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番外編「First Grade」
第三話「恩田のパンツ消失事件」⑶
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誰も入れないよう、更衣室の中から鍵をかけた。これなら万が一、成宮が盗っ人だったとしても、時間を稼げる。
「ずいぶん厳重だな」
「最近、何かと物騒だからね。用心しないと」
成宮を渡辺のロッカーまで案内し、弁当箱を仕舞ってもらう。再び更衣室の出入り口まで戻るまで、特に怪しい動きはなかった。
(なんだ、本当にお弁当の箱を届けに来ただったんだ)
その時、外で突風が吹いた。
それと同時に、更衣室のどこからか「ガタガタッ!」と音がした。何かが激しく揺れているような音だ。
「ひッ?!」
「何の音だ?」
丘野はビクッと肩を震わせ、悲鳴を上げる。成宮も音の出どころを探し、更衣室中を歩き回った。
「ちょ、ちょっと! 勝手に歩き回らないでよ!」
丘野も怯えながら、後を追う。
成宮は恩田のロッカーの前で立ち止まった。誰が触れているわけでもないのに、恩田のロッカーは小刻みに震えていた。
二人が見守る中、ロッカーはしばらく震えていたが、外の風がやむと同時に静かになった。
「何で……何で揺れてたの? 誰かロッカーに入ってるの?」
「開けていいか?」
「待って待って! 心の準備が……!」
成宮は返事を待たず、恩田のロッカーを開く。
丘野はとっさに他のロッカーの陰に隠れたが、中からは誰も出て来なかった。
「……いないな」
「嘘?!」
丘野も恩田のロッカーの中を覗く。
確かに、中には誰もいなかった。そもそも、仕切り板が邪魔で隠れられそうもない。
「まさかお化け?!」
「いや、そうじゃない。見ろ」
そう言うなり、成宮は恩田のロッカーの壁を押した。
次の瞬間、壁が仕切り板ごと奥に回転した。壁の先には細長いドアがあり、開くと更衣室裏のロッカーの溜まり場につながっていた。
目の前に広がる荒れ地に、丘野は呆然とした。
「な……何これ?! どういうこと?!」
「なるほど、ロッカーの壁が回転ドアになっていたのか。ロッカーの中から隙間風が吹きこむなんて妙だとは思ったが、こんなふうになっていたんだな」
「ロッカーが揺れていたのは、風のせいだったってこと?」
「そうみたいだな。君はマネージャーなのに知らなかったのか?」
丘野はブルブルと首を横に振った。
「全く! たぶん、誰も知らないと思う。そっか……ここから恩田君の私物が盗まれてたんだ」
途端に、成宮は怪訝な顔をした。
「盗まれてた? 何のことだ?」
「えっ、とぉ……」
丘野はやむなく、成宮にも全ての事情を話した。下手に隠して学校中に広められるよりはいい。
成宮は「そうか」と、自分のことのように重く受け止めてくれた。
「パンツまで盗まれるとは一大事だな。何か対策を考えたほうがいいんじゃないか?」
「そう言われても、急にはロッカーを直せないし……」
「良かったら、知恵と道具を貸そう。今週の俺は"一級パシリスト"だからな」
「嫌な称号だね」
丘野は練習中の道尾にも相談し、犯人対策を成宮に任せた。
◯●◯●◯
翌日の放課後、恩田の私物を盗んだ犯人は更衣室裏に現れた。
陸上部が全員更衣室から出て行き、顧問が鍵を閉めるまで待つ。練習が始まるまで待ったが、今日は誰も更衣室に戻ってこなかった。
(よし、今日は大丈夫。それにしても丘野さん、昨日は何で雑草掃除なんてしてたんだろ? 雑草がなくなったら、この辺の見通しが良くなっちゃうじゃん。せっかく隠し通路見つけたのにやめてよー)
器用にロッカーの溜まり場を抜け、恩田のロッカーに通じているロッカーの中に入る。怪しまれないよう、中からドアを閉めた。
(さてさて、今日は何を盗もっかなー。やっぱし生徒手帳かなー。パンツじゃ信用できないって言われちゃったもんなぁ)
いつも通り、回転扉になっている恩田ロッカーの壁を押す。しかし、いくら押しても扉はビクともしなかった。
(あ、あれ? 一昨日はちゃんと回ったのに? 昨日は風が強かったから、立てつけが悪くなっちゃったのかな?)
一旦外に出ようと、入っているロッカーのドアを押す。が、なぜかそちらも開かなくなっていた。
(いやいやいやありえないっしょ?! さっきは平気だったじゃん! なーんーでー?!)
