美術部俺達

緋色刹那

文字の大きさ
上 下
47 / 97
第九話「マネージャー救出作戦!」

1,大城の一手

しおりを挟む
 マネージャーの住所は柄本から聞いた。
 学校から自転車で三十分ほどのところにあるらしい。
「俺と音来が行こう。大城は絵の掲示と漫研の妨害を頼む」
「妨害って、具体的には何をしたらいいの?」
「爆竹放り込むとか?」
「それは犯罪だよ、音来君!」
「阿久津を使え。あいつはお前の言うことなら、疑いなく聞く。客が漫研の同人誌を買いたくなくなるように仕向けるんだ」
「本当に聞いてくれるかなぁ……? でもま、やるしかないか」
「頼んだぞ。美術部の命運はお前にかかっている!」
 成宮と音来は駐輪場へと走る。途中、屋台で「びっくりしている剛田先生」のお面を手に入れた。
「……さて、僕も行きますか」
 大城は二人を見送ると、三人で厳選した絵を手に、スタンプの場所へ急いだ。

     ◯●◯●◯

 会場時間が迫る中、大城が汗だくで絵を貼っていると、阿久津がトコトコやって来た。
「おーしろ、何してるの? 私も手伝おうか?」
「お断りだね。また盗まれたら、たまったもんじゃない。漫研の手伝いにでも行きなよ」
 大城はしっしっ、と野良犬でも追い払うように手を振る。
 阿久津は大城の対応が不服だったのか、「盗まないもん!」とむくれた。
「それに、私は売り子さんだから手伝わなくていーの! 美術部なんか、こてんぱんにやっつけちゃうもんね!」
 すると大城は「ふーん」と意味深に目を細めた。
「あんな店と同人誌じゃ、お客さん達は食いついてくれないと思うけど? もっと過激にしないと」
「えっ」
「あと、サプライズもあった方がいいかもねぇ。普通に同人誌買うだけじゃつまんないじゃん? もっと爆竹仕掛けるとかさ、工夫しようよ」
「……」
 阿久津は神妙な顔で考えこむ。
(強引過ぎたかな……?)
 大城は内心不安でいっぱいだったが、自信満々な顔を維持し続けた。
 やがて阿久津は「そっか」と頷いた。
「だから人はいっぱい来てるのに面白くなかったんだ! ありがとう、おーしろ! もっともっとたくさんのお客さんに来てもらえるよう頑張るね! 私達、絶対に美術部に勝つからー!」
 阿久津は嬉々として走り去る。
 大城は阿久津が見えなくなると、「はぁぁ」と深くため息をついた。敵とはいえ、阿久津を騙した罪悪感で苦しかった。
(ごめんねぇ、阿久津さん。僕らも負けたくないんだ。文化祭が終わった後で、残った同人誌買うからねぇ)
「大城君?」
「うひょあッ?!」
 大城が安堵していたところへ、背後から声をかけられた。驚き、反射的に飛び上がる。
 振り返ると、陸上部の恩田と道尾がいた。
「な、なーんだ。恩田君と道尾君か……」
「そんなに驚かなくてもいいじゃないか。一緒に神☆メイを歌った仲だろ?」
「歌ったっていうか、歌わさせちゃったというか……それより、二人はどうしてここに? 陸上部のブースは放っておいていいの?」
 陸上部はグラウンドの一画を借り、「陸上部とガチンコ対決! ダッシュダッシュ!」という出し物をやっていた。
 陸上部と客がかけっこをするというシンプルなもので、客が勝利すると、屋台で使える無料券がもらえる。昨日は無料券に釣られた生徒達で賑わっていた。二日目の今日は一般客も来るので、ちびっ子から大人まで集まることだろう。
 無料券分の支払いは負けた部員が立て替えることになっているため、彼らは彼らで本気だった。
「それが、僕は走る担当から外されちゃったんだ。あまりにも速いんで、クレームが来ちゃってね。現役の陸上選手でも来ない限り、僕の出番は無さそうだよ」
「道尾君も?」
「俺は恩田の付き添い。万が一、現役陸上選手が来た時に、すぐ戻れるよう見張ってんの」
「じゃあ、今ヒマなんだね?」
「まぁな」
「今どころか、今日一日ヒマになるかも」
 それじゃあ、と大城は二人に絵を差し出した。
「この絵を貼るのを手伝って欲しいんだ。スタンプラリーのスタンプがある場所なんだけど」
「スタンプラリーの絵? 昨日貼ってなかったっけ?」
「実は漫研に絵を盗まれちゃってね。今、代わりの絵を貼り直してるとこなんだ。また盗まれると厄介だから、信用できる人にしか任せられなくて……」
 二人は漫研の所業に、顔をしかめた。
「それ、本当?」
「ひでぇなぁ。正々堂々と勝負すればいいのに」
 美術部と漫研が勝負していることは、彼らの耳にも入っていたらしい。
 二人は「そういうことなら」と、絵を受け取った。
「美術部のピンチを見過ごすわけにはいかないからね、手伝わせてもらうよ」
「恩田を見つけてもらった恩もあるしな」
「二人とも、ありがとう! ついでに頼みたいことがあるんだけど……」
 大城は絵の掲示とは別に、恩田と道尾に「頼みごと」をした。
「なーんだ、そんなこと? いいよ」
「俺も。陸上部に呼ばれたら抜けるけど、それまでは任せてくれ」
 二人は深く考えず、そちらのお願いも快諾した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

