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第九話「マネージャー救出作戦!」
1,大城の一手
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マネージャーの住所は柄本から聞いた。
学校から自転車で三十分ほどのところにあるらしい。
「俺と音来が行こう。大城は絵の掲示と漫研の妨害を頼む」
「妨害って、具体的には何をしたらいいの?」
「爆竹放り込むとか?」
「それは犯罪だよ、音来君!」
「阿久津を使え。あいつはお前の言うことなら、疑いなく聞く。客が漫研の同人誌を買いたくなくなるように仕向けるんだ」
「本当に聞いてくれるかなぁ……? でもま、やるしかないか」
「頼んだぞ。美術部の命運はお前にかかっている!」
成宮と音来は駐輪場へと走る。途中、屋台で「びっくりしている剛田先生」のお面を手に入れた。
「……さて、僕も行きますか」
大城は二人を見送ると、三人で厳選した絵を手に、スタンプの場所へ急いだ。
◯●◯●◯
会場時間が迫る中、大城が汗だくで絵を貼っていると、阿久津がトコトコやって来た。
「おーしろ、何してるの? 私も手伝おうか?」
「お断りだね。また盗まれたら、たまったもんじゃない。漫研の手伝いにでも行きなよ」
大城はしっしっ、と野良犬でも追い払うように手を振る。
阿久津は大城の対応が不服だったのか、「盗まないもん!」とむくれた。
「それに、私は売り子さんだから手伝わなくていーの! 美術部なんか、こてんぱんにやっつけちゃうもんね!」
すると大城は「ふーん」と意味深に目を細めた。
「あんな店と同人誌じゃ、お客さん達は食いついてくれないと思うけど? もっと過激にしないと」
「えっ」
「あと、サプライズもあった方がいいかもねぇ。普通に同人誌買うだけじゃつまんないじゃん? もっと爆竹仕掛けるとかさ、工夫しようよ」
「……」
阿久津は神妙な顔で考えこむ。
(強引過ぎたかな……?)
大城は内心不安でいっぱいだったが、自信満々な顔を維持し続けた。
やがて阿久津は「そっか」と頷いた。
「だから人はいっぱい来てるのに面白くなかったんだ! ありがとう、おーしろ! もっともっとたくさんのお客さんに来てもらえるよう頑張るね! 私達、絶対に美術部に勝つからー!」
阿久津は嬉々として走り去る。
大城は阿久津が見えなくなると、「はぁぁ」と深くため息をついた。敵とはいえ、阿久津を騙した罪悪感で苦しかった。
(ごめんねぇ、阿久津さん。僕らも負けたくないんだ。文化祭が終わった後で、残った同人誌買うからねぇ)
「大城君?」
「うひょあッ?!」
大城が安堵していたところへ、背後から声をかけられた。驚き、反射的に飛び上がる。
振り返ると、陸上部の恩田と道尾がいた。
「な、なーんだ。恩田君と道尾君か……」
「そんなに驚かなくてもいいじゃないか。一緒に神☆メイを歌った仲だろ?」
「歌ったっていうか、歌わさせちゃったというか……それより、二人はどうしてここに? 陸上部のブースは放っておいていいの?」
陸上部はグラウンドの一画を借り、「陸上部とガチンコ対決! ダッシュダッシュ!」という出し物をやっていた。
陸上部と客がかけっこをするというシンプルなもので、客が勝利すると、屋台で使える無料券がもらえる。昨日は無料券に釣られた生徒達で賑わっていた。二日目の今日は一般客も来るので、ちびっ子から大人まで集まることだろう。
無料券分の支払いは負けた部員が立て替えることになっているため、彼らは彼らで本気だった。
「それが、僕は走る担当から外されちゃったんだ。あまりにも速いんで、クレームが来ちゃってね。現役の陸上選手でも来ない限り、僕の出番は無さそうだよ」
「道尾君も?」
「俺は恩田の付き添い。万が一、現役陸上選手が来た時に、すぐ戻れるよう見張ってんの」
「じゃあ、今ヒマなんだね?」
「まぁな」
「今どころか、今日一日ヒマになるかも」
それじゃあ、と大城は二人に絵を差し出した。
「この絵を貼るのを手伝って欲しいんだ。スタンプラリーのスタンプがある場所なんだけど」
「スタンプラリーの絵? 昨日貼ってなかったっけ?」
「実は漫研に絵を盗まれちゃってね。今、代わりの絵を貼り直してるとこなんだ。また盗まれると厄介だから、信用できる人にしか任せられなくて……」
二人は漫研の所業に、顔をしかめた。
「それ、本当?」
「ひでぇなぁ。正々堂々と勝負すればいいのに」
美術部と漫研が勝負していることは、彼らの耳にも入っていたらしい。
二人は「そういうことなら」と、絵を受け取った。
「美術部のピンチを見過ごすわけにはいかないからね、手伝わせてもらうよ」
「恩田を見つけてもらった恩もあるしな」
「二人とも、ありがとう! ついでに頼みたいことがあるんだけど……」
大城は絵の掲示とは別に、恩田と道尾に「頼みごと」をした。
