女神運営☆異世界転生斡旋所〈とりっぷ〉

緋色刹那

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第三話「俺達はいつも一緒!」

後編

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 三人にそれぞれアンケートを書いてもらうと、女神は個々の希望を要約して読み上げた。
我太がたいごう様は、"同じ世界に三人で転生したい"、とのことですね?」
 最初に確認したのは、ガタイのいい男のアンケートだった。
 男、剛は大きく頷き「あったり前だろ!」と笑った。
「正直、異世界とかファンタジーとかよく分かんねぇけど、三人一緒なら何処でもやってけると思うんすよ。文化祭の時も、三人で舞台に立って、みんなを笑かしまくってたし……まさにソウルメイトって感じっすよね!」
 剛は椅子から立ち上がると、他の二人のもとへ歩み寄り、後ろから肩を組もうとした。しかし、一人は剛の手を払い退け、もう一人は「ひっ!」と怯えた様子で悲鳴を上げた。
 剛の手を払い退けた男は椅子から立ち上がり、鋭い目つきで剛を睨んだ。
「やめろ、剛。俺達は幼馴染でもなんでもない。来世まで関わるなんて、まっぴらだ」
「な、何でだよ、玲二れいじ?! 俺達、仲良くやってきただろ?! 急にそんなこと言うなんて、どうしちゃったんだよ?!」
 剛は手を払い除けた男、玲二に詰め寄り、問いただす。
 だが、玲二は冷めた目で剛を睨むばかりで、訳を話そうとはしなかった。
「では、続いて氷洞ひょうどう玲二様の希望を読み上げさせて頂きますねー」
 ギスギスした雰囲気の中、女神は楽しげに玲二のアンケートに目を落とす。彼のアンケートを確認すると、わざとらしく「あらまぁ」と口に手を当てた。
「氷洞玲二様は、"来世では剛と関わらない人生を送りたい"だそうですね?」
「あぁ」
「玲二!」
 玲二は女神の言葉に頷き、席に着く。
 それを聞いた剛は玲二につかみかかった。
「何で俺を避けるんだよ?! 言いたいことがあるなら、ハッキリ言えよ!」
「離せ、そして黙れ。何もかも、忘れたお前が悪い」
 玲二は剛の手を引き離し、突っぱねる。意地でも話すつもりはないらしい。
従汰じゅうた……お前もか? お前も俺に何か隠してることがあるのか?」
 剛はもう一人の男にも尋ねた。
 従汰、呼ばれたその男は小柄な体を震わせ「し、知らない!」と首を振った。言葉とは裏腹にその目は泳ぎ、挙動不審だった。玲二同様、何かを知っているのは明らかだった。
 剛もそれを察し、今度は従汰に詰め寄った。
「従汰、教えてくれ! お前は俺に何を隠してるんだ?! 俺にどうして欲しいんだ?!」
「ぼっ、僕と関わらないで!」
 従汰は怯えながらも声を張り上げ、剛に訴えた。
 そのあまりの気迫に、剛は反射的に従汰から退き、絶句した。平凡仙人と玲二も、豹変した従汰の態度に、言葉を失う。
 唯一、女神だけが「最後に内木うちき従汰様のご希望ですね」と楽しげにアンケートを読み上げた。
「内木従汰様は、"他の二人と別の世界に生まれたい"……とのことです」
「なっ?!」
 自分がハブられたことで、玲二は目を見開き、驚く。剛も呆気に取られた様子で、従汰を見下ろした。
「従汰、何で俺まで……」
「ごめん、玲二君。僕、二人がいない世界を生きてみたいんだ。本当にごめん」
 従汰は何度も玲二に謝り、居心地悪そうに俯く。それでも、希望を変えるつもりはないようだった。

「……」
「……」
「……」
 互いの意見が真っ向からぶつかり合い、三人は黙り込んでしまった。重苦しい空気の中、部外者である平凡仙人も口を挟めず、紅茶をすすった。
「さて、どなたの意見を尊重し、転生いたしますか? いい加減、決めていただきたいのですが」
 女神はチラチラとカウンター下の引き出しに視線をやりつつ、三人を急かす。仕事終わりに平凡仙人と人生ゲームをやる約束をしていたので、早く済ませたいらしい。
 そんな事情があるとは知らない三人は、困惑した様子で互いを見合う。ふいに、玲二が口を開いた。
「……剛が決めたらいいんじゃないか?」
「えっ」
 意外な言葉に、一同は驚く。女神も「おっ?」と意外そうに目を開き、玲二に興味を向けた。
「玲二……いいのか?」
「あぁ」
 玲二は頷き、剛を睨む。剛に一任する、という割には、友好的な雰囲気ではなかった。まるで、剛を試すような口ぶりで、続けて言った。
「お前が選べ。お前が"こうしたい"と思ったものを選べ。自分勝手な選択をするか、俺達のどちらかを思った選択をするか……楽しみだな」
「……従汰も、それでいいのか?」
 剛は従汰にも尋ね、確認する。
 従汰は迷った末に「う、うん」と頷き、玲二に同意した。
「本当は嫌だけど、そう決まったなら仕方ないよ……剛君が僕達をどうしたいのか、選んで」
「あぁ……ありがとう」

 剛は迷った。
 本音を言えば、玲二とも従汰とも別れたくない。また三人で生きたい。
 しかし二人は剛と別れることを望んでいる。その理由を剛は知らず、また二人も話そうとはしない。
 二人が口を閉ざすということは、よほどの事情に違いない。真実に目を背け、己の希望だけを叶えていいものなのか……?

 剛は考えた末、答えを出した。
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