数分後、突然ロッカーのドアが開いた。
「へぶっ!」
犯人はドアを押そうとした拍子に、外へ転がり出る。
顔を上げると、恩田をはじめとする陸上部の部員、丘野を含めたマネージャー、顧問、それから大城兄と数人の柔道部に取り囲まれていた。成宮、道尾も、遅れて更衣室から出てきた。
彼らは犯人の顔を目にした瞬間、一斉に声を上げた。
「「「だ……誰だお前ぇぇぇーッ?!」」」
ロッカーから出てきたのは、陸上部のマネージャーでも恩田ファンの女子生徒でも、ましてや成宮でもない……気弱そうな男子生徒だった。
「ずいぶん厳重だな」
「最近、何かと物騒だからね。用心しないと」
成宮を渡辺のロッカーまで案内し、弁当箱を仕舞ってもらう。再び更衣室の出入り口まで戻るまで、特に怪しい動きはなかった。
(なんだ、本当にお弁当の箱を届けに来ただったんだ)
その時、外で突風が吹いた。
それと同時に、更衣室のどこからか「ガタガタッ!」と音がした。何かが激しく揺れているような音だ。
「ひッ?!」
「何の音だ?」
丘野はビクッと肩を震わせ、悲鳴を上げる。成宮も音の出どころを探し、更衣室中を歩き回った。
「ちょ、ちょっと! 勝手に歩き回らないでよ!」
丘野も怯えながら、後を追う。
成宮は恩田のロッカーの前で立ち止まった。誰が触れているわけでもないのに、恩田のロッカーは小刻みに震えていた。
二人が見守る中、ロッカーはしばらく震えていたが、外の風がやむと同時に静かになった。
「何で……何で揺れてたの? 誰かロッカーに入ってるの?」
「開けていいか?」
「待って待って! 心の準備が……!」
成宮は返事を待たず、恩田のロッカーを開く。
丘野はとっさに他のロッカーの陰に隠れたが、中からは誰も出て来なかった。
「……いないな」
「嘘?!」
丘野も恩田のロッカーの中を覗く。
確かに、中には誰もいなかった。そもそも、仕切り板が邪魔で隠れられそうもない。
「まさかお化け?!」
「いや、そうじゃない。見ろ」
そう言うなり、成宮は恩田のロッカーの壁を押した。
次の瞬間、壁が仕切り板ごと奥に回転した。壁の先には細長いドアがあり、開くと更衣室裏のロッカーの溜まり場につながっていた。
目の前に広がる荒れ地に、丘野は呆然とした。
「な……何これ?! どういうこと?!」
「なるほど、ロッカーの壁が回転ドアになっていたのか。ロッカーの中から隙間風が吹きこむなんて妙だとは思ったが、こんなふうになっていたんだな」
「ロッカーが揺れていたのは、風のせいだったってこと?」
「そうみたいだな。君はマネージャーなのに知らなかったのか?」
丘野はブルブルと首を横に振った。
「全く! たぶん、誰も知らないと思う。そっか……ここから恩田君の私物が盗まれてたんだ」
途端に、成宮は怪訝な顔をした。
「盗まれてた? 何のことだ?」
「えっ、とぉ……」
丘野はやむなく、成宮にも全ての事情を話した。下手に隠して学校中に広められるよりはいい。
成宮は「そうか」と、自分のことのように重く受け止めてくれた。
「パンツまで盗まれるとは一大事だな。何か対策を考えたほうがいいんじゃないか?」
「そう言われても、急にはロッカーを直せないし……」
「良かったら、知恵と道具を貸そう。今週の俺は"一級パシリスト"だからな」
「嫌な称号だね」
丘野は練習中の道尾にも相談し、犯人対策を成宮に任せた。
◯●◯●◯
翌日の放課後、恩田の私物を盗んだ犯人は更衣室裏に現れた。
陸上部が全員更衣室から出て行き、顧問が鍵を閉めるまで待つ。練習が始まるまで待ったが、今日は誰も更衣室に戻ってこなかった。
(よし、今日は大丈夫。それにしても丘野さん、昨日は何で雑草掃除なんてしてたんだろ? 雑草がなくなったら、この辺の見通しが良くなっちゃうじゃん。せっかく隠し通路見つけたのにやめてよー)
器用にロッカーの溜まり場を抜け、恩田のロッカーに通じているロッカーの中に入る。怪しまれないよう、中からドアを閉めた。
(さてさて、今日は何を盗もっかなー。やっぱし生徒手帳かなー。パンツじゃ信用できないって言われちゃったもんなぁ)
いつも通り、回転扉になっている恩田ロッカーの壁を押す。しかし、いくら押しても扉はビクともしなかった。
(あ、あれ? 一昨日はちゃんと回ったのに? 昨日は風が強かったから、立てつけが悪くなっちゃったのかな?)
一旦外に出ようと、入っているロッカーのドアを押す。が、なぜかそちらも開かなくなっていた。
(いやいやいやありえないっしょ?! さっきは平気だったじゃん! なーんーでー?!)
数分後、突然ロッカーのドアが開いた。
「へぶっ!」
犯人はドアを押そうとした拍子に、外へ転がり出る。
顔を上げると、恩田をはじめとする陸上部の部員、丘野を含めたマネージャー、顧問、それから大城兄と数人の柔道部に取り囲まれていた。成宮、道尾も、遅れて更衣室から出てきた。
彼らは犯人の顔を目にした瞬間、一斉に声を上げた。
「「「だ……誰だお前ぇぇぇーッ?!」」」
ロッカーから出てきたのは、陸上部のマネージャーでも恩田ファンの女子生徒でも、ましてや成宮でもない……気弱そうな男子生徒だった。
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