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第130話 古代の神殿

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 古代の神殿の外周部分には特に行方不明者の遺体のようなものは存在していなかった。
 てっきり魔物にでも食べられたかと思ったが、この周囲には魔物の影は一切ない。

「神殿の外周にはなにもなし。魔物もなし。神殿の内部には入れないと聞きましたけど、彼らはどこで力尽きたのでしょうか?」
 入れない場所で魔物もおらず死者が出た。
 原因物質になりそうな魔素だまりは多くあるけど、即死するわけではない。
 何かホラー要素でもあるのだろうか。

「お?」
 さらに調査を進めていくと裂け目の上から神殿まで伸びている縄梯子を見つけることができた。
 どうやら彼らはここに降り立ったようだ。

「侵入経路は確認っと。え~っと、ほかには……」
 神殿の門は閉じられているようで、中央に何かの印が刻まれている。
 おそらく封印だ。

 何を封印しているのかは不明だが、とんでもない力の残滓を感じる。
 でも不思議とこの感覚は知っているような気もするのだ。
 どういうこと?

「お母様、ここはかなり上位のダンジョンコアが存在していたようです」
「していた? ですか?」
 神殿の外周を調査している最中、瑞葉がそのようなことを報告してきた。
 それにしても言い方が気になる。

「はい。現在は機能を停止しているようです」
「なるほど、です」
 どうやらこの場所にはもともとダンジョンコアがあったようだ。
 ただし今は稼働していないっと。

「遥お姉様、この雰囲気は私知っていますわ。ここはもしかするとちょっと特殊な場所になっているかもしれませんわ」
「そうなんですか? まぁこの雰囲気は気になっていますけど」
 瑞歌さんも知っている雰囲気、つまり【理外の者】または【亜神】の気配ということになる。

『お爺様、今良いですか?』
 この場所について何か知っているなら聞きたかったからだ。

『おぉ、遥や。大丈夫じゃよ。最近連絡してくれなくて寂しかったからのぅ』
『あ、ごめんなさい』
『今度遥の世界へ行ってみることにするかのぅ。ところで、最近何かあったかのぅ?』
 突然お爺様が妙なことを言いだした。

『遥の雰囲気にもう一つ、知っている雰囲気が重なっているような……。いや、これは、まさか?』
 どうやらお爺様が何かに気が付いたようだ。

『それはたぶん、お婆様の転生体がボクと同居しているからだと思います。そのせいか不定形スライムの亜神も一緒にいますよ』
『な、なんじゃと!? そういえばいつも調査に来ていたスライムがいたのぅ。悪さをしていなかったので放置しておったが……』
『あら、ご挨拶ですわね?』
『ひっ!?』
 突如念話に瑞歌さんが乱入してきたのだ。

『あらあら、創造神だというのに妙な声を出しますのね? また踏まれたいのかしら?』
『踏まれる……?』
 ボクが瑞歌さんの言葉に疑問を感じていると、お爺様の慌てた声が聞こえてきた。

『そ、その話はやめてほしいのじゃ。そなたの活動は認めてやるがゆえ、それについては黙っていてほしいのじゃ』
 どうやらお爺様は何かを隠しているようだ。

『ふぅん、まぁいいですわ。ところで、この場所、どうなっていますの?』
『瑞歌さん、端折りすぎです。お爺様、このお婆様と一緒にいたスライムはボクの眷属となっています。なので今一緒にいるのですが、アルテ村北側に大地の裂け目があるのはご存じですか?』
『ふむ。知っておるぞ。そのあたりはとある古代都市があった場所でな。裂け目の底にはその時の神殿の半分が沈んでおる。元は、召喚の神殿でな……』
『あぁ。それで』
 お爺様の言葉を聞いて瑞歌さんが何かに納得していた。

『私たちを召喚したと』
『そうじゃ。都市が滅びたのもそれが原因じゃな。まぁその、その時出会ったのが』
『葛葉お姉様とそれを追ってきた私ですわ』
 どうやらその古代都市は。、一番厄介な存在を呼び出したらしい。

