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第20話 温泉と暮葉

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 温泉は素晴らしいものだ。 
 それはボクの小さな体でも十分に感じることが出来る。 
「はぁ、やっぱり温泉はいいよね~。うちにも欲しいよ」 
 現在は人化状態で湯船に浸かっている。 
 あとで妖化してから尻尾の手入れなどをしたいので、今はゆったり入ることを優先しているのだ。 
 妖狐の姿で入ってもいいのだが、景色のいい場所は人妖共用な上毛を付けることが禁止されているので、妖狐の姿だとビニールなどで尻尾を覆う必要があって面倒なのだ。 
 妖種用の浴槽は妖種が多い時は人気があって落ち着いて入れないし、困ったものである。 
 といっても、ボクたちの毛はほとんど抜けないので毛が浮かんだりすることはないので安心してほしい。 
 もし妖狐と一緒にお風呂入る機会があればぜひ思い出してほしいと思う。 
「それにしても、今日はゆっくりできるみたいだけど、明日はレッスンがあるからゆっくりできないんだよねぇ。はぁ、ついてない」 
 明日は午前中から舞の練習をしなければならないので少し忙しい。 
 あと何やら夢幻酔メンバーも一日だけ泊まりに来るらしく、彼女たちの温泉オフ配信の準備もあって周囲もバタバタすることになるみたいだ。 
 ちなみにメンバーだが、小毬ちゃんにラナ・マリンちゃんに睦月スバルちゃんが来るほか、新メンバーになる子も数名来るそうだ。 
 今回の新メンバーは人間の子も入っているらしく、夢幻酔としては初の人妖混成グループが生まれることになる。 
 まぁ見た目ではどっちかはわからないし、人間側が妖種の存在を認識しているわけではないので、ボクたちから見た事情でしかないんだけどね。 
 
「はふぅ。少し熱めのお湯も気持ちいいなぁ~」 
 ボクは考え事をしながら湯船を移動した。 
 今度のは温度が少し高い湯船だ。 
「ふにゃーーー!! あっつい!!」 
 ボクが湯船でのんびりしていると、近くから黒奈の叫び声が聞こえてきた。 
 どうやら苦手なくせに熱めのお湯に入ってしまったようだ。 
「黒奈~、無理したらダメだよ? ボクはこういうの好きだから問題ないけど、黒奈は慣れてないでしょう?」 
 ボクは少し離れた場所にいる黒奈にそう声をかけた。 
 いつもボクにくっついてくる黒奈だが、お風呂の時は距離を取りたいらしくひっそりと隅っこに入っている。 
 黒奈に理由を聞いたら「のんびりのびのびするときは一人に限る。誰かが近くにいると緊張しちゃってリラックスできない」と言っていた。 
 ちなみに酒吞童子たちは露天風呂の方でのんびりしている。 
 本当はお酒が欲しいそうだが今は一応高校生という立場なのでアルコール度数の高い飲み物は出すことが出来ない。 
 代わりに甘酒を頼んでいたので問題ないだろう。 
 この前酒吞童子がボクの家で飲んだのはお神酒ではあるけどちゃんとしたものではなく、中身は甘酒となっている。 
 それでも一度奉納された物なので酒吞童子が飲むと悪酔いしてしまうのだ。 
 本当は日本酒なのだが、相談した結果甘酒でも構わんだろうと言われたので甘酒にしたものだ。 
 今回は奉納していないので普通の甘酒である。 
 
「やっと準備終わりました~」 
「お疲れ様、雫ちゃん」 
 お手伝い組のうち真っ先に浴場にやってきたのは雫ちゃんだった。 
 白狼の狗賓である雫ちゃんも今は人化しているので狼耳は生えていない。 
 大変残念だ。 
「ありがとうございます! 暮葉様も明日は頑張ってください」 
 雫ちゃんはボクにそう言うと、真っ先に体を洗いに行く。 
 ボクもすでに洗ってはいるけど上がるときに軽く洗いなおしておいたほうがいいかもしれない。 
「無事に全部終了ですね。さて夕食までゆっくりしましょうか」 
 続いて入ってきたのはみなもちゃんだ。 
 彼女も人化しているので今は人間の姿と変わらない。 
 とはいえみなもちゃんや黒奈は人妖どちらの姿もあまり大差はないので特筆すべきことはないかな? 
「みなもちゃんお疲れ様」 
「暮葉も明日頑張ってね」 
 浴場に入ってきたみなもちゃんはボクの声掛けにそう応えると体を洗いに洗い場へと向かっていった。 
 姉様たちは後で入るそうなので岩盤浴で寝ながらリラックスしているスクナを含めて全員が浴場に来たことになる。 
  
「ふぃ~。よしっと。ちょっと尻尾も温めないと。尻尾浴尻尾浴~」 
 ボクはお湯から上がると体を休めつつ妖狐に変化して尻尾専用の浴槽に向かった。 
 尻尾浴用の浴槽は足湯みたいなものをイメージしてくれるといいと思う。 
 座った状態で尻尾を各種薬湯の入った浴槽に垂らしておくと、尻尾の毛並みがよくなるのだ。 
 さらにリラックス効果もあるので見つけたら必ず行ったほうがいい。 
 これはボクの超おすすめだ。 
 
「あぁ~、尻尾が気持ちいい。これは家に欲しい」 
 尻尾を薬湯に垂らしているだけなのにじんわりと腰から暖かくなってきて気持ちい。 
 この感覚は人間にはわからないだろうからとってももったいないと思う。 
 ちなみに、天狗族用に羽根を癒すための浴槽やサウナもあるので天狗族にはそちらがおすすめだ。 
「暮葉、ここにいたの?」 
「暮葉様、浴槽のほうにいないと思ったらここでしたか」 
「およ? みなもちゃんに雫ちゃん。どうしたの?」 
 ボクが尻尾浴でまったりしているとみなもちゃんと雫ちゃんがこっちにやってきた。 
 羽根浴でもするのかな? 
「私たちはこれから羽根浴をしようかなって。暮葉と同じ理由だよ」 
「ですです。前に稲穂様に連れてきてもらったことあるのですが、羽根をリフレッシュさせるのはと~っても気持ちいいんですよ。あとで私も尻尾浴しますけどね」 
 そう言う雫ちゃんは嬉しそうに白い羽根をパタパタさせていた。 
 そういえば雫ちゃんは尻尾もあるんだっけ。 
 一度で二度おいしいというか一人で二つ楽しめるのか。 
 羨ましい!! 
 ボクは思わず雫ちゃんに嫉妬してしまった。 
 まさか狗賓はこんなところでお得になるなんて思いもしなかったからだ。 
「暮葉どうしたの? 変な顔して」 
「ぐぬぬ~」 
「なんだかよくわかりませんけど、ぐぬってる暮葉様も可愛いです!」 
 狗賓という存在に嫉妬しているボクに気づくこともなく、みなもちゃんと雫ちゃんは微笑ましそうにボクを眺めていた。 
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