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第十一話「出待ち女子を振り返らせるな」
2,出待ちダルマさんが転んだ
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昇降口へ降りると、先に帰ったはずの音来がいた。壁に寄りかかり、煩わしそうに音楽を聴いている。
成宮達が来たのに気づくと、ヘッドホンを外した。
「音来、まだ帰ってなかったのか」
「……帰れねぇんだよ」
「帰れない?」
音来は正門を指差した。
一同はガラス戸越しに、正門を覗き見る。部活終わりの生徒達で賑わう中、一際異彩を放っている女子が正門の前に立っていた。
お人形さんのようなロリータファッションに身を包んだ女子だった。華奢な体格と、肌の白さが目を引く。こちらに背を向けて立っているため、顔までは確認できなかった。
「あの子、誰? 知り合い?」
「身に覚えはないが、俺に会いに来たんだと。さっき同じクラスのやつが、俺を連れて来るよう頼まれていた。断ったんだが、一向に帰りゃしない。裏門からだと遠回りになるから、なんとしてでも正門から帰りたいんだがな」
音来は吐き捨てるように言う。
一方、成宮達のテンションは上がっていた。
「それ、音来に告白しに来たんじゃないか?」
「絶対そうですよ! しかも私服ですよ! それって、他所の学校の女子の可能性が高いってことですよね?!」
「音来君って、意外とモテるのね。文化祭のミスターコンに出れば良かったのに」
「どんな子か、顔だけでも見たいなぁ。音来君、行って来なよ。女の子を待たせるなんて、男が廃るぜ?」
「興味ない。見たければ、勝手に見て来い。ついでに追っ払っておいてくれ」
音来は心底興味なさそうにヘッドホンをつけ直し、音楽を聴き始める。こうなったら、何を言っても聞こえない。
成宮達は顔を見合わせ、頷いた。
「じゃ、見て来ましょうか」
「ただ声をかけるだけじゃ、面白くないですよ?」
「怪しまれないよう、こっそり近づかなくちゃね」
「レクリエーションの出番だな」
◯●◯●◯
「出待ちダルマさんが転んだ」のルールを説明しよう。
正門前の女子に怪しまれないよう、物陰に隠れつつ近づくゲームで、顔を確認した時点で勝利となる。
ただし、女子に姿を確認されたり、逃げられたりしたら、スタート位置まで戻らなくてはいけない。
「なーんだ。走り抜ければ、速攻で勝てるじゃないですか!」
ルールを聞くなり、妹尾は余裕の顔を見せた。
昇降口から正門までは約五十メートル。妹尾の足でも、歩いている生徒のわきを駆け抜ければ、十秒ほどで着く。
しかしゲーム考案者の成宮は動じなかった。
「さて……そう上手く行くかな?」
ゲーム経験者の大城も、不敵に笑みを浮かべる。
「そうそう。放課後の正門フィールドの"出待ちダルマさんが転んだ"を甘く見ちゃいけないよ」
「どういう意味です?」
「さぁ? 私もやったことないから分からないわ」
未経験者のマネージャーは妹尾と顔を見合わせ、首を傾げた。
四人がスタート位置の茂みにスタンバイすると、
「さっさと行け」
と、審判役の音来が虫でも払うように手を動かし、昇降口からスタートの合図をした。
「妹尾、行って参ります!」
合図と共に、妹尾が茂みから飛び出す。
「あ、おい!」
「妹尾ちゃん?!」
「先輩方、お先です!」
妹尾は他の生徒達の間を器用に駆け抜け、真っ直ぐ正門へと走って行く。
正門まで残り数歩のところで、
「コラ、妹尾! 人が多い場所で走るんじゃない!」
「ふぇぇ……?!」
正門のそばに立っていた剛田に捕まった。
