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第132話 ダンジョン探索その2

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 通路を進むが相変わらず魔物が出ない。
 どうやらダンジョンではあるものの、制御コアが停止しているため魔物が出ないようになっているようだ。
 しかし、このダンジョンに魔物が出るとしたらどんな魔物なのだろうか?

「瑞葉、ここに魔物が出るとしたらどんな魔物が出るんですか?」
「そうですね。ここには植物系と魔獣系、リビングアーマーなどの魔物が出るようです。残ってる情報にアクセスした限りでは防衛に特化した魔物が生み出されるようになっていたようです」
 瑞葉はこのダンジョンの制御コアから情報を読み取ってくれたらしい。
 それにしても、防衛特化かぁ……。

「う~ん。本来ならそういう魔物が現れるということなんですよね……」
 現れるはずのものが現れない。
 動力が動いている。
 すべての動力はゲートに集まっている?

「この場所で起きていることがわかりました。当初感じた大きな力の気配、今の現状から推測するに神殿のゲート部分で召喚システムが起動した可能性があります。もしくはそこにいた【亜神】、つまり【理外の者】により侵入したパーティーが拉致された可能性があります。前衛と中衛が死亡していることを考えると、まだなんとか後衛は生きているのでしょう。向かう先はゲートです」
 ここまで探索してやっと行き着いた答えだった。
 なんとかして残りのメンバーだけは助けなければいけない。

「わかりましたわ。急ぎましょう」
「おう! 腕が鳴るぜ」
「サポート、します!」
 ミレたちもやる気満々な様子で任せろと言っている。
 ボクたちは急いでゲートへと向かうのだった。



 通路を駆け抜け図書館地区へと入ると2つの扉を見つけた。
 そのうち一つ、通路と同じ方向にある扉にはいかず、もう一つの扉へと向かうとまた通路があった。
 通路を抜けていくと不思議なブロックで構成された奇妙な空間に出た。
 そこには中央に光り輝く装置と中央に渦を巻く何かが存在している。
 ここがすべての元凶のようだ。
 
「妙なものが迷い込んだようだな。ちょうどいい。お前たちも私の力の糧にしてやろう」
 そういって現れたのは灰色の肌をした上半身裸の角の生えた男性だった。

「ほう。女神どもの残骸も一緒か。これはまたとないごちそうのようだ」
 ミレたちを見たその男は黒く長い舌を伸ばして舌なめずりをする。

「ここに迷い込んだ人間たちはどうしました?」
 姿が見えない行方不明者のことをその男に尋ねる。

「あぁ。あの魔力に溢れた女どもか。戦士どもはすぐにくたばったが、あいつらは使い道があったからまだ生かしている。ちょうど魔力を限界まで吸い取っているところだ」
 親切にもその男はそう教えてくれた。
 そして、指をパチンと鳴らすと3本の十字架のようなものが現れた。
 そこには体に黒い管を突き刺された女性の姿がある。

「相変わらずクズどもは下種ですわね」
 反吐を出るといわんばかりに瑞歌さんがそう言う。
 そんな瑞歌さんを見た男は、へらへらしながら挑発するように言った。

「これはこれは。極上の美人の同種か。どうだ? そんな奴らは放っておいて俺たちと組まないか?」
 男はさぞ自信があるのだろう。
 失敗するなんてこれっぽっちも思っていない様子だ。
 もしくは、失敗してもどうでもいいかだが……。

「お断りいたしますわ」
「そうかい。つれないねぇ。じゃあ力づくでものにしようじゃないか。【エーギル】、お前がやれ」
 男がそういうと、渦の中から別の男が現れた。
 好戦的な表情を浮かべた、黒目に赤い瞳の奇妙な男だった。
「ちょうど退屈していたんだ。ありがたい」
 
「屈服させたら後でお楽しみと行こうぜ。おい【ヤーマル】、お前はあそこにいる生意気そうにあくびをしているガキだ。俺はそこの白髪のガキを狙う」
 どうやら彼らはそれぞれに狙いを定めたようだ。
 ボクにはあの偉そうな男が向かってきた。

「力の差がわからないクズに用はありませんわ」
「少しはやるな」
 エーギルという人と瑞歌さんは早速戦いを始めたようだ。
 すこぶる機嫌が悪そうな瑞歌さんの声が聞こえてくる。

「ずいぶんかわいらしい子供だ。いい糧になる」
「黙ってろ」
 対する酒呑童子さんはヤーマルという人との戦うらしい。
 酒呑童子さんは強そうな相手にも拘らず興味がなさそうだ。
 てっきり強い相手と戦えると嬉しいタイプかと思ってたんだけど……。

