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第126話 再出発と天使と悪魔

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 さて、ボクはこの悪い子な天使にちょっとした罰を与えないといけない。
 けど、変な罰を与えるつもりはないので仕事を与えることにするつもりだ。
 周囲に音が聞こえないよう、ボクたちの姿がわからなくなるよう細工をして話しかける。

「ええっと、アズールさん、でしたっけ?」
 黒髪の天使にそう尋ねると、彼女は静かに首を横に振る。

「アズラエルです、ご主人様」
 怒りもせず優しくそう訂正するアズラエルさん。
 どうやら頑なに彼はアズールと言い続けていたようだけど、もしかして発音できなかったのかな?

「さて、アズラエルさんには申し訳ないですけど、勝手に彼を運び屋にしたことに対しては罰を与えなければなりません。理由は人生を狂わせたからです」
 元々驕り高ぶってしまう性格なのかもしれないけど、それを利用したことについては一応罰しないといけない。

「どのような罰でもお受けします。ご主人様」
 アズラエルはそう言うとボクの目の前に膝をついた。

「では、アズラエルさん。貴女には今後生まれてくるであろう天使の育成と管理を任せます。きっちり働いて償ってください」
「御身のために」
 アズラエルさんには罰として労働刑を与えた。
 今後、アズラエルさんの影響で天使が生まれてきた場合、天使を管理しなければいけない。
 そのための下準備を任せることにしたのだ。

 さて、次はエディさんのフォローだが……、分不相応な力はそのままになってるんだよね。
 はてさて……。

「う~ん。あ、そうだ。監視も含めて精霊の子を育ててもらおうかな。瑞歌さん、どう思います?」
 これ以上過度なものを与えるわけにはいかないので、成長を促せるようなものを授けて間違わないよう更生してもらいたい。

「それでよろしいかと思いますわ。ある程度成長したら精霊を帰還させるよう契約致しましょう」
「わかりました。さて、どうやって渡そうか……」
「私がやりましょう」
 ボクが受け渡し方を悩んでいると、横から声が聞こえてきた。

「ヒンメスさん?」
「えぇ。何やら騒ぎがあったと聞きまして。詳細は聞かせていただきましたが。なんともはや……」
 たぶん酒呑童子さんの恐るべき力についての感想だろう。

「たしかにボクも驚きましたけどね。ではヒンメスさん、お願いしてよろしいでしょうか。この精霊の子を育てきるよう伝えてください。悪事に染まればその時点で精霊の子はボクの元へ帰還します。もし育てきったら、なにがしかの報酬を与えましょうと」
「かしこまりました」
 ボクはヒンメスさんに精霊の子の卵を渡した。
 
 ちなみに子供ということなので、子育ても必要になる。
 放置しても構わないが、ある程度放置すればこの子はボクのもとへ帰り、彼には何の報酬もない。さらに言えば罪状によっては能力を没収する必要も出るだろう。
 アズラエルさんが最後に残した力が彼に残るか、没収されるかは彼次第となるわけだ。
 これには直接手を出すことはしないというボクの主義が反映されている。
 同時に、成長と責任感を養ってもらえればいいんだけど……。

 そしてヒンメスさんが彼の元に行くと、事情を説明し天井を手で指し示した。
 それを見たエディさんは、そっと頭を下げ卵を大事そうに抱えながら猟師ギルドを後にした。

「彼にはゴブリン退治を依頼しておきました。失ったものと得たものを確認しながら驕らないよう修行しなさいという言葉も添えて」
「ありがとうございます」
 ボクが言うまでもなく、ヒンメスさんはエディさんに伝えることを伝えたらしかった。
 
