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第72話 暮葉と黒奈と瑞奈と事件

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 ぐったりした黒奈を見ながら動画の編集をする。
 ついさっきまで瑞奈ちゃんと遊んでくれていたので、今はそっとしておいてあげよう。
 まぁ、その上には今も瑞奈ちゃんが乗っているわけだけど。

「なんだかんだで仲が良いよね。同じようにマイペースだし、結構気が合うのかも」
 実際黒奈と瑞奈ちゃんは途中からじゃれ合いに移行していた。
 
「気は合うかもしれない。あ、そうだ、暮葉~」
「うん~?」
 瑞奈ちゃんとまたじゃれ始めた黒奈がボクに声を掛けてきた。
 なんだろう?

「人間界の暮葉のいる地域あるじゃん」
「うん。黒奈も住んでるよね」
「うん。そこで小さい子の誘拐未遂があったって酒呑童子が言ってた」
「えっ? 危なくない?」
「危ない。暮葉、気を付けて」
「ボ、ボクは大丈夫だと思うけど……」
 黒奈はボクのことを小さい子だと思ってるのかな?
 似たような感じだったら黒奈も危なそうだけど。

「音もなくそっと近寄ってくるって話。注意喚起出てる」
「うん。わかった。瑞奈ちゃんが一番心配だなぁ」
「あらしは~、ら~じょ~ぶ~」
「あはは、言えてないから」
 黒奈にもみくちゃにされてきゃっきゃしてる瑞奈ちゃんはニコニコしながら大丈夫と言う。
 まぁ大丈夫じゃないんだけど。

「でも、うちの地域では珍しいね」
「うん。余所からの流れ者って話。しばらくGPS支給するって」
「みんなにも気を付けてもらわないとか」
「ん~、くれはちゃんがいちばんあぶな~い」
「ええええええ!?」
「ん。瑞奈偉い。その通り。撫でてあげる」
「きゃふ~」
 まさか瑞奈ちゃんに心配されるなんて思いもしなかった。
 え~? ボクそんなにだめそう?

「くれはちゃんはね~、うしろががらあきなの~。だからいつも~、しっぽにとつげきするの~」
「えぇ!? それでいつもボクのお尻に埋まってるの?」
「そー!」
 そういえば、瑞奈ちゃんに出会うとき、いつもボクのお尻に埋まってるんだよね。
 まさか狙われてたなんて……。

「くろなちゃ~ん、くるくるまわして~」
「めんどう」
「やってくれないと~、しっぽもふもふ~」
「そ、それはだめ」
 どうやら瑞奈ちゃん対黒奈は瑞奈ちゃんの勝ちのようだ。
 にしても、黒奈ってやっぱり面倒見がいい気がする。

「くろなちゃんもすき~」
「ありがと」
「くれはちゃんのつぎにすき~」
「2番目……」
 なんか黒奈が微妙にショックを受けてる?
 にしても、瑞奈ちゃんって結構コミュ力高いのかもしれない。
 下手したらボクよりも高いのでは??

「ぐぬぬ……」
 ついうっかり唸り声が漏れてしまった。

「暮葉が何かに敗北してる? 瑞奈の勝利?」
「え~? くれはちゃんにかった~? なんで~?」
「ま、まけてないし!!」
 そう、断じて負けてなどいないのだ。
 瑞奈ちゃんにコミュ力で負けてなどいないのだ……。

「お~っす、暮葉~。ってお前、なんでいじけてんだよ」
「なんだ。酒呑童子か」
「お、おう」
 ボクはいじけてなんかいないぞ。
 ところで、今日は酒呑童子が来る予定なんてあったっけ?

「酒呑童子、今日予定あったんじゃないの?」
「あー、それは終わったから大丈夫だ。ちょっと動画の撮影に行ってたんだよ」
「妖精郷シスターズの?」
「そうそう。早く終わったからこっち来たってわけよ」
 そうか、今日は撮影だったのか。
 あ、ついでだからさくらさんの話しちゃうか。
 
「なるほど。あ、そういえば稲荷区の子狐屋知ってるよね?」
「あ~、あそこか。うまいよな」
「そうそう。そこの看板娘のさくらさんいるでしょ?」
「おう。あの妖狐な」
「今度妖精郷シスターズで何かやってもらおうかなと思ってるんだけど、どう?」
「うん? まぁメンバーは多いほうがいいと思うから構わねえけど、了解とってあるのか?」
「一応話は通してるよ」
「ふむ」
 今日取材に行ったさくらさんの件を酒呑童子に相談することにした。
 人気は出ると思うし、売り上げにもつながりそうなんだよね。

「こっちはいつでもいいけどよ、無条件ってわけじゃねえんだろ?」
「うん。一応今日取材したときのインタビュー動画の影響力次第って言ってた」
 果たして、ボクのチャンネルを見て買いに行く妖種は増えるのだろうか。

「人間どもはいけねえから除外するとして。ん~、屋敷の連中にも動画観てもらうとかするか?」
「うん、なんだかんだ言ってみんな観てくれてるみたいだから、期待してもいいかも」
 この前知ったことだけど、ボクの放送は屋敷で大々的に放送されていたらしい。
 つまり、ボクがビビり散らかしてた放送も見られていたというわけだ。
 恥ずかしい……。

「んまぁわかったぜ。お、そうだ。今日の話、黒奈から聞いてるか?」
「ん? なんか事件があったんだって?」
「そうそう。んで、GPS持ってきたから見えない場所に取り付けておいてくれよ」
 酒呑童子はそう言って小さな円形の機械をボクに手渡した。

「今後どうするか聞いてる?」
「隠れ蓑使って烏天狗があっちでも巡回するらしいぞ。俺たちのシマを荒らしたんだ。報いはきっちり受けてもらうぜ」
「あ、あはは……」
 珍しく酒呑童子がお怒りだった。
 なんだかんだで街も結構好きだもんね。

「もしも暮葉たちに手を出したら、生きたまま地獄へ連れて行ってやるぜ」
「こわっ!?」
 酒呑童子さん、それ地味に怖いから!!
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