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番外編「First Grade」
第四話「マネージャーとプロデューサー」⑵
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そして冒頭のやり取りに戻る。
「風呂出さんは、「プロデューサー!」プロ、デューサーは描かないの?」
「私、怖い絵描けないんだよねー。描いても、全然怖くならないの。ほら」
風呂出はサラサラとシャーペンで絵を描いた。ものの数秒で、頭の大きな二頭身の可愛らしいキャラクターが完成した。
近くの席で作業をしていたクラスメイト達が、絵を見て歓声を上げた。
「可愛いですわー!」
「小人かしら?」
「一応、ゾンビのつもりだったんだけど……」
「ゾンビって、映画とかゲームとかになってる、あの?」
「全然怖くありませんわねぇ」
「でしょ? だから私はプロデューサーに徹しようと思います! 絵は皆さんに任せた!」
風呂出は衣装班の様子を見に、教室を出て行った。
「風呂出さん、今までちゃんとお話ししたことなかったけれど、頑張り屋さんで素敵な方ねぇ」
「中等部からいらしてたら、もっと早くお友達になれましたのに」
「風呂出さんのご家族って、風呂出グループの経営をなさってる方々でしょう? 風呂出旅館とかホテル風呂出とか」
「成績も学年二位ですし、社交的でお人柄もよろしい。余裕で受かるはずですけどねぇ」
クラスメイト達は不思議そうに首を傾げる。
あらぬウワサに発展する前に、乙女が話を切り上げさせた。
「きっと、何か事情があったのよ。これから仲良くしていけばいいじゃない?」
「それもそうね!」
「乙女さんのおっしゃるとおりだわ! 今度、お茶会にお誘いしてみましょう?」
「賛成!」
◯●◯●◯
文化祭当日。
乙女はお化け屋敷の受付と案内をする予定だった。空いた時間は自由に出店を見てもいい、と言われたので引き受けた。
教室に来ると、「マネージャー!」と風呂出が泣きそうな顔ですがりついてきた。
「お願い! お化け役の代わり、やってくれない?! 口裂け女役の子が風邪で来られなくなっちゃったの!」
「何で私に? 演劇部の方に頼めばいいじゃない」
「今日は公演があるから、代わりがいないんだよー! それに、かなり細身の衣装だから着られる人も限られてくるし! 着てるとこ見せてもらうだけでもいいから! ね!」
「ちょ、ちょっと?!」
背中を押され、被服室へ連れて行かれる。
風呂出が勢いよくドアを開け放ち、待っていた衣装班とメイク班を振り向かせた。
「皆の者、喜べ! 代わりの口裂け女が見つかったぞー!」
「良かったぁ」
「麻根路屋さんがやってくれるの? 助かるわー」
「時間がないわ。早くこっちへいらして!」
「さっきと言ってることが全然違う! 私、まだやるって言ってないんだけど?!」
あれよあれよと言う間に真っ赤なコートに着替えさせられ、口裂け女風のメイクをほどこされた。髪はボサボサの長い黒髪のカツラを被らされた。
かなり濃いメイクで、元の顔の面影はない。完璧な仕上がりに、風呂出とスタッフは沸いた。
「素晴らしい! これならイケる!」
「本当に大丈夫? 眼鏡がないから分からないんだけど……」
乙女は不安げに鏡に目を凝らす。
「メイクの邪魔になる」と眼鏡を取られたせいで、ぼんやりとしか見えていなかった。
「最高の口裂け女だよ! 深夜の街中で会ったら、思わず絶叫しちゃうレベル!」
「脅かす時はかけてた方がいいんじゃない?」
「ぼんやりとなら見えるんでしょ? 中は暗いから、かけてもかけてなくても一緒だって! 人っぽいの来たなーって思ったら、全力で脅かしてね?」
有無を言わせない空気に、乙女は息を吐いた。
「……分かった。人が足りないんじゃ、仕方ないわね」
「ありがとう、マネージャー!」