「なーんだ、そんなこと? いいよ」
「俺も。陸上部に呼ばれたら抜けるけど、それまでは任せてくれ」
二人は深く考えず、そちらのお願いも快諾した。
学校から自転車で三十分ほどのところにあるらしい。
「俺と音来が行こう。大城は絵の掲示と漫研の妨害を頼む」
「妨害って、具体的には何をしたらいいの?」
「爆竹放り込むとか?」
「それは犯罪だよ、音来君!」
「阿久津を使え。あいつはお前の言うことなら、疑いなく聞く。客が漫研の同人誌を買いたくなくなるように仕向けるんだ」
「本当に聞いてくれるかなぁ……? でもま、やるしかないか」
「頼んだぞ。美術部の命運はお前にかかっている!」
成宮と音来は駐輪場へと走る。途中、屋台で「びっくりしている剛田先生」のお面を手に入れた。
「……さて、僕も行きますか」
大城は二人を見送ると、三人で厳選した絵を手に、スタンプの場所へ急いだ。
◯●◯●◯
会場時間が迫る中、大城が汗だくで絵を貼っていると、阿久津がトコトコやって来た。
「おーしろ、何してるの? 私も手伝おうか?」
「お断りだね。また盗まれたら、たまったもんじゃない。漫研の手伝いにでも行きなよ」
大城はしっしっ、と野良犬でも追い払うように手を振る。
阿久津は大城の対応が不服だったのか、「盗まないもん!」とむくれた。
「それに、私は売り子さんだから手伝わなくていーの! 美術部なんか、こてんぱんにやっつけちゃうもんね!」
すると大城は「ふーん」と意味深に目を細めた。
「あんな店と同人誌じゃ、お客さん達は食いついてくれないと思うけど? もっと過激にしないと」
「えっ」
「あと、サプライズもあった方がいいかもねぇ。普通に同人誌買うだけじゃつまんないじゃん? もっと爆竹仕掛けるとかさ、工夫しようよ」
「……」
阿久津は神妙な顔で考えこむ。
(強引過ぎたかな……?)
大城は内心不安でいっぱいだったが、自信満々な顔を維持し続けた。
やがて阿久津は「そっか」と頷いた。
「だから人はいっぱい来てるのに面白くなかったんだ! ありがとう、おーしろ! もっともっとたくさんのお客さんに来てもらえるよう頑張るね! 私達、絶対に美術部に勝つからー!」
阿久津は嬉々として走り去る。
大城は阿久津が見えなくなると、「はぁぁ」と深くため息をついた。敵とはいえ、阿久津を騙した罪悪感で苦しかった。
(ごめんねぇ、阿久津さん。僕らも負けたくないんだ。文化祭が終わった後で、残った同人誌買うからねぇ)
「大城君?」
「うひょあッ?!」
大城が安堵していたところへ、背後から声をかけられた。驚き、反射的に飛び上がる。
振り返ると、陸上部の恩田と道尾がいた。
「な、なーんだ。恩田君と道尾君か……」
「そんなに驚かなくてもいいじゃないか。一緒に神☆メイを歌った仲だろ?」
「歌ったっていうか、歌わさせちゃったというか……それより、二人はどうしてここに? 陸上部のブースは放っておいていいの?」
陸上部はグラウンドの一画を借り、「陸上部とガチンコ対決! ダッシュダッシュ!」という出し物をやっていた。
陸上部と客がかけっこをするというシンプルなもので、客が勝利すると、屋台で使える無料券がもらえる。昨日は無料券に釣られた生徒達で賑わっていた。二日目の今日は一般客も来るので、ちびっ子から大人まで集まることだろう。
無料券分の支払いは負けた部員が立て替えることになっているため、彼らは彼らで本気だった。
「それが、僕は走る担当から外されちゃったんだ。あまりにも速いんで、クレームが来ちゃってね。現役の陸上選手でも来ない限り、僕の出番は無さそうだよ」
「道尾君も?」
「俺は恩田の付き添い。万が一、現役陸上選手が来た時に、すぐ戻れるよう見張ってんの」
「じゃあ、今ヒマなんだね?」
「まぁな」
「今どころか、今日一日ヒマになるかも」
それじゃあ、と大城は二人に絵を差し出した。
「この絵を貼るのを手伝って欲しいんだ。スタンプラリーのスタンプがある場所なんだけど」
「スタンプラリーの絵? 昨日貼ってなかったっけ?」
「実は漫研に絵を盗まれちゃってね。今、代わりの絵を貼り直してるとこなんだ。また盗まれると厄介だから、信用できる人にしか任せられなくて……」
二人は漫研の所業に、顔をしかめた。
「それ、本当?」
「ひでぇなぁ。正々堂々と勝負すればいいのに」
美術部と漫研が勝負していることは、彼らの耳にも入っていたらしい。
二人は「そういうことなら」と、絵を受け取った。
「美術部のピンチを見過ごすわけにはいかないからね、手伝わせてもらうよ」
「恩田を見つけてもらった恩もあるしな」
「二人とも、ありがとう! ついでに頼みたいことがあるんだけど……」
大城は絵の掲示とは別に、恩田と道尾に「頼みごと」をした。
「なーんだ、そんなこと? いいよ」
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