27 / 94
第四話「地獄ってどこにあるの?」
選択肢②『転生してポイントを稼ぐ』
しおりを挟む
獄中は転生してポイントを稼ぐことにした。
「俺は方々から恨まれている。うっかり俺を探している連中に出くわしちまったら厄介だからな、記憶は保ったまま出稼ぎに行かせてもらうぜ」
「承知しました。ポイントが最低限界値まで達したら、その時点で地獄行きです。くれぐれも行動にご注意を」
「わぁってるって! 今度こそ、倍にして返すからさァ!」
「……金借りるやつの常套句じゃねぇか」
平凡仙人は思わずツッコんだ。
獄中は迎えに来たコウノトリタクシーに乗せられ、無事に転生した。貧富の差が激しい国で、獄中は新たに「プアー」という名前を授かった。
ポイントがマイナスな分、用意された家庭環境は前世と同じくらい酷い有様だった。こんな状況で必要なポイントを稼ぐには、相当な努力が必要だろう。
が、獄中は最初からポイントを稼ぐ気などなかった。
記憶があるのをいいことに、幼い頃から大人顔負けの悪事を繰り返していた。地獄行きにならないよう、時々良いことをして帳尻を合わせた。
「間抜けな女神だぜ! 地獄行きにならなきゃ、こっちのもんよ!」
獄中は悪事でのし上がり、国のトップになった。
誰も獄中には逆らえない。転生した彼の命を狙う転生者は、いずれも獄中の指示で処刑させられた。
欲しいと思ったものは何でも手に入った。金は使っても使っても減らなかった。妻と子供は星の数ほどいて、孫まで生まれた。
何もかもが順調……そのはずだった。
ある日、獄中が屋上のプールで泳いでいると、空中に平凡仙人が現れた。
「よっ。久しぶり」
「誰だお前は? おい、守衛! コイツをつまみ出せ!」
プールサイドで控えていたボディーガードに命令する。
しかしボディーガードには平凡仙人の姿は見えていないらしく、困った様子でキョロキョロと辺りを見回していた。
「まぁ、落ち着けよ。俺は忠告しに来てやったんだぜ?」
「忠告? 俺は上手くやってるぞ?」
「確かにな。ポイントの最低限界値のギリギリを攻め、超えそうになった瞬間に善行をしてプラスを増やしてやがる。やり方が汚すぎて、うちの女神も地獄の使者もご立腹だ。一緒になって、斡旋所でむくれてる」
でもな、と平凡仙人は獄中にスマホの画面を見せた。
「お前はポイントがとんでもなくマイナスの状態で転生したんだ……そろそろボーナスタイムは終わりだよ」
獄中はスマホの画面を見て、青ざめた。
現在、彼がいる世界にも株や電子取引のシステムは存在する。獄中の悪事のおかげで急成長を遂げた彼の国とその事業は、どちらもうなぎのぼりだった。
にも関わらず、獄中が見せた画面では底辺ギリギリまで暴落していた。
「何でだよ! 俺は上手くやってたはず……!」
「お前が今までやった悪事、ぜーんぶバラされたんだよ。お前に復讐したがってる転生者によってな」
平凡仙人はスマホを操作し、株からニュースに変えた。
そこには獄中がこの世界で授かった孫の一人が映っていた。まだ年端も行かぬ少女だったが、子供とは思えないほどじょう舌に、獄中の悪事がペラペラと話していた。
「あいつはとんでもない悪党です! どうか、裁きを!」
「あンの小娘、よくも……!」
獄中は急いでプールから上がろうとした。
しかし直後、
「ニ゛ャオーン!」
としゃがれた猫の鳴き声と共に、頭上から漆黒のタクシーが降ってきた。表示灯には「火車タクシー」とあった。燃えるようなオレンジ色の髪をした、猫顔の女性がハンドルを握っている。
獄中が呆然と見上げる中、漆黒のタクシーは彼を押し潰すようにプールへ落下した。水飛沫はプールサイドを超え、ボディーガードをも飲み込む。透明だった水は獄中の血で赤く染まっていった。
「マイド、火車タクシーデゴザマス。オ客サン、逝キマショウネ」
運転手は片言で話しながら、獄中をタクシーの窓から車内へ引っ張り込む。体はプールの底に沈んでいるので、おそらくは彼の魂だろう。
運転手は獄中を回収すると「ブニャーン!」と雄叫び、いずこかへ走り去っていってしまった。気づいた時には、その姿は消えていた。
「……惜しいことをしたな。あのタクシーについて行けば、地獄の場所が分かったかもしれないのに」
