女神運営☆異世界転生斡旋所〈とりっぷ〉

緋色刹那

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所長代理編 第一話「黒猫タクシーと亡霊少年」

オマケ:神様志望その①「常に変化を」選択肢③前編

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 ペンソルは、③世界そのものが毎日変わる異世界で生きる人生を選んだ。
 世界そのものが変化するなら、どんなに退屈な一日でも飽きずに楽しめそうだと思った。

「いいだろう。迎えが来るまで、しばらく待っていてくれ」

 平凡仙人は斡旋所の一角にある、ガラス張りの小部屋で緑色の鉄の塊(公衆電話)を使い、ペンソル以外の誰かと話す。

 しばらくして、動く鉄の塊(タクシー)が斡旋所の前に現れた。
 ドアが開き、細身の青年が降りてくる。帽子を目深に被り、顔はほとんど見えない。制服か、帽子と上着は白と黒のツートンカラー、腰から下は目が覚めるような赤で統一していた。

 青年は慣れない様子で、何もない地面でつまずきかけた。

「大丈夫か?」

「は、はい。えぇと……コウノトリタクシーです。お客様のペンソル・カレイドライター様ですね?」

「はい」

「新人か? 帽子を深く被りすぎてやしないか? ちゃんと前見えてるか?」
 
「すみません、見えてます。人見知りで、他人と目を合わせるのが苦手なんです」

「へぇ。見た目は同じでも、性格が違う個体もいるんだな」

 ペンソルは知らなかったが、コウノトリタクシーの運転手は顔や姿、性格、思考など、あらゆる特徴が一致している。
 いわば、クローンのような存在だ。三人同時に斡旋所へ来た時なんかは、かなりシュールな絵面だった。
 そのため、青年のような「個性のある」運転手は珍しかった。

 ペンソルを乗せ、タクシーは走り出す。斡旋所はみるみる遠ざかり、やがて見えなくなった。
 何もない、真っ白で平坦な世界が続く。斡旋所以外の建物も、人も、生き物も、何も存在しない。空すらも白かった。
 珍しい景色に、ペンソルは目が釘づけになる。しかしいくら走っても、世界は白いままだった。
 ペンソルはだんだん景色に飽き、やがて眠りについた。


     ☆


 朝日が昇る。
 ペンソルはテントの中で目を覚まし、外へ出る。
 ジャンルの奥地は一夜にして、都会的な街並みへと変化していた。森の水辺に張ったテントが、今はビルの屋上にある。
 ペンソルは驚きもせず、朝日に向かって伸びをした。

「街か。ありがたい、そろそろ備蓄食料が切れかかるところだったんだ」

 ペンソルは希望どおり、世界そのものが毎日変わる異世界に転生した。
 この異世界では二十四時間周期で「世界」が変わる。夜眠り、朝目を覚ますと、全く別の世界に変わっているのだ。
 ある時はジャンルの奥地、ある時は近代的な街並みの大都会というように、人も、動物も、建物も、言語も、文化も、一夜にしてガラッと変化してしまう。毎日が世界旅行気分だった。

 テントをふくめた、全ての荷物をリュックに詰め、地上へ降りる。
 物が無限に入る、魔法のリュックだ。いつ手に入れたのかは知らないが、ペンソルが転生した時にはすでに持っていた。

 ペンソルは十六歳の青年に転生した。家族はなく、一人だった。
 十六歳より前の記憶はなかったが、旅の知識だけは完璧にマスターしていた。
 二十四時間で世界が変化すること、テントの中は変化しないこと、リュックには無限に物が入ること、どんな言語でも話せるスキル「ウルトラリンガル」を習得していること……その他たくさん。転生ポイントの振り分けは平凡仙人に任せたので、「彼がそのように設定してくれたのだろう」とペンソルは深くは考えていなかった。


