妖狐な少女は気ままにバーチャルゲーム配信がしたい

じゃくまる

文字の大きさ
上 下
16 / 74

第15話 サメゲームと漂流する狐白

しおりを挟む
 ここ最近悩み事が増えてしまったけど、今日は気を取り直してゲームプレイ配信をしようと思う。 
 本来、ボクのチャンネルでは歌とか踊りみたいな疑似アイドル要素は考えていなかった。 
 だからというわけじゃないけど、友達がやろう! って言わない限りはボクからそういう配信をすることはできるだけ控えたいと思っている。 
 だってそもそもこのチャンネルは『真白狐白のまったりゲームチャンネル 』であって『真白狐白のアイドルチャンネル』ではないのだ。 
 主目的から外れた配信ばかりしていては意味がないと思うのだ。 
「今日プレイするのはこれにしよう。でも映像は地味になるよね。仕方ないか」 
 選んだのはあの蒸気先輩で売られているあのサバイバルサメゲーム。 
 中々アップデートしない上に地味と名高いけれど、なんだかんだで時間を使って遊んでしまうゲームだ。 
 
『真白狐白のまったりゲームチャンネル 』 
「は~い、こんにちわ~。真白狐白のまったりゲームチャンネルへようこそ~。今日はローテンションでいっちゃうよ~」 
 ボクの配信はデフォルトの挨拶を設定していないので、その時の気分で挨拶が変わる。 
『狐白ちゃんこんばんわ~』 
『うぽつ~』 
『うぽうです!』 
『うぽつやで~』 
『うぽつ!』 
 さっそく視聴者の皆が挨拶を返してくれる。 
 配信者にとってはこの一言だけでもうれしいものだ。 
 普通の動画配信でもこのコメントが貰えるだけでやる気が沸いてくる。 
 評価云々は後で付いてくるからそこまで気にしたりはしないけどね。 
 
「今日は蒸気先輩で売られているB級映画みたいなあのゲームをやるよ。サバイバルサメゲームだ!」 
『まじか、あれか』 
『サメに食べられる子狐はよ』 
『まな板の上の狐白ちゃん』 
『あのサメゲームって? そんなのあったっけ?』 
 さすがにB級ゲーム。知らない人もいるようだ。 
 あのサンドボックスゲームは知らない人はあまりいないのにこの違いだ。 
 まぁ蒸気先輩にはアーリーアクセスゲームも多いから当然と言えば当然かもしれない。 
「知らない人は見てのお楽しみ! きっとがっかりすること請け合いだよ」 
 ボクはそう言うとさっそくゲームプレイを開始した。 
 
 最初はちょっとしたオープニングシーンだ。 
 簡単に言うと、なぜこうなったのかを説明している。 
 なので、スキップだ。 
「はーい、オープニングはとばしま~す。ばいば~い」 
 場所はあっという間に海の上。 
 きっと凄惨な出来事があったに違いないがボクは無慈悲に飛ばしたのだ。 
 足元は木の板一枚、手にはフック付きロープとご飯と水だ。 
「丸太に捕まっている光景は映画とかでよく見るけど、こうも器用に木の板の上にバランスよく立っているのはなかなかないよねぇ」 
『草』 
『草』 
『よくこんな板が沈まずに浮いてるな』 
『絶対沈んでやらないという強い意志を板から感じる』 
 
 みんなが指摘する通り、どう考えても沈むであろう木の板の上にボクの操る主人公は立っていた。 
 最初に見えた腕とかから察するに成人男性であるはずだ。 
 この板、思ったよりも頑丈だ。 
 
