美術部俺達

緋色刹那

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第十話「オペレーションM2改(GL注意)」

3,部長解任

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 姉小路が説明に困っていると、背後から声をかけられた。
「姉小路さん」
「ひっ?!」
 思わず飛び上がる。姉小路が知っている声だった。
 恐る恐る振り返ると、屋上の踊り場で柄本と共に成宮の絵を鑑賞していた女性が立っていた。腕を組み、ジッと無表情で姉小路を見据えている。
「み、美吉先生……!」
 姉小路は青ざめた。
 彼女、美吉絵理みよしえりは漫研の顧問にして、姉小路が中学時代から心酔しているアーティストだった。漫画家としても活動し、漫研の部員達に厳しくも愛のある指導を行なっていた。
 姉小路に不平不満をぶつけていた部員達も、「お疲れ様です!」と背筋を伸ばす。
 美吉の後ろには柄本もおり、落ち込んでいる阿久津を「大丈夫?」と励ましていた。
「それ、ヴラズィーボォ民族の仮装でしょ? すごいねぇ。君の私物かい?」
「はい! パパにお土産で買ってもらったんです!」
 二人が和気あいあいとする中、姉小路は「申し訳ございませんでした!」と美吉に頭を下げた。
「全ては私の監督ミスです! すぐに元の部屋の状態に戻しますので、今しばらくお待ちください!」
「……そんなことはどうでもいい」
「え?」
 姉小路は訝しげに顔を上げる。てっきり、部屋のことで怒られると思っていたので、意表を突かれた。
 美吉は侮蔑のこもった目つきで、姉小路を冷たく見下ろした。
「君が美術部に何をしたのか、柄本先生から全て聞いた。はなから勝負を放棄し、美術部への妨害に尽力していたそうだな。特に、絵の窃盗と麻根路屋乙女さんに対する行為は度が過ぎている。個人の尊厳を無視した、立派な犯罪だ。被害者である美術部はもちろん、真面目に同人誌を作っていた漫研の皆の迷惑にもなった」
 よって、と美吉は告げた。
「現時点をもって、君を部長職から外す。初心に戻り、一からやり直したまえ」
「何ですって?! 私以外に適任がいるとでもお思いですか?!」
「君以外なら、全員が適任だ。中でも阿久津さんは素晴らしい。結果はどうあれ、ライバルの意見も独自の解釈で取り入れようとした。自分以外の人間を手駒としか考えていない君では、到底マネできないだろう?」
「くっ……!」
 姉小路は悔しそうに唇を噛む。よりにもよって、問題児の阿久津を褒められるとは……。
 一方の阿久津は美吉に褒められているとも知らず、柄本に部族のお面を自慢していた。
「ぬ、盗んだ絵を返します! 麻根路屋さんと私の従兄弟との結婚も延期……いえ、破断にします! ご両親の会社への援助は無条件でやらせていただきます! だから……だから、部長を続けさせてください! 部長じゃなくなったら、私は漫研で何をすればいいんですか?! 絵心も、面白いストーリーを思いつく発想力もないのに!」
「心配しなくとも、漫画が描けなくたって仕事はいくらでもある。資料集め、消しゴムかけ、原稿のコピー……部長と同じくらい忙しくなると思うぞ?」
「……妹尾! 妹尾はいないの?! 今すぐ美術部から盗んだ絵を出して!」
 姉小路は焦り、妹尾を探す。
 部屋のどこかに隠れていると思っていたが、いくら呼びかけても妹尾は現れなかった。それどころか、美術室にまとめて隠してあるはずの盗んだ絵も見当たらなかった。

     ◯●◯●◯

 その頃、妹尾は美術部の屋台に来ていた。
「あの……スタンプ、全部埋めました。お願いします」
 他に客がいなくなったのを見計らい、成宮にスタンプを全て押した冊子を差し出す。
 これから帰るところなのか、荷物で膨らんだリュックを背負っていた。
「……クリア、おめでとうございます。こちらは参加賞のオリジナルしおりです」
 成宮はあえて、淡々と仕事をこなす。大城は何か言いたそうにしていたが、成宮から「何も言うな」と言わんばかりに視線を向けられ、黙っていた。
 成宮は冊子の裏表紙にハンコを押し、適当に選んだしおりと一緒に、妹尾へ返す。
 妹尾は冊子としおりを受け取ろうとして、固まった。しおりには、紛失した成宮の絵が描かれていた。
「なお、スタンプの場所は……」
「ごめんなさい!」
 妹尾は成宮の言葉をさえぎり、謝った。彼女の瞳は涙でうるんでいた。
「美術部の皆さんの絵を盗んだのは、私です! 姉小路部長から"貴方にしか頼めないから"ってお願いされて! いけないことだって分かってたけど、どうしても断れなかったんです……!」
 妹尾はリュックから絵の束を取り出し、成宮に差し出した。
 全て、紛失していた美術部の絵だった。
「オセロカバディの映像を姉小路部長に渡したのも、私です! 皆さんが遊んでいる証拠を得るために、部活見学させていただいていました! 謝って許されるとは、ミジンコも思っていません! ですが、どうか皆さんが元の部室に戻れるよう、私にも協力させてください!」
「……」
 成宮は黙って絵を受け取る。
 大城は
(ミジンコじゃなくて、"微塵も"の間違いじゃない?)
 とツッコミたかったが、グッとこらえた。
 成宮は絵の状態を一枚一枚、確認する。どれも最後に絵を見た時と同じ状態で、汚れも破れもなかった。
 成宮は絵を自分のリュックへ仕舞うと、「妹尾、よく聞け」と真剣な顔で彼女に言った。
「お前は……俺達、美術部のスパイだったんだ」
「は、はいぃ?!」
 妹尾は頷きかけた首を、傾げた。大城も動揺を隠せず、「え?! え?!」と成宮と妹尾の顔を見比べる。
 成宮は大真面目に、続けて言った。
「お前は姉小路の指示で絵を盗むフリをした。だが、実際は姉小路の手下から絵を守っていたんだ。いわゆる、三重スパイというやつだな」
「そ、そんなはずは……! だって私、美術部じゃないですし! 先輩達も、絵がなくなって困ってたじゃないですか!」
「いや? むしろ、良かったとすら思ってるぞ。絵しりとりリレーが思いのほか好評でな、ぶっちゃけ昨日より客の反応がいい」
 それに、と成宮はスタンプラリーの冊子を指差した。
「美術部の協力者は美術部だけじゃない。お前も冊子を見たなら知ってるだろ? そこに載ってる全員が、俺達の味方なんだ。字がピンクになっているところを、上から読んでみろよ」
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