上 下
94 / 180

第94話 拠点案内その1 ホールと医療区画

しおりを挟む
 案内された拠点内は、あっちの世界の拠点とはだいぶ変わっていた。
 まず1階だが、入ってすぐ目に入るのは少し広めのホールだった。
 椅子やテーブルなども設置されているためちょっとした集まりにも使えるようになっているようだ。
 何気にカウンターも用意されている。
 何に使うのだろうか?
 入り口入ってすぐのホールからは東西南北に扉が設置されていて、そこから扉を通ることで各施設に行けるようになっているようだ。
 
「このホールにあるカウンターは喫茶スペースになっています。お酒やお茶、おつまみや簡単な軽食が誰でも食べられます。料金はかかりますけどね。他には依頼書の発行なども代行しています。それと、お客様が来ることがあったら場合、このホールで待機してもらうことになります」
 どうやらあのカウンターでは飲食物の提供も行っているようだ。
 シーラが案内する中、ほかのメンバーはみんな思い思いの場所を見たり触ったりしていた。
 特にミレイさんは、テーブルや椅子の手触りや座り心地を確認していた。

「フェアリーノーム様の作り出す生地は繊細と聞いています。手触りも滑らかで素晴らしいと思います。家具も一流というほかありませんね……」
 どうやら椅子やテーブルにこだわりがあるようだ。

「私たちは人々よりはるかに長い年月を生きてきました。そのため音楽や工芸、建築、鍛冶など、ありとあらゆることに精通してしまったんです。元々神格があったので技術も向上しやすかったのですが、管理していた世界が崩壊した後は、自分たちですべてを用意しなければいけなかったのでさらに磨かれたように思います」
 シーラは淡々と過去のこと、現在のことを話してくれた。
 フェアリーノームにも色々な過去があるものだ。

「シーラの言う通りです。私たちは創造神ではなかったので、生み出す力である創造の力は限定的な物しか使えません。ですので、どうにかこうにかして世界を用意して世界を育て、資源を集めて来たという過去があります」
 ミレはさらに情報を補足する。
 世界を育てるということは、おそらく地球数十億年の歴史と同じくらいの年月を共にしたということなのだろう。
 
 今いる新世界は、それらを省いて時間を大幅に加速させることで、人々が暮らせる状態にまで安定させることができている。
 宇宙は太陽系と同じものだし、月と地球の関係も同じものを使っている。
 まぁこの辺りはだいぶデフォルト設定みたいなものでやったので、ゲーム感覚だったのは言うまでもないことだが……。

「シーラちゃん、次いこう」
 何やらワクワクした様子でミカがシーラをせっついている。

「あ、は、はい。では次は医療区画をご案内します」
 ミカの要望に従い、シーラは西側の扉に向かって歩いて行った。

「ええっと、こちらは医療区画です。いずれは色々な機器が導入される予定ですが、現在はポーション治療や調薬による治療が主になっています」
 シーラの案内を聞きながら周囲を見ると、様々な部屋があることが分かった。
 壁は清潔感のある白で統一され、ところどころ水色のカーテンなどが配置されていたりして、落ち着いた空間が演出されている。
 そんな中、それぞれの部屋に貼ってある張り紙が気になった。

『注意! ここにはご主人の世界からの機械を導入する予定です! 高度医療については後程案内します。byミカ』

 ミカさん、めちゃめちゃやる気満々でした。
 いくらするんだろう、怖いなぁ……。
 あ、そうなると発電設備も考えないといけないのか……。
 なんだかまだまだ課題山積みのような気がしてきたぞ……。
 
「お待ちしております、ご主人!!」
「私もお願いします~。ご主人様~」
 なんと、ミカだけでなくミナにもそう言われてしまった。
 あとでお母さんに相談します……。

「あ、は、はい……。ところで、発電設備も欲しかったり……?」
「当然です!!」
「で、ですよね~……」
 ちょっとまって? 発電設備なんてどうしたらいいのさ?
 ま、まぁそこはおいおい考えておこう……。

「なんだか落ち着く空間ですね。白い治療院といえば、神殿の治療院を思い出します。広さも扱っているものも全然違いますが」
 ミレイさんは何か感じ入るものがあるようだ。

「精霊系列の素材は私にお任せください。医療区画の補助もできますので」
 ミリアムさんが率先して立候補してくれた。
 そういえばミリアムさんは精霊の肉体を作る仕事もしているんだっけ。
 それもあってか、この手のことにはすごい情熱を見せている気がする。

「実は研究所と連動してホムンクルスの整備なども行う予定だったんです」
 なるほど、まるでどこかの実験施設みたいな感じだけど、各研究所と医療区画は色々と関わっているようだ。
 研究所が運営している病院か、はたまた病院に付属している研究所か。
 これはどっちになるのだろうか。