『じゃあここはそういうところ、なんですね』
 この封印された神殿の中身は、召喚装置というわけだ。

『要救助者がここにいるようなので、これから潜って調べます。死者がでているそうですが、死者はどうなりますか?』
 まず気になっていることを簡単に尋ねた。

『救助はできるうちにした方がよいじゃろう。その場所に開かれた通路は制御用コアの停止と共に広がっておるようじゃ。細々とした理外の者が入り込んできておる』
『できるだけ急いだほうが良さそうですね』
『うむ。それと死者じゃが、その場所は少し特殊な結界を施しておってな、すぐには輪廻の流れには戻れぬのじゃ。もし見つけたら、回収するか遥の世界で輪廻させるか好きなほうを選ぶとよい』
『いいんですか?』
『うむ、構わぬ。じゃが、ケモ耳種族の種類を増やす約束は守ってほしいのじゃ』
『あ、はい』
 とりあえず死者の魂を見つけたら回収しなきゃいけないようだ。
 それにしても相変わらずケモ耳種族増やしたがってるんだなぁ……。

『お爺様ってケモ耳種族作らなかったんですか?』
 マルムさんたちがいたような気がするのだが、どうなのだろう?

『神族ではうまくいったんじゃよ。それが北の神群におる。が、人間種では失敗してのぅ。人狼族がそれじゃ。本当はもっと人に寄せたかったのじゃがな』
 どうやら、今の人狼族の姿はお爺様の調整ミスの結果らしい。
 ひどい話かもしれないけど、少しかわいそうな気がしてきた。

『なるほど、わかりました。あ、それとお婆様は近いうちにボクの分身みたいな感じで生まれてくる予定です』
『まことかのぅ!?』
 お婆様の報告をすると、お爺様は食い気味にそう聞いてきた。

『え、えぇ。ちなみに、『あほう』って言ってましたけど、お心当たりは?』
『うっ。ある。が、本当に葛葉なのじゃな……』
『ぷくくくく。たしかにあのときのあの姿と叫びは『あほう』でしたわね』
 何かを嚙みしめるお爺様とそれを笑う瑞歌さん。
 なんとなくこの二人の関係が見えてきた気がした。

『それでは一旦切りますね』
『神殿のこと、頼んだのじゃ』
『はい。それでは』
 こうしてボクはお爺様とのテレパシーを切断した。

「まさかここが古代の召喚装置だとは思いませんでした」
 ボクは目の前にある白い神殿を見ながらそう呟いた。

「私もすっかり忘れていましたわ。道理で教授たちがうろついていると」
「そういえば教授たちは大丈夫でしょうか」
 あれっきり姿を見ていない教授たち【研究所】だが、その後どうしているのだろうか。

「さて、とりあえず捜索の続きと魂の回収をしましょうか」
「えぇ。お供いたしますわ」
 この神殿のことはわかった。
 次はこの神殿で起きた出来事を調べる必要がある。
 そうすることで行方不明者の居場所がわかるだろう。
 
「お母様! ミレさんたちが何か見つけました」
 瑞葉がテテテと駆け寄ってきてそう報告してくれた。
 急ごう。

 ミレたちは神殿の裏に空いた大きな穴を見下ろしていた。
 縄梯子がかかっているので、ここから降りたことがわかる。

「どうやらこの下から中に入れるようだぜ。仲間の身体を置いたと予想できる場所がこの近くにあったしな」
「そういえば行方不明の人がいるんですよね? どうやって僧兵さんに遺体を発見してもらったのだろう」
 疑問は残るが、今調べても仕方ないだろう。
 この辺りは後で解決してみたい。

「さぁな。ま、とりあえず降りてみようぜ」
 こうしてボクたちは地下へと降りていった。


 穴の底はは神殿の遺跡部分に繋がっているようで、大きく崩れて半壊しているのが見えた。
 この時点で魔素の量が地上より増大しているのがわかった。
 おそらく何らかの異変が起きたのだろう。

「暗いですね。【照らせ】」

 ボクが一言そう言うと、周囲は昼間のように明るく照らし出された。
 部屋の中には機械か何かの配管のようなものが走っているのが見える。
 この配管はどこに繋がっているのだろうか?
 古代の人はこの神殿をどのように使っていたのだろうか。
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