女神運営☆異世界転生斡旋所〈とりっぷ〉

緋色刹那

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第五話「いい加減、私を好きになりなさいよ!」

〈婚約破棄王子ハンドリュー編〉学園生活①

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 ハンドリューは先に転生したローゼリアの後を追い、同じ現代日本に転生した。
 名前は、葛杉矢場雄。その名の通り、性格がクズ過ぎてヤバい男だ。外見もヤバめの小太りで、アンパンを泥だらけの長靴で踏み潰したような顔をしている。そのせいか、何をしたわけではないのに、毎日数えきれないほど110番通報と職務質問をされていた。
 容姿、性格、体力、家柄などのステータスは最低だったが、知能だけは最高レベルを選んでいた。さすがに知能まで劣っては、計画に支障が出る。その悪知恵を使って、非合法的に生活費を稼いで暮らした。
 嫌われることはあっても好かれることはない……そんな彼に、転生したローゼリアは手を差し伸べた。
「ねぇ。貴方、私の婚約者になってくださらない?」
 ローゼリアは万里小路グループ総帥の令嬢、万里小路ローズとして転生していた。
 絶世の美女にして、秀才。家は冗談みたいな金持ちでありながら、誰からも慕われる人格者。非の打ち所がない、完璧なステータスの持ち主だった。
 彼女は街中でハンドリューを見かけ、一目惚れしたらしい。
 かなり無理のある言い訳だったが、「まぁいいだろう」とハンドリューはローゼリアの申し出を受け入れた。
「金持ちの道楽っすかぁ? 毎日ステーキ食わせてくれるならいいっすよ」
「わ、分かったわ……」
 卑しく笑うハンドリューに、ローゼリアは笑みを引きつらせていた。

 ローゼリアの婚約者になったことで、ハンドリューの生活は一変した。
 ローゼリアと同じ超高層マンションに住み、飽きるまで高級料理を食べ尽くし、欲しいものは全てカードで買うという、贅沢三昧。
 学校は国内有数の不良のエリート高校から、ローゼリアも通っている本物のエリート高校へと転校した。「お前はローゼリアには不釣り合いだ」といじめられてばかりだったが、いつもローゼリアがかばってくれた。
 身寄りがなく、貧しい生活を強いられてきたハンドリューにとって、ローゼリアと婚約してからの生活はこの上ない天国だった。記憶が無ければ、ローゼリアを女神だと崇めていたかもしれない。
 ローゼリアもそうなるのを期待していたが、残念ながらハンドリューには記憶があった。いくらローゼリアが奉仕しても、ハンドリューが彼女に気を許すことはない。それどころかローゼリアを試すため、授業中に菓子を食ったりスマホで動画を見て爆笑したりなど、愚行を繰り返した。
 とは言え、ローゼリアに何の救済措置も用意していなかったわけではない。
 ハンドリューはバッドステータスの一つ、「カエルの王子様システム」を生まれつき持っていた。
 その名の通り、キスをされると元の姿……すなわち、最初のハンドリューの姿に戻れる能力で、
「本当にローゼリアが自分を好いているのなら、キスくらいできるだろう」
 と考え、毎回選んでいた。
 が、もはやローゼリアにその気はなく、ハンドリューにキスをすることは一度もなかった。

 世界は違えど、おおよその人生の流れは今までと同じだった。カーネシアも葛杉がハマっているアイドルとして登場し、虎視眈々と近づく機会をうかがっている。
 ただ一点、今までとは違うことがあった。ローゼリアが時折、誰もいないのに一人で会話することがあったのだ。
 ただのひとりごとならハンドリューも気にしなかったが、どうもローゼリアは姿の見えない何者かからハンドリューの行動を教えてもらっているらしかった。
「使い魔でもいるのか? 女神め……まだ隠している能力があったのか」
 ローゼリアがどのような条件で転生しているのかは、女神から情報をリークしてもらっているので知っている。
 ただし、教えてもらえる範囲は女神の気まぐれで決まるため、まだまだ把握していないことの方が多かった。
「まぁ、いい。使い魔を使ってまで俺の内情を探ろうとするとは、なかなかやるじゃないか」
 ハンドリューは嬉しそうに、アメリカンドッグを歯で一気に串から引き抜き、もちゃもちゃと食べた。

 ある日、ローゼリアの下駄箱から彼女の靴が消えた。
 代わりに、ボロボロになった便所用のスリッパが置いてあった。スリッパには「これでも履いてろ、クソアマ」とメモが貼ってあった。
「……」
 ローゼリアの下駄箱の惨状を目にした瞬間、ハンドリューの顔から笑みが消えた。
 消えた彼女の靴は、ハンドリューが選んだブランドもののローファーだった。ローゼリアも珍しく気に入り、何度も直しては履き続けていた。
 ローゼリアの下駄箱に仕掛けていた隠しカメラを確認すると、他クラスの女子生徒数人がローゼリアの靴を下駄箱近くのゴミ箱に捨てている様子が映っていた。映像通り、ローゼリアのローファーはゴミ箱の中にあったが、生ゴミや墨汁で汚れ、とても履ける状態ではなかった。
(クソアマはキサマらだろうが! よくも、ローゼリアの靴を……!)
 葛杉は映像に映っていた女子生徒達の下駄箱から一番高価なローファーを盗み、ローゼリアの下駄箱に入れた。カラになった下駄箱には、ローゼリアの下駄箱に入れられていたボロボロの便所スリッパを入れておいた。
 女子生徒達が異変に気づいた時には、既にローゼリアのローファーは直っている。女子生徒達はローゼリアを問い詰めるだろうが、彼女は事情を知らない。誰がローファーを奪い、スリッパにすり替えたか……仲間どうしで疑い始めるだろう。
(妬みでしか分かり合えない連中だ、すぐに互いを信じられなくなる。そうなったら、ローゼリアに対する慰謝料を搾り取れるだけで搾り取って、学校から排除すればいい。俺が前にいた学校にでも送ってやろうかな?)
 ローゼリアは何でも持ち合わせているがゆえに、妬みを受けることも多かった。報復を恐れているのか、直接攻撃するのではなく、彼女の持ち物に悪さを働き、間接的に彼女を困らせようとする。
 そういった者達はハンドリューにとって、邪魔な存在でしかなかった。誰にも知られず、片っ端から「排除」していった。
「お待たせしてごめんなさい! 高級焼肉店も追加で行っていいから!」
 ハンドリューが全ての工作を済ませた頃、忘れ物を取りに教室へ戻っていたローゼリアが帰ってきた。
「ついでに靴も見たいなぁ。最近、太ってきたから新しく買いかえたいんだよねぇ」
「靴か……私もちょっとキツくなった気がするし、一緒に見たいかも」
 ローゼリアは履きかえたローファーに違和感があるのか、首を傾げる。他人のローファーなのだから、違和感があって当然だろう。
 ハンドリューは下駄箱にイタズラされていたことも、靴を入れかえたことも、何一つローゼリアに言わず、ニタニタと笑いながらローゼリアと共に車へ歩いていった。
(ローゼリアを困らせていいのは、俺だけだ。俺以外の誰にも、ローゼリアを好きにはさせねぇ)
「……」
 そんな彼の様子を、見えない何者かは黙って観察していた。
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