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第八話「文化祭スタンプラリー」
4,突然の別れ
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翌日、文化祭二日目。
他の生徒達が慌ただしく準備をする中、マネージャーは開場時間になっても成宮達の前には現れなかった。
「マネージャー、遅くない?」
「何の連絡もないし」
「ちょっと電話かけてみるか。教室の方は頼む」
仕方なく三人で準備を進めることにした。成宮は大城と音来にスタンプ台の点検を任せ、マネージャーに電話をかけた。
何度コールしても電話には出てくれなかったが、代わりにマネージャーからメッセージが届いた。
『ごめんなさい。しばらく学校には行けそうもないわ。少なくとも、文化祭には間に合わないと思う』
「……なんだって?」
成宮は我が目を疑った。あれだけ闘志を燃やしていたマネージャーが学校に来ないなど、あり得なかった。
『一体何があったんだ?』
返信すると、ほどなくして長文の解答が返ってきた。急いで打ったのか、ところどころ誤字脱字が目立っていた。
『急に、親に決められた婚約者と結婚させられることになったの。海外で式と新婚旅行をやって、そのまま移住するそうだから、当分日本には帰って来られそうもない。もしかしたら、二度と戻って来られないかも』
「婚約者? 結婚? 仮病にしてはスケールがデカいな」
あまりにも話が突飛過ぎて、成宮の理解が追いつかない。
その後もマネージャーはメッセージを送り続けた。
『本当は高校を卒業してからって約束だったんだけど、どういうわけか、私が漫研に勝負を挑んだことが、親と婚約者の耳に入ったみたい。もともと私がこの高校に編入させられたのは、花嫁修行に専念させるためだったから、よく思われなかったんでしょうね』
「何だよ、それ……」
実は成宮は最近、マネージャーが前に通っていた学校について教師達が話していたのをコッソリ聞いていた。
編入する前は都内にあるエリート私立女子校の生徒で、成績は常に上位、中等部では生徒会長を務めていたらしい。周囲からは将来を有望視されていたが、親の事業が上手く行かなくなり、退学を余儀なくされたとか……。
噂についてメッセージで尋ねると、『概ね合ってるわ』とマネージャーは肯定した。
『両親は事業を立ち直すため、資金援助を申し出た取引先の息子と私を政略結婚させることにした。私も高校卒業まで待ってくれるならと、承諾したわ。いずれは親が決めた相手と結婚しなくちゃいけないって分かってたし。でも、今じゃない』
マネージャーは文面からでも分かるほど、憤っていた。約束を反故にされた怒り、文化祭に行けない怒り、婚約者にチクった誰かへの怒りが、画面越しにひしひしと伝わってくる。
それでも必死にスマホでキーボードを打つマネージャーの姿が、成宮の頭の中に思い浮かんだ。
『絶対に漫研に勝って。私がいなくなっても、頑張って美術部を盛り上げてね。貴方達がバカなことをやっているの見たり、一緒に絵を描いたり、文化祭の準備をしたりするの、本当に楽しかった。さようなら』
そこでメッセージはぱたりと止まった。
◯●◯●◯
「……嘘だろ?」
突然の別れの言葉に、成宮は呆然とした。
その時、
「嘘でしょ?!」
と、二階からも同じ言葉が聞こえてきた。大城の悲痛な叫び声だった。
程なく、大城が階段を転がり落ちるようにして下りてきた。
「成宮くん、大変! 教室に貼ってた絵が全部、盗まれてる!」
「は?」
「こっちもだ」
音来も人混みをかき分け、合流する。
音来に見せられたスマホの画面には、絵だけが消えたスタンプ台の写真が映っていた。
「どうする? スタンプは残ってるから、スタンプラリー自体はこのまま出来るけど……」
大城の提案に成宮は「ダメだ」と首を振った。