 さて、一時期与えられた力で驕り高ぶっていたエディさんだけど、同じような問題はほかにもあるかもしれない。
 まずは情報を集めてみよう。

「ヒンメスさん、この世界には今回のような力を持った人がいるのでしょうか」
 そう尋ねると、ヒンメスさんは神妙な面持ちでうなずいた。

「誠に遺憾ながら。ただ、神御自ら出向かれるほどではございません。どんなに強くても、どんなに優秀なスキルを与えられたとしても、酒呑童子様に敵うものなどおりませんので」
 つまり、強いことは強いけど今回と同じようなことになる可能性は非常に高いわけか。

「ではまず、分不相応な力を持ってしまった者を洗い出してください。対処後、該当アイテムは没収し管理します」
「仰せのままに」
 ヒンメスさんはそう言うとすぐにその場を立ち去って行った。
 今回の件は大神殿の任務として扱われることだろう。
 
「さて、今後のことも考えておきますか」
 新世界でのやることは開拓と建築、そして発展だ。
 対して、旧世界でのやることは異能力者の捕縛と能力の没収となる。
 まぁいわゆるチート能力の没収みたいなことなわけだけど、別にボクはアンチというわけじゃないので気にしないでほしい。

「お姉様? 派遣する人員も選出しなければいけませんわよ」
「あう……」
 瑞歌さんに釘を刺されてしまった。
 今更ながらにちょっと面倒くさいかもしれない。
 はぁ……。

「とりあえず、戻りましょうか」
「はい、お姉様」
 こうしてボクたちはお茶会の席へと戻っていった。
 すると何やら人が増えている様子。

「あれ? 人が増えて……って」
 よく見てみたら、さっきまでエディさんと一緒にいた魅了に掛かっていた少女たちがいたのだ。
 一体どういうことなんだろう?

「お姉ちゃん、こんなところにいたのね? 探していたのよ?」
「あら? 妹じゃないの。あの変な男はもういいの? あの男のせいでお父様とお母様がどれだけ怒っていたことか」
「そ、そういわれても……」
「それでなんで私を探していたのかしら?」
「先輩ハンターのお姉ちゃんたちと冒険したいな~と思って、この子たちみんな友達なのよ」
 
 うん、まったくよくわからない。
 どうやら元々は少女たちでパーティーを組んでいたようだ。
 そこにあの一件があって今に至ると。
 うん、なんだかご両親を巻き込んだ一騒動がありそうな気がするので早急に解決して貰いたいものだ。

「そうそう。私、新たな街に移住することにしたの。貴女はどうするの?」
「私は……。一回家に帰るわ。お父様とお母様に謝らなければいけないもの……」
「そうしなさいな。少しくらいなら付き合ってあげますから」
 問題が早めに解決するといいね。
 彼女たちの話を聞きながら、ボクはそう思っていた。

「ちらほら知り合いの子がいるようですね。アズラエルさんとエディさんが起こした一騒動、どうにか収拾がつくといいんですが……」
 それぞれの女の子と家族とでどんなやり取りがあったかはわからない。
 どうにか丸く収まってほしい。

「アズラエルさん、本当にちゃんと反省してください」
「申し訳ございません」
 表情が乏しいので反省しているかはわからない。
 けど、もうこんな問題は起こしてほしくはない。

「でもどうして魅了なんて?」
 気になったのはなぜ魅了したかということだ。

「運び屋として選んだ彼自身が【強くなりたい】【モテまくりたい】という強い願いを持っていたので、運んでもらう代金として叶えることにしました」
「その結果驕り高ぶったと……」
「そうなってしまいます」
 珍しくシュンとした態度を見せるアズラエルさん。
 それにしても、そんなにホイホイ願いを叶えるのはどうなんだろうね。
 
「天使ってみんなそういう感じなんですか?」
 それともアズラエルさんが特殊なのだろうか。

「天使も悪魔も同じように他者の強い願いを叶える傾向にあります。それがどういう結果を齎すか、誰も考えていないはずです。たとえば、私たち天使は何かの見返りに願いを叶えますが、悪魔は願いを叶え、代わりに見返りを求めます」
「なるほどです」
 どうやら今回の一件は、天使と悪魔、それぞれの習性によって引き起こされたもののようだった。
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