女神運営☆異世界転生斡旋所〈とりっぷ〉

緋色刹那

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所長代理編 第三話「暗殺騎士〈Lv999の騎士(ナイト)が、非合法職の暗殺者(アサシン)Lv1に強制ジョブチェンジ?!〉」

オマケ:神様志望その③「愛情、恋情、ときどき怨讐」選択肢②〈アイニー&ピヤールの場合〉

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 選ばれたのは、緑茶だった。フタの裏に②とある。
 数字を見て、転生者の女性は嬉しそうに微笑んだ。

「良かった。最初に選んだ、②片田舎で、のんびり雑貨屋よ。私たちにぴったり」

 転生者の男性は複雑そうにうなずく。

「あ、あぁ。そうだな」

「? 何か不満なの?」

「いや、別に……」

「それじゃあ、行きましょうか。運転手さん、お待たせしてごめんなさいね」

 女性の名は、アイニー・ウォン。
 男性の名は、ピヤール・ウォン。
 アジア系の老夫婦だ。

 十代で見合い結婚し、死ぬまで添い遂げた。来世でも夫婦になりたい、と希望している。
 彼らの「ちょっとした罪」というのは、横断歩道の信号を無視し、渡ろうとしたことである。結局渡りきれず、そろってトラックにはねられ、死亡した。

 アイニーはマブカともう一人の運転手を連れ、斡旋所を出て行く。
 ピヤールもついて行くかと思いきや、

「所長さん、ちょっといいかな?」

 平凡仙人に近づき、小声で話しかけてきた。

「何か?」

「少し、人生プランを変えたいんだ。アイニーには秘密で」

「かまわないが、奥さんはアンタが書いた内容を知っているんだろう? いずれバレるんじゃないか?」

「大丈夫。気づいたときには、だからさ」

 一度受理したアンケートでも、書いた本人に限り、出発直前まで修正できる。
 ピヤールは平凡仙人からアンケートと赤ペンを受け取ると、たった二ヶ所だけ修正した。アイニーに気づかれないよう、斡旋所の出入り口を背にして、書いた。

「ピヤール、何をしているの! そろそろ出発するわよー!」

「あ、あぁ! 今行くよ!」

 ピヤールは修正したアンケートを平凡仙人に渡し、コウノトリタクシーに乗り込んだ。
 アイニーがもう一台のタクシーから、ピヤールに笑顔で手を振る。ピヤールもぎこちない笑顔で、アイニーに手を振り返した。

 ピヤールを乗せたタクシーが先行し、二台のタクシーは走り去った。

「穏やかで、仲睦まじい夫婦でしたね」

「さて、どうだろうな?」

 平凡仙人はフタを開けた緑茶を、ズズズと苦そうに飲み干した。


     ☆


 アイニーはファンタジー系MMORPG〈フリーダムファンタジーキングダム(通称:FFK)〉の世界の、村娘に転生した。
 FFKは夫婦共通の趣味で、生前はピヤールと二人で冒険に出たり、店を経営したりしていた。来世でも「現実」として、FFKの世界をピヤールと生きる予定だった。

 だが、幼なじみとして転生しているはずのピヤールは、村のどこにもいなかった。お互い「前世見通し眼」を持っているので、いたらすぐに気づくはずだ。
 にもかかわらず、アイニーが生まれて一年経っても、五年経っても、十年経っても、二十年経っても……ピヤールは現れなかった。