「絵がなきゃ、美術部じゃない。勝負に勝っても、"美術部の活動をしていない"と生徒会長に指摘されたら、廃部させられかねないぞ」
「どうせ盗んだのは、あの女だろうが! さっさと締め上げて、吐かせればいい!」
音来は今にも生徒会室へ殴り込みに行きそうな勢いで、怒りを露わにする。
すかさず成宮がなだめた。
「落ち着け、音来。俺とお前の受賞した絵は余分にコピーを取ってあるから、大丈夫だ。他の絵も、今まで描いたデッサンを代わりに貼っておけばいい」
「このまま放っておくってのかよ?!」
「今はそれより、マネージャーがピンチなんだ」
「マネージャーが?」
成宮は大城と音来にもマネージャーが置かれている状況を話した。
二人も怒りというよりは驚きの方が勝り、「それ、本当?」と目を丸くしていた。
「だったら文化祭どころじゃないじゃん! 今すぐ助けに行かないと!」
「マネージャーは今どこにいるんだ? もう飛行機に乗っちまったのか?」
「ちょい待て」
成宮はマネージャーに「今どこにいるんだ?」とメッセージを送り、尋ねた。
『助けに来るつもり?』
『当たり前だ』
聞き返してきたマネージャーに、成宮は断言した。
『例え漫研に勝てたとしても、マネージャーがいなきゃ俺達はやっていけねぇよ。地の果てでも迎えに行ってやるから、勝手に諦めんな』
『……』
マネージャーは成宮の言葉に、沈黙する。
三人がマネージャーの返答に注目する中、『分かった』と返信が来た。
『そうよね。私がいなくちゃ、美術部はまたレクリエーション部に戻っちゃうものね。みんなを信じて、待つことにするわ』
「うっし!」
「マネージャー奪還作戦、始動じゃああああ!」
◯●◯●◯
こうして美術部の面々は文化祭の最中、窮地に陥っているマネージャーを救出することになったのだった。
『それで、マネージャーは今何処にいるんだ?』
『自室で籠城中よ』
「まさかの家ぇ?!」
「"地の果てまで行く"って言ってたのに、まさかの町内ぃ?!」
「やめろよ~。恥ずかしいだろ~」
(第九話へ続く)
他の生徒達が慌ただしく準備をする中、マネージャーは開場時間になっても成宮達の前には現れなかった。
「マネージャー、遅くない?」
「何の連絡もないし」
「ちょっと電話かけてみるか。教室の方は頼む」
仕方なく三人で準備を進めることにした。成宮は大城と音来にスタンプ台の点検を任せ、マネージャーに電話をかけた。
何度コールしても電話には出てくれなかったが、代わりにマネージャーからメッセージが届いた。
『ごめんなさい。しばらく学校には行けそうもないわ。少なくとも、文化祭には間に合わないと思う』
「……なんだって?」
成宮は我が目を疑った。あれだけ闘志を燃やしていたマネージャーが学校に来ないなど、あり得なかった。
『一体何があったんだ?』
返信すると、ほどなくして長文の解答が返ってきた。急いで打ったのか、ところどころ誤字脱字が目立っていた。
『急に、親に決められた婚約者と結婚させられることになったの。海外で式と新婚旅行をやって、そのまま移住するそうだから、当分日本には帰って来られそうもない。もしかしたら、二度と戻って来られないかも』
「婚約者? 結婚? 仮病にしてはスケールがデカいな」
あまりにも話が突飛過ぎて、成宮の理解が追いつかない。
その後もマネージャーはメッセージを送り続けた。
『本当は高校を卒業してからって約束だったんだけど、どういうわけか、私が漫研に勝負を挑んだことが、親と婚約者の耳に入ったみたい。もともと私がこの高校に編入させられたのは、花嫁修行に専念させるためだったから、よく思われなかったんでしょうね』
「何だよ、それ……」
実は成宮は最近、マネージャーが前に通っていた学校について教師達が話していたのをコッソリ聞いていた。