音来の出待ち女子は剛田の声に振り返り、妹尾を訝しげに見る。人混みのせいで、顔は確認できなかった。
その瞬間、音来は携帯で『妹尾、アウト』と全員にメッセージを送った。
「妹尾、やってしまったな」
「この時間は正門に剛田先生がいるからね、走り抜けるなんて不可能だよ」
「だから二人は動かなかったのね」
成宮と大城は出待ち女子が前へ向き直ったタイミングで、別の茂みへと移動する。
マネージャーも前進し、木の後ろへ身を隠した。
「先輩達、ひどいです! 剛田先生がいるって知ってて教えてくれませんでしたね?!」
妹尾はむくれ、彼らを横目にスタート位置へと戻る。
すると、ちょうど昇降口から漫研の女子達がぞろぞろ出て来た。姉小路と阿久津もいる。
「あれ? 妹尾ちゃんじゃん!」
「こんなとこで何してんの? かくれんぼ?」
「おーしろー! 私も混ぜて混ぜてー!」
「阿久津さん、静かにしてよ!」
大城が隠れている茂みへ、阿久津が近づく。
彼女を遠ざけようと立ち上がったところで、出待ち女子がこちらを振り返った。
『大城、アウト』
「うぎゃー!」
◯●◯●◯
一旦昇降口へ引き上げ、漫研に趣旨を説明した。
姉小路は「またアホなことを」と馬鹿にしながらも、興味深そうに目を光らせた。
「でも、面白そうね。美術部の出待ちしている女子がどんな顔か、私も気になるわ。私もゲームに混ぜなさいよ。文化祭の続きといきましょう?」
「私も遊ぶー!」
姉小路、阿久津、その他数人の漫研が立候補し、総勢十人で「出待ちダルマさんが転んだ」を再開することになった。
参加しない残りの女子達は、審判に加わった。
「私達に不利な審判はしないで頂戴よ?」
マネージャーは念のため釘を刺しておいたが、
「ご心配なく!」
「私達、みんなマネージャーさんのファンなんで!」
「姉小路の不正は、絶対に見逃しませんよ!」
「なんか、変なあだ名付けられてない?」
「もう諦めたわ」
姉小路は呆れて息を吐いた。
文化祭から二ヶ月が経ち、もはや部員達の姉小路イジリは定着しつつあった。
成宮達が来たのに気づくと、ヘッドホンを外した。
「音来、まだ帰ってなかったのか」
「……帰れねぇんだよ」
「帰れない?」
音来は正門を指差した。
一同はガラス戸越しに、正門を覗き見る。部活終わりの生徒達で賑わう中、一際異彩を放っている女子が正門の前に立っていた。
お人形さんのようなロリータファッションに身を包んだ女子だった。華奢な体格と、肌の白さが目を引く。こちらに背を向けて立っているため、顔までは確認できなかった。
「あの子、誰? 知り合い?」
「身に覚えはないが、俺に会いに来たんだと。さっき同じクラスのやつが、俺を連れて来るよう頼まれていた。断ったんだが、一向に帰りゃしない。裏門からだと遠回りになるから、なんとしてでも正門から帰りたいんだがな」
音来は吐き捨てるように言う。
一方、成宮達のテンションは上がっていた。
「それ、音来に告白しに来たんじゃないか?」
「絶対そうですよ! しかも私服ですよ! それって、他所の学校の女子の可能性が高いってことですよね?!」
「音来君って、意外とモテるのね。文化祭のミスターコンに出れば良かったのに」
「どんな子か、顔だけでも見たいなぁ。音来君、行って来なよ。女の子を待たせるなんて、男が廃るぜ?」
「興味ない。見たければ、勝手に見て来い。ついでに追っ払っておいてくれ」
音来は心底興味なさそうにヘッドホンをつけ直し、音楽を聴き始める。こうなったら、何を言っても聞こえない。
成宮達は顔を見合わせ、頷いた。
「じゃ、見て来ましょうか」
「ただ声をかけるだけじゃ、面白くないですよ?」
「怪しまれないよう、こっそり近づかなくちゃね」
「レクリエーションの出番だな」