「遥お姉様」
「どうしました?」
 不意に瑞歌さんが話しかけて来た。

「発電関連は研究所に尋ねてみてはどうでしょう」
「あ」
 ちょっと前のことだったのに、少し忘れていた。
 そういえば教授率いる研究所がやってくるんだっけか。
 なら後で相談してみよう。

「きょ、教授……」
 今まであっちこっち見て楽しそうにしていた瑞葉が急に大人しくなってしまった。

「もしかして怖い目に遭いました?」
「は、はい……。まだ丸い玉の時に、無理矢理力を引き出されて……」
 恐る恐るボクにそう話してくれた。
 まだ人体実験じゃないだけましと思うべきなのだろうか……。

「大丈夫です。みんなボクの眷属なので、ちゃんと守りますよ」
 ボクはそう言うと、瑞葉の頭をそっと撫でた。

「えへへ。お母様。お母様」
 猫のようにじゃれついてくる瑞葉。
 うん、かわいい。
 ボクはそう思うのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

異世界転移ボーナス『EXPが1になる』で楽々レベルアップ!~フィールドダンジョン生成スキルで冒険もスローライフも謳歌しようと思います~

夢・風魔
ファンタジー
大学へと登校中に事故に巻き込まれて溺死したタクミは輪廻転生を司る神より「EXPが1になる」という、ハズレボーナスを貰って異世界に転移した。 が、このボーナス。実は「獲得経験値が1になる」のと同時に、「次のLVupに必要な経験値も1になる」という代物だった。 それを知ったタクミは激弱モンスターでレベルを上げ、あっさりダンジョンを突破。地上に出たが、そこは小さな小さな小島だった。 漂流していた美少女魔族のルーシェを救出し、彼女を連れてダンジョン攻略に乗り出す。そしてボスモンスターを倒して得たのは「フィールドダンジョン生成」スキルだった。 生成ダンジョンでスローライフ。既存ダンジョンで異世界冒険。 タクミが第二の人生を謳歌する、そんな物語。 *カクヨム先行公開

外れスキル持ちの天才錬金術師 神獣に気に入られたのでレア素材探しの旅に出かけます

蒼井美紗
ファンタジー
旧題:外れスキルだと思っていた素材変質は、レア素材を量産させる神スキルでした〜錬金術師の俺、幻の治癒薬を作り出します〜 誰もが二十歳までにスキルを発現する世界で、エリクが手に入れたのは「素材変質」というスキルだった。 スキル一覧にも載っていないレアスキルに喜んだのも束の間、それはどんな素材も劣化させてしまう外れスキルだと気づく。 そのスキルによって働いていた錬金工房をクビになり、生活費を稼ぐために仕方なく冒険者になったエリクは、街の外で採取前の素材に触れたことでスキルの真価に気づいた。 「素材変質スキル」とは、採取前の素材に触れると、その素材をより良いものに変化させるというものだったのだ。 スキルの真の力に気づいたエリクは、その力によって激レア素材も手に入れられるようになり、冒険者として、さらに錬金術師としても頭角を表していく。 また、エリクのスキルを気に入った存在が仲間になり――。

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

ブラック宮廷から解放されたので、のんびりスローライフを始めます! ~最強ゴーレム使いの気ままな森暮らし~

ヒツキノドカ
ファンタジー
「クレイ・ウェスタ―! 貴様を宮廷から追放する!」  ブラック宮廷に勤めるゴーレム使いのクレイ・ウェスターはある日突然クビを宣告される。  理由は『不当に高い素材を買いあさったこと』とされたが……それはクレイに嫉妬する、宮廷魔術師団長の策略だった。  追放されたクレイは、自由なスローライフを求めて辺境の森へと向かう。  そこで主人公は得意のゴーレム魔術を生かしてあっという間に快適な生活を手に入れる。    一方宮廷では、クレイがいなくなったことで様々なトラブルが発生。  宮廷魔術師団長は知らなかった。  クレイがどれほど宮廷にとって重要な人物だったのか。  そして、自分では穴埋めできないほどにクレイと実力が離れていたことも。  「こんなはずでは……」と嘆きながら宮廷魔術師団長はクレイの元に向かい、戻ってくるように懇願するが、すでに理想の生活を手に入れたクレイにあっさり断られてしまう。  これはブラック宮廷から解放された天才ゴーレム使いの青年が、念願の自由なスローライフを満喫する話。 ーーーーーー ーーー ※4/29HOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝! ※推敲はしていますが、誤字脱字があるかもしれません。 見つけた際はご報告いただけますと幸いです……

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

処理中です...