「んで、このフックをこう操って、樽とかの漂流物にひっかけると」 
 距離を決めて高さを決めていざ投擲! ひゅんっと飛んでいき、かつんと樽に当たり引っかかる。 
「うんしょ、うんしょ。こうやって引っ張っていって、ほら回収できた」 
 拾得物は木の板や鉄くず、土や種といったものだった。 
 なぜ土と種。 
「で、これを使ってなぜか作れる木づちにするっと」 
 クラフト画面を開いて木づちをクリックして作成する。 
 すると魔法のように普通の木づちが現れた。 
「何もないところからなんと木づちが! チートだよね~」 
 ゲームの世界は非常に便利だと思う。 
 続けてこの木づちを使って土地というか足場を拡張する。 
「それでこれを使ってフロアを選択して海面に合わせると足場が拡張できるっと」 
 トンカントンカン音が鳴ると足場の板が一枚増えていく。 
「こういうのもなんだけど、すごくシュールだよね~。漂流する板が一枚増えていくだけってのは」 
『どんどん拡張していこう』 
『ひたすら安定しない板を増やしていくだけのシュールな光景』 
『サメまだですか?』 
『悲鳴まだですか?』 
『悲鳴全裸待機』 
「悲鳴を上げる予定ないはず!」 
 視聴者の皆には悪いけど、悲鳴を上げる予定はなかったと思う。 
 堂々とクラフトをして乗り切っていく姿を見せて絶望させてあげようじゃないか。 
 
 次々と漂流物を獲得していくとレベルが上がって作れるものが増え始めた。 
 新制作物である水を作る装置と食べ物を焼く装置の二つを早速作って設置する。 
 どうやって金属の鍋を作ったんだろうか。 
 何かを作るごとにボクはツッコまずにはいられなかった。 
「鉄くずから鉄の網や鍋、ボールができる不思議! 一体どこで作ったの!?」 
 ゲームの世界は不思議でいっぱいだ。 
『太陽光で焙って作った』 
『手で擦って作ってる』 
『たまたま鍋が流れてきた』 
『実は魔法を使ってる』 
『チートだ!』 
 抜粋だけでもこんな感じのコメントを見ることが出来た。 
 でもそんなに見てる暇はない。 
 目を離した隙にどんどん漂流物が流れていく。 
「あわわわわ、急がないと」 
 そんなことを言いながらあたふた回収しているとサメが開放されてしまった。 
『サメきたあああああ』 
『サーメサーメ』 
 サメの登場でにわかに盛り上がりを見せ始めるコメント欄。 
「君たちそんなにサメ好きなの? ふかひれでも食べたいの?」 
 なぜそんなにサメに期待しているのか。 
 ボクがサメに襲われると思っているならそれは大間違いというものだ。 
 なぜならどんどん足場を拡張するし武器を作って撃退するからだ。 
 視聴者の皆の期待を、ボクは裏切る!! 
 
 そう決意してから流れていく漂流物を回収し始めた。 
 いくつかはフックを投げないとだめだけど、そのほかは手で拾える位置を流れていく。 
「お~、結構近くを流れてる。これなら拾える」 
 さくさくっと急ぎつつも漂流物を回収していく。 
 それでも間に合わず少しずつ離れていく物もあったので、少し移動してから拾得を試みる。 
「にゃ!?」 
 拾おうと思って動いた瞬間、水の中にいた。 
『落ちた!』 
『にゃだって、猫かよ』 
『狐白ちゃん、狐だから! 猫じゃないから!』 
『にゃ、かわいい』 
『サメきたぞー』 
「あわ、あわわわ、ど、どうやって上がるんだろ……」 
 刻一刻と迫ってくるサメ、点滅して知らせる襲撃マーク。 
 焦ったボクはすぐに上がることはできなかった。 
「ぴぃぃぃ、まってまってまって!? ええと、あ、できた!」 
 必死に板へとジャンプを試み、なんとか上がることができた。 
 間一髪だった。 
『悲鳴助かる』 
『最近いつも悲鳴あげてね?』 
『狐白ちゃんの悲鳴いいわ~』 
『もう少しでサメのご飯になるところだったね』 
「サメのお腹の中で生活したくはありません……」 
 まさか落ちるとは思わなかった。 
 焦りに焦りまくってまともな操作が出来なかった挙句、もう少しでサメのお腹の中にINするところだった。 
 正直怖かった。 
『よ~しよしよしよし、いい子だね~』 
『怖くないよ!』 
『ほら、サメはもう行ったよ』 
『震え声配信おいしいです』 
 皆が優しいけど、ゲームとはいえど襲われるのは怖かった。 
 このゲームを甘く見てました、ごめんなさい。 
 
