこれで行けるようになったんだろ?」
「そうですね。行きましょう!」
第二の街へ行く途中。
「そういえばさっきのボス戦でレベル上がったんじゃないですか?」
「ん? あぁ、ほんとだ。全く気付かなかった」
先程のボス戦でまた一つLvが上がったようで、俺はLv7になっていた。
「レベル上がった時のサウンド、鳴るように設定変えたらどうですか? もしくは視界左下にログを表示するようにしたりとか」
「あっ、そんなことできるのか」
「できますよ。まったく、ゲームを始めたら設定を弄るのはゲーマーとしての性じゃないですか」
「ああ、このゲームがリアルすぎて完全に忘れてたわ。ちょっと設定弄るな」
「はーい、待ってますよー。何か分からない項目とかあったら教えますし」
俺は「ありがとよ」と言いつつ設定画面を開く。
通知設定のサウンドをONに……お知らせ通知はとりあえずキャラレベルとスキル入手、あと称号入手だけONでいいか。スキルレベルアップでサウンド鳴ったら煩いだろうし。左下のログは最新の二行のみを表示するようにしておこうか。
そして設定を下の方まで見ていくと他のゲームでは見たことのない項目があった。
「なぁ、『警告設定』ってなんだ?」
「ああ、それはボディータッチとかした時に警告が出て運営にすぐ通報できる状態になるんですけど、それの基準設定ですね」
「基準っていうと?」
「例えば、手の平で触られたらそれがどこだとしても警告出るようにしたり、逆に『この人なら触られてもOK』みたいな設定もできますし……あっ、でも性行為はできないみたいですよ? 放送禁止部位には謎の光も勝手に入りますし」
「へぇ……」
「あっ、もしかして私とシたかったんですか? ヤりたかったんですか?」
「ねぇよ。本当にヤりたかったらR-18のVRエロゲー買ってお前を誘うわ」
「へっ!? あの……そういうのはちょっと……早いというか……なんというか……」
「だから! 本当にシたかったらの話な!? 安心しろ、ありえねぇから」
「えー、ホントですかぁ……? まぁ、先輩ならいつで……もリアルの私を襲えますからね」
そう言った実夜の顔はほんのりと赤く染まり、思わずその顔に一瞬見惚れてしまった。
「…………」
「何故そこで無言!? やめてくださいよ、言った私の方が恥ずかしくなるじゃないですかぁ」
どうやら俺が実夜の顔に見惚れていたとは気付かなかったようだ。
危ねぇ、そんなこと知られたらどんだけからかわれるか分かったもんじゃねぇぞ。
「あっ、とりあえず私もさっきレベル上がったんでステポ振っちゃいますね」
二人の間に流れたなんとも言えない空気を取り払うかのように実夜が口を開いた。
「お、おう。俺も振っとくわ」
SPはAGIとSTR、それと若干DEXにも振っておく。……VITとMINDにも振らないととは思ってるんだが、なんか勿体ない気がしちゃうんだよなぁ。
ステータスを振った後、少し歩くと第二の街ウルディアに着いた。
すると街の門番のような人がいて。
「少し止まってください。身分証又はギルド証の提示をお願いします」
「ギルド証?」
俺が実夜に尋ねると。
「ギルドに登録した時点でインベントリの【大事なもの】の中に入ってると思います。えっと……ほら、これですよね」
そう言って実体化させたギルド証を見せると、門番の人が。
「はい。大丈夫です。……貴方も持っていますか?」
「あっ、はい」
インベントリを確認したところ無事ギルド証を見つけたため俺も実体化させて見せる。
「はい。ではお二方とも此方の魔術具にギルド証を翳してから通ってください」
そう言って出された器具にギルド証を翳し、門を抜けてから実夜に聞く。
「さっきのは何か知ってるか?」
「ああ、さっきの魔術具って奴ですね。アレに翳すとギルド証の情報が登録されて、一々取り出さなくても通れるようになるんですよ」
へぇ、随分と便利なシステムだな。楽でいい。
「それじゃ、とりあえず解散でいいか?」
とりあえず第二の街に着いたため実夜に聞く。
「そうですねー、本当は先輩と行動したいですけど、先輩はまだNDOに慣れていないので、初めはソロで行動した方がいいでしょうから」