平凡仙人は残念そうに頭をかいた。
これから獄中がどんな地獄を見るのか、平凡仙人には想像もつかなかった。
END②「地獄は突然に」
「俺は方々から恨まれている。うっかり俺を探している連中に出くわしちまったら厄介だからな、記憶は保ったまま出稼ぎに行かせてもらうぜ」
「承知しました。ポイントが最低限界値まで達したら、その時点で地獄行きです。くれぐれも行動にご注意を」
「わぁってるって! 今度こそ、倍にして返すからさァ!」
「……金借りるやつの常套句じゃねぇか」
平凡仙人は思わずツッコんだ。
獄中は迎えに来たコウノトリタクシーに乗せられ、無事に転生した。貧富の差が激しい国で、獄中は新たに「プアー」という名前を授かった。
ポイントがマイナスな分、用意された家庭環境は前世と同じくらい酷い有様だった。こんな状況で必要なポイントを稼ぐには、相当な努力が必要だろう。
が、獄中は最初からポイントを稼ぐ気などなかった。
記憶があるのをいいことに、幼い頃から大人顔負けの悪事を繰り返していた。地獄行きにならないよう、時々良いことをして帳尻を合わせた。
「間抜けな女神だぜ! 地獄行きにならなきゃ、こっちのもんよ!」
獄中は悪事でのし上がり、国のトップになった。
誰も獄中には逆らえない。転生した彼の命を狙う転生者は、いずれも獄中の指示で処刑させられた。
欲しいと思ったものは何でも手に入った。金は使っても使っても減らなかった。妻と子供は星の数ほどいて、孫まで生まれた。
何もかもが順調……そのはずだった。
ある日、獄中が屋上のプールで泳いでいると、空中に平凡仙人が現れた。
「よっ。久しぶり」
「誰だお前は? おい、守衛! コイツをつまみ出せ!」
プールサイドで控えていたボディーガードに命令する。
しかしボディーガードには平凡仙人の姿は見えていないらしく、困った様子でキョロキョロと辺りを見回していた。
「まぁ、落ち着けよ。俺は忠告しに来てやったんだぜ?」
「忠告? 俺は上手くやってるぞ?」
「確かにな。ポイントの最低限界値のギリギリを攻め、超えそうになった瞬間に善行をしてプラスを増やしてやがる。やり方が汚すぎて、うちの女神も地獄の使者もご立腹だ。一緒になって、斡旋所でむくれてる」
でもな、と平凡仙人は獄中にスマホの画面を見せた。
「お前はポイントがとんでもなくマイナスの状態で転生したんだ……そろそろボーナスタイムは終わりだよ」
獄中はスマホの画面を見て、青ざめた。
現在、彼がいる世界にも株や電子取引のシステムは存在する。獄中の悪事のおかげで急成長を遂げた彼の国とその事業は、どちらもうなぎのぼりだった。
にも関わらず、獄中が見せた画面では底辺ギリギリまで暴落していた。
「何でだよ! 俺は上手くやってたはず……!」
「お前が今までやった悪事、ぜーんぶバラされたんだよ。お前に復讐したがってる転生者によってな」
平凡仙人はスマホを操作し、株からニュースに変えた。
そこには獄中がこの世界で授かった孫の一人が映っていた。まだ年端も行かぬ少女だったが、子供とは思えないほどじょう舌に、獄中の悪事がペラペラと話していた。
「あいつはとんでもない悪党です! どうか、裁きを!」
「あンの小娘、よくも……!」
獄中は急いでプールから上がろうとした。
しかし直後、
「ニ゛ャオーン!」
としゃがれた猫の鳴き声と共に、頭上から漆黒のタクシーが降ってきた。表示灯には「火車タクシー」とあった。燃えるようなオレンジ色の髪をした、猫顔の女性がハンドルを握っている。
獄中が呆然と見上げる中、漆黒のタクシーは彼を押し潰すようにプールへ落下した。水飛沫はプールサイドを超え、ボディーガードをも飲み込む。透明だった水は獄中の血で赤く染まっていった。
「マイド、火車タクシーデゴザマス。オ客サン、逝キマショウネ」
運転手は片言で話しながら、獄中をタクシーの窓から車内へ引っ張り込む。体はプールの底に沈んでいるので、おそらくは彼の魂だろう。
運転手は獄中を回収すると「ブニャーン!」と雄叫び、いずこかへ走り去っていってしまった。気づいた時には、その姿は消えていた。
