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第十一話「出待ち女子を振り返らせるな」
3,出待ち女子の正体
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漫研が加わり、ゲームは再開した。
人数が多いので、同位置にある別の隠れ場所にそれぞれ分かれて隠れる。
出待ち女子は警戒しているのか、それとも音来が一向に現れないことに不安がっているのか、キョロキョロと辺りを見回していた。
「スタートしづらいわね」
「万が一こっちを振り返ったら、一発アウトだからな」
美術部組が動けずにいる中、漫研が先に動いた。
歩いている生徒の背後へ隠れつつ、堂々と正門へ進んでいくのだ。はたから見ても、下校しようとしている生徒にしか見えなかった。
「これなら見つからず、進めるでしょ?」
「さっすが、あねっち! あったまいい!」
「あねっち言うな」
姉小路がツッコんだ瞬間、前を歩いていた生徒がギョッと振り返った。
「え?! 前の生徒会長の姉小路先輩?! 何で僕の真後ろに?!」
「何か問題でも?」
姉小路は開き直るが、周りの生徒も姉小路の存在に気づき、ざわつく。生徒会長と部長を辞めてもなお、彼女はいるだけでざわつかれる有名人だった。
自然と、姉小路の周りから人がはけていく。一人ぽつんと立っている彼女に、出待ち女子も目を向けた。
『姉小路、アウトー』
「ちょっと! 貴方達、避けないでよ!」
姉小路は文句を言いながらスタート位置へと戻っていく。
その間に、美術部組は着実に出待ち女子へと近づいていった。茂みや木などの障害物を使い、正門の手前までたどり着いた。
「問題はここからだな」
「うん。剛田先生に見つかる前に、動かないと」
正門のそばでは剛田が目を光らせている。うっかり見つかれば、大声で呼び止められるのは避けられない。
その上、この先にあるのは正門だけで、隠れられそうな障害物はない。目立たないよう、正門から出るしかないのだ。
すると大城が成宮に提案した。
「成宮君、僕を使いなよ。僕を隠れ蓑に、正門を抜けるんだ」
「大城……いいのか? お前が一番、出待ち女子を見たがっていたじゃないか」
「たまには僕にもカッコつけさせてよ。どうせこの体格じゃ、見つかるのは時間の問題だ。だったら、せいぜい有効に使わなくちゃ」
大城はヘヘッと照れくさそうに笑った。
「出待ち女子ちゃんがどんな子か、後で僕にも教えてよね」
「……あぁ。写真を撮ってくれるよう、頼んでみるよ」
成宮と大城は障害物から出る。
大城の背後に成宮が隠れ、正門を目指す。
「大城! 買い食いもほどほどにな!」
「はい、先生」
さっそく大城は剛田に声をかけられる。大城の背後にいる成宮の存在には気づいていない。
剛田の声に、出待ち女子が振り返る。その頃には大城は正門を抜けていた。
『大城、アウト』
審判のメッセージと共に、大城は離脱する。
残った成宮は帰宅する生徒を装い、出待ち女子の顔を見た。
「……」
彼女の顔を目にした途端、期待に満ちた成宮の表情は虚無へと変わった。
「あ、忘れ物したわ」
と、ひとりごとのようにつぶやき、踵を返す。
出待ち女子はその声で成宮の存在に気づき、彼を目で追った。
『成宮、アウト』
審判のメッセージが来る。
もはや成宮にとっては、どうでも良かった。
「成宮君! どうだった? あの子の顔!」
昇降口で待っていた大城が、待ちきれない様子で尋ねてくる。
成宮は「あー、うん」と歯切れ悪く答えた。
「あの子の顔……サングラスとマスクで完全に隠れてたわ」
◯●◯●◯
「えぇー?! それじゃ、素顔は見れないってこと?! ゲームのやり損じゃん!」
「そういう時もあるさ。他のプレイヤーも撤収させよう。これ以上やっても無駄だ」
