女神運営☆異世界転生斡旋所〈とりっぷ〉

緋色刹那

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所長代理編 第二話「女神と人生トレーダー」

オマケ:神様志望その②「隙あらば伝説を作る女」選択肢③

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 アテナは③急激に転生ポイントを増やせない、平和な異世界に転生するを選んだ。

「意外だな。一番選ばない方法だと思っていたぞ」

「平和に生きたことがないからね。どんなもんか試してみたくなったのさ」

「悪いが、記憶は封印させてもらうぞ。記憶が残っていたら、うっかり世界を救いかねないからな。次に斡旋所に来たときに返す」

「仕方ないね」

「よし、これでいいだろう。迎えが来るまで、ちょっと待っていてくれ」

 平凡仙人は糸電話を使い、コウノトリタクシーを呼んだ。糸の先は壁に埋まっていた。

 しばらくして、タクシーが斡旋所の前に止まった。
 帽子を目深に被った、新人の運転手が降りてくる。相変わらず慣れない様子で、床で足をすべらせ、ずっこけた。

「だ、大丈夫か?」

「帽子を深く被りすぎなんだよ。それじゃ、前が見えないだろ?」

 平凡仙人とアテナがかけ寄り、助け起こす。
 運転手は「すみません」と謝った。

「えぇと、コウノトリタクシーの者です。お客様の英アテナ様ですね?」

「そうだよ」

「お迎えにあがりました。どうぞ、お席へ」

 アテナを乗せ、タクシーは走り出す。

 斡旋所はみるみる遠ざかり、やがて見えなくなった。何もない、真っ白で平坦な世界が続く。
 しだいに、アテナはまぶたが重くなり、眠った。


     ☆


「それとも、フレンさんは今の人生に何かご不満でも?」

 友人の問いに対し、アテナは日頃の不満をマシンガンのように吐き出した。

「そりゃあるでしょ! もっと可愛い顔に生まれたかったし、生まれつきバイリンガルになりたかった!」

 現代日本の、とある女子校。なんのしがらみも争いもない、平和な異世界。

 アテナはその学校にかよう女子生徒、友利フレンに転生した。
 ごくありふれた日常を、ごく普通の女子高生として謳歌している。人並みに憧れもするし、嫉妬もする。前世で築き上げた功績も忘れ、恵まれた友人をうらやんでいた。

「私ってさ、本当はもっとすごい人間だった気がするんだよねー。世界を救ったり、組織を改革したりさ」

「思春期ですね」

「本気で言ってるんですー! からかわないでよ、ペルセポネ!」


     ☆


 その日の帰り道、アテナは友人と別れてすぐ、意識を失った。

 目覚めたのは自室のベッドの上で、制服を着たままだった。あちこち汚れ、全身にすり傷がついていた。
 家族いわく、帰ってきたときにはもうその状態で、気絶するようにベッドへ倒れ込んだらしい。

「ずいぶん疲れていたのねぇ。何かあったの?」

「何か……」
 
 アテナは友人と別れた後のことを思い出そうとした。
 が、思い出そうとすればするほど、頭がズキズキと痛む。断片的に映像が思い浮かぶが、どれも現実離れしたものばかりだった。

(夢とごちゃまぜになってるな、こりゃ。私がペルセポネを殺そうとするなんてありえないもん)

 記憶の中で、アテナは巨大な鉄串を手に、ペルセポネと見知らぬ青年を追い回していた。
 その間、アテナはペルセポネを「食糧」だと思い込んでいた。鉄串で貫き、串焼きのようにして食べるつもりだったのだろうか?

 夢だと否定する一方で、アテナはその記憶を快感にも感じていた。
 鉄串という「武器」を手に走り回る行為が、無性に懐かしかった。

(子供の頃にチャンバラにハマってたとか? 後でお母さんにきいてみよっと)