「……惜しいことをしたな。あのタクシーについて行けば、地獄の場所が分かったかもしれないのに」
平凡仙人は残念そうに頭をかいた。
これから獄中がどんな地獄を見るのか、平凡仙人には想像もつかなかった。
END②「地獄は突然に」
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
制服エプロン。
みゆみゆ
ファンタジー
3回目の大学1年生を迎えた市ヶ谷慧太。20歳。履修登録でミスをおかし、早くも4回目への道が拓けてしまった日、異世界から転生してきたと主張するJK(女子高生)松輪野けーこに再会するのだった。
料理を作ってもらう話です。
さしすせそ、を使っていろいろ作ってもらいます。よろしくお願いします。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
魔法省魔道具研究員クロエ
大森蜜柑
ファンタジー
8歳のクロエは魔物討伐で利き腕を無くした父のために、独学で「自分の意思で動かせる義手」製作に挑む。
その功績から、平民ながら貴族の通う魔法学園に入学し、卒業後は魔法省の魔道具研究所へ。
エリート街道を進むクロエにその邪魔をする人物の登場。
人生を変える大事故の後、クロエは奇跡の生還をとげる。
大好きな人のためにした事は、全て自分の幸せとして返ってくる。健気に頑張るクロエの恋と奇跡の物語りです。
本編終了ですが、おまけ話を気まぐれに追加します。
小説家になろうにも掲載してます。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる! ×ランクだと思ってたギフトは、オレだけ使える無敵の能力でした
赤白玉ゆずる
ファンタジー
【コミックス第1巻発売です!】
早ければ、電子書籍版は2/18から販売開始、紙書籍は2/19に店頭に並ぶことと思います。
皆様どうぞよろしくお願いいたします。
【10/23コミカライズ開始!】
『勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる!』のコミカライズが連載開始されました!
颯希先生が描いてくださるリュークやアニスたちが本当に素敵なので、是非ご覧になってくださいませ。
【第2巻が発売されました!】
今回も改稿や修正を頑張りましたので、皆様どうぞよろしくお願いいたします。
イラストは蓮禾先生が担当してくださいました。サクヤとポンタ超可愛いですよ。ゾンダールもシブカッコイイです!
素晴らしいイラストの数々が載っておりますので、是非見ていただけたら嬉しいです。
【ストーリー紹介】
幼い頃、孤児院から引き取られた主人公リュークは、養父となった侯爵から酷い扱いを受けていた。
そんなある日、リュークは『スマホ』という史上初の『Xランク』スキルを授かる。
養父は『Xランク』をただの『バツランク』だと馬鹿にし、リュークをきつくぶん殴ったうえ、親子の縁を切って家から追い出す。
だが本当は『Extraランク』という意味で、超絶ぶっちぎりの能力を持っていた。
『スマホ』の能力――それは鑑定、検索、マップ機能、動物の言葉が翻訳ができるほか、他人やモンスターの持つスキル・魔法などをコピーして取得が可能なうえ、写真に撮ったものを現物として出せたり、合成することで強力な魔導装備すら製作できる最凶のものだった。
貴族家から放り出されたリュークは、朱鷺色の髪をした天才美少女剣士アニスと出会う。
『剣姫』の二つ名を持つアニスは雲の上の存在だったが、『スマホ』の力でリュークは成り上がり、徐々にその関係は接近していく。
『スマホ』はリュークの成長とともにさらに進化し、最弱の男はいつしか世界最強の存在へ……。
どん底だった主人公が一発逆転する物語です。
※別小説『ぶっ壊れ錬金術師(チート・アルケミスト)はいつか本気を出してみたい 魔導と科学を極めたら異世界最強になったので、自由気ままに生きていきます』も書いてますので、そちらもどうぞよろしくお願いいたします。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる