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第八話「文化祭スタンプラリー」
2,スタンプラリー
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「スタンプラリー、一枚下さい」
姉小路は男女に教えてもらったタピオカ屋「タピってる?」でスタンプラリーの冊子を買おうとしていた。
本当は「スタンプラリーなんて同人誌じゃないわ!」と美術部の屋台へ直接文句を言うつもりだったが、屋台の番をしていた成宮に
「スタンプラリーをクリアしていない人はお引き取り下さい」
と追い返されてしまったため、仕方なく真っ当な手段でコンタクトを取ろうとした。
「タピってる?」はパステルカラーの可愛らしい屋台だった。店員も同じパステルカラーのエプロンをつけている。恐ろしいことに、看板の端をよく見ると、小さく「美術部主催 スタンプラリー協賛店」と書いてあった。
姉小路がスタンプラリーの冊子を注文すると、タピオカ屋の店員はバツが悪そうに言った。
「すいませんね、スタンプラリーはセットじゃないと売れないんすよ。どのジュースでもセットに出来るんで、もし良かったら一緒に買ってもらえないっすかね?」
「……じゃあ、タピオカミルクティーで」
仕方なく、姉小路はタピオカミルクティーも併せて注文した。おそらく、美術部と「協力してもらう代わりに、そっちの商品とセットで売ってもらってもいい」と言われているのだろう。
店員は「タピミルティー、一丁!」とラーメン屋のノリで威勢よく繰り返し、後ろで作業している店員に指示した。後ろの店員も「タピミルティー、一丁ぉ!」と繰り返す。
やがてタピオカミルクティーが完成すると、スタンプラリーの冊子と一緒に差し出された。
「はい、お待ち! タピオカミルクティーとスタンプラリーの冊子です!」
「ありがとう」
ようやく手に入れたスタンプラリーの冊子は、ごくありふれたものだった。文庫本と同じくらいの大きさで、表紙を含めると全部で三ページしかない。
表紙には「自由ノ星高校文化祭 スタンプラリー」と題され、大城が描いたと思われる可愛らしい女子高生のイラストが描かれている。姉小路に「これは同人誌ではない」と否定されないためか、タイトルの下に小さく「美術部製作同人誌」と書かれていた。
「こんな小さな字で、私を欺いたつもり?」
姉小路はスタンプラリーという禁じ手を使われたことにイラ立ちながらも、冊子を開いた。
二ページ目には校内の地図と、六つのスタンプを押すマスが記されていた。マスにはそれぞれ、スタンプがある場所のヒントが印字されている。いずれも難解で、遠回しなヒントだった。
「九つの数字と戦う場所……ストラックアウトね」
しかし姉小路にとっては大した謎ではなかった。
全てのヒントを瞬時に解き終えると、今いる場所から最も近いスタンプがある場所……ストラックアウト屋へ向かった。
◯●◯●◯
ストラックアウト屋「サッカー小僧」は、成宮のクラスの出し物だった。難易度別に三つ用意されており、大人も子供も楽しめるようになっている。
ちょうど他に客はおらず、見通しが良かった。しかし一通り教室を見回しても、スタンプは見つけられなかった。
「スタンプは何処?」
仕方なく、海外サッカー選手のユニフォームを着ている係員に尋ねた。
すると係員はニッコリと微笑み、ストラックアウトを手で指し示した。
「ストラックアウトをクリアすれば、スタンプの在り処をお教えますよ。なお、スタンプラリーに参加中のお客様は一回のみ、半額でプレイすることが出来ます」
「……分かった。やるわ」
姉小路は渋々、参加費を払った。美術部に直談判するためにも、とにかく時間が惜しかった。
「難易度はキッズ、ティーンズ、アダルト、ゴッドオブファイヤーがございますが、どれになさいますか?」
「ゴッド……え? 何?」
聞き取れなかった姉小路のために、係員は平然と繰り返した。
「ゴッドオブファイヤーです。サッカー部期待のキーパー、壁山一徹くんがディフェンスをします。こちら最難度となっておりますので、サッカー経験者の方にオススメです」
「……じゃあ、ティーンズで」
姉小路はサッカー経験者ではないため、無難にティーンズを選んだ。参加費を支払い、案内されたストラックアウト台の前に立つ。
すると、学ランやチアリーダーの格好をした別の係員達がメガホンやポンポンを手に姉小路の背後へ立ち、応援し始めた。
「フレー! フレー! 姉小路!」
「頑張れ頑張れ、生徒会長!」
「うるさいッ!」
姉小路は羞恥心から、応援団を叱った。しかし一向に静まる気配はなく、平然と応援を続けていた。
「……どうりで客が少なかったのね」
姉小路は応援を辞めさせることを諦め、淡々とストラックアウトをこなした。
ちなみにこのストラックアウトを考えたのは、成宮である。
◯●◯●◯
「ティーンズクリア、おめでとうございまーす。スタンプは教卓の裏です」
「裏ぁ?!」
姉小路はゲームをクリアすると、係員に教えてもらった通り、教卓の中を覗いた。
そこにはたしかに、姉小路が探し求めていたスタンプ台が置かれていた。
「まったく、こんな分かりにくい場所に隠すなんて……」
姉小路はブツブツと文句を言いつつ、スタンプに手を伸ばそうとした。
その時、教卓の裏に貼られていたそれと目があった。
「ひっ?!」
思わず悲鳴を上げ、腰を抜かす。
教卓の裏に貼られていたのは、以前マネージャーが描いた不気味な黒猫の絵だった。教卓の中は薄暗いため、余計に怖さが増していた。
絵の下には「美術部マネージャー作 黒猫」とタイトルが貼ってあった。
「なんつー絵を描いてるのよ、あの女は!」
姉小路は作者であるマネージャーに怒りつつ、スタンプを押した。
姉小路は男女に教えてもらったタピオカ屋「タピってる?」でスタンプラリーの冊子を買おうとしていた。
本当は「スタンプラリーなんて同人誌じゃないわ!」と美術部の屋台へ直接文句を言うつもりだったが、屋台の番をしていた成宮に
「スタンプラリーをクリアしていない人はお引き取り下さい」
と追い返されてしまったため、仕方なく真っ当な手段でコンタクトを取ろうとした。
「タピってる?」はパステルカラーの可愛らしい屋台だった。店員も同じパステルカラーのエプロンをつけている。恐ろしいことに、看板の端をよく見ると、小さく「美術部主催 スタンプラリー協賛店」と書いてあった。
姉小路がスタンプラリーの冊子を注文すると、タピオカ屋の店員はバツが悪そうに言った。
「すいませんね、スタンプラリーはセットじゃないと売れないんすよ。どのジュースでもセットに出来るんで、もし良かったら一緒に買ってもらえないっすかね?」
「……じゃあ、タピオカミルクティーで」
仕方なく、姉小路はタピオカミルクティーも併せて注文した。おそらく、美術部と「協力してもらう代わりに、そっちの商品とセットで売ってもらってもいい」と言われているのだろう。
店員は「タピミルティー、一丁!」とラーメン屋のノリで威勢よく繰り返し、後ろで作業している店員に指示した。後ろの店員も「タピミルティー、一丁ぉ!」と繰り返す。
やがてタピオカミルクティーが完成すると、スタンプラリーの冊子と一緒に差し出された。
「はい、お待ち! タピオカミルクティーとスタンプラリーの冊子です!」
「ありがとう」
ようやく手に入れたスタンプラリーの冊子は、ごくありふれたものだった。文庫本と同じくらいの大きさで、表紙を含めると全部で三ページしかない。
表紙には「自由ノ星高校文化祭 スタンプラリー」と題され、大城が描いたと思われる可愛らしい女子高生のイラストが描かれている。姉小路に「これは同人誌ではない」と否定されないためか、タイトルの下に小さく「美術部製作同人誌」と書かれていた。
「こんな小さな字で、私を欺いたつもり?」
姉小路はスタンプラリーという禁じ手を使われたことにイラ立ちながらも、冊子を開いた。
二ページ目には校内の地図と、六つのスタンプを押すマスが記されていた。マスにはそれぞれ、スタンプがある場所のヒントが印字されている。いずれも難解で、遠回しなヒントだった。
「九つの数字と戦う場所……ストラックアウトね」
しかし姉小路にとっては大した謎ではなかった。
全てのヒントを瞬時に解き終えると、今いる場所から最も近いスタンプがある場所……ストラックアウト屋へ向かった。
◯●◯●◯
ストラックアウト屋「サッカー小僧」は、成宮のクラスの出し物だった。難易度別に三つ用意されており、大人も子供も楽しめるようになっている。
ちょうど他に客はおらず、見通しが良かった。しかし一通り教室を見回しても、スタンプは見つけられなかった。
「スタンプは何処?」
仕方なく、海外サッカー選手のユニフォームを着ている係員に尋ねた。
すると係員はニッコリと微笑み、ストラックアウトを手で指し示した。
「ストラックアウトをクリアすれば、スタンプの在り処をお教えますよ。なお、スタンプラリーに参加中のお客様は一回のみ、半額でプレイすることが出来ます」
「……分かった。やるわ」
姉小路は渋々、参加費を払った。美術部に直談判するためにも、とにかく時間が惜しかった。
「難易度はキッズ、ティーンズ、アダルト、ゴッドオブファイヤーがございますが、どれになさいますか?」
「ゴッド……え? 何?」
聞き取れなかった姉小路のために、係員は平然と繰り返した。
「ゴッドオブファイヤーです。サッカー部期待のキーパー、壁山一徹くんがディフェンスをします。こちら最難度となっておりますので、サッカー経験者の方にオススメです」
「……じゃあ、ティーンズで」
姉小路はサッカー経験者ではないため、無難にティーンズを選んだ。参加費を支払い、案内されたストラックアウト台の前に立つ。
すると、学ランやチアリーダーの格好をした別の係員達がメガホンやポンポンを手に姉小路の背後へ立ち、応援し始めた。
「フレー! フレー! 姉小路!」
「頑張れ頑張れ、生徒会長!」
「うるさいッ!」
姉小路は羞恥心から、応援団を叱った。しかし一向に静まる気配はなく、平然と応援を続けていた。
「……どうりで客が少なかったのね」
姉小路は応援を辞めさせることを諦め、淡々とストラックアウトをこなした。
ちなみにこのストラックアウトを考えたのは、成宮である。
◯●◯●◯
「ティーンズクリア、おめでとうございまーす。スタンプは教卓の裏です」
「裏ぁ?!」
姉小路はゲームをクリアすると、係員に教えてもらった通り、教卓の中を覗いた。
そこにはたしかに、姉小路が探し求めていたスタンプ台が置かれていた。
「まったく、こんな分かりにくい場所に隠すなんて……」
姉小路はブツブツと文句を言いつつ、スタンプに手を伸ばそうとした。
その時、教卓の裏に貼られていたそれと目があった。
「ひっ?!」
思わず悲鳴を上げ、腰を抜かす。
教卓の裏に貼られていたのは、以前マネージャーが描いた不気味な黒猫の絵だった。教卓の中は薄暗いため、余計に怖さが増していた。
絵の下には「美術部マネージャー作 黒猫」とタイトルが貼ってあった。
「なんつー絵を描いてるのよ、あの女は!」
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