大城は「そんなぁ」と肩を落とす。
マネージャー、妹尾、姉小路、漫研の部員達は出待ち女子の素顔が見れないとも知らず、ゲームを続けている。審判の漫研部員が気を利かせ、尋ねてきた。
「あの、メッセージで送りましょうか?」
「悪いな。そうしてくれるか?」
「いえいえ。我々も十分楽しませていただきましたので」
審判の漫研部員は携帯で、プレイヤー達にゲーム終了の知らせを送る。
メッセージを確認した瞬間、皆走って戻って来た。
「ちょっと! ゲーム終了ってどういうことよ!」
「素顔が見られるかどうかは問題じゃないわ! 私と麻根路屋だけでも、勝負を続行させて!」
「つっても、本来の目的は達成したからなぁ」
マネージャーと姉小路に詰め寄られ、成宮は困り果てる。
その時、
「ゲッチュー!」
「キャーッ!」
阿久津が校舎から正門の上へ降り立ち、出待ち女子からサングラスとマスクを奪った。
出待ち女子が悲鳴を上げるのも構わず、猿のごとく俊敏に去っていく。剛田が「待て、阿久津!」と彼女を追って行った。
「……今のって、阿久津さんよね?」
「山から降りてきた野猿かと思ったわ」
美術部も、漫研も、下校中の生徒も……皆、呆気に取られ、立ち尽くす。
「ッ!」
そんな中、音来は出待ち女子の素顔を目にし、ハッとした。ヘッドホンを肩へ下ろし、彼女のもとへ駆け寄る。
向こうも音来に気づいたのか、目を見張った。派手めのメイクをした美少女だった。
「あの女子、どこかで見たことがあるような……?」
「そういえば、僕も」
「私も」
成宮、大城、マネージャーは彼女の顔に既視感を覚える。
やがて音来は出待ち女子のもとへたどり着くと、 厳しい口調で問い詰めた。
「鳴子。何しに来た?」
「……」
「俺とお前は二度と関わらない……そういう約束だったよな? お前のデビューが決まった日に、そう決めただろ?」
「……」
出待ち女子はうつむき、黙りこくっている。
その間に、成宮は彼女が何者か思い出した。
「あの子……神☆メイじゃね?」
(第十二話へ続く)
人数が多いので、同位置にある別の隠れ場所にそれぞれ分かれて隠れる。
出待ち女子は警戒しているのか、それとも音来が一向に現れないことに不安がっているのか、キョロキョロと辺りを見回していた。
「スタートしづらいわね」
「万が一こっちを振り返ったら、一発アウトだからな」
美術部組が動けずにいる中、漫研が先に動いた。
歩いている生徒の背後へ隠れつつ、堂々と正門へ進んでいくのだ。はたから見ても、下校しようとしている生徒にしか見えなかった。
「これなら見つからず、進めるでしょ?」
「さっすが、あねっち! あったまいい!」
「あねっち言うな」
姉小路がツッコんだ瞬間、前を歩いていた生徒がギョッと振り返った。
「え?! 前の生徒会長の姉小路先輩?! 何で僕の真後ろに?!」
「何か問題でも?」
姉小路は開き直るが、周りの生徒も姉小路の存在に気づき、ざわつく。生徒会長と部長を辞めてもなお、彼女はいるだけでざわつかれる有名人だった。
自然と、姉小路の周りから人がはけていく。一人ぽつんと立っている彼女に、出待ち女子も目を向けた。
『姉小路、アウトー』
「ちょっと! 貴方達、避けないでよ!」
姉小路は文句を言いながらスタート位置へと戻っていく。
その間に、美術部組は着実に出待ち女子へと近づいていった。茂みや木などの障害物を使い、正門の手前までたどり着いた。
「問題はここからだな」
「うん。剛田先生に見つかる前に、動かないと」
正門のそばでは剛田が目を光らせている。うっかり見つかれば、大声で呼び止められるのは避けられない。
その上、この先にあるのは正門だけで、隠れられそうな障害物はない。目立たないよう、正門から出るしかないのだ。
すると大城が成宮に提案した。