「そのマネージャーっていうの、やめて」
「えー、いいじゃん。麻根路屋をもじって、マネージャー」
「風呂出さんは、「プロデューサー!」プロ、デューサーは描かないの?」
「私、怖い絵描けないんだよねー。描いても、全然怖くならないの。ほら」
風呂出はサラサラとシャーペンで絵を描いた。ものの数秒で、頭の大きな二頭身の可愛らしいキャラクターが完成した。
近くの席で作業をしていたクラスメイト達が、絵を見て歓声を上げた。
「可愛いですわー!」
「小人かしら?」
「一応、ゾンビのつもりだったんだけど……」
「ゾンビって、映画とかゲームとかになってる、あの?」
「全然怖くありませんわねぇ」
「でしょ? だから私はプロデューサーに徹しようと思います! 絵は皆さんに任せた!」
風呂出は衣装班の様子を見に、教室を出て行った。
「風呂出さん、今までちゃんとお話ししたことなかったけれど、頑張り屋さんで素敵な方ねぇ」
「中等部からいらしてたら、もっと早くお友達になれましたのに」
「風呂出さんのご家族って、風呂出グループの経営をなさってる方々でしょう? 風呂出旅館とかホテル風呂出とか」
「成績も学年二位ですし、社交的でお人柄もよろしい。余裕で受かるはずですけどねぇ」
クラスメイト達は不思議そうに首を傾げる。
あらぬウワサに発展する前に、乙女が話を切り上げさせた。
「きっと、何か事情があったのよ。これから仲良くしていけばいいじゃない?」
「それもそうね!」
「乙女さんのおっしゃるとおりだわ! 今度、お茶会にお誘いしてみましょう?」
「賛成!」
◯●◯●◯
文化祭当日。
乙女はお化け屋敷の受付と案内をする予定だった。空いた時間は自由に出店を見てもいい、と言われたので引き受けた。
教室に来ると、「マネージャー!」と風呂出が泣きそうな顔ですがりついてきた。
「お願い! お化け役の代わり、やってくれない?! 口裂け女役の子が風邪で来られなくなっちゃったの!」
「何で私に? 演劇部の方に頼めばいいじゃない」
「今日は公演があるから、代わりがいないんだよー! それに、かなり細身の衣装だから着られる人も限られてくるし! 着てるとこ見せてもらうだけでもいいから! ね!」
「ちょ、ちょっと?!」
背中を押され、被服室へ連れて行かれる。
風呂出が勢いよくドアを開け放ち、待っていた衣装班とメイク班を振り向かせた。
「皆の者、喜べ! 代わりの口裂け女が見つかったぞー!」
「良かったぁ」
「麻根路屋さんがやってくれるの? 助かるわー」
「時間がないわ。早くこっちへいらして!」
「さっきと言ってることが全然違う! 私、まだやるって言ってないんだけど?!」
あれよあれよと言う間に真っ赤なコートに着替えさせられ、口裂け女風のメイクをほどこされた。髪はボサボサの長い黒髪のカツラを被らされた。
かなり濃いメイクで、元の顔の面影はない。完璧な仕上がりに、風呂出とスタッフは沸いた。
「素晴らしい! これならイケる!」
「本当に大丈夫? 眼鏡がないから分からないんだけど……」
乙女は不安げに鏡に目を凝らす。
「メイクの邪魔になる」と眼鏡を取られたせいで、ぼんやりとしか見えていなかった。
「最高の口裂け女だよ! 深夜の街中で会ったら、思わず絶叫しちゃうレベル!」
「脅かす時はかけてた方がいいんじゃない?」
「ぼんやりとなら見えるんでしょ? 中は暗いから、かけてもかけてなくても一緒だって! 人っぽいの来たなーって思ったら、全力で脅かしてね?」
有無を言わせない空気に、乙女は息を吐いた。
「……分かった。人が足りないんじゃ、仕方ないわね」
「ありがとう、マネージャー!」
「そのマネージャーっていうの、やめて」
「えー、いいじゃん。麻根路屋をもじって、マネージャー」
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