「こほん。気を取り直して作業を続けますよ」 
 ちょっとだけ取り繕いつつ作業を再開していく。 
 少しずつ拡張していると、インベントリ内に銃のようなものと弾のようなものが見えた。 
「これなんだろ? 銃みたいだし遠距離攻撃武器?」 
 幸い弾は二発ある。 
 試すか? 
『それ救助用の信号弾だね。船や飛行機に自分の位置を知らせてアピールできるよ』 
 ふとそんなコメントが目に入った。 
 信号弾。 
 救助用? つまり脱出できる? 
「おぉ~、ということはこれでクリアなのね! やったね!!」 
 嬉しくなったボクはコメントを見ることを忘れ、銃を手に取り弾を装填し、画面をじっとよく見てみた。 
 すると何やら遠くに飛んでいるものが見え始めてきた。 
『お、飛行機やんけ』 
『もう少ししたら撃って』 
『良いものくれるよ』 
「ふむ? とりあえず撃ってみるよ」 
 皆のコメントを信じてボクは銃を撃つ。 
 ターンという音が響き、赤い玉が昇る。 
 画面の一部が赤く点滅し、飛行機に何かを知らせているようだ。 
 さぁ、ボクを漂流から助けるのだ!! 
 そう思って見守っていると飛行機は何事もなかったかのように通り過ぎていく。 
「あれ? 救助は? クリアは?」 
『ないよ』 
『物資投下してくれる』 
『ゲームは続く』 
「へっ? 何で救助じゃなくて物資投下なの!? このまま漂流つづけてね~、じゃあね~!ってことなの!?」 
『yes』 
『正解』 
『このゲームは永遠に漂流するかいつか実装される島で鳥と戦い続けるものです』 
「そんな~……」 
 コメントの内容は辛らつだった。 
 そしてゲーム内容も残酷だった。 
 永遠に漂流し続けるだけとか、辛いです。 
 
 こうして配信時間が終了し、今日の放送を終えたのだった。 
 救助される、クリアだ! と一瞬喜んでいたボクの気持ちを返してほしい。 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

奇妙な日常

廣瀬純一
大衆娯楽
新婚夫婦の体が入れ替わる話

(学園 + アイドル ÷ 未成年)× オッサン ≠ いちゃらぶ生活

まみ夜
キャラ文芸
年の差ラブコメ X 学園モノ X オッサン頭脳 様々な分野の専門家、様々な年齢を集め、それぞれ一芸をもっている学生が講師も務めて教え合う教育特区の学園へ出向した五十歳オッサンが、十七歳現役アイドルと同級生に。 子役出身の女優、芸能事務所社長、元セクシー女優なども登場し、学園の日常はハーレム展開? 第二巻は、ホラー風味です。 【ご注意ください】 ※物語のキーワードとして、摂食障害が出てきます ※ヒロインの少女には、ストーカー気質があります ※主人公はいい年してるくせに、ぐちぐち悩みます 【連載中】は、短時間で読めるように短い文節ごとでの公開になります。 (お気に入り登録いただけると通知が行き、便利かもです) その後、誤字脱字修正や辻褄合わせが行われて、合成された1話分にタイトルをつけ再公開されます。 (その前に、仮まとめ版が出る場合もある、かも、しれない、可能性) 物語の細部は連載時と変わることが多いので、二度読むのが通です。 表紙イラストはAI作成です。 (セミロング女性アイドルが彼氏の腕を抱く 茶色ブレザー制服 アニメ) 題名が「(同級生+アイドル÷未成年)×オッサン≠いちゃらぶ」から変更されております

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

如月さんは なびかない。~片想い中のクラスで一番の美少女から、急に何故か告白された件~

八木崎(やぎさき)
恋愛
「ねぇ……私と、付き合って」  ある日、クラスで一番可愛い女子生徒である如月心奏に唐突に告白をされ、彼女と付き合う事になった同じクラスの平凡な高校生男子、立花蓮。  蓮は初めて出来た彼女の存在に浮かれる―――なんて事は無く、心奏から思いも寄らない頼み事をされて、それを受ける事になるのであった。  これは不器用で未熟な2人が成長をしていく物語である。彼ら彼女らの歩む物語を是非ともご覧ください。  一緒にいたい、でも近づきたくない―――臆病で内向的な少年と、偏屈で変わり者な少女との恋愛模様を描く、そんな青春物語です。

処理中です...