「おう、なんかあったらフレンド通信でチャットくれ」
そしてパーティーを解散し、実夜と分かれた。
さて、とりあえず弓の腕を鍛えないとなぁ。
今の時刻は四時。夕飯は五時半から作り始める予定だから、とりあえずそれまでに矢を確実に当てられるようにしないとな。
ということで、第二の街ウルディアから見て東側、先程の森でひたすら弓を射る。
狙うはフォレストウルフ。初めは四肢を射てから頭でとどめ。これが安定してきたら両耳、尻尾の付け根、鼻先、両目、と狙う場所を増やしていく方法だ。
そんな方法で一心不乱に狩り続けていたところ、右上に通知マークが出るとともに「ティロン ティロン」とサウンドが鳴った。
早速、今来た通知を確認する。
《スキル【惨虐】を手に入れました。》
《【称号:私の友達が惨殺者!?】が追加されました。》
おお、初めての行動で手に入るスキルだな。あとこの称号は……いや、とりあえずスキルな。
とりあえず【風魔法】を外して【惨虐】をアクティブにし、それぞれの詳細を確認する。
【惨虐】
生物に対して惨たらしい行いが得意になる。
使用可能アーツ
(Lv2)未開放
常時発動効果
(Lv1)非人道的な攻撃による与ダメージUP
お、おう。非人道的な攻撃ってのがどの程度まで含まれるかは分からんがそこそこ良いスキルなんじゃないか?
取得条件はなんとなく分かるが……実夜も当たり前のように持っていそうだな……。
それで称号の方は……。
【称号:私の友達が惨殺者!?】
Lily-100の友達が多くの生物を惨たらしく殺した証。
効果:私がメンタルをケアしますね!
Lily-100のコメント
『私の友達が……怖いです』
なにこの効果!? リリィのコメントって何!?
……フレンド通信でリリィに直接聞けばいいか。
えっと、フレンドからLily-100を選んで……音声通話を開始すれば……。
『あっ、ルア君ですね!』
待ってましたと言わんばかりに、呼び出し音が鳴り始めたくらいで途切れ、声が聞こえた。
「おう。それで、少し聞きたいことがあるんだが」
『? 聞きたいこと……ですか?』
「えっと、称号にお前のコメントがついてたんだけど……。いや、その前にこのコメントはお前ってことで良いんだよな?」
『【称号:惨殺者】についてのコメントですね! そうですよ。見てて怖いと思ったのでそうコメントしてみました!
あと称号を手に入れる時には必ず私のコメントが入ることになると思います!』
「称号……全部か?」
『全部です! なんたってフレンドですから!』
「あと、この効果なんだが」
『あっ、その欄も私が書いてます! 惨殺者にはメンタルケアが必要かなぁと思って志願してみました!』
「……これって効果あるの?」
『ありますよ。私が文字を消して書き直してるだけなので。本来の効果は……えっと、なんでしたっけ? すいません、忘れちゃいました!』
「……AIなのに忘れるのか?」
『ごめんなさい。寝起きだったので記憶を覗いてもボヤけてはっきり見えないんです』
寝起きかよ。なら仕方ない……のか?
「じゃあ確認はできないが元の効果はあるのか」
『その筈です。名前は違いますが、その称号の元になった【称号:惨殺者】と似たような効果の筈です』
「似たような……って同じじゃないのか」
『はい。一つの効果に対して設定できる称号の名前は一つですので多少変わっていると思います』
「でもこの名前もリリィが変えたんだよな?」
『そうですけど、称号自体の名前を変えると効果も少し変わっちゃうんです。あっ、私にはルア君に関してのその権限は持ってるので安心してください。
でも称号名の文字は消せないので、今回の場合は「惨殺者」をそのまま使いましたね。
因みに候補として【私の友達が惨たらしい殺戮の覇者に!?】というのもあったのですが、文字数を優先しました』
「……お、おう。分かった。ありがとう」
『友達ですから! 聞きたいことが無くても、いつでも連絡してきて良いですからね。
……あっ、でもヤミさんでしたっけ? なんかあの人と仲良くしすぎじゃないですか?