最底辺の落ちこぼれ、実は彼がハイスペックであることを知っている元幼馴染のヤンデレ義妹が入学してきたせいで真の実力が発覚してしまう!

電脳ピエロ
恋愛
時野 玲二はとある事情から真の実力を隠しており、常に退学ギリギリの成績をとっていたことから最底辺の落ちこぼれとバカにされていた。 しかし玲二が2年生になった頃、時を同じくして義理の妹になった人気モデルの神堂 朱音が入学してきたことにより、彼の実力隠しは終わりを迎えようとしていた。 「わたしは大好きなお義兄様の真の実力を、全校生徒に知らしめたいんです♡ そして、全校生徒から羨望の眼差しを向けられているお兄様をわたしだけのものにすることに興奮するんです……あぁんっ♡ お義兄様ぁ♡」 朱音は玲二が実力隠しを始めるよりも前、幼少期からの幼馴染だった。 そして義理の兄妹として再開した現在、玲二に対して変質的な愛情を抱くヤンデレなブラコン義妹に変貌していた朱音は、あの手この手を使って彼の真の実力を発覚させようとしてくる! ――俺はもう、人に期待されるのはごめんなんだ。 そんな玲二の願いは叶うことなく、ヤンデレ義妹の暴走によって彼がハイスペックであるという噂は徐々に学校中へと広まっていく。 やがて玲二の真の実力に危機感を覚えた生徒会までもが動き始めてしまい……。 義兄の実力を全校生徒に知らしめたい、ブラコンにしてヤンデレの人気モデル VS 真の実力を絶対に隠し通したい、実は最強な最底辺の陰キャぼっち。 二人の心理戦は、やがて学校全体を巻き込むほどの大きな戦いへと発展していく。

真夏の温泉物語

矢木羽研
青春
山奥の温泉にのんびり浸かっていた俺の前に現れた謎の少女は何者……?ちょっとエッチ(R15)で切ない、真夏の白昼夢。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

片翼のエール

乃南羽緒
青春
「おまえのテニスに足りないものがある」 高校総体テニス競技個人決勝。 大神謙吾は、一学年上の好敵手に敗北を喫した。 技術、スタミナ、メンタルどれをとっても申し分ないはずの大神のテニスに、ひとつ足りないものがある、と。 それを教えてくれるだろうと好敵手から名指しされたのは、『七浦』という人物。 そいつはまさかの女子で、あまつさえテニス部所属の経験がないヤツだった──。

秘密基地には妖精がいる。

塵芥ゴミ
青春
これは僕が体験したとある夏休みの話。

雨上がりに僕らは駆けていく Part2

平木明日香
青春
学校の帰り道に突如現れた謎の女 彼女は、遠い未来から来たと言った。 「甲子園に行くで」 そんなこと言っても、俺たち、初対面だよな? グラウンドに誘われ、彼女はマウンドに立つ。 ひらりとスカートが舞い、パンツが見えた。 しかしそれとは裏腹に、とんでもないボールを投げてきたんだ。

処理中です...