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第十話「オペレーションM2改(GL注意)」
1,ミスコン大会
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マネージャーは裏口から出ていく成宮を横目に、他の女子達と共にステージへ出る。
彼女達の登場に、熱烈な拍手と歓声が上がる。客席は満員で、立ち見客までいた。ステージから離れた席は薄暗く、姉小路の部下が潜んでいるか確認できなかった。
(色々不安だけど、成宮君を信じて頑張るしか無さそうね)
参加者は横一列に、等間隔で並ぶ。
準備が整うと、ミント色のアフロのカツラを被った司会の男子生徒が派手にデコったマイクを握り、声高に宣言した。
「おまいら、待たせたなァッ! ただいまより、自由ノ星高校恒例……ミスコン大会を開始するぜェェェェッ!!!!!!」
「ウォォォォォッ!!!!!」
「ちょっと待てぇぇぇッ!!!!!」
マネージャーによる渾身のツッコミは、客達の雄叫びによってかき消された。
同時に、「オペレーションM2」の真の意味に気づいてしまった。
◯●◯●◯
成宮が美術部のブースに戻ると、大城が一人で客の対応をしていた。
「成宮君、おかえりー」
「ただいまー。音来は?」
「疲れたから、しばらく家で休んでるって。後夜祭には来るんじゃない? なぜか神☆メイコールがプログラムにあったし」
「言っておくが、俺の仕業じゃないぞ。コールに参加できなかった誰かがリクエストしたんじゃないか?」
成宮も接客を手伝う。
屋台にはスタンプラリーを終えた客が、ひっきりなしにやって来る。意外にも漫研の生徒が何人か混じっていたが、成宮と大城はあえてスルーした。
「用具倉庫室の方はどうだった?」
「言われた通り、部屋に閉じ込めて警察に引き渡したよ。ちょうど兄貴が大学の友達と遊びに来ててさ、"美術部の後輩のためなら"って協力してくれたんだ。友達みんな運動部の強化選手でね、陸上部と柔道部とラグビー部とアメフト部とレスリング部と相撲部の人がいたよ。めちゃくちゃ強いし、速いしで、周りにいたお客さん達はそういうパフォーマンスだと思って喜んでた」
「そうか、先輩が……後で礼を言っておかなくちゃな」
「今はお昼食べに、大食いチャレンジやってるクラスに行ってるよ。出禁にならなきゃいいけどね」
ところで、と大城は成宮に尋ねた。
「僕達が捕まえたあの人達が何者なのかとか、どうしてあの人達がオペレーションM2の呼び出しで来たかとか、諸々の事情は教えてくれないわけ?」
「え? 全部片付いたし、今さらどうでも良くないか?」
「良くない!」
大城は成宮を睨む。
それを見た漫研の面々が黄色い悲鳴を上げたが、二人はあえてスルーした。
「オペレーションM2は、僕ら美術部と文化祭実行委員会による、大事な合同プロジェクトだったんだよ?! その内容を直前で変更するなんて……向こうがへそを曲げて、姉小路にバラされる危険だってあったのに!」
「分かった、分かった。ちゃんと説明するから」
成宮は「文化祭実行委員とマネージャーにも同じことをしなくちゃならないのか」とウンザリしつつ、何も知らない大城に説明した。
◯●◯●◯
オペレーションM2とは、マネージャーをミスコンへ参加させようと計画されたプロジェクトのことである。
部の宣伝がしたい美術部と、ミスコンを盛り上げたい文化祭実行委員会とが手を組み、マネージャー本人にも姉小路にも内緒で計画を進めていた。
だが、肝心のマネージャーが学校へ来られなくなったことで状況が変わった。
「このままではオペレーションM2が達成できなくなってしまう!」
そう成宮は危惧し、思い切った手段に出た。
本来の計画では
「マネージャーを校内放送で体育館へ呼び出し、ミスコンへ飛び入り参加させる」
という予定だったのを、
「マネージャーを助け出し、体育館へ連れて行く。そのままミスコンへ飛び入り参加させ、身の安全を確保する」
に変更したのである。
いくら姉小路の部下でも、客の目がある中で無理やりマネージャーを攫うのは難しいだろう。無謀なマネージャー奪還作戦を敢行したのは、そういった背景があっての行動だった。