「ピヤール、どうしたのかしら? 何かトラブルに巻き込まれたんじゃ……」

 しかし街へ出て、そんな心配は必要なかったと知った。
 ピヤールは街で、見知らぬ女性と親しげに歩いていた。女性の前世を見たが、全く知らない人だった。

「ちょっと、ピヤール! 誰よ、その女は!」

 アイニーが呼びかけると、ピヤールは女性を連れて逃げようとした。
 アイニーはすぐさまピヤールへ駆け寄り、彼の胸ぐらをつかんだ。

「き、君こそ誰だい? 彼女は俺の婚約者だけど?」

 あきらかに、目が泳いでいる。
 アイニーは「とぼけないで!」とピヤールを怒鳴りつけた。

「あなたも、前世が見える目を手に入れていたじゃないの! 本当は何もかも分かった上で、その女に乗り換えたんでしょう?! 妻は私なのに……ひどい!」

 アイニーの勘は正しかった。

 ピヤールは来世でもアイニーと夫婦になる気など、さらさらなかった。
 別に、アイニーを嫌いになったわけではない。ただ、新しく恋がしたかった。

 だが、正直に言っても、アイニーは納得してくれなかっただろう。
 アイニーは、自分が夫を愛しているように、ピヤールも自分を愛してくれていると思い込んでいた。

 そこで、ピヤールは斡旋所を出発する直前、平凡仙人に頼み、アンケートの

『アイニーと再会するのは、物心がついてから。その後、アイニーと結ばれる』

 という部分を、

『アイニーと再会するのは、別の女性と婚約してから。その後、アイニーとは結ばれない』

 と修正した。
 新しい相手ができたあとで説明するつもりだったが、怒鳴るアイニーに、ピヤールも思わず逆ギレした。

「しつこいな! お前とはもう終わったんだよ! もう俺にかまわないでくれ!」

 アイニーを突き飛ばし、婚約者の女性とともに走り去る。
 女性は終始、とまどっていた。

「知り合い?」

「今は他人だよ。気にしなくていい」

 アイニーは道の真ん中で、呆然と立ち尽くす。
 ピヤールと女性が立ち去って、しばらく経った頃、

「ロミー! 前に、人が!」

「お嬢ちゃん、危ない!」

 世界観を無視した、真っ赤なオープンカーに轢かれ、アイニーは死んだ。


     ☆


 ピヤールがアイニーと再会した、翌年。
 ピヤールと婚約者の女性は結婚し、一人娘を授かった。

 あれ以来、アイニーとは会っていない。アンケートどおり、穏やかで幸せな日々を送っている。
 てっきり、家に押しかけてくるとばかり思っていたので、少し拍子抜けだった。

 だが、ピヤールの妻・サランには悩みがあった。
 娘のイェウがピヤールにベッタリで、サランには全く懐かないのだ。今年で五歳になるが、物心つく前からずっとだ。

 その上、イェウはピヤールにもサランにも、顔が似ていなかった。
 強いていえば、ピヤールの妻を名乗っていた女性に似ている。調べたところ、あの女性は不幸な事故で亡くなっていた。

(きっと、イェウはあの女性の生まれ変わりなんだわ。ピヤールを奪った私を恨んでいるに違いない)

 しだいにサランは鬱になり、イェウを避けるようになった。
 ついには、「娘が私を殺そうとしている」と妄想にとらわれ、イェウを呪い殺そうとした。さいわい、儀式の途中で騎士団に見つかり、捕まった。


     ☆


 サランは獄中で不審死を遂げ、ピヤールとイェウは二人暮らしになった。
 ピヤールは半分は娘のため、半分は自分のため、再婚を考え始めた。

「なぁ、イェウ。お母さんがいなくなって、寂しくないか?」

 ピヤールが夕食の席でたずねると、イェウは即答した。

「ううん、全然」

「本当に?」

「というか、いらないわ。ピヤールと私がいれば、十分じゃない。再婚にかこつけて、新しい女を作ったら、許さないから」

「……?」

 食事をしていた、ピヤールの手が止まる。

 イェウは幼い頃から、ピヤールを「ピヤール」、サランを「あの女」と呼ぶ。
 医者は「言語能力の発達が遅れているだけ」と話していたので、その点は気にしなくていい。遅れているわりには、ずいぶん大人びた話し方をするが。

 問題は、ピヤールが再婚相手を探そうとしているのに対して、「新しい女を」と言ったことだ。
 イェウはピヤールがサラン以外の女性と付き合っていた過去を知らない。ましてや、アイニーの存在など、サランにすら明かさなかった。

 話すとすれば、アイニー本人だろう。

(まさか、イェウがアイニーと会っているのか? 俺に隠れて?)

 ピヤールは青ざめる。
 彼はアイニーがとっくに死んでいることを知らない。存在しないアイニーがイェウに何を吹き込んでいるのか、勝手に心配していた。

「イェウ、パパに何か隠しごとをしていないかい?」

 イェウはアイニーそっくりの顔で、ニィッと笑った。

「してるわ」

「え」

「でも、言わない。きっと、信じてもらえないもの」

 ……ピヤールは一生知らないままだった。

 イェウは、転生したアイニーだった。
 サランを追い出し、ピヤールと再び「家族」になるため、二人の娘に生まれ変わったのだ。

 その後、ピヤールには再婚のタイミングが何度か訪れたが、イェウの暗躍により、ことごとくダメになった。
 仕方なく、ピヤールもイェウも独身のまま、その生涯を終えた。ピヤールが斡旋所でイェウと再会したとき、彼はどのような人生を望むのだろうか?


 END②「幸せ夫婦計画」
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