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第五話「いい加減、私を好きになりなさいよ!」
〈悪役令嬢ローゼリア編〉斡旋所(前編)
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異世界転生斡旋所〈とりっぷ〉に、豪華なドレスを着た西洋人の女性が押し入って来た。
「女神! 今すぐ私を転生させなさい!」
「いらっしゃいませ、ローゼリア様。まぁまぁ、どうぞおかけになって」
「ゆっくりしてる時間なんてないわ! 次こそはハンドリューのハートを手に入れたいのよ!」
「ローゼリア様がおっしゃると、例えなのかそうじゃないのか分かりませんねー」
女神はクスクスと笑う。
斡旋所は古民家和カフェ風にリニューアルしていた。入口からカウンターは土間で、奥は座敷になっている。平凡仙人はそこでお抹茶を啜っていた。
女神も内装に合わせ、丈の短い着物にフリルのついた白いエプロンを着ている。髪にはザクロの花と実を模した髪飾りをつけており、動くたびに赤くキラキラと輝きながら揺れた。
女性はカウンター席につくと、女神から書類を受け取り、書き殴った。高いポイントが必要なオプションを、惜しげもなく羅列していく。平凡仙人は後ろから覗き見て、「マジかよ」と言葉を失った。
「美人補正、エリート家系、高学歴……こんなにオプション使って、ポイント足りるのか?」
「誰こいつ? 勝手に見ないでよ」
女性はギロって平凡仙人を睨む。明らかに前世の記憶を保持していた。
「平凡仙人さんです。斡旋所の特別顧問をしてもらっています」
「こんなふざけたお面つけてる男が?」
「平凡仙人さんはすごいんですよー。ローゼリア様の倍以上、記憶を保持したまま転生なさったんですから」
「フーン……よっぽどちょろい人生だったのね」
女性は書類を書き終わると、女神に渡した。
女神は書類に目を通しつつ、タブレットに情報を入力していった。
「今回もすごいオプションの数ですねー」
「当たり前でしょ? 今度こそ、ハンドリューを落とすんだから!」
「そう簡単にうまく行きますかねぇ……? ハンドリューさんのこと、嫌いなんでしょう? 諦めて、他の男性にした方が良くないですか?」
「良くない!」
女性は声を荒げた。
「確かに、ハンドリューは大っ嫌いよ! 付き合うなんて、もってのほか! でも、諦めたらあいつに負けを認めたみたいで嫌なの! 恋をするのは、あいつを落としてからで十分!」
「一途ですねー」
「執念深いと言いなさい」
「 一応、規則なんで聞きますけど、①今まで通りパワーアップして転生。②記憶は保持して諦める。③リセットの中のどれを選びますか?」
「①しかあり得ないわ」
女性は他の二つの選択肢を無視し、断言した。
こんなに早く決める客は、今まで見たことがない。どれだけあり得ない選択肢があっても、皆悩んだ末に決めていた。
(一体、何が彼女をそこまでさせるんだ?)
女性は好条件の転生オプションのほとんどを付与してもらった状態で転生した。「万全の警備状態を保ちたいから」と、いくつかの候補地から平凡仙人が最初にいた世界を選んだ。
女性が去った後、平凡仙人はお抹茶と和菓子を堪能しつつ、彼女について女神に尋ねた。
「さっきの人……ローゼリア、だったか? 何であそこまでハンドリューとかいうやつを憎んでいるんだ?」
「お! 気になっちゃいました? ついに例のアレを見せる時が来ましたね!」
女神は待ってましたとばかりに、タブレットである動画を見せた。
今回は実写ではなく、アニメだった。アニメと言っても静止画のみで、漫画に近い。
動画のサムネイルには「いい加減、私を好きになりなさいよ!〈ローゼリアの受難〉」とあり、少女漫画チックな可愛らしく美麗なキャラクターのイラストが描かれていた。絵にぴったりな、可愛らしい歌詞のテーマ曲が流れていた。
「これは?」
「ローゼリアさんの一生を漫画にしたものです。読みやすいよう、動画として再生できるんですよ」
女神は動画を参考に、ローゼリアの人生を解説していった。
「ローゼリア様はファイトランデブー王国の王女として生を受けました。彼女にはハンドリューという、生まれる前から両親に決められた婚約者がいました。ハンドリューは隣国のパーフェクトリー王家の第一王子で、互いの国の和平のために二人は結ばれる予定でした。ローゼリアはハンドリューを愛し、ハンドリューに愛されるよう努力しました」
『ハンドリュー様は完璧な王子……私もあの方に相応しいレディになってみせる!』
ローゼリアの気持ちを代弁し、可愛らしいボイスが流れる。実物とはまるで別人だった。
「ところが、」と女神は次のシーンへ動画を進めた。ハンドリューがローゼリアではない女性と共に、ローゼリアを見下している映像が流れた。
「結婚式前日、ハンドリューは別の国の王女であるカーネシアと結婚すると言い出しました。ハンドリューは冷酷非情な人間でしたが、カーネシアにだけは心開いていました。それほどまでにカーネシアは純粋無垢で、愛らしいお姫様だったのです」
『酷い……! 最初から私のことなんて、どうでも良かったのね!』
アニメのローゼリアはさめざめと泣き崩れ、悲痛な声を上げた。
次のシーンではハンドリューとカーネシアが結婚式を行なっている絵と、ローゼリアが殺されている絵が並んで描かれていた。
「ローゼリア様は"ハンドリューとカーネシアの国を滅ぼそうとしている"と無実の罪を着せられ、国外追放されました。その上、自国に帰る途中で暗殺され、命を落としました。一方、ハンドリューとカーネシアは盛大に結婚式を執り行い、幸せな一生を過ごしました」
