女神運営☆異世界転生斡旋所〈とりっぷ〉

緋色刹那

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所長代理編 第四話「コウノトリ殺し」

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 斡旋所のテーブルに、無数の位牌いはいが並んでいる。
 各社の運転手たちは位牌の前でひざまずき、祈りを捧げた。

〈コウノ・トリタ 享年?歳〉

「トリタ、いいやつだったにゃ」

 涙ぐむクローネに、コウノトリタクシーの運転手=トリオもうなずく。

「そうだね。いいやつだった」


〈コウノ・トリヤ 享年?歳〉

「トリヤ、いいやつだったにゃ」

 再び涙ぐむクローネに、トリオも再びうなずく。

「そうだね。いいやつだった」


〈コウノ・トリニク 享年?歳〉

〈コウノ・トリムネニク 享年?歳〉

〈コウノ・トリノテバモト 享年?歳〉

「トリニク、トリムネニク、トリノテバモト……いいやつらだったにゃ」

 三たび涙ぐむクローネに、トリオも三たびうなずく。

「そうだね。いいやつらだった」

 ぐぅぅ~。

 その時、閻鳩タクシーの運転手=ハトヤマ・Fの腹が鳴った。

「なんか、お腹減ってきちゃったなァ」

 火車タクシーの運転手=猫目カヱンも、「ジュルリ」とヨダレを垂らす。

「そんにゃに腹空いとるんにゃったら、出前でも頼みゃあ」

 と、三毛猫ファッションの女子高生が、出前のメニューを差し出した。


〈ヤキトリ 三〇〇冥界円〉

〈チキンピラフ 四五〇冥界円〉

〈タンドリーチキン 六六六冥界円〉


「ドレする?」

「ヤキトリは外せにゃいよね」

「手羽先はにゃあの?」

「鳥が鳥食べていいのかなぁ?」

「いいんじゃね? 俺たち、人型だし」

「そっかー」

 運転手たちは故人を弔うのも忘れ、出前のメニューに夢中になる。
 そこへ、奥のキッチンから平凡仙人が戻ってきた。

「……どういう集まりだ、こりゃ?」

 運転手たちは一斉に振り返る。
 机に突っ伏して眠っていたヘカテーも、仮眠から目覚め、驚いていた。

「あ、あなたたち、何をしているのですか?! ここは居酒屋ではありませんよ!」
 
「にゃにって、オソージキ。コーノトリの運転手たちが、どえにゃあ亡くなってまったでにゃ。ついでに、ききたいこともあったし」

「オソージキじゃにゃくて、お葬式にゃ。オソージキは、ソージに使うウルセェやつ」

「送辞? 答辞?」

「にゃんで、そっちは分かるのヨ?」

 言い間違いをにゃーにゃー指摘し合う猫たちを放置し、トリオが平凡仙人にたずねた。

「突然押しかけてすみません。こちらにコウノ・トリササミは来ていませんか?」

「いや、今日はまだ来ていないが」

「……そうですか」

「マブカ……コウノ・トリササミに何かあったのか?」

 ハトヤマはニマニマと笑う。

「彼、容疑者なんですよ。コウノトリ殺しの」

「? お前たち運転手は不死身なんじゃないのか?」

「人間よりは丈夫ですが、死ぬ方法はいくつかございます。中でも今回は、最も悲惨な殺され方をしました」

 ハトヤマは腰にさげていた銃を抜き、平凡仙人に見せた。

 途端に、トリオが「ひッ!」と情けない悲鳴を上げ、カウンターの奥へ逃げ込む。ヘカテーもカウンターに身を潜め、杖をかまえる。
 猫たちも静まる。瞳孔を細め、ジッと銃を見つめた。女子高生にいたっては、炎をまとっている危なっかしい日本刀をかまえている。

 どの異世界でも見たことがない、毒々しい色合いの拳銃だった。上半分が溶けかけ、苦悶に満ちた人の顔がいくつも浮かび上がっているように見える。
 まるで、それらの顔ひとつひとつが生きているかのように、銃は時折「オォォォ……」とうめいていた。実際、平凡仙人は銃から強い怨念を感じた。

「そんな警戒しないでよー。俺って、そこまで信用ない? だいたいコレ、ハデス様が悪ふざけに作ったレプリカだし」

「おみゃーに限らず、今は誰も信用できにゃあて。えーから、にゃっと片付けて」

「にゃっ」

「マネすんにゃ」

 ハトヤマは猫の鳴きマネをしながら、銃をしまう。
 「早く」という意味の方言「ちゃっと」が、さらに訛って「にゃっと」になったのだが、誰も気づいていなかった。そして気づかなくても、誰も困らなかった。