編入する前は都内にあるエリート私立女子校の生徒で、成績は常に上位、中等部では生徒会長を務めていたらしい。周囲からは将来を有望視されていたが、親の事業が上手く行かなくなり、退学を余儀なくされたとか……。
噂についてメッセージで尋ねると、『概ね合ってるわ』とマネージャーは肯定した。
『両親は事業を立ち直すため、資金援助を申し出た取引先の息子と私を政略結婚させることにした。私も高校卒業まで待ってくれるならと、承諾したわ。いずれは親が決めた相手と結婚しなくちゃいけないって分かってたし。でも、今じゃない』
マネージャーは文面からでも分かるほど、憤っていた。約束を反故にされた怒り、文化祭に行けない怒り、婚約者にチクった誰かへの怒りが、画面越しにひしひしと伝わってくる。
それでも必死にスマホでキーボードを打つマネージャーの姿が、成宮の頭の中に思い浮かんだ。
『絶対に漫研に勝って。私がいなくなっても、頑張って美術部を盛り上げてね。貴方達がバカなことをやっているの見たり、一緒に絵を描いたり、文化祭の準備をしたりするの、本当に楽しかった。さようなら』
そこでメッセージはぱたりと止まった。
◯●◯●◯
「……嘘だろ?」
突然の別れの言葉に、成宮は呆然とした。
その時、
「嘘でしょ?!」
と、二階からも同じ言葉が聞こえてきた。大城の悲痛な叫び声だった。
程なく、大城が階段を転がり落ちるようにして下りてきた。
「成宮くん、大変! 教室に貼ってた絵が全部、盗まれてる!」
「は?」
「こっちもだ」
音来も人混みをかき分け、合流する。
音来に見せられたスマホの画面には、絵だけが消えたスタンプ台の写真が映っていた。
「どうする? スタンプは残ってるから、スタンプラリー自体はこのまま出来るけど……」
大城の提案に成宮は「ダメだ」と首を振った。
「絵がなきゃ、美術部じゃない。勝負に勝っても、"美術部の活動をしていない"と生徒会長に指摘されたら、廃部させられかねないぞ」
「どうせ盗んだのは、あの女だろうが! さっさと締め上げて、吐かせればいい!」
音来は今にも生徒会室へ殴り込みに行きそうな勢いで、怒りを露わにする。
すかさず成宮がなだめた。
「落ち着け、音来。俺とお前の受賞した絵は余分にコピーを取ってあるから、大丈夫だ。他の絵も、今まで描いたデッサンを代わりに貼っておけばいい」
「このまま放っておくってのかよ?!」
「今はそれより、マネージャーがピンチなんだ」
「マネージャーが?」
成宮は大城と音来にもマネージャーが置かれている状況を話した。
二人も怒りというよりは驚きの方が勝り、「それ、本当?」と目を丸くしていた。
「だったら文化祭どころじゃないじゃん! 今すぐ助けに行かないと!」
「マネージャーは今どこにいるんだ? もう飛行機に乗っちまったのか?」
「ちょい待て」
成宮はマネージャーに「今どこにいるんだ?」とメッセージを送り、尋ねた。
『助けに来るつもり?』
『当たり前だ』
聞き返してきたマネージャーに、成宮は断言した。
『例え漫研に勝てたとしても、マネージャーがいなきゃ俺達はやっていけねぇよ。地の果てでも迎えに行ってやるから、勝手に諦めんな』
『……』
マネージャーは成宮の言葉に、沈黙する。
三人がマネージャーの返答に注目する中、『分かった』と返信が来た。
『そうよね。私がいなくちゃ、美術部はまたレクリエーション部に戻っちゃうものね。みんなを信じて、待つことにするわ』
「うっし!」
「マネージャー奪還作戦、始動じゃああああ!」
◯●◯●◯
こうして美術部の面々は文化祭の最中、窮地に陥っているマネージャーを救出することになったのだった。
『それで、マネージャーは今何処にいるんだ?』
『自室で籠城中よ』
「まさかの家ぇ?!」
「"地の果てまで行く"って言ってたのに、まさかの町内ぃ?!」
「やめろよ~。恥ずかしいだろ~」
(第九話へ続く)
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