美術部俺達

緋色刹那

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番外編「First Grade」

第五話「今朝の登校風景(遅刻勢)」⑶

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 授業が始まったので、波田野も教室に帰った。
 授業の合間に映像を確認し、遅刻四天王を探す。遅刻四天王は監視している波田野ですら、リアルタイムで存在に気付けない手練れだった。
「あ、ヤマさんみっけ」
 さっそく四天王の一人、山尾やまおのぼるを見つけた。
 廊下では大城と変わらないスピードで走っているものの、階段では比嘉と村上の横を目にも止まらぬ速さで駆け上がっていく。二人も「何だ今の?!」と驚いていた。
「さすがヤマさん! 登山部のエースは伊達じゃないな!」
 山尾は登山部で、毎朝自主練に登山をしていた。学校に着く頃にはチャイムが鳴っているが、階段を猛烈な速さで登るため、出欠に間に合ってしまう。その速さから「弾丸アルピニスト」と呼ばれていた。
 山尾は今日も出欠に間に合い、涼しい顔で席に着く。その後ろに二人目の四天王、戸隠とがくし静香しずかが座っていた。
「うおっ! 戸隠先輩、いつ来たんだ?!」
 波田野は教室の映像を巻き戻し、確認する。担任が出欠を取っている最中、戸隠は地窓から蛇のようにニュルリと教室に入ってきていた。
 戸隠は異常に気配が薄く、新聞部とプロかくれんぼ同好会と忍者部に所属している。外見も地味で、どこにでもいそうだ。忍者部なのもあって、通称「くの一」と呼ばれていた。
 便利な能力だが、気配が薄すぎるせいか、出欠の際にも担任から見つけてもらえなかった。
「戸隠ー」
「はい……」
「戸隠、遅刻かー?」
「あの、います……」
「戸隠、遅刻っと」
「うぅ……」
 戸隠が泣きそうになったその時、廊下側の窓から「ひゃっほーう!」と派手な男子が教室に飛び込んできた。
「先生! 戸隠さんならいまーす!」
壱島いちしま! 窓から入ってくるんじゃない!」
 壱島の登場に、波田野は「キター!」とテンションが上がった。
「四天王一の派手男、壱島シリウス先輩! 今日は窓を割らずに入ってきたから、まだマシなほう!」
 壱島は新体操部とパルクール部と軽音部に所属している目立ちたがり屋で、いつも登校中にパルクールに熱中し過ぎて遅刻する。
 しかしパルクールを駆使し、どこからでも校舎に侵入できるため、遅刻にはならなかった。その性格から、通称「自由ノ一番星」と呼ばれている。
「それから、お前は遅刻だ」
「は? 何で?」
「名前を呼んだ時、教室にいなかったじゃないか」
「それって不公平じゃないっすか? 他のやつらの名前は呼んでたっしょ? 生まれ持った名字でセーフかアウトか決まるって、差別っすよ」
 壱島の主張に、担任はぐうの音も出ない。
 やむなく、壱島もセーフになった。
「ありがとう、壱島君。よく私に気づけたね」
「隣の席なんだから、当たり前じゃん」
 壱島はニッと笑う。彼は派手好きだが、女子はおとなしいタイプが好きだった。
「あと一人は蝶園先輩か。いつ来たかな」
 波田野は蝶園のクラスの映像に切り替える。
 蝶園は一時間目が終わる直前に、教室に入ってきた。
「あら、蝶園さん。遅刻?」
「いえいえー。ちょっとお花を摘みに行ってましたー」
「そうだったの? 行く時はひと声かけてからいってね」
「すみませーん」
 担任は全く疑問を持たず、出欠簿の蝶園の欄に「出席」と記す。クラスメイトも蝶園が遅刻してきたと気づいていない。
 この事実に、波田野はゾッとした。
「蝶園先輩、恐ろしいな。他の三人みたいに身体能力が高いわけじゃないのに、堂々としているだけで遅刻を回避してしまう。これが"蝶園ワールド"か」
 蝶園は堂々としているだけで、相手に疑問を抱かせない特異体質だった。
 どんな状況でも「蝶園が間違うわけがない」「間違っているのはこっちじゃないか?」と思わせてしまう。彼女が生徒会長だったら、この学校は終わっていたかもしれない。
「さて、これで全員見つけられたな。お昼の放送までに本放送を編集しておくか。遅刻勢の編集は昼休みにやろう」

     ◯●◯●◯

 だが、成宮が六時間目まで遅刻がバレなかったせいで、遅刻勢の編集は上映会の直前までかかってしまった。成宮は文句なしの遅刻王に決まり、記念に食堂の食券が一枚贈呈された。
 上映会には成宮以外の美術部も全員集まった。比嘉と村上の発案で、誰が遅刻王になるか競っていたらしい。大城兄弟は「勝つなんて絶対無理」と辞退していた。
 波田野は食券を渡すついでに、彼らに尋ねた。
「ところで、屋上に変な絵が描かれていたんだけど、あれって君達の仕業?」
「なんだそりゃ?」
「知らん」
「俺達じゃないぞ」
「誰かのイタズラじゃないか?」
「鳥のフンが絵みたいに見えたとか?」
「誰かがペンキをぶちまけたのかも」
 本当に誰も知らないようで、全員ポカンとしている。
 波田野は「そっか」と首を傾げた。
(あんなプロみたいな絵、ただの落書きとは思えないんだけど……まさか、休止中の自由ノ星高校のバンクシー?)
 美術部が絵を発見したのは、夏休みが終わった後のことだった。



(番外編「First Grade」終わり)
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