      ☆


 翌朝、友人が家まで迎えにきた。
 アテナが倒れたことを知らないにもかかわらず、妙にアテナの体調を心配していた。

「フレンさん、おかげんはいかがですか?」

「なんともないよ。急にどうしたの?」

「いえ……なんともないならいいのです」

 友人はホッと胸をなで下ろす。
 小声で「価値観改変雨が効いたようですね」とつぶやいていたが、アテナにはなんのことか分からなかった。

 商店街を歩いていると、見慣れない占い師が店を出していた。
 怪しげな黒装束の女性で、黒魔女か呪術師のようにしか見えない。顔はヴェールで隠れていた。

「ねぇ、前世占い師だって! 私、占ってくる!」

「まったく、こりない方ですね」

 アテナは「お願いしまーす」と、占い師の前に座る。
 すると、占い師は友人を見て、素っ頓狂な声を上げた。

「お、お姉様?!」

「お姉様?」

 占い師は慌てて咳払いし、体裁を取り繕う。

「な……なんでもありません。そちらのお嬢さんが、私の姉にそっくりだったものですから」

「へー。すっごいぐうぜん」

 アテナは大して気に留めず、悩みを打ち明けた。
 その間、友人はアテナの背後でニヨニヨと笑っていた。

「……なるほど。覚えのない記憶で悩んでいる、と」

「はい。子供の頃の記憶かと思って、母にきいたんですけど、"チャンバラなんて危ない遊び、させるわけないでしょ"って言ってました」

「では、占ってみましょう」

 占い師は机に置いた水晶玉に両手をかざし、ジッと見つめる。水晶玉の下には、紙にプリントしたアテナのデータが敷いてあったが、アテナからは見えなかった。
 やがて、占い師は顔を上げた。

「フレンさん。あなたの前世は英雄でした」

「えーゆー?」

「今風にいうと、ヒーローでしょうか? 正義感が強く、転生するたびに世界を救っていたようですね。あなたが見たのは、当時の戦いの記憶でしょう」

「私が、ヒーロー……」

 自然と笑みがこぼれる。
 日頃抱いていた予感が的中し、内心舞い上がっていた。もしかしたら今後、英雄になれるような何かが起きるのかもしれない。

 そんな彼女を落ち着かせるように、占い師は「ですが、」と続けた。

「前世のあなたは戦いに疲れ、平和な世界への転生を望まれました。今のあなたにとってはつまらない人生かもしれませんが、全ては前世のあなたが決めたことなのです」

「そっかぁ……」

 アテナは残念そうに肩を落とした。
 少し腑に落ちないが、前世の自分が望んだのなら仕方ない。

「ありがとうございました。おかげで吹っ切れた気がします」

「また何かあれば、どうぞ」

「ペルセポネも占ってもらう?」

 友人は「必要ありません」と微笑んだ。

 その日を境に、アテナは友人をうらやむことも、「もっとできるのに」と悩むこともなくなった。
 しかし完全に断ち切れたわけではなく、とうとつにフェンシング部に入部した。まったくの初心者のわりには好成績を叩き出したが、世界を変えるほどの影響はなかった。


     ☆


 フレンとしてのアテナのリアルタイム映像を見届け、平凡仙人は安堵した。
 
「……あっぶねぇ。危うく、記憶が戻るとこだったぞ」

「そんなに危なかったんですか?」

 いっしょに映像をみていたコウノトリタクシーの運転手がたずねる。
 「あぁ」と、平凡仙人は冷めたコーヒーを一気に飲み干した。

「封じていた記憶が解除されたら、アイツは確実に伝説を作る。そんなことになれば、せっかく減らした転生ポイントがまた増えちまうからな」

 転生したアテナは、貯めた転生ポイントをゆるやかに減らしつつあった。
 そんな時に起こった、人生トレーダーの介入。アテナは暴れたことで記憶を刺激され、封印した前世の記憶を思い出しかけていた。

「斡旋所の職員でも、異世界へ行くことがあるんですね」

「? ヘカテーのことか?」

 運転手は頷く。
 ヘカテーは占い師に扮し、アテナに接触していた。前世のアテナの気持ち(嘘)を伝えれば、前世の記憶を追い求めるのをやめるだろうと、平凡仙人が行かせた。

「転生者の管理が俺達の仕事だからな。前は俺が行っていたんだが、今はここから出られないんで、アイツに任せてる」

「あの方も転生の斡旋をされるのですか?」

「斡旋できるのは所長……つまり、俺だけだ。ハデスは俺を追い出して、ヘカテーを代理に立てたいみたいだけどな」

「……ひどい方ですね」

「ところで、俺からもきいていいか?」

「なんでしょう?」

 平凡仙人は一枚の名刺を見せた。
 名前はなく、「異世界コーディネーター」という謎の役職が書いてあった。

「コウノトリタクシーの運転手が斡旋所に無断で、転生者に配っているらしい。非認可の業者で、『人生を盗まれた』と苦情が来ている。何か知らないか?」

 運転手はふるふると首を横に振った。

「いいえ。私は何も」

「そうか……」

 平凡仙人は占い師として商店街に残っていたヘカテーに、帰還するよう連絡を取った。



 END③「普通の女の子に戻ります」
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