女神運営☆異世界転生斡旋所〈とりっぷ〉

緋色刹那

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所長代理編 第二話「女神と人生トレーダー」

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 現代日本の、とある女子校。
 正確に年代を挙げるならば、平凡仙人が人間として最初に死んでから、十数年後。

 一人の女子高生が、同級生の友人とともに校門に現れた。
 金髪茶眼の美少女で、本能的に平伏したくなるようなオーラをまとっている。一寸の乱れもない学校指定の白いセーラー服と地味な丸メガネは、それらの特徴をかえって際立たせた。

「女神ちゃーん!」

「女神せんぱーい!」

「女神生徒会長ー!」

 彼女の登場に、周りの女子生徒たちは悲鳴に似た歓声を上げる。

 「ごきげんよう」

 と、例の女子生徒があいさつすると、さらに大きな歓声が上がった。

 彼女の名前は、愛神あいがみペルセポネ女我美めがみ
 人生体験中の異世界転生斡旋所所長・女神その人である。


     ☆


「相変わらず、すごい人気よねぇ」

 女神といっしょに登校してきた友人、友利ともりフレンは肩をすくめた。
 女神の人気はすさまじく、教室についたあとも、予鈴が鳴るまでつづいた。

「まぁ、あの子達が憧れる気持ちは分からないでもないけどね」

「あら、どうして?」

「だってペルセポネってば、なんでもやってのけちゃう完璧超人じゃん? オマケに美人で、生徒会長で、お父様はギリシャ人のハーフ! 同じハーフでも、日本人顔の私とは大違いよ」

「私はれっきとした凡人です。あらゆるステータスを平均値に設定しましたから。ハーフという特徴だって、この世界に住む人類の三人に一人はハーフなんですから、珍しいものでもないでしょう?」

「まーたよく分かんないこと言って、ごまかそうとする! さては、不思議ちゃん属性まで狙っているな?!」

「事実なんですけどねぇ……」

 女神は人間の「人生」を学ぶため、人として現代日本に転生した。今年で、十六年になる。
 フレンに話したとおり、女神は平均値のステータスで転生した。目の色が濃いピンクから茶色に変わっているのが、その証拠だ。
 ハデスから与えられた神の権能も、今は使えない。

 にもかかわらず、校内でカリスマ的人気を集めてしまっている。
 おそらく、周りの人間よりも、精神的に大人だからだろう。
 女神は膨大な数の転生者と関わり、その人生を視聴してきた。普通の人間なら葛藤したり動揺したりする場面でも、予習済みなので難なく乗り越えてしまう。
 結果、自然と周りから注目されるようになった。生徒会長も、全校生徒と教師の推薦で選ばれてしまった。

 いわゆる「平凡な人生」とは少しズレていたが、女神は満足していた。

「そういえば、知ってる? 人生トレーダーのウワサ」

「なんです? そのトレーナーだかブリーダーだかって」

「ト、レー、ダー! お願いすれば、どんな人生にも入れ替えてもらえるんだって。隣のクラスの子が試して、アイドルデビューしたらしいよ」

 女神は「ありえません」と言い切った。

「人生はそのような、ファミレスのオーダー感覚では変えられませんよ。ただのウワサに決まっています。それとも、フレンさんは今の人生に何かご不満でも?」

「そりゃあるでしょ! もっと可愛い顔に生まれたかったし、生まれつきバイリンガルになりたかった! うちの親ってば、『日本にいるんだから、日本語が分かるだけで十分だ』って教えてくれなかったんだよ?
 ペルセポネがうらやましいわー。たしか、五ヶ国語話せるんだよね?」

「えぇ。普段は日本語しか話しませんけど」

「いいなー」

(本当は異世界全ての言語ですが)


     ☆


 その日の帰り道。
 女神はフレンと別れてすぐ、怪しげな紳士に声をかけられた。

「お嬢さん、今の人生に不満はありませんか?」

「ありません」

 笑顔で圧をかけ、足早に立ち去る。
 しかし、紳士は引き下がらなかった。書類を手に、女神のあとを追いかけてきた。

「申し訳ございません、突然で驚かれましたよね? ワタクシ、人生トレーダーと申します。こちらの契約書にサインしていただければ、お客様の人生を思いのままに入れ替えられますよ。慈善事業ですので、お代はいただきません」

 紳士の言葉に、女神は「慈善事業?」とクスクス笑った。

「貴方、悪魔でしょう? そんな毒々しい見た目で、人間のセールスマンを気取るおつもりですか?」

 女神には紳士の本当の姿が見えていた。

 途端に、紳士の目つきが変わる。
 爽やかだった笑みも、不気味なそれに一変した。

「お前、女神だな? 驚いたなぁ、人生体験してるって情報は本当だったのか」

 今度は、女神の顔から笑みが消えた。

「……誰からそれを?」

「そう怖い顔をするな。最期に顔を拝みたかっただけだ。契約は

 紳士は翼を広げ、空へ消える。

 紳士を目で追おうと、女神が立ち止まった瞬間、

「うッ!」

 全身に、熱したを押し当てられたような、猛烈な熱と痛みが走った。


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