女神運営☆異世界転生斡旋所〈とりっぷ〉

緋色刹那

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第二話「勇者になりたい? 今なら内見キャンペーン実施中!」

後編

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「ここは……?!」
 ケンは思わず椅子から立ち上がり、周囲を見回した。
 目の前には、漫画やアニメで何度も見たことがある、西洋風の街並みが広がっていた。遠くには立派な城も見える。国民は笑顔で、街は活気づいていた。
 ケンと女神は人々が往来する広場に出現したが、誰も二人の存在に気づいていないのか、何事もなく過ごしていた。
「ここはお客様のご希望に一番沿った世界、オードーキングダムです。代々王家が政権を握り、平和に暮らしてきました。しかし近年、伝説の魔王が復活し、多くの村がモンスターに襲われてきました。そしてお客様が転生した十六年後に、王の娘である姫が魔王に拐われてしまうのです。姫を救い、国民を救い、世界を救うためには、どなたかが勇者に転生し、戦うしかありません」
「それは大変だ! 僕、この世界に転生します!」
 女神の熱のこもった演技に、ケンも乗せられる。
「まぁまぁ、他にも候補はありますから」
 女神はケンをなだめると、再度指を鳴らした。
 すると世界が再びぐにゃりと歪み、今度は荒れた村に転移した。
 先程の世界とは違い、村人は皆しかめっ面で歩いている。閑散とした村で、人はいるはずなのに静かだった。
「ここって、辺境の村ですか?」
「いいえ。首都ですよ」
「首都?!」
 ケンは信じられない面持ちで周囲を見回した。先程の国との差が大き過ぎて、衝撃的だった。
「やや希望からは逸れますが、お客様が勇者を志望された動機が"国民を笑顔にしたい"とありましたので、こちらの"クルーエラ"という世界も紹介させて頂きます。この世界は個人主義の世界で、モンスターに襲われても誰にも助けてもらえません。自らの命を賭して戦う勇者は"愚か者"と見做されており、助けても感謝さえされません。かつては勇者を志した若者達も、やりがいのなさに嫌気が差し、勇者を辞めてしまいました。勇者がいないせいでモンスターはどんどん増え続けており、この世界は滅亡の危機に瀕しております。これはもう、転生した勇者にしか世界を救うことは出来ないのでは?!」
「勇者がいないせいで、世界が滅亡するなんて……! 僕、この世界に転生します! 希望とはちょっと違うけど、放っておけない!」
 ケンはまたも女神の演技に乗せられ、転生先を決めそうになる。
「まぁまぁ、あともう一箇所候補がありますから」
 女神は三度ケンをなだめ、指を鳴らして最後の世界へと案内した。
 そこはジャングルだった。ドラゴンが空を飛び、森には見たこともない不思議な動物達が生活している。生えている植物も、ファンタジー小説に出てくるようなものばかりだった。
 ただ、一通り見回してみたが、人間はどこにもいなかった。こんな鬱蒼としたジャングルに人がいるとは思えなかったが、なぜかケンはジャングルに人がいないことに違和感を感じた。
「こちらは最近発見されたばかりの世界、"タカラジマ"です。我が事務所の特別顧問の方も知らない動物や植物が無数に存在しています。お客様は"今まで見たことがないファンタジー世界"、"未踏の地を冒険したい"とのご要望も出されていらっしゃいましたので、このような世界も紹介させて頂きました。先程紹介させて頂いた世界はどちらも冒険し尽くされた世界で、世界観も凡庸です。新鮮さをお求めになりたいのであれば、こちらの世界をオススメします」
「一つ気になるんですけど、僕の他に人間はいるんですか? そもそも、僕って人間として転生するんですか?」
「転生対象は人間ですが、現時点でお客様以外の人間は確認できておりません。どのような状況で誕生し、育っていくかは未知数です。ご心配であれば、転生者特典に"強運"を選ばれるとよろしいかと」