◯●◯●◯
「出待ちダルマさんが転んだ」のルールを説明しよう。
正門前の女子に怪しまれないよう、物陰に隠れつつ近づくゲームで、顔を確認した時点で勝利となる。
ただし、女子に姿を確認されたり、逃げられたりしたら、スタート位置まで戻らなくてはいけない。
「なーんだ。走り抜ければ、速攻で勝てるじゃないですか!」
ルールを聞くなり、妹尾は余裕の顔を見せた。
昇降口から正門までは約五十メートル。妹尾の足でも、歩いている生徒のわきを駆け抜ければ、十秒ほどで着く。
しかしゲーム考案者の成宮は動じなかった。
「さて……そう上手く行くかな?」
ゲーム経験者の大城も、不敵に笑みを浮かべる。
「そうそう。放課後の正門フィールドの"出待ちダルマさんが転んだ"を甘く見ちゃいけないよ」
「どういう意味です?」
「さぁ? 私もやったことないから分からないわ」
未経験者のマネージャーは妹尾と顔を見合わせ、首を傾げた。
四人がスタート位置の茂みにスタンバイすると、
「さっさと行け」
と、審判役の音来が虫でも払うように手を動かし、昇降口からスタートの合図をした。
「妹尾、行って参ります!」
合図と共に、妹尾が茂みから飛び出す。
「あ、おい!」
「妹尾ちゃん?!」
「先輩方、お先です!」
妹尾は他の生徒達の間を器用に駆け抜け、真っ直ぐ正門へと走って行く。
正門まで残り数歩のところで、
「コラ、妹尾! 人が多い場所で走るんじゃない!」
「ふぇぇ……?!」
正門のそばに立っていた剛田に捕まった。
音来の出待ち女子は剛田の声に振り返り、妹尾を訝しげに見る。人混みのせいで、顔は確認できなかった。
その瞬間、音来は携帯で『妹尾、アウト』と全員にメッセージを送った。
「妹尾、やってしまったな」
「この時間は正門に剛田先生がいるからね、走り抜けるなんて不可能だよ」
「だから二人は動かなかったのね」
成宮と大城は出待ち女子が前へ向き直ったタイミングで、別の茂みへと移動する。
マネージャーも前進し、木の後ろへ身を隠した。
「先輩達、ひどいです! 剛田先生がいるって知ってて教えてくれませんでしたね?!」
妹尾はむくれ、彼らを横目にスタート位置へと戻る。
すると、ちょうど昇降口から漫研の女子達がぞろぞろ出て来た。姉小路と阿久津もいる。
「あれ? 妹尾ちゃんじゃん!」
「こんなとこで何してんの? かくれんぼ?」
「おーしろー! 私も混ぜて混ぜてー!」
「阿久津さん、静かにしてよ!」
大城が隠れている茂みへ、阿久津が近づく。
彼女を遠ざけようと立ち上がったところで、出待ち女子がこちらを振り返った。
『大城、アウト』
「うぎゃー!」
◯●◯●◯
一旦昇降口へ引き上げ、漫研に趣旨を説明した。
姉小路は「またアホなことを」と馬鹿にしながらも、興味深そうに目を光らせた。
「でも、面白そうね。美術部の出待ちしている女子がどんな顔か、私も気になるわ。私もゲームに混ぜなさいよ。文化祭の続きといきましょう?」
「私も遊ぶー!」
姉小路、阿久津、その他数人の漫研が立候補し、総勢十人で「出待ちダルマさんが転んだ」を再開することになった。
参加しない残りの女子達は、審判に加わった。
「私達に不利な審判はしないで頂戴よ?」
マネージャーは念のため釘を刺しておいたが、
「ご心配なく!」
「私達、みんなマネージャーさんのファンなんで!」
「姉小路の不正は、絶対に見逃しませんよ!」
「なんか、変なあだ名付けられてない?」
「もう諦めたわ」
姉小路は呆れて息を吐いた。
文化祭から二ヶ月が経ち、もはや部員達の姉小路イジリは定着しつつあった。
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