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第十話「オペレーションM2改(GL注意)」
6,文化祭後の美術部
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「そういえば、花ちゃんは? あんなに熱く白トラを布教してたのに、今日は来てないの?」
ふと、席に残った部員の一人が妹尾がいないことに気づいた。
他の部員も「たしかに」と店内を見回し、妹尾を探す。
「珍しくゲテモノカプ推しじゃなかったから、一緒に語ろうと思ってたんだけどなぁ」
「美術部のナルミとチハヤのナルチハ推しでしょ? 私も好きだわー、あの二人。天才肌のナルミとチハヤが、お互いを唯一の理解者として認めてるとか最高! 誰かスピンオフ描いて?」
話がナルチハに脱線する中、姉小路が「今頃気づいたの?」と呆れた。
「妹尾さんなら、美術室よ」
「何で? 次の〆切まで、だいぶあるのに」
「作業しに行ってるんじゃないの。彼女、漫研と美術部を兼部することにしたのよ。今日は美術部に参加する日なんですって」
「へぇ、美術部に……」
一瞬沈黙があったのち、姉小路以外の部員は声を揃え、驚いた。
「って、えぇぇぇッ?!」
「うるさっ」
◯●◯●◯
「……というわけで、次はナルチハスピンオフ同人誌を作りましょう! っていうか、作ってください! 私が読みたいんで!」
「本人を前にして、よく言えるな」
「白トラも大丈夫だったし、恩田君はオッケーしてくれるんじゃない?」
「何でオッケーしたんだ、恩田……」
その頃、美術部では妹尾が「白百合トライアングル」について熱く語っていた。
特に推しのナルチハに関してはキリがなく、このまましゃべらせていたら朝までかかりそうな勢いだった。
「何を描くかはともかく、今度も同人誌作りを続けていくのは賛成ね。絵を描く練習になるし、売った分だけ部費として使えるし。成宮君も背景として参加できるから、リハビリにもなっていいかも」
「いやー、ホント助かったよ! 僕、背景って描くの苦手でさぁ。まぁ、女の子以外全部苦手なんだけどね!」
大城はハハハと笑う。
文化祭以来、大城は漫研の道具を使い、女の子以外の絵も練習するようになった。時々、美吉や漫研の女子達にアドバイスをもらっているらしい。
「もう漫研に入った方がいいんじゃないか?」と成宮は提案したが、
「何言ってんの! 僕は美術部の部長なんだよ?! 兼部してる暇なんてないって!」
と怒られてしまった。
当分、美術部を抜ける気も、兼部する気もないようだ。
「そういや、マネージャーが一人暮らしを始めて、今日で一週間か。ちゃんと食ってるか?」
「食べてるわよ。今は外食ばかりだけど、そのうち自炊するつもり。みんなにも作ってあげるからね」
「……嫌な予感しかしないんだが」
「何か言った?」
「イエ、ナニモ」
マネージャーにも文化祭を機に、大きな変化があった。一人暮らしを始めたのだ。
姉小路との約束通り、マネージャーの実家の会社は元婚約者の援助によって立て直された。
援助後、マネージャーの両親は手のひらを返し
「本当は大事なお前を差し出したくなかった」
「みんなで仲直りしましょう」
と謝罪してきたが、マネージャーは彼らに対する不信感を拭えず、縁を切った。今では投資やネット関係のバイトで稼ぎ、生活費と学費を自力で支払っているらしい。
成宮達がマネージャーの手料理を拒否する中、妹尾は「ぜひ食べさせていただきます!」と挙手した。
「今回の騒動が起きてしまったのは責任は、わたしにもありますから! マネージャーさんのお料理の腕が一流レストランの名物シェフ並みになるまで、味見係を務めます!」
