妖狐な少女は気ままにバーチャルゲーム配信がしたい

じゃくまる

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第51話 にゃーにゃー七海ちゃんと異世界探索2-思わぬ出会い-

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「ところでクロちゃん? なんで今日はずっと狐白ちゃんに抱き着いてるの?」
 カフェに移動している途中で七海ちゃんがクロにそう問いかける。
「最近会えてなかったから成分補給してる」
 と、めんどくさそうに七海ちゃんにそう答えるクロ。
 まぁ最近会えてなかったのは本当だけどね。
「うん? 会えてなかったって、どういうこと?」
 クロの答えを聞いて七海ちゃんが立ち止まる。
「あー、クロはテストで赤点取っちゃったんで、ここ最近ずっと補習授業やら復習やらをやらされてたんだよね。それで会えてなかったってわけ」
「なるほど。クロちゃんの自業自得ってわけか」
「そゆこと」
「むー」
 ボクと七海ちゃんの会話を聞いてクロがむくれる。
 この顔は何ばらしてんだって顔かな? まぁ悪いのはクロだから仕方ない。
「まぁまぁクロちゃん。そうむくれないの。あとでケーキおごってあげるからね~」
「なら許す」
 七海ちゃんによるご機嫌取り作戦は成功したようでなによりだ。
「それにしても、クロは時々甘えん坊になるよね。まぁ猫だからか」
「猫違う」
「えぇ? まぁたしかに、動物要素ってほとんどないし、先祖の猫又から考えればだいぶ人間に近くなったってのはわかるけど」
 ボクたち動物系の妖種は、世代を重ねるごとに猫っぽさや犬っぽさといった、動物らしさというのを失っていくそうだ。
 そのあとに残るのは、人間形態だけど狐や狐耳付きに変身できる妖力を持った妖種ということになるのだとか。
 まぁ先祖返りなどして強い妖力に目覚めたり、動物らしさを持ち合わせる場合もあるらしいから必ずしもなくなるというわけではないらしい。
 とはいうものの、妖狐族の狐らしさというのも特に思いつかない。
 しいて言うなら、猫みたいにいたずら好きだったりすることだろうか。
 まぁそんな動物の猫も長い間放っておくと寂しさが募り、しばらくは甘えん坊になることもあるので今のクロのような状態になるときもあるようだ。
 甘えてる時のクロはかわいいといえばかわいいんだけど、いかんせんボクよりも身長が高いので襲われてる感が否めない。
 大体十センチくらいの差があると思う。
「はいは~い、もう着いたから撮影再開するよー? セフィちゃんも苦笑してるしね」
「いえいえ、仲が良くて少しうらやましいな~と思っていただけです。普段はなかなかこうして絡む機会なんてありませんから。今、すっごく楽しいです」
「カメラマンもやってるのに?」
「はい! これも新鮮で楽しいですし、何よりカメラを通して見る狐白ちゃんたちは魅力に溢れていると思いました」
 七海ちゃんの問いかけにもボクの問いかけにもセフィは楽しそうに笑顔でそう答えた。
 普段、彼女が置かれている立場を考えればこれも楽しい思い出の一つなんだろうけど……。

「じゃあ撮影を再開するね~」
 移動の最中は撮影を止めていたが、目的のカフェテリアにたどり着いたため再開された。
 さっそくセフィが持つカメラの前に七海ちゃんが行き、カフェテリアを手のひらで指し示した。
「は~い。こちらが、ビフレスト内にあるカフェテリアの『カフェ・ド・アースガルズ』だよ。なんでここでも北欧神話の名称なんだろうね? 詳しいことはわからないけど、ビフレスト内の施設は北欧神話モチーフの名前がとても多いの」
 七海ちゃんが紹介している『カフェ・ド・アースガルズ』は白を基調とし、ところどころに金や銀の細工がされた清潔感のあるカフェテリアだ。
 武器防具が飾られていたり、片目のない初老の、おそらくオーディンと思われる男性の肖像画があったりする。
 なかなか出来のいいコンセプトカフェのように思えるこのカフェテリアには、美人なホールスタッフの女性がたくさん働いていた。
 そのせいか、客層は男性のほうがやや多めで、ちらちらとホールスタッフの女性を盗み見たりしていたりする。
 とはいえ、女性客も少ないわけではなく、男装した女性のホールスタッフの配膳を受けて、黄色い歓声を上げたりしていた。
「は~い。こちらは特にケーキの類がおいしいと評判なんだよ。スピカで有名なグルメ雑誌では、堂々の一位を獲得していたりするんだよ! すごいよね~」
 七海ちゃんはこのカフェテリアで一番おいしいと評判の食べ物について説明をしている。
 ボクもその情報を聞いて周囲を見回してみる。
 するとやはり、女性客の大半はケーキを注文しているということに気が付いた。
 なるほど、確かに人気なようだ。
 特に多いのはチーズケーキだろうか? スフレ、ベイクド、レア、そのあたりの注文が多いように見受けられた。
「特にチーズケーキ類が人気で、夕方くらいにはもう売り切れてしまうほどなんだとか。すごいよね」
 七海ちゃんの説明を聞いて、なるほどと納得した。
「では早速注文してみようか。みんなはどれにする? 私はスフレチーズケーキと紅茶のセットを」
「じゃあボクはレアチーズケーキと紅茶のセットで」
「ん、狐白と同じがいい」
「じゃあ私はあえてベイクドチーズケーキとコーヒーのセットにしてみます」
「わかったわ。注文いいですか?」
「はい。今お伺いいたします」
 ボクたちはそれぞれ違うチーズケーキを頼むことになった。
「えっと、これとこれとこれで、紅茶のセットが3つでコーヒーのセットが1つで」
「かしこまりました」
 注文を受けてくれているホールスタッフの女性が、注文を聞いてる途中にちらちらとボクのほうを見てきた。
 そんなに妖狐が珍しいのだろうか?
「それでは、すぐにお持ちいたします」
 しかし、そんなホールスタッフの女性も注文を聞き終えると一礼し、カウンターへと戻っていってしまう。
 結局何だったんだろうか。
「やー、今の女性、とっても美人だったね~。それじゃあここで一旦止めるね~」
 七海ちゃんがそういうとセフィはカメラを止めた。
「さて、お食事シーンは映せないから、一旦ここまでにしようか」
「お待たせいたしました。ご注文の品をお持ちいたしました」
「おぉ、はやい」
 ちょうどいいタイミングで先ほどの女性が大きなトレーに注文の品を載せて持ってきてくれた。
 きっとタイミングを見計らっていたのだろう。
 なかなかできる店員さんだ。
「あの、そちらの狐耳の方、少しでいいのでお時間をいただいてもよろしいでしょうか? あとはそちらの銀色の髪の方もご一緒に」
 すべての品をテーブルの上に載せ終わった後、先ほどの女性がボクとセフィにそう声をかけてきた。
 なんだろうか?
「えっと?」
「えぇ、構いません」
 ボクが困惑していると、セフィがちらりとボクを一瞥した後、簡潔にそう答えた。
「では、こちらに」
 そうして、案内されるまま、バックヤードと思しき所に案内された。