「レプリカとはいえ、ずいぶん不気味な銃だったな」

亡者怨嗟銃ヘルズスクリームと呼ばれております。地獄へ転生した人間どもの無念が弾丸にこめられておりまして、撃たれた相手は彼らと同じ苦しみを追体験させられます。効果は種族差があり、中でも人間の無念に免疫のないコウノトリは即死します。
 本来、暴走した運転手に罰を与えるために使用するのですが、今回は正常だったコウノトリタクシーの運転手が数名と、彼らが運転するタクシーに乗っていた転生者に使用されました」

「それで"コウノトリ殺し"、か。撃たれた転生者はどうなった?」

「それを調べていただきたく、こちらへ参ったしだいです。ちなみに、ハデス様は『うちには来てないよん』とおっしゃっておりました。ついでに、撃った運転手にも事情聴取をと」

「ミーも運んでいませんヨン」

 カヱンがハデスをまね、答える。
 
「お前たちもか?」

 他の三人はうなずいた。

「猫缶ボーナスにあげるからって、上司に頼まれたにゃ。亡者怨嗟銃が悪用されたにゃんて、他人事じゃにゃいからにゃ」

「僕も上司に言われて、トリササミを探していたんです。連絡がつかないので、もしかしたら斡旋所にいるかもと思って、ここへ。彼、変わり者でしたから」

「トリササミには、人生トレーダーとつながっとる疑いがあるんにゃて。異世界コーディネーターだの異世界ワーク紹介所だの、怪しい業者の名刺も配っとったみたいにゃし。コウノトリ殺しも、人生トレーダーの指示かもしにゃん」

「とにかく、マブカが撃った転生者の現在を調べればいいんだな?」

 ところで、と平凡仙人はハトヤマと「専門家」を指差した。

「お前ら、誰? 会ったことないんだけど」

「でしょうね。俺はハデス様の斡旋所と地獄から出たことがありませんから。
 ヘカテー様はご存知でしょう? 転生者を地獄へ送る閻鳩タクシーの運転手、ハトヤマ・Fと申します。好きな食べ物はトリの唐揚げです」

「えぇ、地獄ではお世話になりました。ですが、そちらの彼女は私も存じ上げません」

 ヘカテーは女子高生をうさんくさそうに見る。
 他の運転手たちも首を傾げた。

「そういえば、僕も知らないです」

「にゃたしも」

「ミーも」

「俺も」

 女子高生は「仕方にゃーわ」と肩をすくめた。

「あーしは悪魔退治専門商社・ミケエル社の三日月ミカヅキミシェルいうんだで。悪魔を追って、異世界から異世界へ飛び回っとるから、こうして顔を合わせることはまれにゃんだわ。最近は人生トレーダーを追っとるんだで」

「アンタが『専門家』だったのか。いろいろと、クセが強いな」

「よう言われるにゃ」


     ☆


 平凡仙人は亡者怨嗟銃で撃たれた転生者の「その後」を調べた。
 直近の被害者は、亀追カネヲと濱雪マユコという男女の転生者だった。「自分たちの子供をスターに育て上げたい」と望んでいたが、転生後はどちらも出会ってすらおらず、家に引きこもっていた。

「おかしい。こっちが嫌になるほど、あんなにやる気に満ちあふれていたのに」

「他の転生者も同様です。常に何かに怯え、苦しんでいます。転生ポイントも低下……この分では、来世は地獄行きもありえます。誰も地獄に転生していないのに、なぜこんなこと状態に……?」

 ふと、平凡仙人は被害者のリストに既視感を抱いた。
 前にも同じリストを見たことがある気がする。しかも、別のリストとして。

(いつだ? 誰の接客をしているときに見た? たしか、ヘカテーはまだいなかったはず)

 記憶を探るうちに、ある転生者の言葉が頭の中に浮かんだ。

『私、リセットする前にやりたいことができました。あなたのおかげです、所長代理さん』

 その瞬間、平凡仙人は完全に思い出した……このリストのもう一つの意味を。
 そしてマブカが彼らを撃った理由と、ある恐ろしい可能性について。

「……みゆみゆ」

「みゆみゆ?」

 ヘカテーは訝しげに眉をひそめる。
 平凡仙人はいたって真剣に、答えた。

「俺が所長代理になって、初めて接客した転生者だ。本名、濱雪マユミ。俺が人間だった頃、大ファンだった声優だよ」

「その彼女と被害者のリストに、どんな関係が?」

「関係ならあるさ。俺はみゆみゆを接客したときにも、コレと全く同じリストを見た。コイツらは全員、みゆみゆから連中なんだよ」

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