「本当? 今日、ちょうど作ってきたのよ」
そう言うなり、マネージャーは弁当箱のフタを開け、妹尾に差し出した。
弁当箱の中には、まだらに七色に染まった塊がいくつも入っていた。箱が傾くたびに、箱の中をゴロゴロと重々しく転がった。
さすがの妹尾も、笑顔のまま固まった。
「……何ですか、これ?」
「おにぎりよ。ちょっと固くなっちゃったけど」
「おに、ぎり……?」
成宮達も弁当箱を覗き込み、絶句する。
音楽を聴いていた音来も興味を惹かれたのか、ヘッドホンを外して見に来た。
「これ、本当におにぎりか?」
「見るからに固そうだね」
「鉄球の間違いじゃないのか?」
「失礼ね。たくさん具を詰めて固めたら、こうなっちゃったのよ」
「何を入れたんだ?」
「梅干しと鮭と卵のそぼろと高菜とワカメとナスの漬物と柴漬けとタラコ。いっぱい入れたら美味しそうでしょ?」
「入れ過ぎだ」
「レインボーだね」
「妹尾、無理するなよ」
「は、はひ……」
妹尾は震えながらも、鉄球のように固まった七色のおにぎりを手に取る。
恐る恐る口へ運び、ゆっくり歯を当てた。カチッ、と鋭い音がした。
「か……かめまひぇん。昔、間違えて噛んだ文鎮みたいれしゅ」
「文鎮、噛んだことあるんだ……」
「お茶で溶かして、お茶漬けみたいにすればいけるんじゃないか?」
「いいわね、それ」
「……成宮君とマネージャーさんは、どうしても妹尾ちゃんにおにぎりを食べさせたいんだね」
「「だって、もったいないし」」
◯●◯●◯
こうして美術部は漫研に勝利し、妹尾という新たな部員を加えて、さらなる一歩を踏み出したのだった。
「あ、美味しいかもです」
「どれどれ……マッッッズ!!!!!」
「茶漬けっつーか、これゲ……」
「それ以上は言うな! 余計に気持ち悪くなる!」
「妹尾ちゃん、よく食べられたねぇ?!」
「私、ドリンクバー全混ぜ派なので。えっへん!」
「何? 私が作ったおにぎりは、ドリンクバーを全部混ぜた味って言いたいの?」
「そ、そういうわけでは……!」
(第十一話に続く)
ふと、席に残った部員の一人が妹尾がいないことに気づいた。
他の部員も「たしかに」と店内を見回し、妹尾を探す。
「珍しくゲテモノカプ推しじゃなかったから、一緒に語ろうと思ってたんだけどなぁ」
「美術部のナルミとチハヤのナルチハ推しでしょ? 私も好きだわー、あの二人。天才肌のナルミとチハヤが、お互いを唯一の理解者として認めてるとか最高! 誰かスピンオフ描いて?」
話がナルチハに脱線する中、姉小路が「今頃気づいたの?」と呆れた。
「妹尾さんなら、美術室よ」
「何で? 次の〆切まで、だいぶあるのに」
「作業しに行ってるんじゃないの。彼女、漫研と美術部を兼部することにしたのよ。今日は美術部に参加する日なんですって」
「へぇ、美術部に……」
一瞬沈黙があったのち、姉小路以外の部員は声を揃え、驚いた。
「って、えぇぇぇッ?!」
「うるさっ」
◯●◯●◯
「……というわけで、次はナルチハスピンオフ同人誌を作りましょう! っていうか、作ってください! 私が読みたいんで!」
「本人を前にして、よく言えるな」
「白トラも大丈夫だったし、恩田君はオッケーしてくれるんじゃない?」
「何でオッケーしたんだ、恩田……」
その頃、美術部では妹尾が「白百合トライアングル」について熱く語っていた。
特に推しのナルチハに関してはキリがなく、このまましゃべらせていたら朝までかかりそうな勢いだった。
「何を描くかはともかく、今度も同人誌作りを続けていくのは賛成ね。絵を描く練習になるし、売った分だけ部費として使えるし。成宮君も背景として参加できるから、リハビリにもなっていいかも」
「いやー、ホント助かったよ! 僕、背景って描くの苦手でさぁ。まぁ、女の子以外全部苦手なんだけどね!」
