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第53話 朝起きたら尻尾が増えていた件

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 目が覚めた。
 ボクは起き上がると周囲を軽く確認する。
 雑魚寝をしていたり積み重なって寝ているフェアリーノームたちの姿を見るとなんとなく安心できた。
 いつも通りの光景だった。

「ふぅ。よかった。でもあの夢は……ん?」
 ボクが考え事をしていると、隣に寝ていたはずのミレが起きてボクの服の裾を食い杭と引っ張っていた。

「どうしたの?」
 ボクがそう問いかけると、ミレはボクのお尻を指さした。

「お尻? 尻尾かな? あれ!?」
 ボクの尻尾はプラチナブロンドの尻尾のほかにもう一尾、黒い尻尾が生えていた。
 いつの間に二尾に……?

「え、これっていつから? いや、あの後からか……」
 これはやっぱり夢の結果なのだろう。
 ということは、本当にボクの中にお婆様が?

「ど、どうしよう? やっぱりお母さんに話したほうが……? 隠しておくのも変だよね……」
 ここは報連相を大事にするべきかもしれない。

『お母さんお母さん、いますか?』
 朝早いかもしれないけどテレパシーで連絡だ。

『どうしたの? 遥ちゃん』
 お母さんはいつも通りに返事をしてくれた。
 少し安心できた気がする。

『えっと、葛葉お婆様の件なんですが……』
『お母様がどうかしたの?』
『夢の中で会いました』
『……。そう』
『お、驚かないんですか?』
『う~ん。不思議と驚くような気分じゃないのよね~。なんとなくそんな気がしたのよ』
 ボクの話を聞いたお母さんはただ平然としていた。

『行方を知っていたとか?』
『それは知らないわ。ただね? 遥ちゃんが生まれる1年前に姿を消しているの。もしかすると、遥ちゃんと一緒にいるんじゃないかって思って』
 それは確信というより迷信に近いものなんじゃないかと思う。
 孫の生まれるちょうど一年前に、祖父母のどちらかが亡くなる。
 そんな話をたまに聞くことがある。
 そういう時は『憑いているんだ』とか『生まれ変わった』とか言われることがあるらしい。
 
『お母様はなんて言ってたの?』
『えっと。ボクがお婆様の親友の生まれ変わりとか、分け身を覚えたら表に出てくることができるとか、新しい領域の作成をしてほしいとかです』
 ボクがそう答えると、お母さんは再び黙り込んでしまった。

『そう。分け身を覚えて表に出てきたら、遥ちゃんに異常が出たりはする?』
『いえ、双子のような状態になるだけだと』
 ニュアンス的には間違いない。

『わかったわ。じゃあまずは領域作成と分け身のほうに集中しなさい? 日本には帰ってきてもいいからやることはやるようにね』
『はい。えっと、お爺様には……?』
『お母様はお父様のことをなんて?』
『えっと……。あ、あほうと……』
『ふふ。なら伝えなくていいわ。そうね。その言い方は確かにお母様だわ』
 お母さんの声はどこか嬉しそうだった。

『お母様はね、お父様のことをあほうと呼んでいたの。だから確実に本人ね』
 どうやらお母さんにはそれだけでわかってしまったようだった。
 
『それにしてもやっぱりお母様はよくわからないわね。創造神であるお父様も敵わないくらいに強いし、神格を得てもわからないことばっかりだわ。いいえ、むしろ神格を得たからわからなくなったというべきかしらね……』
 こうしてボクはお母さんとの会話を終えた。
 やるべきことは明確だけど、あとはどうするかだよね。

「ふぅ。まぁ考えても仕方ないか。ミレ、みんなを起こしてお風呂に行こうか」
 そう呼びかけると、ミレは笑顔でうなずいた。

 そういえば、最近やっと今いる10人のフェアリーノームの名前を決めることができた。
 ミレ、ミカ、ミナのほかにアキ、セラ、エト、エル、ネム、ミラ、シーラという名前を付けることができたのだ。
 そんなフェアリーノームたちは、起きたばかりだというのに元気に露天風呂で遊んでいる。
 
 ミレとミカとミナはいつも通りボクの周りに侍っているし、アキはドリンクを作ったりしている。
 セラは食器を片づけたりしているし、エトは何か欲しいものがないかを確認して回っていた。
 別にここはレストランじゃないんだけどなぁ……。

 エルとネムとミラの三人はお風呂で泳いで遊んでいたので、現在飛んで行ったミレに怒られている。
 悪いのはあの三人なので仕方ない。

 と、そんなことを考えていると、ボクの目の前にシーラがやってきた。
 シーラは黒髪黒い瞳の美少女である。
 ボクから見ても大変可愛らしい女の子で結構好みなのだが、今は女の子なのでどうにもできない。
 たぶんクラスの男子だったら一発で引っかかるんじゃないかな?

「シーラ、どうしたの?」
 ボクがそう言うと、何かを言いたそうにしながらもじもじしている。
 どうしたんだろう? そう思っていると、ミカがボクの隣にやってきて膝に載せるようなジェスチャーを見せてきた。
 なるほど、そういうことですか。

「はい。シーラ、おいで」
 そう言ってもじもじするシーラの手を軽く引くと、シーラの体が簡単に動いた。
 そしてそのままボクの前まで持ってきて背中を向けさせる。

「シーラ、いいよ?」
 声をかけると、シーラはボクの膝の上に小さなお尻を載せ、そのまま太ももまでずりずり後ろに下がり、密着して止まった。
 
 軽く抱きしめて顔を見ると、何やらとろけたような何とも言えない顔をしているのが見えた。
 きっと甘えたかったんじゃないかなと思う。

「シーラ、楽しい?」
 シーラに問いかけると、シーラは恥ずかしそうにしながらコクンと頷くのだった。
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