 中に入るとそこには、とてもカフェテリアとは思えない空間が広がっていた。
 純白の柱が左右に立ち並び、金糸の詩集がされた真っ赤な絨毯がまっすぐと伸びている。
 その先には純白の玉座のようなものと座る一人の男性。
 そして左右には甲冑を身にまとった女性たちが立ち並んでいた。
「あの、これは?」
「大変失礼いたしました。あちらにおわす御方が我らが主であるオーディン様です」
「えぇ!?」
 先ほどの女性がボクにそう説明する。
 オーディンといえば神様だよね!? なんで? どうして!?
「ではこちらへおいでください」
 案内されるがまま、ボクたちはオーディンと呼ばれた男性の前に進む。
 そして玉座に座る男性の前にたどり着くと、先ほどの女性は離れ、代わりに玉座に座る男性、オーディン様が話しかけてきた。
「アマテラスより話は伺っている。ようこそ、新たな管理者よ。そして久しいな、執行者セフィシス」
「あっ、えっ?」
「お久しぶりです、オーディン様。あちらの世界より去られ、こちらに完全に移住したと聞いたときも驚きましたが、まさかカフェテリアの店主をしているとは思いませんでした」
「ははは、其方がここに来たのははじめてであるからな。いや、驚かせられたのならよかった。して、そちらの新たな管理者が受け継ぎし忘れ形見か?」
「えぇ、その通りです。私のマスター、夕霧暮葉様です」
 ボクは置いてけぼりにされ、二人がどんどんと話を進めていってしまう。
 そして落ち着いたタイミングで、セフィはオーディン様にボクのことを紹介する。
「わっはっはっ、緊張しておるか。まぁそう固くなるな。元はアマテラスと同じ世界で神の一柱をしていたが、余はラグナロクのおり、一度死んだ身。もはやあちらでの神軍の長という立場にはない」
「あ、はい。えっと、死んだ身とは?」
 突然の話についていけないボクは、辛うじてそれだけ聞き返すことができた。
「なに、余は一度死に、そして其方の父の力により蘇ったというだけのことよ。そう固くなる、この世界では其方のほうが格が上よ。わっはっはっ」
 豪快に笑う元主神の男性であるオーディン様に、ボクは困惑していた。
 何がどうなってこうなっているのか、全くわからなかったからだ。
「まぁ、此度はあまり長いこと話せるわけではないからな。其方が改めて余を訪ねて来た折にでもじっくりと話そうぞ。さ、もう行くがよい」
「あの、えっと。ありがとう、ございました。そのうち、また来ますから、いろいろと教えてください」
 思考はまとまらなかったけど、辛うじてそれだけを言うことはできた。
 するとオーディン様は再び豪快に笑うとこう言った。
「楽しみにしておる。それと、初来店祝いだ。大したことではないが此度の料金は余が持とう。では、ゆっくり楽しまれよ」
「あ、ありがとうございました」
 こうしてボクたちとオーディン様の初邂逅は終わった。
 その後席に戻ったボクは、代金が無料になったことをみんなに伝えた。
 もちろん大喜びされたということも付け加えておこう。
 しかし、ボクたちの世界にいたという元主神に出会うことになるとは思わなかった。
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