大城はハハハと笑う。
文化祭以来、大城は漫研の道具を使い、女の子以外の絵も練習するようになった。時々、美吉や漫研の女子達にアドバイスをもらっているらしい。
「もう漫研に入った方がいいんじゃないか?」と成宮は提案したが、
「何言ってんの! 僕は美術部の部長なんだよ?! 兼部してる暇なんてないって!」
と怒られてしまった。
当分、美術部を抜ける気も、兼部する気もないようだ。
「そういや、マネージャーが一人暮らしを始めて、今日で一週間か。ちゃんと食ってるか?」
「食べてるわよ。今は外食ばかりだけど、そのうち自炊するつもり。みんなにも作ってあげるからね」
「……嫌な予感しかしないんだが」
「何か言った?」
「イエ、ナニモ」
マネージャーにも文化祭を機に、大きな変化があった。一人暮らしを始めたのだ。
姉小路との約束通り、マネージャーの実家の会社は元婚約者の援助によって立て直された。
援助後、マネージャーの両親は手のひらを返し
「本当は大事なお前を差し出したくなかった」
「みんなで仲直りしましょう」
と謝罪してきたが、マネージャーは彼らに対する不信感を拭えず、縁を切った。今では投資やネット関係のバイトで稼ぎ、生活費と学費を自力で支払っているらしい。
成宮達がマネージャーの手料理を拒否する中、妹尾は「ぜひ食べさせていただきます!」と挙手した。
「今回の騒動が起きてしまったのは責任は、わたしにもありますから! マネージャーさんのお料理の腕が一流レストランの名物シェフ並みになるまで、味見係を務めます!」
「本当? 今日、ちょうど作ってきたのよ」
そう言うなり、マネージャーは弁当箱のフタを開け、妹尾に差し出した。
弁当箱の中には、まだらに七色に染まった塊がいくつも入っていた。箱が傾くたびに、箱の中をゴロゴロと重々しく転がった。
さすがの妹尾も、笑顔のまま固まった。
「……何ですか、これ?」
「おにぎりよ。ちょっと固くなっちゃったけど」
「おに、ぎり……?」
成宮達も弁当箱を覗き込み、絶句する。
音楽を聴いていた音来も興味を惹かれたのか、ヘッドホンを外して見に来た。
「これ、本当におにぎりか?」
「見るからに固そうだね」
「鉄球の間違いじゃないのか?」
「失礼ね。たくさん具を詰めて固めたら、こうなっちゃったのよ」
「何を入れたんだ?」
「梅干しと鮭と卵のそぼろと高菜とワカメとナスの漬物と柴漬けとタラコ。いっぱい入れたら美味しそうでしょ?」
「入れ過ぎだ」
「レインボーだね」
「妹尾、無理するなよ」
「は、はひ……」
妹尾は震えながらも、鉄球のように固まった七色のおにぎりを手に取る。
恐る恐る口へ運び、ゆっくり歯を当てた。カチッ、と鋭い音がした。
「か……かめまひぇん。昔、間違えて噛んだ文鎮みたいれしゅ」
「文鎮、噛んだことあるんだ……」
「お茶で溶かして、お茶漬けみたいにすればいけるんじゃないか?」
「いいわね、それ」
「……成宮君とマネージャーさんは、どうしても妹尾ちゃんにおにぎりを食べさせたいんだね」
「「だって、もったいないし」」
◯●◯●◯
こうして美術部は漫研に勝利し、妹尾という新たな部員を加えて、さらなる一歩を踏み出したのだった。
「あ、美味しいかもです」
「どれどれ……マッッッズ!!!!!」
「茶漬けっつーか、これゲ……」
「それ以上は言うな! 余計に気持ち悪くなる!」
「妹尾ちゃん、よく食べられたねぇ?!」
「私、ドリンクバー全混ぜ派なので。えっへん!」
「何? 私が作ったおにぎりは、ドリンクバーを全部混ぜた味って言いたいの?」
「そ、そういうわけでは……!」
(第十一話に続く)
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