「よそ見している場合じゃねえんじゃねえかなぁ? とっとと逃げないと取って食っちまうぞぉ?」
 名前も知らない相手だが、ボクを侮るようにそんな言葉をかけてくる。
 でも不思議と怖さを感じない。

「貴方のほうこそ早く逃げたほうがいいです。消滅したくなければですけど」
「はっ。すぐに食い殺してやるよ」
 そう言うや否や、男はボクにとびかかってきた。
 それもすごい速さでだ。

「ほーれほれ」
 相手のおちょくるような攻撃を躱しつつ隙を窺う。
 最初は速いと思っていた速度だが、だんだんと遅くなってきているのにボクは気が付いた。
 これはどういうことなのだろう?
 すべての動きが緩慢に見える。
 それどころか、次に何が来るかすらわかるのだ。

「ちっ、どういうことだぁ? まったく当たらねぇ」
 男は驚愕の声を漏らす。
 対して、ボクはこの男に言うべき言葉はない。

 幾度も手刀による突きを繰り出す男とそれを躱すボク。
 男の手刀が岩石を掠めればその岩石はいとも容易く破壊された。
 この男の攻撃力は、武器などなくとも凄まじいことがわかる。

「ちっ、ちょこまかと! いったん仕切りなおすか」
 男はボクと距離を取るべく一瞬離れる動作を行う。
 するとボクの中で声が響いた。

『いつまでもあのような雑魚と遊んでおるでない。見よ、離れようとしておる。影で足を掴んで引きちぎってやるがよい』
 ボクは、ボクの中のおばあさまの声に従って影を操る。
 黒い影が一瞬で跳躍した男の足を掴み、そのまま軽く引きちぎってしまった。

「なっ!? ギャアアアアアアアア」
 影の力は思ったよりも強かったらしく、足を掴んだだけのはずなのに男の太もも部分まで一気に引きちぎってしまった。

「ば、ばかな……」
 片足になった男は、次の瞬間には足を再生させ、元通りになる。
 しかし、力の総量は減ったらしい。

「おい、エーギル、ヤーマル……」
 男が仲間に声をかけるために振り返ったその時、男の顔は驚愕に彩られた。

「クズどもが。私たちの邪魔をするなど百億年早いというものですわ。さっさと消滅しなさい」
「ま、まて! 待ってくれ!! ゴフッ」
 瑞歌さんの足がエーギルと呼ばれた男の胸を踏み抜く。
 ごきゃっという音と共に、男が黒い何かを吐き出すのが見えた。

「これでおしまいですわ。混沌の狐とその従者を甘く見たこと、公開しながら消滅なさい」
 瑞歌さんはそのままグリっと足を捻る。
 すると何か甲高い音が聞こえ、同時に男の姿が黒い泥のようになって蒸発してしまった。

「え、エーギル!! ど、どういうこった。それに、混沌の狐だと!? おいヤーマ……」
 次に男が見たのは酒呑童子さんによって頭を粉砕されたヤーマルという男の姿だった。

「ちっ。よえーな。まぁこんくらいのやつなら山で何度も殴り殺したことあるからな。もういい、消えろ」
 酒呑童子さんは反応しなくなった男の胴体を金棒で叩き潰す。
 すると男もまた黒い泥のようになって蒸発してしまったのだ。

「おいおい。まじかよ……。おい、ちょっと話し合わないか……?」
 男がボクのほうに振り向く。
 男の顔はさっきと打って変わってひきつったような表情になっていた。
 
「ごめんなさい。話し合いたいのはやまやまなんですけど、お婆様が挨拶したいというので交代しますね」
 ボクはそう言うとお婆様に主導権を渡した。

「さて、今回はよくもわしの愛しき幼馴染に歯向かってくれたのぅ」
 お婆様はにこにこと可愛らしい微笑みを浮かべながらそう言った。
 その表情はまるで天使のようだと言ってもいいだろう。

「ひぃ!?」
 男が後ずさる。

「なぜ逃げるのじゃ? ほれ、わしともっと遊ばぬのか?」
「ひぃ!? や、やめてくれ! 知らなかったんだ! あんたらがあの最悪なアウトローだってのをよ!!」
 お婆様の問いかけに男は叫んでそういった。
 許しを請い、恐怖に顔を歪め、逃げようとすらしている。
 お婆様は心底がっかりしたような声で言った。

「興覚めじゃな。ケンカを売られたからにはもっと楽しめると思ったのじゃが。もうよい。滅びるがよい」
「あ、あぁ……」
 男は情けない声を出すと次の瞬間、影にのまれ消え去ってしまった。
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