マネージャーを誘導するために放送部に依頼していた呼び出し放送も、文化祭の客のフリをした姉小路の部下をあぶり出すのに使った。彼らが放送を聞けば、マネージャーを捕らえようと先回りするだろうと予想し、体育館から最も遠い用具倉庫室へ呼び出した。大城が姉小路の部下達を閉じ込められるかどうかは、賭けだったが。
ちなみに、プロジェクトの名前になっている「M2」とは、「マネージャーをミスコンへゴーゴゴー!」の略である。語呂が悪いので「ゴーゴゴー!」部分は省かれた。
◯●◯●◯
「あの人達、姉小路部長のボディガードだったの?! 何で言ってくれないのさ!」
大城は成宮から真相を聞き、青ざめた。
「言ったら、やらなかっただろ?」
「当たり前でしょ!」
「だから黙ってたんだよ。俺と音来じゃ、どう頑張っても呼び出し放送までに学校に着けそうもなかった。頼れるのはお前だけだったんだ」
「……」
「後で屋台のハンバーガー買ってきてやるから、それで勘弁してくれ」
「……ポテトとコーラも付けてよね」
大城は不満そうに顔をしかめながらも、成宮を許した。
「ま、いいけどさ。成宮君の隠し癖は今に始まったことじゃないし。姉小路部長の報復は怖いけど、僕もマネージャーの力になれて良かったよ」
「それで、売り上げの進捗は?」
大城は漫研に聞こえないよう、小声で耳打ちした。
「スタンプラリーも裏本も、上々。恩田君と道尾君に店番をやってもらったおかげだよ。さっき"陸上部の強化選手が来たから"って帰っちゃったけど、今が静かに思えるくらい大盛況だったんだから」
「そうか。二人にも後でハンバーガーの差し入れをしてやらないとな」
「盗まれた絵の代わりに、絵しりとりリレーの絵を飾ったのも効果あったね。"どうやったらしりとりとして成立するか?"って推理しながら楽しめるって、好評だよ」
「漫研の方は?」
「実際には見てないけど、可哀想なくらい閑古鳥が鳴いてるみたい。うちに来たお客さんが、"あれはやり過ぎ"ってドン引きしてた」
「……なるほど」
成宮はフッとほくそ笑んだ。
漫研の女子達にはその笑みが意味深に見えたのか、
「笑ってる!」「何を囁いたの?!」「気になるんだけど!」
と、盛り上がっていた。
彼女達の登場に、熱烈な拍手と歓声が上がる。客席は満員で、立ち見客までいた。ステージから離れた席は薄暗く、姉小路の部下が潜んでいるか確認できなかった。
(色々不安だけど、成宮君を信じて頑張るしか無さそうね)
参加者は横一列に、等間隔で並ぶ。
準備が整うと、ミント色のアフロのカツラを被った司会の男子生徒が派手にデコったマイクを握り、声高に宣言した。
「おまいら、待たせたなァッ! ただいまより、自由ノ星高校恒例……ミスコン大会を開始するぜェェェェッ!!!!!!」
「ウォォォォォッ!!!!!」
「ちょっと待てぇぇぇッ!!!!!」
マネージャーによる渾身のツッコミは、客達の雄叫びによってかき消された。
同時に、「オペレーションM2」の真の意味に気づいてしまった。
◯●◯●◯
成宮が美術部のブースに戻ると、大城が一人で客の対応をしていた。
「成宮君、おかえりー」
「ただいまー。音来は?」
「疲れたから、しばらく家で休んでるって。後夜祭には来るんじゃない? なぜか神☆メイコールがプログラムにあったし」
「言っておくが、俺の仕業じゃないぞ。コールに参加できなかった誰かがリクエストしたんじゃないか?」
成宮も接客を手伝う。
屋台にはスタンプラリーを終えた客が、ひっきりなしにやって来る。意外にも漫研の生徒が何人か混じっていたが、成宮と大城はあえてスルーした。
「用具倉庫室の方はどうだった?」
「言われた通り、部屋に閉じ込めて警察に引き渡したよ。ちょうど兄貴が大学の友達と遊びに来ててさ、"美術部の後輩のためなら"って協力してくれたんだ。友達みんな運動部の強化選手でね、陸上部と柔道部とラグビー部とアメフト部とレスリング部と相撲部の人がいたよ。めちゃくちゃ強いし、速いしで、周りにいたお客さん達はそういうパフォーマンスだと思って喜んでた」
「そうか、先輩が……後で礼を言っておかなくちゃな」
「今はお昼食べに、大食いチャレンジやってるクラスに行ってるよ。出禁にならなきゃいいけどね」
