上 下
145 / 180

第145話 教授の手助け

しおりを挟む
 教授たちの拠点というか研究所はまるで城塞だった。
 あちこちにパイプが伸びていて、いたるところから蒸気が噴出しているのが見える。

「教授ー! ちょっとうるさくないですかー?」
「なんですかな?」
 これでも大声を出しているのだが、聞こえにくいようだ。
 現在城門とも呼べる門を抜けたところなのだが、歯車が回りピストンが稼働していてものすごい騒音を立てているのだ。
 どうやら機械式巻取りの城門のようで、蒸気の力を利用して門の開閉を行っているようだ。

「これー! すごいですねー!」
「そうでしょうそうでしょう! 実に気に入っていましてね」
 話すだけ大声を出さなければいけないとはこれ如何に。
 しかし、褒められてうれしいのか教授はご機嫌そうだった。

 ボクたちが入ってきた門は全員が入ると勝手に重い音を響かせながら閉じてしまった。
 しかし、その先にあった光景はもっと驚くべきものだったのだ。

「小型の移動用蒸気機関車?」
 目の前には先ほど乗ってきたSLよりも小型の立ち乗り式の蒸気機関車が走っているのだ。
 大きな城門前広場には機械式噴水があり、歯車の音やピストンの音と共に水を噴き出して見せていた。
 奥には歩行者用の道と石造りの商店街があり、色々な人が歩き回っているのが見える。
 特に驚いたのは、魔法使いのようなとんがり帽子を被った人類もいることだろう。

「これは驚いたのぅ。魔界の魔法使いや魔女たちまで出張ってきておるのか」
「魔法使い、ですか?」
「そうじゃ。魔法族ともいうべき者たちじゃな。時々魔族などと呼ばれることもある、魔法の扱いにたけた人間たちじゃ」
 どうやらボクたちが出会ったのは、なかなかに珍しい種族の人間だったようだ。
 彼らは肌の色も地球人類と同じだし、見た目も変化はない。
 外見だけで見極めるのは非常に困難だろう。

「彼らのような種族はどこにでもいるのですか?」
 隣にいたお婆様に確認する。

「もちろんじゃよ。わしら妖種が日本におるように、魔法族も世界中におるのじゃ。普段は目に見えないがのぅ」
「へぇ~」
 そういえば、ボクたちのような妖種のことも人間たちは知らなかったのを思い出した。
 つまり、彼らやボクたちのように隠れて住む種族がまだまだほかにいるということなのだろう。
 
「さて、進みますぞ」
 ボクたちは小型の蒸気機関車に乗り、巨大な城砦内の通りを進んでいく。
 時々ゴブリンのような種族やドワーフのような種族を見かけたが、フェアリーノームのような種族を見かけることはなかった。

「ミレたちみたいな種族はいないんですね」
「そうじゃな。ミレたちのような種族は独自の世界を持っておるからのぅ。出向かなくてもどうにでもなるのじゃろう」
 お婆様の意見としては、ミレたちフェアリーノームは独自の世界で完結しているので外の世界に出なくても問題がないとのこと。
 逆に言えば、魔法族たちは外の世界に行かなければいけない理由があるのだろう。

「ところで教授ってどんな種族だったんですか?」
「私ですかな? なにも珍しくはありませんぞ。過剰に研究にのめりこんでしまった人間でしたからな」
「なんと!?」
 意外な話だった。
 まさか彼らが元々人間だったとは思いもよらなかったからだ。
 てっきりスケルトンか何かだと思っていたのだ。

「そんな驚くようなことでしたかな? まぁ今の見た目からでは想像できますまい。こう見えて、私は元々魔法族だったのですよ。それから科学にも興味を持ち、学び今に至ると」
 どことなくニコニコしたようすで教授はそう教えてくれた。

「珍しいのぅ。おぬしが自分語りをするなど」
「いえいえ。少々興が乗ったというだけですよ」
 
 蒸気機関車はいくつもの通りや門を越え、街を越え巨大な城の手前の駅で停車した。
 目指すべきはあの城なのだろうか?

 目の前に聳える巨城は、石と機械によって形作られていた。
 城内には蒸気設備があるようで、城の至る所から白い煙を噴出させている。

「目的地はあの城……ではなく、その手前のドームです。そこが研究所ですぞ」
 教授は一旦城を指さすと、茶目っ気たっぷりにそう言い手前にある巨大なドームを指さしたのだ。
 ではあの城は一体何なんだろうか?

「教授よ、あの城はなんじゃ?」
 お婆様が聳え立つ巨城を見ながらそう問いかける。

「あの城ですかな? 技術力を誇示するためだけに築城したものなのですが……。ふむ。主殿に差し上げましょう」
「へ?」
 突然教授にそのような話を振られてしまったせいか、思わず変な声が出てしまった。

「城のようなものを作ったところで我々には必要のないものでしてな。主殿の滞在拠点にちょうどいいでしょう」
 一体教授は何を言っているんだろうか。
 あんな大きな建築物をほいほいと人にあげるなんてどうかしていると思うんですが。

「おぬし、変わったのぅ」
「そうですかな?」
 お婆様にそう言われ、教授は「なにかおかしなことでも?」と言わんばかりの反応を返した。

「いや、言うまい。であれば、遥を城主に据えるが良いかのぅ?」
「もちろんですぞ。その方が箔も付きましょう」
 何やら話がどんどん進んでいってしまっていて、ボクの理解が追い付いていない。
 というか、お城なんてもらっても使い道ないんですけど!?

