女神運営☆異世界転生斡旋所〈とりっぷ〉

緋色刹那

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第二話「勇者になりたい? 今なら内見キャンペーン実施中!」

選択肢③『新天地へ』(後編)

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 金髪の女性店員が駆け寄り、ケンを迎える。来客用のソファには「平凡」と書かれたお面をつけた仙人のような男が座り、分厚い本を読んでいた。
「なんだ、ここは……俺は死んだのではないのか?」
「仰る通り! ここはお亡くなりになったお客様の転生を斡旋する事務所です。まずはこちらのアンケートにお答え下さい」
 ケンは女神からアンケートを渡され、転生についての説明を受けた。
 人間は死ぬと「とりっぷ」に送られ、転生を斡旋してもらうこと。
 その際、アンケートを答え、好きな世界で、好きな来世を送れること。
 希望を叶えるには、前世の行いで稼いだポイントが必要であること……。
「お客様は生前、とんでもない大罪を犯しまくりました! 魔族側の評価と差し引いてもマイナスポイントになってしまいます。どんな来世であれ、相応の苦難が待っていると覚悟しておいて下さいね」
「……分かっているさ」
 ケンはアンケートの希望欄を一ヶ所だけ埋め、女神に返した。
「ふむふむ……"人間がいない世界なら何処でもいい"でございますか?」
「あぁ。俺はつくづく人間と相性が悪いんでな」
「分かりました。該当する世界を一覧にしてご紹介させて頂きますね」
 すると「平凡」というお面をつけた仙人風の男が、「ちょっといいか?」と話に割って入ってきた。
 女神はあからさまに顔をしかめ、「何です?」と男を睨む。
 しかし男は女神に構わず、ケンのもとへ歩み寄ると、入り口のラックに入っていたチラシを渡した。上空から撮影した大きな島の写真に、「新天地、発見! 転生者求む!」と大きな字で書かれていた。
「行きたい世界が決まっていないなら、この世界にしないか?」
「は?」
 ケンはその写真に見覚えがあった。彼がまだ幼かった頃の世界だった。
 ケンはモンスターを統治してすぐ、国土を広げ、国を大きくした。かつてのちっぽけだった島は大陸となり、いくつもの島に分断した。
「新天地、タカラジマ……お前の前世の世界だ。この世界の過去へ転生すれば、お前は前世と同じ人生を生きられる」
「……俺にまた、同じ人生を味わえと言うのか? 力ばかりを手に入れた、孤独な人生を」
 ケンは男を鋭く睨む。
 すると男は「違う」と首を振った。
「やり直すんだ。記憶を継承して、全てを知った上で。俺はずっとお前の人生を見てきたんだ……今回の前も、その前の前も、その前の前の前も。お前はいずれの世界でも記憶を捨て、転生した。同じ人生を繰り返していることに気づかず、同じ過ちを何度も繰り返した。だから、もしもお前に"抗いたい"という意識があるのならば、今度は記憶を持ったまま、転生してみないか?」
「記憶を、持ったまま……?」
 ケンは今までの苦難を思い返し、「もしもあの時、先が分かっていたら」と考えた。
 モンスターを力で統治した時、異世界から人間達を召喚した時、マサルの本心に気づけなかった時……きっと何処かで踏み止まり、別の選択を選んでいれば、魔王にまで堕ちることはなかったかもしれない。そして、ケンが望む世界が待っていたのかもしれない、と。
「……正直、生きたくはない。だが、やり直してみるというのも悪くないかもな」
「で、でも! お客様はポイントを持っていらっしゃいませんよね?! 希望の転生先に転生するにも、記憶保持にも、ポイントが必要なんですよ?!」
 女神はその気になりつつあるケンの気を削ごうと、茶々を入れる。
 すると男は先程まで読んでいた本を掲げ、女神に反論した。
「嘘つけ。なんとかなるくせに」
「あらあら、平凡仙人さん。何か妙案がおありで?」
 女神は余裕の表情で、男を牽制する。
 ……が、彼が読んでいた本のタイトルを見た瞬間、青ざめた。
「そ、その本は……"斡旋所マニュアル"! 平凡仙人さんにここでのルールを学んでもらおうと思って、私が貸してあげた本じゃないですか!」
「そうだ。おかげで、ずいぶん勉強になったよ。"ポイントがマイナスでも、前借りるすることが出来る"なんて、知らなかったからな」
「前借り?」
「わー! わー! 聞こえない、聞こえないぃー!」
 女神はケンに聞こえないよう、わざと大声を発し、平凡仙人の声を遮ろうとする。
 すると平凡仙人はマニュアル本の最後のページに書かれた番号を指差し、「静かにしないなら、この"緊急時連絡先"とやらに連絡して、お前の悪事を暴露するぞ」と脅した。
 途端に女神は口を閉じ、大人しくなる。不満そうに頬をぷくーっと膨らませ、蛍光色のクッキーを貪った。
 女神が静かになったのを見て、ケンは改めて平凡仙人に尋ねた。
「マイナスになったら、ポイントは使えないんじゃなかったのか?」
「いや、事前にポイントを借りることで、希望の転生プランを叶えられるんだ。借りたポイントは次回の転生の際に差し引かれるが、それ以上のポイントを稼げば問題ない。どうだ? ポイントを借りて、やり直してみないか?」
「……」
 ケンは逡巡した後、「そうする」と平凡仙人が提示したプランに決めた。
「元々、来世に期待なんて持ってなかったんだ……今はやりたいことをやるさ。次の次の人生なんて、知ったことか」
「だそうだ、女神様。転生の準備を」
「はいはーい。了解しましたぁ」
 女神は不満丸出しで唇を尖らせ、パンパンと手を叩く。
 すると店の前に一台のタクシーが止まり、ドライバーらしき爽やかな青年が降りてきた。
「こんにちはー! コウノトリタクシーです! お客様の勇増様ですね? 迎えに参りました!」
 ケンは彼に連れられ、タクシーに乗り込んだ。
 女神はケンに見向きもせず、店の中で紅茶を煽り飲んでいる。平凡仙人だけが入り口に立ち、ケンに手を振っていた。
「色々助かった。ありがとう」
 ケンも平凡仙人に会釈し、感謝の言葉を口にする。彼がいなければ、また同じ運命をたどっていたのかもしれないと思うと、ゾッとした。
「では、出発しまーす」
 青年はアクセルを踏み、車を出発させた。
 店の外には何もない。ただただ真っ白な世界が、果てしなく続いている。
 ケンは来世の人生を想い、眠りについた。