     ☆


 今日の異世界、大都会ニューシティは今までペンソルが見てきた街の中でも一、二を争うほど栄えていた。
 先っちょが見えないほど高いビル、整備された道、ピカピカの高級車、身なりの良い人々。気軽に店にも入れない。

 路地裏でやっと見つけたファストフード店には、外の雰囲気とは真逆の荒くれ者達が集まっていた。
 値踏みするような眼差しで、ペンソルをジッと見つめる。

「にいちゃん、重そうなリュック背負ってんなぁ。俺が持っといてやろうか?」

「お構いなく」

「何食うんだ? おごってやるよ」

「いえ、自分で払えますから」

 リュックを背負ったまま、注文したハットダック(帽子のような形をしたパンに、アヒルモドキの肉と野菜をはさんだ料理。ホットドッグとサンドイッチの間みたいな感じ)と、きわめてコーヒーに近い飲み物を平らげる。
 コーヒーは世界が変わるたびに必ず注文する。斡旋所で飲んだ時は毒かと思ったブラックも、今では気に入っている。

 店を出た矢先、後ろからリュックを引っ張られた。

「おっとっと」

 思わず、よろめく。
 さっきの荒くれ者かと思いきや、店のすみでコーラを飲んでいた少年だった。年齢に似合わない、強く鋭い目をしていた。

 少年はペンソルの首筋にナイフを突きつけ、脅した。

「死にたくなきゃ、置いてけ」

「そうするよう、アイツらに脅されたのかい?」

「脅しじゃない、仕事だ! ここじゃ、アイツらの言うことをきいてないと生きていけないんだよ!」

「……そうか。悲しい世界だな」

 ペンソルはナイフを持っている少年の手をつかみ、引っ張り上げた。
 そのまま、最初にいたビルの屋上まで連れて行く。少年には暴れられたし、周りにはずいぶん怪しまれたが、

「どうせ一日で変わるんだし」

 と無視した。

「離せよ! ここから突き落とす気か?!」

「そんなつもりはない。ただ、この世界が本当はどういう世界なのか教えて欲しいんだ」

 妙な言い回しに、少年は眉をひそめた。

「アンタ、旅人だよな? ニューシティのことを知らないなんて、ずいぶん田舎から来たんだな」

「さぁ? 故郷の記憶はないんだ。気づいたら、一人だった」

「……そうか。アンタも家族、いないんだな」

 少年はペンソルの境遇に共感したらしく、質問に答えてくれた。
 ニューシティは貧富の差が激しく、表通りと裏通りではまるで別世界らしい。少年が盗みを働く一方で、表では少年と同い年くらいの子が、親にオモチャをねだっている。学校に行けるのも、表の人間だけだ。

 少年に親はいない。赤ん坊の頃に捨てられた。
 それをファストフード店のオーナーが拾い、育てた。同情や優しさからではなく、「大きくなったら、タダ働きさせられるから」という理由で。
 実際、物心ついた時からタダ働きさせられていたし、客の持ち物を盗んだり、お釣りをちょろまかしたりもした。最近は客に頼まれて、犯罪の片棒を担がされることもあるらしい。

「神様って無能だよな。どうせ作るなら、もっとマシな世界にすりゃいいのに。みんな平等な世界とか、子供は全員学校に行ける世界とかさ」

 少年は、この世界が毎日変わっていることを知らなかった。少年が言ったような世界も、ペンソルは見たことがあった。

 ペンソルは今まで見てきた世界を、少年に語ってきかせた。
 少年は「絶対ウソじゃん」と口では否定したが、その目は輝いていた。

「そんな世界があるなんて知らなかったなぁ。よその世界ができるなら、うちの世界だってできたりして」

「かもな。君達の努力しだいさ」

「……ねぇ、さっきの話、他の連中にもきかせてやってくれない? 俺じゃ見向きもされないけど、旅人のアンタの話ならきいてもらえると思う」

「いいよ。路銀の足しにもなるしね」

「金取るのかよ」


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