「はっはっは。主殿も困惑しておるようですな。いいでしょう。城の方は後程案内するとして、先に研究所へ参りましょう」
 混乱するボクを見た教授は、さっそく研究所の扉を開けた。

 ドームの中は不思議なことに会社か何かのロビーのようになっていた。
 カウンターがあり商談スペースがあり、奥には扉とパーティションに仕切られた空間が存在している。
 上下の移動はエレベーター式のようで、ガラス張りの箱が上下を移動していた。
 しかも室内には、先ほどまでのスチームパンクな様相は一切なくなっていたのだ。

「では説明いたしますぞ。この研究所ではありとあらゆることを研究しておるのです。例えば一階奥は素材の制作や利用法の確立などを行っておるのです。あとは発電関連ですな」
「発電!!」
「おや? 主殿、どうなさいましたかな?」
「あ、いえ。発電と聞いたのでちょうどよかったなぁと思いまして」
「ほおぅ?」
 教授の説明の中に発電という言葉があったので、思わず反応してしまった。
 教授にものすごく注目されている。

「もしかして、電気が必要でしたかな?」
「あ、はい。ノートパソコン用に」
「ふむ。いいでしょう。電力供給はお任せください」
「あ、ありがとうございます」
 教授には何から何までお世話になりっぱなしのような気がする。
 なんだか悪いなぁ……。

「では説明に戻りましょう。研究所地下には各種素材を使った技術開発を行っております。薬などもその1つですな。それから外部農園には新たな食料となる植物を生産しております。まぁまだ研究段階なわけですが」
「農園、ですか」
「そうです。環境要因や病気に強い作物や味の良くなるものとかですな。あとは魔法族用に魔法触媒の開発なども行っております。まぁこちらは2階フロアになるわけですが」
 どうやらこの研究所にはいくつかのフロアに分けて研究するものを変えているようだ。
 素材の開発や制作、利用法、発電などは1階。
 それらを使った技術開発関係は地下階。
 魔法技術や触媒の開発に関しては2階と決めているようだ。
 付属している外部農園がどのくらいの規模かはわからないけど、今後必要になる作物なども出てくるかもしれない。
 なにより、環境要因に強い食料というのは大事になる。

「では、移動しますぞ」
 そう言うと教授はエレベーターを動かした。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

異世界転移ボーナス『EXPが1になる』で楽々レベルアップ!~フィールドダンジョン生成スキルで冒険もスローライフも謳歌しようと思います~

夢・風魔
ファンタジー
大学へと登校中に事故に巻き込まれて溺死したタクミは輪廻転生を司る神より「EXPが1になる」という、ハズレボーナスを貰って異世界に転移した。 が、このボーナス。実は「獲得経験値が1になる」のと同時に、「次のLVupに必要な経験値も1になる」という代物だった。 それを知ったタクミは激弱モンスターでレベルを上げ、あっさりダンジョンを突破。地上に出たが、そこは小さな小さな小島だった。 漂流していた美少女魔族のルーシェを救出し、彼女を連れてダンジョン攻略に乗り出す。そしてボスモンスターを倒して得たのは「フィールドダンジョン生成」スキルだった。 生成ダンジョンでスローライフ。既存ダンジョンで異世界冒険。 タクミが第二の人生を謳歌する、そんな物語。 *カクヨム先行公開

外れスキル持ちの天才錬金術師 神獣に気に入られたのでレア素材探しの旅に出かけます

蒼井美紗
ファンタジー
旧題:外れスキルだと思っていた素材変質は、レア素材を量産させる神スキルでした〜錬金術師の俺、幻の治癒薬を作り出します〜 誰もが二十歳までにスキルを発現する世界で、エリクが手に入れたのは「素材変質」というスキルだった。 スキル一覧にも載っていないレアスキルに喜んだのも束の間、それはどんな素材も劣化させてしまう外れスキルだと気づく。 そのスキルによって働いていた錬金工房をクビになり、生活費を稼ぐために仕方なく冒険者になったエリクは、街の外で採取前の素材に触れたことでスキルの真価に気づいた。 「素材変質スキル」とは、採取前の素材に触れると、その素材をより良いものに変化させるというものだったのだ。 スキルの真の力に気づいたエリクは、その力によって激レア素材も手に入れられるようになり、冒険者として、さらに錬金術師としても頭角を表していく。 また、エリクのスキルを気に入った存在が仲間になり――。

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

ブラック宮廷から解放されたので、のんびりスローライフを始めます! ~最強ゴーレム使いの気ままな森暮らし~

ヒツキノドカ
ファンタジー
「クレイ・ウェスタ―! 貴様を宮廷から追放する!」  ブラック宮廷に勤めるゴーレム使いのクレイ・ウェスターはある日突然クビを宣告される。  理由は『不当に高い素材を買いあさったこと』とされたが……それはクレイに嫉妬する、宮廷魔術師団長の策略だった。  追放されたクレイは、自由なスローライフを求めて辺境の森へと向かう。  そこで主人公は得意のゴーレム魔術を生かしてあっという間に快適な生活を手に入れる。    一方宮廷では、クレイがいなくなったことで様々なトラブルが発生。  宮廷魔術師団長は知らなかった。  クレイがどれほど宮廷にとって重要な人物だったのか。  そして、自分では穴埋めできないほどにクレイと実力が離れていたことも。  「こんなはずでは……」と嘆きながら宮廷魔術師団長はクレイの元に向かい、戻ってくるように懇願するが、すでに理想の生活を手に入れたクレイにあっさり断られてしまう。  これはブラック宮廷から解放された天才ゴーレム使いの青年が、念願の自由なスローライフを満喫する話。 ーーーーーー ーーー ※4/29HOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝! ※推敲はしていますが、誤字脱字があるかもしれません。 見つけた際はご報告いただけますと幸いです……

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

処理中です...