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第79話 ファンタジーは異世界だけにあらず

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 翌日、日本の自身の部屋で一泊したボクは、新世界で必要になりそうな本を集めていた。
 日本側の季節は夏。
 クーラーがあるといっても、換気のために窓を開けるだけで熱風にやられてしまう。
 
「取り合えず資料になりそうなものはこんなところか。日本も快適だけど、自分の場所もしっかり快適にしないとだめだよね」
 独り言を言いながら図鑑関連をまとめておく。
 この中には電気関係や冶金関係など、昔から興味があって購入した本が数多くある。
 なので、重い。

「運ぶのは、後にしよう……。あとは~……。う~ん、どうせならちょっと面白そうな本も探してみようかなぁ」
 今は世間でいえばちょうど夏休みに入ったころか。
 だとすると、ボクだけで出歩いても怒られないか?
 下手にゲームセンターとかに入ったりしなければ補導される心配もないかな?

「お母さ~ん、ちょっと本を見に行きたいんですけど」
 いつも通りならここで「行ってらっしゃい」とだけ言われるのだが、今日はなぜか「ちょっとまってね」と言って、一階の方でドタバタしている音が聞こえた。
 おや?

「遥ちゃん、黒髪に変化はできる? それと耳と尻尾も隠してね。あとはこっちの水色のワンピース着なさいな」
 お母さんはいつでも出掛けられる格好をしているが、今日はそれに加えて、今のボク用の服を用意して持ってきた。

「あ、ありがとうございます。ところで、その……」
 服を受け取りながらお母さんの恰好を見ていたら、ふと疑問が生じた。
 鞄を持っている。出掛けるのかな?

「これからお出掛けですか?」
 そうボクが問いかけると、何を言っているの?と言わんばかりの顔でこう言われた。

「遥ちゃんが出掛けるから、一緒に行くのよ?」
 なるほど、そういうことですか。

「ボクは一人でも出掛けられますけど?」
 そう言うと、お母さんは一緒に持っていた地域の回覧板をボクに見せながらこう言った。

「最近小学生の女子児童を狙った誘拐未遂があったそうよ? まだ犯人は見つかってないんですって」
 お母さんの目は真剣だ。

「それで、子供だけで遊んでる姿が見えないんですか?」
「そうよ。遥ちゃんも、今は女の子なんだからいつまでも昔のままじゃ駄目よ?」
「あ、えっと、はい……」
 どうやらボクが誘拐の対象になるのではないかと心配しているようだ。
 完全に否定できない自分が悔しい……。
 
 それからボクは黒髪に変化をして服を着替えてお母さんと一緒に街へと繰り出した。
 久しぶりに見た街は特に代わり映えもしない。
 出歩いている人は人間が多く、時々妖種がいるくらいだ。

 今まで気が付かなかったけど、この世界に妖種っていたんだ。
 ボクから見たら何の妖種かわかるのに、人間たちはそれに気が付いていない。
 こんな身近にファンタジーな生命体がいるのに、ファンタジーな生命体を求めて空想に耽るのだ。
 なんだか、すごく滑稽に思えた。
 同時に、ボクの見えていた範囲の狭さに気づかされてしまった。

「こんな世界があるなんて知りませんでした」
 空を見上げれば天狗が飛んで何かを配達しているし、猫の集まりに少女がいるなと思えば猫又だったりした。
 ボクたちの知らない場所で知らない間に、妖種はこうやってひっそりと活動していたのだ。
 何もかもが変わってから初めてそれを知った。

「妖種の子で仲良くなった子がいたら、一緒に新世界を開拓するのもありよ?」
 お母さんは微笑みながらそう教えてくれた。
 そうか、それもありなのか。
 
 それから本屋に立ち寄り、本を物色。
 使えそうな技術書とかを購入して、荷物はお母さんが持つという、なんとも不甲斐ない出来事も発生した。
 残念ながらこちらの世界では非力な少女のようだ。

「少しあそこのお店によって行きましょう」
 お母さんにそう言われ、ついていく。
 途中何人かの男性がしきりにボクを見てきたが、どうしたのだろう?
 何か変なところでもあっただろうか?
 そう思うものの、聞き返すのも変なので黙って歩いていた。

「ここで服を買いましょうか」
 そう言われて示された場所は、小中学生が多くいるいろんな服が置いてあるお店だった。
 
「うっ……」
 場違い感はあるものの、荷物をロッカーに預けたお母さんにくっついてお店に入る。
 店内はボクの見たことのないアイテムがこれでもかというほど飾られていた。
 いつもミレたちに任せているせいか、ボクはこの手のことはさっぱりわからない。

「遥ちゃんは慣れてないでしょうから、お母さんがやっちゃうわね~」
 そういうと、お母さんはボクの手を引いて店内を歩き始めた。

 店内には人間や妖種が入り混じって存在していた。
 いつからかはわからないけど、妖種はもうずっと人間に混じって暮らしているんだなというのが実感できる出来事だった。

「まさか日本の方がファンタジーだったなんて誰も思いませんよね」
 それもSFだ。

「それだけ巧妙にひっそりと紛れているのよ。もちろん、この世界にだって妖種だけの領域があるわよ? 今度そこに連れて行ってあげるわね」
「はい」
 どうやら、ボクの知らないことがまた一つ増えたようだった。
 
 性別が変わって種族も変わった。
 異世界に転移していろいろと冒険もした。
 神格を得て世界を作って、そこも開拓している最中だ。
 だというのに、最初からボクの足元にあった世界のことは何も知らなかった。
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