美術部俺達

緋色刹那

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番外編「First Grade」

第五話「今朝の登校風景(遅刻勢)」⑵

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 自由ノ星高校には頻繁に遅刻する「遅刻勢」と呼ばれる生徒がいる。
 中でも「遅刻四天王」の四人はほぼ毎日遅刻しているにもかかわらず、バレずに無遅刻無欠席をキープしていた。
 波田野は「今日の遅刻勢」として彼らの遅刻ぶりを撮影し、放課後に視聴覚室でこっそり上映会を行なっていた。「今日の登校風景」以上に人気で、映像を売って欲しいと希望する生徒までいた。
『大城君に続いて遅刻してきたのは、一年の音来君! ヘッドホンで音楽を聴いているようですね。急ぐ様子が全く見られません!」
 音来は頭を振り乱しながら、悠々と校舎に向かう。
 いつものように神☆メイに熱中し過ぎて、学校を忘れていたのだろう。来ただけマシである。
 音来の後から、比嘉と村上が現れた。
「ムンクがツッコミの練習したいって言ったせいだろ!」
「いやいや、ピカソがツッコミ待ちの顔してたせいだって!」
『あれは、二年の比嘉君と村上君ですね。珍しくケンカしているようです』
 二人も諦めて遅刻する気なのかと思いきや、ケータイを取り出した。
「大城! 等身大パネル頼む!」
『等身大パネル? 何のことだ? 彼らの教室を覗いてみましょう』
 波田野は教室に仕掛けてある隠しカメラで確認した。
 すると、比嘉と村上の席に彼らの等身大パネルが設置されていた。正面から見ると、本物が座っているようにしか見えない。
『これはすごい! どうやら等身大パネルで誤魔化すつもりのようですね』
 しばらくして、担任が教室にやって来た。
 比嘉と村上が等身大パネルになっているのも気づかず、出欠を取る。
「比嘉」
「はい」
 名前を呼ばれると、比嘉はケータイに向かって返事をした。
 声は机の引き出しに仕舞ってあるもう一台のケータイを通して、担任の耳に届く。担任はパネルだと気づかず、村上の名前も呼んだ。
「村上」
「はい」
 その時、窓から突風が吹き込んだ。
 比嘉と村上のパネルは宙を舞い、壁に叩きつけられる。教室は騒然となった。
「比嘉! 村上! 大丈夫か?!」
「いや、パネルだコレ!」
「パネルがしゃべってたのか?!」
『あちゃー、ばれちゃいましたね。失格です』
 遅刻勢は担任に「遅刻した」とバレたら、失格となる。
 比嘉と村上はケータイを通して教室の状況を察し、肩を落とした。二人は「今日の遅刻勢」のファンだった。
「くっそー。いけると思ったのに!」
「遅刻勢への道のりは厳しいな」
『いいアイデアでしたが、次に期待ですね。アイデアといえば、一年の成宮君は徹底した遅刻プレイを貫いていますよ』
 波田野は校舎の壁を見る。
 そこには校舎の壁と同じ色の全身タイツをまとい、窓からぶら下がっている成宮の姿があった。成宮の席には比嘉と村上と同じ、等身大パネルがある。
 風で飛ばされないよう、パネルは椅子の背に固定されていた。成宮はチャイムが鳴る三十分前に登校し、全ての準備を済ませていた。
「成宮君」
「はい」
 成宮はケータイに向かって返事をすると、窓から教室に入った。
『おや? 教室に入ってしまいましたね。てっきり、放課後まで壁で過ごすと思っていたのですが』
 クラスメイトは事情を知っているらしく、誰も反応しない。
 成宮は担任が名簿を見ている隙に、タイツの上から制服を着て、何食わぬ顔で席についた。
「それでは国語の授業を始めます。成宮君、読んでもらえる?」
「はい」
 成宮は立ち上がり、教科書を朗読する。
 あまりに鮮やかな遅刻プレイに、波田野は絶句した。
『そうか! 朗読の順番だったから、教室に戻ったのか! なんて抜かりない遅刻なんだ!』
 成宮は授業が終わると、再び壁へ戻り、次の授業の出欠に備えた。


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