ところで、と大城は成宮に尋ねた。
「僕達が捕まえたあの人達が何者なのかとか、どうしてあの人達がオペレーションM2の呼び出しで来たかとか、諸々の事情は教えてくれないわけ?」
「え? 全部片付いたし、今さらどうでも良くないか?」
「良くない!」
大城は成宮を睨む。
それを見た漫研の面々が黄色い悲鳴を上げたが、二人はあえてスルーした。
「オペレーションM2は、僕ら美術部と文化祭実行委員会による、大事な合同プロジェクトだったんだよ?! その内容を直前で変更するなんて……向こうがへそを曲げて、姉小路にバラされる危険だってあったのに!」
「分かった、分かった。ちゃんと説明するから」
成宮は「文化祭実行委員とマネージャーにも同じことをしなくちゃならないのか」とウンザリしつつ、何も知らない大城に説明した。
◯●◯●◯
オペレーションM2とは、マネージャーをミスコンへ参加させようと計画されたプロジェクトのことである。
部の宣伝がしたい美術部と、ミスコンを盛り上げたい文化祭実行委員会とが手を組み、マネージャー本人にも姉小路にも内緒で計画を進めていた。
だが、肝心のマネージャーが学校へ来られなくなったことで状況が変わった。
「このままではオペレーションM2が達成できなくなってしまう!」
そう成宮は危惧し、思い切った手段に出た。
本来の計画では
「マネージャーを校内放送で体育館へ呼び出し、ミスコンへ飛び入り参加させる」
という予定だったのを、
「マネージャーを助け出し、体育館へ連れて行く。そのままミスコンへ飛び入り参加させ、身の安全を確保する」
に変更したのである。
いくら姉小路の部下でも、客の目がある中で無理やりマネージャーを攫うのは難しいだろう。無謀なマネージャー奪還作戦を敢行したのは、そういった背景があっての行動だった。
マネージャーを誘導するために放送部に依頼していた呼び出し放送も、文化祭の客のフリをした姉小路の部下をあぶり出すのに使った。彼らが放送を聞けば、マネージャーを捕らえようと先回りするだろうと予想し、体育館から最も遠い用具倉庫室へ呼び出した。大城が姉小路の部下達を閉じ込められるかどうかは、賭けだったが。
ちなみに、プロジェクトの名前になっている「M2」とは、「マネージャーをミスコンへゴーゴゴー!」の略である。語呂が悪いので「ゴーゴゴー!」部分は省かれた。
◯●◯●◯
「あの人達、姉小路部長のボディガードだったの?! 何で言ってくれないのさ!」
大城は成宮から真相を聞き、青ざめた。
「言ったら、やらなかっただろ?」
「当たり前でしょ!」
「だから黙ってたんだよ。俺と音来じゃ、どう頑張っても呼び出し放送までに学校に着けそうもなかった。頼れるのはお前だけだったんだ」
「……」
「後で屋台のハンバーガー買ってきてやるから、それで勘弁してくれ」
「……ポテトとコーラも付けてよね」
大城は不満そうに顔をしかめながらも、成宮を許した。
「ま、いいけどさ。成宮君の隠し癖は今に始まったことじゃないし。姉小路部長の報復は怖いけど、僕もマネージャーの力になれて良かったよ」
「それで、売り上げの進捗は?」
大城は漫研に聞こえないよう、小声で耳打ちした。
「スタンプラリーも裏本も、上々。恩田君と道尾君に店番をやってもらったおかげだよ。さっき"陸上部の強化選手が来たから"って帰っちゃったけど、今が静かに思えるくらい大盛況だったんだから」
「そうか。二人にも後でハンバーガーの差し入れをしてやらないとな」
「盗まれた絵の代わりに、絵しりとりリレーの絵を飾ったのも効果あったね。"どうやったらしりとりとして成立するか?"って推理しながら楽しめるって、好評だよ」
「漫研の方は?」
「実際には見てないけど、可哀想なくらい閑古鳥が鳴いてるみたい。うちに来たお客さんが、"あれはやり過ぎ"ってドン引きしてた」
「……なるほど」
成宮はフッとほくそ笑んだ。
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と、盛り上がっていた。
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