 目を覚ますと、ケンはジャングルの奥地で寝っ転がっていた。体は満足に動かせず、伸ばした手はやけに小さい。布で出来た服を着ていたため、寒くはなかった。
 空には見慣れた巨大なドラゴンが飛翔し、木にも見覚えのある奇妙な顔の猿がニマニマと不気味に笑っていた。どちらもケンの生まれ故郷「タカラジマ」に生息するモンスターだった。
 前世の記憶もしっかり残っており、ちゃんと"転生"できたらしいと分かった。
「あれ、何だろう? 昨日まではなかったのに」
 その時、頭に牛のようなツノを生やした、人型の子供の魔族がケンに近づいてきた。不思議そうにケンを見下ろし、頬をぷにぷにと指でつつく。
(何だ、この不敬なやつは……魔力で吹っ飛ばしてやろうか)
 ケンは子供を退けようと、手を上げた。
 しかしふと、従者から聞いたある噂が脳裏をよぎり、思いとどまった。
(……そういえば、俺が最初に殺したモンスターは子供の魔族だったな)
 噂によると、ケンは生まれながらにして強い魔力を持ち、物心つく前から反射的にモンスターを駆逐していたらしい。その最初の犠牲となったのが、好奇心からケンに近づいた子供の魔族だった。
 子供を殺したことで、彼の親や仲間の魔族達がケンを恐れ、始末しようとした。しかしケンは処刑される寸前で彼らを抹殺、魔族を敵と見做すようになり、誰彼構わず殺すようになった……。

(なら……我慢するしかないな)
 ケンは過去を変えるため、子供にされるがまま、頬をつつかれ続けた。
 子供はしばらく頬をつつくと満足したのか、「お父さーん!」と視界の外へ走っていった。やがて子供は体格のいい大人の魔族を連れて、ケンのもとへ戻ってきた。
「見て見て! 変な赤ちゃんがいるよ!」
「おぉ、異世界人の赤子じゃないか! 誰かが召喚したのか? それにても、こんなところに放置するなんて、酷いなぁ」
 大人の魔族はケンを抱きかかえ、顔をほころばせた。子供よりも立派なツノが頭に生えている。
 厳つい外見に反して、優しそうな魔族だった。
「うちでしばらく預かろう。人間の赤子なんて珍しいから、みんな喜ぶぞ」
「わーい! 弟だ、弟だ!」
 子供の魔族は大人の魔族の横で嬉しそうに飛び上がる。その無邪気な反応に、ケンは不覚にも「可愛い」と思ってしまった。

 大人の魔族はケンを抱えたまま、子供の魔族を連れてジャングルを進んでいく。彼が歩くたびにケンの体は揺られたが、その揺れがかえって心地良かった。
 ケンは次第に眠くなり、目を閉じた。睡魔に抗わずとも、彼らは自分を悪いようにはしないと確信していた。
 眠りに落ちる寸前、ケンは心の中で誓った。
(……俺は、変えてみせる。自分の、運命を。そして今度こそ、本物の勇者に、なるんだ……)

 END3「今はまだ遠き、理想の勇者」

(第三話へ続く)
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