女神運営☆異世界転生斡旋所〈とりっぷ〉

緋色刹那

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第五話「いい加減、私を好きになりなさいよ!」

〈純粋一途王女カーネシア編〉斡旋所②

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 カーネシアは邪魔なローゼリアを消すため、あの手この手を駆使し、ハンドリューを振り向かせようとした。
 意外にも、ハンドリューはあっさりカーネシアの誘いに乗った。
 しかし本心ではカーネシアに一切興味がなく、単にローゼリアを試すために利用しているだけに過ぎなかった。カーネシアもそれをよく分かっていた。
『いつか振り向いてくださったら……なんて甘い期待を抱いていたけれど、最初から私の付け入る隙なんてなかったのね』
 カーネシアはハンドリューのそばにいながら、敗北を感じていた。

「カーネシア様は諦めました。諦めて、ローゼリア様を暗殺することにしたのです」
 タブレットの画面に、ハンドリューとカーネシアがローゼリアを見下している場面が流れる。ローゼリアのアニメに出てきたのと、同じ絵だった。
「結婚式前日、カーネシア様はハンドリュー様に"ローゼリアさんに婚約を破棄すると宣言してはどうでしょう?"と提案しました。ハンドリュー様はカーネシア様を『共にローゼリアを試す協力者』だと認識していたので、何の疑いもなく全力でその案に乗っかりました」
『いいな、そのアイデア。いっそ適当な罪を着せて、国外追放でもするか』
「乗っかるなよ、クズ過ぎ王子」
 しかしカーネシアの本当の狙いは、国外へ追放したローゼリアを暗殺することだった。ローゼリアは罪人である上、ハンドリューの影響が及ばない国外ではどうしても警備が手薄になる。そこを狙ったのだ。
 ローゼリアが国外へ出たタイミングで、カーネシアは自らの手で、ローゼリアを暗殺した。これでハンドリューの心を手に入れられる……そう信じ、ハンドリューが待つ王宮へ急いだ。
「ところがカーネシア様が王宮へ戻ると、どういうわけかハンドリュー様も亡くなっていらっしゃいました。ハンドリュー様はローゼリア様が泣きながら王宮を出ていく姿を見て心を痛め、急性心不全により命を落としたのです」
「あいつ、最初はそんな繊細なやつだったのか……クズなのに」
 平凡仙人は当時と葛杉時代のハンドリューを比べ、その変化に驚く。
 女神も「最近は減ってきましたけどねぇ」とハンドリューがクズだという点は否定せず、次の場面をタブレットに映し出した。カーネシアが喪服を着、深い谷の底を覗いていた。
「カーネシア様はハンドリュー様の葬儀の後、気がつくと母国の最果てにある谷に立っていました。"ハンドリュー様の後を追うのも、悪くはない"と谷の上で身を乗り出すと、下の方で何かがピカピカと光っているのが見えました」
『……あれ、何かしら?』
 カーネシアは不思議そうに、谷底へ目を凝らす。
 光っていたのは、二体の白骨死体に散りばめられた大量の金品と宝石だった。それはかつて、カーネシアが自国から追い出したリリー王女と農夫の青年の変わり果てた姿だった。
「彼らを見た瞬間、カーネシア様は当時の野心を思い出しました」
『そうだったわ……ハンドリュー様の心は手に入れられなかったけど、私にはヤンデルヤン王国とパーフェクトリー王国の次期女王という肩書きがあるじゃない! ハンドリュー様に夢中で、こんな大事なことを忘れちゃうなんて、どうかしていたわ! ハンドリュー様の分まで、私が幸せにならないと!』

 カーネシアは王宮へ戻ると、ヤンデルヤン、パーフェクトリー、そしてローゼリアが亡くなったことで女王の席が空いたファイトランデブーの三つの国を統合した連合国を作り、その初代女王となった。
 三国の民は、冷戦状態だった三つの国を平和に導いたとして、カーネシアを大いに讃えた。その後、カーネシアは思いつく限りの願望を叶えきると、その世界では長寿にあたる六十六歳でこの世を去った。
「カーネシア様は死後、斡旋所へいらっしゃいました。どのようなプランで 転生なさりたいのかお尋ねすると"ローゼリアを暗殺し、ハンドリュー様と結ばれたい"とおっしゃいました。そのご希望通り、カーネシア様は転生するたびにローゼリア様を物理的に排除し、ハンドリュー様をお救いになろうとしました。ですが、いずれの世界でもハンドリュー様の死は止められませんでした。果たして、カーネシア様がハンドリュー様の心を射止められる日は来るのでしょうか?」

 そう締めくくり、女神の解説は終わった。
 アニメも「to be continued」の一文を残し、幕を閉じる。続きは、現実でこれから始まるのだ。
 平凡仙人は「やっと終わったか」と伸びをした。
「ローゼリアとは違うタイプだが、壮絶な人生だったな。花園姫花の時もこうやって色々と策を講じていたのかと思うと、ゾッとするぜ」
「カーネシア様はフワフワを装っていらっしゃいますが、本性は割と賢いですからねー。"この斡旋所はどこの時間軸に属していらっしゃるんです?"なんてお客様から聞かれたの、初めてでしたよ。ここはどこの時空にも属していないとお伝えしたら、安心して寿命が来るまで人生を謳歌されるようになりました」
「裏で散々悪事を働いてるっていうのに、よく長生きできるよなぁ。本当はとっくに地獄行きになってるんじゃないか?」
 しでかした悪事に見合わない最良の人生に、平凡仙人は不満をもらす。女神がひいきしているのでは、という憶測はいまいち拭えなかった。
「恋に一途なだけで、王女や女王としての仕事は完璧にこなされていますからね。ローゼリア様以外の人間には優しいですし、まだまだプラスの方が上回っているんですよ」
 けれど、と女神は冷たく微笑した。
「そろそろを受ける頃かもしれませんね。我々の仕事の邪魔をしようとした前科もございますし」
「カーネシアが? いつ?」
 女神は詳しくは答えようとせず、「平凡仙人さんが来られる前の話ですよ」とはぐらかした。

 それから間もなく、花園姫花ことカーネシアは斡旋所へ再び現れた。
 女神が"良いニュース"と称し「ローゼリアが魂のリセットを申し出た」と伝えると、途端にカーネシアの化けの皮は剥がれた。
「ホンット、諦めの悪い人! あの女のせいで、あと一度しかハンドリュー様と自由に恋愛出来ないじゃない! でも……これでようやく私の最後の願いが叶うのね! キャハハッ!」
 カーネシアは可愛らしい顔を不気味に歪ませ、けたたましく笑う。
 平凡仙人は握りつぶしたコーヒーのカップをゴミ箱へ捨てると、売店から二リットルのペットボトルに入ったコーラを持ってきた。今度は握りつぶしてしまう前に、着ぐるみの隙間から飲み干した。
 一方、女神は笑顔を崩すことなく、淡々と続けた。
「喜んでいただけたようで、何よりです。では、次に悪いニュースを発表させていただきますね?」
「どうぞ、どうぞ! 私、今とっても機嫌がよろしいので、ちょっとやそっとの悪いニュースじゃへこみませんわよ!」
「そうですか? それなら心配いりませんね」
 そう言うと、女神は笑顔のまま"悪いニュース"をカーネシアに伝えた。
「ハンドリュー様がカーネシア様との縁をお切りになられました。よって、今までご使用になられていた"ハンドリュー様と結ばれる運命"という希望条件はとなります」
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