女神運営☆異世界転生斡旋所〈とりっぷ〉

緋色刹那

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第四話「地獄ってどこにあるの?」

選択肢②『転生してポイントを稼ぐ』

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 獄中は転生してポイントを稼ぐことにした。
「俺は方々から恨まれている。うっかり俺を探している連中に出くわしちまったら厄介だからな、記憶は保ったまま出稼ぎに行かせてもらうぜ」
「承知しました。ポイントが最低限界値まで達したら、その時点で地獄行きです。くれぐれも行動にご注意を」
「わぁってるって! 今度こそ、倍にして返すからさァ!」
「……金借りるやつの常套句じゃねぇか」
 平凡仙人は思わずツッコんだ。

 獄中は迎えに来たコウノトリタクシーに乗せられ、無事に転生した。貧富の差が激しい国で、獄中は新たに「プアー」という名前を授かった。
 ポイントがマイナスな分、用意された家庭環境は前世と同じくらい酷い有様だった。こんな状況で必要なポイントを稼ぐには、相当な努力が必要だろう。
 が、獄中は最初からポイントを稼ぐ気などなかった。
 記憶があるのをいいことに、幼い頃から大人顔負けの悪事を繰り返していた。地獄行きにならないよう、時々良いことをして帳尻を合わせた。
「間抜けな女神だぜ! 地獄行きにならなきゃ、こっちのもんよ!」
 獄中は悪事でのし上がり、国のトップになった。
 誰も獄中には逆らえない。転生した彼の命を狙う転生者は、いずれも獄中の指示で処刑させられた。
 欲しいと思ったものは何でも手に入った。金は使っても使っても減らなかった。妻と子供は星の数ほどいて、孫まで生まれた。
 何もかもが順調……そのはずだった。

 ある日、獄中が屋上のプールで泳いでいると、空中に平凡仙人が現れた。
「よっ。久しぶり」
「誰だお前は? おい、守衛! コイツをつまみ出せ!」
 プールサイドで控えていたボディーガードに命令する。
 しかしボディーガードには平凡仙人の姿は見えていないらしく、困った様子でキョロキョロと辺りを見回していた。
「まぁ、落ち着けよ。俺は忠告しに来てやったんだぜ?」
「忠告? 俺は上手くやってるぞ?」
「確かにな。ポイントの最低限界値のギリギリを攻め、超えそうになった瞬間に善行をしてプラスを増やしてやがる。やり方が汚すぎて、うちの女神も使もご立腹だ。一緒になって、斡旋所でむくれてる」
 でもな、と平凡仙人は獄中にスマホの画面を見せた。
「お前はポイントがとんでもなくマイナスの状態で転生したんだ……そろそろボーナスタイムは終わりだよ」
 獄中はスマホの画面を見て、青ざめた。
 現在、彼がいる世界にも株や電子取引のシステムは存在する。獄中の悪事のおかげで急成長を遂げた彼の国とその事業は、どちらもうなぎのぼりだった。
 にも関わらず、獄中が見せた画面では底辺ギリギリまで暴落していた。
「何でだよ! 俺は上手くやってたはず……!」
「お前が今までやった悪事、ぜーんぶバラされたんだよ。お前に復讐したがってる転生者によってな」
 平凡仙人はスマホを操作し、株からニュースに変えた。
 そこには獄中がこの世界で授かった孫の一人が映っていた。まだ年端も行かぬ少女だったが、子供とは思えないほどじょう舌に、獄中の悪事がペラペラと話していた。
「あいつはとんでもない悪党です! どうか、裁きを!」
「あンの小娘、よくも……!」
 獄中は急いでプールから上がろうとした。
 しかし直後、
「ニ゛ャオーン!」
 としゃがれた猫の鳴き声と共に、頭上から漆黒のタクシーが降ってきた。表示灯には「火車かしゃタクシー」とあった。燃えるようなオレンジ色の髪をした、猫顔の女性がハンドルを握っている。
 獄中が呆然と見上げる中、漆黒のタクシーは彼を押し潰すようにプールへ落下した。水飛沫はプールサイドを超え、ボディーガードをも飲み込む。透明だった水は獄中の血で赤く染まっていった。
「マイド、火車タクシーデゴザマス。オ客サン、逝キマショウネ」
 運転手は片言で話しながら、獄中をタクシーの窓から車内へ引っ張り込む。体はプールの底に沈んでいるので、おそらくは彼の魂だろう。
 運転手は獄中を回収すると「ブニャーン!」と雄叫び、いずこかへ走り去っていってしまった。気づいた時には、その姿は消えていた。
「……惜しいことをしたな。あのタクシーについて行けば、地獄の場所が分かったかもしれないのに」
 平凡仙人は残念そうに頭をかいた。
 これから獄中がどんな地獄を見るのか、平凡仙人には想像もつかなかった。

 END②「地獄は突然に」
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