「成宮君、僕を使いなよ。僕を隠れ蓑に、正門を抜けるんだ」
「大城……いいのか? お前が一番、出待ち女子を見たがっていたじゃないか」
「たまには僕にもカッコつけさせてよ。どうせこの体格じゃ、見つかるのは時間の問題だ。だったら、せいぜい有効に使わなくちゃ」
大城はヘヘッと照れくさそうに笑った。
「出待ち女子ちゃんがどんな子か、後で僕にも教えてよね」
「……あぁ。写真を撮ってくれるよう、頼んでみるよ」
成宮と大城は障害物から出る。
大城の背後に成宮が隠れ、正門を目指す。
「大城! 買い食いもほどほどにな!」
「はい、先生」
さっそく大城は剛田に声をかけられる。大城の背後にいる成宮の存在には気づいていない。
剛田の声に、出待ち女子が振り返る。その頃には大城は正門を抜けていた。
『大城、アウト』
審判のメッセージと共に、大城は離脱する。
残った成宮は帰宅する生徒を装い、出待ち女子の顔を見た。
「……」
彼女の顔を目にした途端、期待に満ちた成宮の表情は虚無へと変わった。
「あ、忘れ物したわ」
と、ひとりごとのようにつぶやき、踵を返す。
出待ち女子はその声で成宮の存在に気づき、彼を目で追った。
『成宮、アウト』
審判のメッセージが来る。
もはや成宮にとっては、どうでも良かった。
「成宮君! どうだった? あの子の顔!」
昇降口で待っていた大城が、待ちきれない様子で尋ねてくる。
成宮は「あー、うん」と歯切れ悪く答えた。
「あの子の顔……サングラスとマスクで完全に隠れてたわ」
◯●◯●◯
「えぇー?! それじゃ、素顔は見れないってこと?! ゲームのやり損じゃん!」
「そういう時もあるさ。他のプレイヤーも撤収させよう。これ以上やっても無駄だ」
大城は「そんなぁ」と肩を落とす。
マネージャー、妹尾、姉小路、漫研の部員達は出待ち女子の素顔が見れないとも知らず、ゲームを続けている。審判の漫研部員が気を利かせ、尋ねてきた。
「あの、メッセージで送りましょうか?」
「悪いな。そうしてくれるか?」
「いえいえ。我々も十分楽しませていただきましたので」
審判の漫研部員は携帯で、プレイヤー達にゲーム終了の知らせを送る。
メッセージを確認した瞬間、皆走って戻って来た。
「ちょっと! ゲーム終了ってどういうことよ!」
「素顔が見られるかどうかは問題じゃないわ! 私と麻根路屋だけでも、勝負を続行させて!」
「つっても、本来の目的は達成したからなぁ」
マネージャーと姉小路に詰め寄られ、成宮は困り果てる。
その時、
「ゲッチュー!」
「キャーッ!」
阿久津が校舎から正門の上へ降り立ち、出待ち女子からサングラスとマスクを奪った。
出待ち女子が悲鳴を上げるのも構わず、猿のごとく俊敏に去っていく。剛田が「待て、阿久津!」と彼女を追って行った。
「……今のって、阿久津さんよね?」
「山から降りてきた野猿かと思ったわ」
美術部も、漫研も、下校中の生徒も……皆、呆気に取られ、立ち尽くす。
「ッ!」
そんな中、音来は出待ち女子の素顔を目にし、ハッとした。ヘッドホンを肩へ下ろし、彼女のもとへ駆け寄る。
向こうも音来に気づいたのか、目を見張った。派手めのメイクをした美少女だった。
「あの女子、どこかで見たことがあるような……?」
「そういえば、僕も」
「私も」
成宮、大城、マネージャーは彼女の顔に既視感を覚える。
やがて音来は出待ち女子のもとへたどり着くと、 厳しい口調で問い詰めた。
「鳴子。何しに来た?」
「……」
「俺とお前は二度と関わらない……そういう約束だったよな? お前のデビューが決まった日に、そう決めただろ?」
「……」
出待ち女子はうつむき、黙りこくっている。
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