ルア君はもう少し節度を持った行動を心掛けて下さい!』
「あ、ああ。じゃあまたな」
『はい! またです!』
最後に言われた節度を持ってというのはよく分からなかったが、きっとそんなに意味は無いのだろうと思いつつ、通話を切る。
それからまた狩りを始めると、すぐに変化が分かった。
「おい、流石にこれは酷くねぇか?」
今俺が見ているのは俺が先程倒し……いや、殺したフォレストウルフの死体だ。ご丁寧なことに射抜いた耳や尻尾、果てはその周辺に飛び散った血までも残っている。
多少デフォルメ化されてはいるがそうは言っても少しグロい。おいこれR-12のグロさじゃなくね? とも思ったが、設定に表現設定があったことを思い出した。
そういやさっき表現設定はリアル重視にしてたな。まぁ、負けた気がするから設定は変えないんだが。
ひとまずそのフォレストウルフの死体を埋め、とりあえずまた狩りに向かう。すると、何匹か狩ったところでもう一つ重要なことに気づいた。
『これ、ドロップ品無くなってね?』と。
これまではフォレストウルフの爪や皮、牙などが素材として自然と手に入っていた。しかしそれがいくら狩っても増えなくなった。
いや、たしかに死体に皮とか付いたままだが。まさか自分で解体しろと? いやいや流石にそれは…………ありそうだから困る。
しかしそうなると死体を埋めてたら何もドロップ品が手に入らないことになるのか。いや、ちょっと待て。死体はインベントリに入るのか……?
結果として死体は無事インベントリに入った。
しかしだからと言ってどうするか……。
とりあえずGMコールで元凶だと思われる【称号:私の友達が惨殺者!?】の効果を教えてもらうか。教えてもらえるのか? 教えてもらえたら良いなぁ。
GMコールで、質問のところから……メールか電話?
できれば今すぐ知りたいからとりあえず電話で、話し中だったらメールすればいいか。
電話を掛けるとすぐに繋がった。
『はい。こちらNDO質問センターです。どのような質問でしょうか?』
「新しく入手した称号に関して聞きたいことがありまして」
『分かりました。それでは担当の称号課に繋げます。少々お待ち下さい』
どうやら細かく課が分かれているらしい。
暫くすると称号課に繋がる。
『こちらNDO称号課です。質問があると伺ったのですが、どのような内容でしょうか?』
「えっと、称号の効果が分からなかったので、教えて頂きたいのですが」
『基本的には詳細でご確認できるかと思いますが、称号名は何でしょうか?』
ああ、あの称号名を言うのか。なんか恥ずかしいな。
「えー、【私の友達が惨殺者!?】という称号なのですが、詳細の効果に〈私がメンタルをケアしますね! 〉とありまして。それを書いた人にも聞いたのですが、もともと書いてあった効果は忘れたと」
『…………はい? ああ、申し訳ありません。失礼致しました。えー、【私の友達が惨殺者!?】ですね。すぐに調べさせて頂きます。少々お待ちください』
良かった。どうやら教えてもらえそうだ。以前やったゲームでは『攻略情報に含まれますのでお答え致しかねます』の一点張りだったものもあるからな。まぁ普通はそうか。
今回の場合は本来見れる筈だった詳細だから良いみたいなことだろう。
暫く待つとまた繋がる。
『お待たせして申し訳ありません。Lua様でよろしいですね?』
「はい。そうです」
どうやら称号名から特定したらしい。俺以外に誰も持ってないんだろうなぁ。リリィの気分で名前変わるし。
『えー、称号の効果が分かりましたのでお知らせ致します。〈魔物を倒した痕跡がよりはっきりと残る〉ですね』
「具体的には……?」
『申し訳ありません。それ以上は攻略情報に含まれるため、お答えすることはできません』
やはり見れる筈だった効果が『魔物を倒した痕跡がよりはっきりと残る』というものだったのだろう。
「そうですか。分かりました。ありがとうございます」
『それでは失礼致します。引き続きNDOをお楽しみ下さい』
そう言って電話は切れた。
んー、まだよく分からんけど。俺の称号の元になった【称号:惨殺者】ってのはあの戦い方してた実夜なら知ってるだろうから、それの効果を聞いてみるか。知らなかったとしても掲示板かどっかに載ってるだろ。
時間も5時半近くなっていたため、第二の街に戻ってからダイブアウトすることにした。
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始めまして、僕は西園寺薫。
名前は凄く女の子なんだけど男です。とある私立の学校に通っています。容姿や行動がすごく女の子でよく間違えられるんだけどさほど気にしてないかな。
小説を読むことと手芸が得意です。あとは料理を少々出来るぐらい。
特徴?う~ん、生まれた日にちがものすごい運気の良い星ってぐらいかな。
