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番外編「First Grade」
第二話「いわくのタロットカード」⑷
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「もう大丈夫。心の準備が出来たわ。タライでもなんでもかかってきなさい」
「うーん。ルールを破らなければ、何も起こらないはずなんですけどね」
姉小路はいわくのタロットカードを見つめる。
肝心の質問をする直前、ここにはいない大城兄のことが頭をよぎった。
(待って。なんでも答えてくれるなら、大城先輩に好きな人がいないか訊く方がいいんじゃない? 『部を大切に思うのは素晴らしいことだけど、自分を犠牲にしてまで尽くす必要なんてない』って、先輩も言ってたし!)
だが質問をする前に、弟のほうの大城と目があった。
(ダメダメ! こいつ、私がどんな質問したかって、絶対先輩にバラすわ! そんなの、私のプライドが許さない!)
姉小路はキッと大城を睨む。
大城は反射的に視線をそらし、ガタガタと震えた。文化祭で漫研の見学をした際に植えつけられたトラウマを思い出したらしい。
姉小路は隣でつまらなさそうに座っていた、阿久津に耳打ちした。
「阿久津、大城先輩に好きな人がいないか訊いてちょうだい」
「わかったー」
阿久津はぴょんっと椅子から立ち上がると、何食わぬ顔でドアを開け、スタスタと美術室から出て行った。
「ちょ?!」
「阿久津さん、何やってんの?!」
「先輩、何言ったんですか!」
「し、知らないわよ! 勝手に出て行って……」
姉小路は気づいた。
阿久津はいわくのタロットカードにではなく、大城兄に直接訊きに行くつもりなのだと。
「阿久津ー! 戻ってきなさーい!」
「ダメだ、先輩! ここで外へ出たら、アンタも天罰を食らっちまう!」
阿久津の後を追おうとする姉小路を、成宮と比嘉と村上が全力で止める。
阿久津が階段を降りる直前、天井から彼女の頭にタライが落ちてきた。
「いったーい! 頭ぐわんぐわんするぅー」
「阿久津さん、大丈夫ー?」
成宮が声をかけると、阿久津は「へーきー」と頭をさすりながら手を振った。
「念のため、保健室で見てもらえよー」
「そうするー」
阿久津は左右にゆらゆら揺れながら、階段をゆっくり下りていった。
◯●◯●◯
ドアを閉め、席に戻る。
姉小路は部員が被害に遭ったことで恐怖を克服したのか、「私がやる」と迷いなくいわくのタロットカードに質問した。
「漫研にBLの同人誌を持ち込んでいるのは誰ですか?」
成宮達も見守る中、カードをめくる。
社長、主人公、辺境のカードが出た。主人公はなよっとした男子生徒がひとり、辺境は山と谷の絵が描かれていた。
「意味は?」
「えっとですね……」
大城は恐怖で震えながら、答えた。
「"組織のトップが犯人。単独犯。近いうちに遠くへ去っていく"です」
「それって……蝶園部長?」
姉小路にとっては寝耳に水だった。
蝶園は腐女子ではない。イラストや漫画のキャラクターを描くのは苦手で、風景画や西洋画など、美術の授業で描くような絵ばかり描いていた。
「理由! 理由はなんなの?!」
「先輩、質問は一人一つまで!」
「う゛ッ」
姉小路の頭にタライが降る。姉小路はうめき、床に倒れた。
「せんぱーい!」
「保健室に……いや、救急車か?!」
成宮達は姉小路に駆け寄る。大城も姉小路に対する恐怖より、人命救助が上回った。
姉小路は「大丈夫」と頭を押さえつつ、起き上がった。
「急に来たからビックリしただけ。思ってたよりは痛くなかったわ。それより、貴方達の質問権を買わせてくれる? 部長がなぜ同人誌を持ち込んでいたのか、理由を訊いてもらいたいの」
「お安いご用です」
「ジュース一本分で手を打ちましょう」
「ありがとう」
「うーん。ルールを破らなければ、何も起こらないはずなんですけどね」
姉小路はいわくのタロットカードを見つめる。
肝心の質問をする直前、ここにはいない大城兄のことが頭をよぎった。
(待って。なんでも答えてくれるなら、大城先輩に好きな人がいないか訊く方がいいんじゃない? 『部を大切に思うのは素晴らしいことだけど、自分を犠牲にしてまで尽くす必要なんてない』って、先輩も言ってたし!)
だが質問をする前に、弟のほうの大城と目があった。
(ダメダメ! こいつ、私がどんな質問したかって、絶対先輩にバラすわ! そんなの、私のプライドが許さない!)
姉小路はキッと大城を睨む。
大城は反射的に視線をそらし、ガタガタと震えた。文化祭で漫研の見学をした際に植えつけられたトラウマを思い出したらしい。
姉小路は隣でつまらなさそうに座っていた、阿久津に耳打ちした。
「阿久津、大城先輩に好きな人がいないか訊いてちょうだい」
「わかったー」
阿久津はぴょんっと椅子から立ち上がると、何食わぬ顔でドアを開け、スタスタと美術室から出て行った。
「ちょ?!」
「阿久津さん、何やってんの?!」
「先輩、何言ったんですか!」
「し、知らないわよ! 勝手に出て行って……」
姉小路は気づいた。
阿久津はいわくのタロットカードにではなく、大城兄に直接訊きに行くつもりなのだと。
「阿久津ー! 戻ってきなさーい!」
「ダメだ、先輩! ここで外へ出たら、アンタも天罰を食らっちまう!」
阿久津の後を追おうとする姉小路を、成宮と比嘉と村上が全力で止める。
阿久津が階段を降りる直前、天井から彼女の頭にタライが落ちてきた。
「いったーい! 頭ぐわんぐわんするぅー」
「阿久津さん、大丈夫ー?」
成宮が声をかけると、阿久津は「へーきー」と頭をさすりながら手を振った。
「念のため、保健室で見てもらえよー」
「そうするー」
阿久津は左右にゆらゆら揺れながら、階段をゆっくり下りていった。
◯●◯●◯
ドアを閉め、席に戻る。
姉小路は部員が被害に遭ったことで恐怖を克服したのか、「私がやる」と迷いなくいわくのタロットカードに質問した。
「漫研にBLの同人誌を持ち込んでいるのは誰ですか?」
成宮達も見守る中、カードをめくる。
社長、主人公、辺境のカードが出た。主人公はなよっとした男子生徒がひとり、辺境は山と谷の絵が描かれていた。
「意味は?」
「えっとですね……」
大城は恐怖で震えながら、答えた。
「"組織のトップが犯人。単独犯。近いうちに遠くへ去っていく"です」
「それって……蝶園部長?」
姉小路にとっては寝耳に水だった。
蝶園は腐女子ではない。イラストや漫画のキャラクターを描くのは苦手で、風景画や西洋画など、美術の授業で描くような絵ばかり描いていた。
「理由! 理由はなんなの?!」
「先輩、質問は一人一つまで!」
「う゛ッ」
姉小路の頭にタライが降る。姉小路はうめき、床に倒れた。
「せんぱーい!」
「保健室に……いや、救急車か?!」
成宮達は姉小路に駆け寄る。大城も姉小路に対する恐怖より、人命救助が上回った。
姉小路は「大丈夫」と頭を押さえつつ、起き上がった。
「急に来たからビックリしただけ。思ってたよりは痛くなかったわ。それより、貴方達の質問権を買わせてくれる? 部長がなぜ同人誌を持ち込んでいたのか、理由を訊いてもらいたいの」
「お安いご用です」
「ジュース一本分で手を打ちましょう」
「ありがとう」
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