『ハンドリュー様……どうか、カーネシアさんとお幸せ、に……』
ローゼリアはか細い声でハンドリューの幸せを願い、息絶えた。
「女神! 今すぐ私を転生させなさい!」
「いらっしゃいませ、ローゼリア様。まぁまぁ、どうぞおかけになって」
「ゆっくりしてる時間なんてないわ! 次こそはハンドリューのハートを手に入れたいのよ!」
「ローゼリア様がおっしゃると、例えなのかそうじゃないのか分かりませんねー」
女神はクスクスと笑う。
斡旋所は古民家和カフェ風にリニューアルしていた。入口からカウンターは土間で、奥は座敷になっている。平凡仙人はそこでお抹茶を啜っていた。
女神も内装に合わせ、丈の短い着物にフリルのついた白いエプロンを着ている。髪にはザクロの花と実を模した髪飾りをつけており、動くたびに赤くキラキラと輝きながら揺れた。
女性はカウンター席につくと、女神から書類を受け取り、書き殴った。高いポイントが必要なオプションを、惜しげもなく羅列していく。平凡仙人は後ろから覗き見て、「マジかよ」と言葉を失った。
「美人補正、エリート家系、高学歴……こんなにオプション使って、ポイント足りるのか?」
「誰こいつ? 勝手に見ないでよ」
女性はギロって平凡仙人を睨む。明らかに前世の記憶を保持していた。
「平凡仙人さんです。斡旋所の特別顧問をしてもらっています」
「こんなふざけたお面つけてる男が?」
「平凡仙人さんはすごいんですよー。ローゼリア様の倍以上、記憶を保持したまま転生なさったんですから」
「フーン……よっぽどちょろい人生だったのね」
女性は書類を書き終わると、女神に渡した。
女神は書類に目を通しつつ、タブレットに情報を入力していった。
「今回もすごいオプションの数ですねー」
「当たり前でしょ? 今度こそ、ハンドリューを落とすんだから!」
「そう簡単にうまく行きますかねぇ……? ハンドリューさんのこと、嫌いなんでしょう? 諦めて、他の男性にした方が良くないですか?」
「良くない!」
女性は声を荒げた。
「確かに、ハンドリューは大っ嫌いよ! 付き合うなんて、もってのほか! でも、諦めたらあいつに負けを認めたみたいで嫌なの! 恋をするのは、あいつを落としてからで十分!」
「一途ですねー」
「執念深いと言いなさい」
「 一応、規則なんで聞きますけど、①今まで通りパワーアップして転生。②記憶は保持して諦める。③リセットの中のどれを選びますか?」
「①しかあり得ないわ」
女性は他の二つの選択肢を無視し、断言した。
こんなに早く決める客は、今まで見たことがない。どれだけあり得ない選択肢があっても、皆悩んだ末に決めていた。
(一体、何が彼女をそこまでさせるんだ?)
女性は好条件の転生オプションのほとんどを付与してもらった状態で転生した。「万全の警備状態を保ちたいから」と、いくつかの候補地から平凡仙人が最初にいた世界を選んだ。
女性が去った後、平凡仙人はお抹茶と和菓子を堪能しつつ、彼女について女神に尋ねた。
「さっきの人……ローゼリア、だったか? 何であそこまでハンドリューとかいうやつを憎んでいるんだ?」
「お! 気になっちゃいました? ついに例のアレを見せる時が来ましたね!」
女神は待ってましたとばかりに、タブレットである動画を見せた。
今回は実写ではなく、アニメだった。アニメと言っても静止画のみで、漫画に近い。
動画のサムネイルには「いい加減、私を好きになりなさいよ!〈ローゼリアの受難〉」とあり、少女漫画チックな可愛らしく美麗なキャラクターのイラストが描かれていた。絵にぴったりな、可愛らしい歌詞のテーマ曲が流れていた。
「これは?」
「ローゼリアさんの一生を漫画にしたものです。読みやすいよう、動画として再生できるんですよ」
女神は動画を参考に、ローゼリアの人生を解説していった。
「ローゼリア様はファイトランデブー王国の王女として生を受けました。彼女にはハンドリューという、生まれる前から両親に決められた婚約者がいました。ハンドリューは隣国のパーフェクトリー王家の第一王子で、互いの国の和平のために二人は結ばれる予定でした。ローゼリアはハンドリューを愛し、ハンドリューに愛されるよう努力しました」
『ハンドリュー様は完璧な王子……私もあの方に相応しいレディになってみせる!』
ローゼリアの気持ちを代弁し、可愛らしいボイスが流れる。実物とはまるで別人だった。
「ところが、」と女神は次のシーンへ動画を進めた。ハンドリューがローゼリアではない女性と共に、ローゼリアを見下している映像が流れた。
「結婚式前日、ハンドリューは別の国の王女であるカーネシアと結婚すると言い出しました。ハンドリューは冷酷非情な人間でしたが、カーネシアにだけは心開いていました。それほどまでにカーネシアは純粋無垢で、愛らしいお姫様だったのです」
『酷い……! 最初から私のことなんて、どうでも良かったのね!』
アニメのローゼリアはさめざめと泣き崩れ、悲痛な声を上げた。
次のシーンではハンドリューとカーネシアが結婚式を行なっている絵と、ローゼリアが殺されている絵が並んで描かれていた。
「ローゼリア様は"ハンドリューとカーネシアの国を滅ぼそうとしている"と無実の罪を着せられ、国外追放されました。その上、自国に帰る途中で暗殺され、命を落としました。一方、ハンドリューとカーネシアは盛大に結婚式を執り行い、幸せな一生を過ごしました」
『ハンドリュー様……どうか、カーネシアさんとお幸せ、に……』
ローゼリアはか細い声でハンドリューの幸せを願い、息絶えた。
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