姉二人が最新のVRMMOとか言うのを話題に出してきたんだ。
ゲームなんてしたこともなく説明書もチンプンカンプンで何も分からなかったけど「何でも出来る、何でもなれる」という宣伝文句とゲーム実況を見て始めることにしたんだ。
スキルなどはβ版の時に最悪スキルゴミスキルと認知されているスキルばかりです、今のゲームでは普通ぐらいの認知はされていると思いますがこの小説の中ではゴミにしかならない無用スキルとして認知されいます。
そのあたりのことを理解して読んでいただけると幸いです。
Free Emblem On-line
ユキさん
ファンタジー
今の世の中、ゲームと言えばVRゲームが主流であり人々は数多のVRゲームに魅了されていく。そんなVRゲームの中で待望されていたタイトルがβテストを経て、ついに発売されたのだった。
VRMMO『Free Emblem Online』
通称『F.E.O』
自由過ぎることが売りのこのゲームを、「あんちゃんも気に入ると思うよ~。だから…ね? 一緒にやろうぜぃ♪」とのことで、βテスターの妹より一式を渡される。妹より渡された『F.E.O』、仕事もあるが…、「折角だし、やってみるとしようか。」圧倒的な世界に驚きながらも、MMO初心者である男が自由気ままに『F.E.O』を楽しむ。
ソロでユニークモンスターを討伐、武器防具やアイテムも他の追随を許さない、それでいてPCよりもNPCと仲が良い変わり者。
そんな強面悪党顔の初心者が冒険や生産においてその名を轟かし、本人の知らぬ間に世界を引っ張る存在となっていく。
なろうにも投稿してあります。だいぶ前の未完ですがね。
神速の冒険者〜ステータス素早さ全振りで無双する〜
FREE
ファンタジー
Glavo kaj Magio
通称、【GKM】
これは日本が初めて開発したフルダイブ型のVRMMORPGだ。
世界最大規模の世界、正確な動作、どれを取ってもトップレベルのゲームである。
その中でも圧倒的人気な理由がステータスを自分で決めれるところだ。
この物語の主人公[速水 光]は陸上部のエースだったが車との交通事故により引退を余儀なくされる。
その時このゲームと出会い、ステータスがモノを言うこの世界で【素早さ】に全てのポイントを使うことを決心する…
VRゲームでも身体は動かしたくない。
姫野 佑
SF
多種多様な武器やスキル、様々な【称号】が存在するが職業という概念が存在しない<Imperial Of Egg>。
古き良きPCゲームとして稼働していた<Imperial Of Egg>もいよいよ完全没入型VRMMO化されることになった。
身体をなるべく動かしたくないと考えている岡田智恵理は<Imperial Of Egg>がVRゲームになるという発表を聞いて気落ちしていた。
しかしゲーム内の親友との会話で落ち着きを取り戻し、<Imperial Of Egg>にログインする。
当作品は小説家になろう様で連載しております。
章が完結次第、一日一話投稿致します。
World of Fantasia
神代 コウ
ファンタジー
ゲームでファンタジーをするのではなく、人がファンタジーできる世界、それがWorld of Fantasia(ワールド オブ ファンタジア)通称WoF。
世界のアクティブユーザー数が3000万人を超える人気VR MMO RPG。
圧倒的な自由度と多彩なクラス、そして成長し続けるNPC達のAI技術。
そこにはまるでファンタジーの世界で、新たな人生を送っているかのような感覚にすらなる魅力がある。
現実の世界で迷い・躓き・無駄な時間を過ごしてきた慎(しん)はゲーム中、あるバグに遭遇し気絶してしまう。彼はゲームの世界と現実の世界を行き来できるようになっていた。
2つの世界を行き来できる人物を狙う者。現実の世界に現れるゲームのモンスター。
世界的人気作WoFに起きている問題を探る、ユーザー達のファンタジア、ここに開演。
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
【第1章完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。
鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。
鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。
まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
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