「強運かぁ……どの世界を選んだとしても、便利そうだな。でも、こんな順風満帆な人生で大丈夫ですかね? チート過ぎやしませんか?」
 すると女神は笑顔で人差し指の先を唇に当てた。
「そうですね。お客様のご希望を全て叶えるのは不可能です。ポイントが全然足りませんので」
「……へ? ポイント?」
 ケンは転生とはかけ離れたワードに、目を白黒させた。
「転生にポイントがいるんですか?」
「当たり前ですよぉ。前世の行いによって得たポイントを使って、転生内容を決定するんですから。ちなみに、お客様のポイントは三十ポイントです」
 具体的な数字を言われても、ケンにはそれがどれほどの価値を持つのか分からず、ショックの受けようがなかった。
「……僕の希望は、どれくらい叶うんです?」
「希望の転生先を選択するのに二十ポイント、希望の職を選択するのに十ポイント……以上ですね」
「ほとんど叶わないってことじゃないですか!」
 ケンは憤り、椅子から立ち上がった。
 強運体質を手に入れたとしても、思い通りの人生となるかは分からない。勇者として讃えられるかも、姫と結婚できるかも、魔王を倒せるかも、何もかもがケンの努力と運次第だった。
「ご希望の人生を手にできるかどうかは、お客様次第です。ポイントが少ないお客様でも、満足のいく人生を送られるお客様は大勢いらっしゃいますよ。それとも、希望の世界に転生することか、勇者になることを諦めて、別の希望のためにポイントを使われますか?」
 女神は指を鳴らし、元の店内に戻す。
 目の前でケンが憤慨していても、彼女は至って冷静だった。ニコニコと笑い、ケンの答えを待っている。
「僕は、どうしたらいいんだ……」
 ケンは頭を抱えた。
 希望の世界を選ぶことも、勇者になることも捨てられない。ファンタジー世界で勇者になることがケンの夢なのだから。
 その時、外から入り口のドアが開かれ、何者かが店に入ってきた。
「ただいま」
「あ、おかえりなさーい!」
 女神は彼の姿を見るなり、嬉しそうに顔をほころばせる。今までケンが見てきた営業スマイルとは違う、本物の笑顔だった。
 一体誰が来たのか、とケンは振り向き、目を疑った。
 店に入ってきたのは、「平凡」と書かれたお面をつけ、白いローブを羽織り、杖を持った男だった。ヒゲこそ生えてはいないが、どう見ても仙人だった。
「だ、誰ですか、この人?!」
「お、新しい客か?」
 男はケンに気づくと、来客用のソファに腰を下ろし、名乗った。
「俺は平凡仙人だ。斡旋所ここの特別顧問をしている。分からないことがあれば、何でも聞いてくれ」
「は、はぁ……」
 ケンは平凡仙人を「異様な人だな」と思った。彼が名乗った通り、「仙人」という言葉がよく似合っていた。
 と同時に、ケンは男に対して妙な親近感を抱いた。大した会話もしていないというのに、仲間のような、同じ修羅場をくぐってきたような、そんな感覚がした。
 平凡仙人もまた、お面越しにケンをジッと見つめ、感慨深そうにしていた。
(……強運体質なんだし、ポイントで確定しなくても大丈夫だよな?)
 ケンは平凡仙人と出会ったことで落ち着きを取り戻し、前向きに考えられるようになった。自分に言い聞かせるように確認し、頷く。
「いえ、それでいいです。僕は異世界ファンタジーの世界で勇者になりたいから、どちらも諦めることは出来ません。強運体質に賭けます」
 ケンが答えると、女神はニコッと営業スマイルを浮かべた。
「では、ポイント交換はこちらで確定させて頂きますね。転生する世界はどうなさいますか?」
「転生する世界は……」

 希望通りのファンタジー世界、勇者がいなければ滅亡してしまう世界、冒険しがいのある未踏の世界……ケンは迷った末、一つの世界に決めた。
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